ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
『イメル、パイカラ。あまり遠くへ行くんじゃないよ』
『判ってるよ、爺様』
『私たち、遠く、いかない、よ』
僕たちはコロポックルと呼ばれている。
生まれたときから、爺様がいて、仲間がいて、妹がいた。
人間たちは危険だから、あまり近づいてはいけないと言われているけれど。
時折、僕たちの住処に入り込んでくる人間たちが居る。
そういうときは、僕たちも彼らを送り返したり、薬草をあげたりしている。
「う、うわああ?! ……って、キミたちは……コロポックル?」
だけれど、今日の人間との出会いは。僕たちにとって、とても大きなものだった。
「ねえパイカラ。外国にはね、日本よりも沢山のダンジョンがあるんだよ。コロポックルはいないけど、妖精が沢山いるダンジョンとかもあるんだってさ」
『ユキムラ。とても、ダンジョンのこと、くわしい、ね』
「あはは、まあ俺、探索者として勉強してきたからね。パイカラは、他のダンジョンには興味あるの?」
『興味。なくは、ない、よ』
ユキムラは、前にイメルが助けた人間。
人間の中でも、ユキムラはまだ子供みたいで、不思議と、怖くなかった。
ユキムラは、私に会うと、嬉しそうに笑ってくれる。
すぐに赤くなるのは、人間の病気かもしれない。少し、心配する。
「じゃ、じゃあ! 色々聞いてよ! 最近本州で見つかったダンジョンとか、外国のダンジョンの話とか」
『ほかに。どんなダンジョン、あるのか、知らない。コロポックルは、いない?』
「ああ、うん。コロポックルは他のダンジョンにはいないみたい。やっぱり、イギリスの妖精たちが有名かな。日本のダンジョンなら化け狸が有名だね」
『ヨウセイ、なに? それは、生き物?』
「あ、そうか。そもそも妖精を知らないのか。ええと、妖精っていうのはね――」
ユキムラは、色々な話を聞かせてくれた。
私は、この湖畔のことしか知らない。だから、ユキムラの話す、世界のお話は、とても面白かった。
だから、ユキムラに会うのは、楽しみ。
「なあイメル。お前らって、年齢としては何歳なんだ? 見た目だけなら俺より子供だけど」
『ユキムラ。僕たちは、多分、お前より年上。敬え』
「ははあ、イメル様。人間の小僧に何卒お恵みを」
『あははは、冗談。僕たち、年齢とか、気にしたことない、分からない』
「そっか。そうだよな、コロポックルと人間だと、そういう所も違うんだよな」
僕とユキムラは、すぐに仲良くなれた。
爺様に会わせたときは、ユキムラはとても緊張していたけれど、爺様も認めてくれた。
だから、ユキムラは友達だ。
一緒に芝生に寝転んで、空を見上げて笑っていると、それだけで楽しい気分になる。
『お前。パイカラ、好きなのか?』
「うぇっ?! い、いや、それは……なんていうか、可愛いじゃん? 実際」
『妹が、欲しければ。僕を倒していけ』
「漫画かよ! ……って、そんなセリフってどこで覚えたんだ?」
『探索者が落とした、漫画。文字も、頑張って、覚えたぞ。仮面の男が、謎めいていて、恰好いいな』
「イメルそういうキャラが好きなんだ? じゃあ、今度面白い漫画持ってきたら読む?」
ユキムラは、パイカラが好きなんだと思う。
人間は、オスとメスが結婚して、子供を産む。それくらいは僕たちも知っている。
けれど、パイカラはコロポックルだぞ。
ユキムラ。お前、どうするんだ?
友達として僕は、ユキムラが心配だった。
『イメル、パイカラ。お前たちには、つらい思いをさせてしまうな』
『爺様。何があった?』
『爺様。また、未来が見えた?』
『我々コロポックルの、終わりの時が近づいてきている。これは、天の定めだよ』
爺様は、未来を見通すことが出来る。
僕たちは、爺様の言葉は全て受け入れる。死んでしまうときも、爺様が先に教えてくれるから、怖いことはない。
だけど、みんな終わってしまうのか。
それは、考えると、とても寂しいことだった。
『そう……なのか』
『天の定めなら、仕方ない、ね』
『お前たちは、それから長い間、耐え忍ぶことになるよ。だけど、希望を捨てないでおくれ。いつの日か、お前たちの希望は――』
爺様の話は、長かった。
だけれど、僕とパイカラには、とても長くてつらい役目があるらしい。
それが、みんなのためになるなら。パイカラのためになるなら。友達のためになるなら。
僕は――。
『ユキムラ! ユキムラ! おい、しっかりしろ!』
『イメル、薬草だけじゃ……ユキムラ、起きないよ』
『パイカラ、彼を人間たちの元に、連れて行ってもらえるかい』
『爺様。もう、パイカラも、そんな力は……!』
爺様が言っていた、終わりの時がきてしまった。
天の定めだから、仕方がない。
だけど、それでも、僕たちは戦った。少しでも、このダンジョンを救いたかったから。
それと、ユキムラを死なせるわけには、いかなかったから。
友達を助ける、なんて、勇ましいことを言って。一人で魔物に立ち向かって。ボロ負けした。馬鹿なユキムラ。本当に、こいつは。
パイカラだって、もう消えかかっているじゃないか。
ユキムラ、お前。最後くらい、ちゃんと目を開いて、好きなパイカラ、見ろよ。結婚、したかったんだろ。馬鹿。
『イメル、いいよ。私、ユキムラ、大好きだから、守ってあげるから』
『パイカラ……』
『イメル、また、会おうね。パイカラ、イメルと、いつも一緒だからね』
そして、パイカラは消えていく。
きっと、もう会うことはないのだと思うと、天の定めでも。つらかった。
『イメル、わしらがアレを弱らせる。お前には、つらい役目を与えてしまうね』
『すまない。イメル、お前が一番、若く、寿命があるから』
『みんな……』
カムイダンジョンに現れたのは、とても、とても大きな魔物だった。霜の巨人、というらしい。
爺様やみんなが、どうにか弱らせて。
そして僕が、二度とこいつが出てこない様に、封印する役目になった。
これが天の定めなら、僕は受け入れる。
『いつの日か。お前にも、頼もしい味方が現れる未来が見えるよ。それまで、わしらもずっと、待っておるよ』
『……爺様。お元気で。おやすみなさい』
冷たい水の底で、僕は、眠りについた。
僕は、二度と起きることはないかもしれない。永い、永い、夜が来た。
「ようこそ、ペンション『パイカラ』へ。お疲れでしょう、皆さま――」
私は。気づいたら、綺麗な建物の中にいた。
ユキムラは、おじさんになっていたけれど、相変わらず、色々な人間に、色々なお話を聞かせていた。
私の声は、届かないけど。時折、私の衣装を見て、名前を呼んでくれる。
それだけで、私は嬉しかった。
『ヨウセイ。ユキムラが、話してくれた。綺麗な花畑に、住む、子供たち』
『小さな花しか、作れないけど。どうか、沢山、育ってほしい、な』
爺様が言っていた。私には、役目があると。
分からなかったけれど、なんとなく。ユキムラがお話してくれた、ヨウセイに、会いたくなった。
ヨウセイは、お花に住む子供たち。
私がお花を育てれば、きっと、ヨウセイたちが、このダンジョンを助けてくれる。
不思議だけれど、私は、そのやり方を、知っていた。
「みてみて柚花、これ頭につけるやつ、私にぴったし!」
『あなたは、誰? この力は、なあに?』
「……ってあれ? 取れなくなっちゃった」
ある日、この綺麗な建物に、その子は唐突に訪れた。
不思議な魔力と、奇妙な力を持った、優しい子供。
私は、すぐに分かった。この子が、新たな朝を生み出してくれる子だ。
私は、離されない様に必死でしがみついた。
桃子には、私の声がなかなか届かない。夢の中でお話しするのが、限界だった。
けれど、彼女なら。桃子と私なら、次は誰も泣かせたりしない、優しい護り手を育てることが出来るはずだ。
「ふふふ。こんなところで、珍しいものを発見しましたね。まだ意識は、存在しておりますか?」
『……キミは、誰? どうして、僕が、わかるの?』
「私もあなたと同じだからですよ。コロポックルさん」
ある日、この暗い水底に、その子は唐突に訪れた。
強大な魔力で、僕や、霜の巨人以上の力を持った、強い子供。
僕は、すぐに分かった。この子が、この永かった夜を終わらせてくれる子だ。
彼女は、僕を手に取ると、巨人の封印を解いた。
これで、このダンジョンに霜の巨人が再び復活し、上へと侵攻してくる。
けれど、彼女なら。梨々と僕なら。次は封印じゃなくて、このダンジョンから悪しき巨人を消滅させることが出来るはずだ。
『パイカラ、おめでとう。見つけたな、優しい人』
『イメル、良かった。見つけたね、強い人』
『僕たちなら、勝てるよ』
『私たちなら、救えるよ』
パイカラは、姿を消す少女と共に居た。
イメルは、なんだか変な恰好をしていた。
パイカラは、姿を消す少女に気付いて貰うのに必死で、部屋に先回りしていた。
イメルは、強い少女と共謀して、よく分からない悪戯をしていた。
僕は、梨々と共に霜の巨人と戦った。
私は、桃子と共に新たな妖精たちを生みだした。
だから、ようやく。ゆっくりと。
眠ることができるんだ。
『イメル、パイカラ。つらい思いをさせた、すまなかったね』
『よく、頑張ったな』
『これで、安心して、我々も眠れる』
『爺様、みんな』
『ずっと、待っててくれた、の…?』
『お前たちを置いて、先に逝くわけがないよ。さあ、いこうか、皆。光の差す方向が、未来だよ』
梨々。桃子。ありがとう。
ユキムラ。カムイダンジョンを、任せるよ。
おやすみなさい。
またいつか。
五章 コロポックル 了