ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
氷の花の妖精たち
【タチバナの真相解明チャンネル!】
こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!
ええと……まずは、この通り、私は元気です。皆さん、ご心配をおかけしました。
なんか、先日の摩周ダンジョン、ううん、カムイダンジョンでの配信が物凄い話題になってるですけど、その、ね。
かなりの方が、私の左目のことを心配してくださったみたいで。
本当に、大丈夫です。心配してくれてありがとうね、皆。
ええと、病院でも見て貰ったんですけど、健康上の問題は全くなし、でした。ちょっとね、瞳の色合いに影響が出ちゃって、オッドアイ美少女になっちゃったんですけど……まあ、これくらいで済んで良かったですよ。むしろこれ、格好いいんじゃないですか? オッドアイとか、なんか凄味がありますよね。
動画といえば、ギルドって凄いですね。
知ってます? あの配信動画ですけど、今は「マタギムービー」って名称で広まってるんですよ。前半の私の演説を省いた、マタギのおじさんのアップから始まる動画です。あれ、ギルドが作ってるんですよ。
ギルドの偉い人が言うには、未成年である私の個人情報保護? ネットリテラシー? とか色々言ってましたけど、事件当日には既にギルド主体で情報操作して、前半を削った動画を作ってくれてたみたいですね。
これで私の周囲が少しでも静かになっていってくれると助かりますよ、本当。
マタギのおじさんは私の代わりに世界的に有名になっちゃいそうですけどね。本人はなんか、サインの練習してるらしいです。
え? 今日は部屋からかって? 今更それ聞く?
そりゃそうですよ、平日ですし。学校でクラスメイトたちに泣かれましたよ。
それで私、北海道で無茶しすぎたんで、しばらくダンジョン禁止になっちゃいました。
あくまで、しばらくの謹慎ですよ、探索者引退とかじゃないですからね? 探索者を続ける許可を出してくれた両親には感謝してもしきれません。ありがとうございます。
許可と言えば、さっきもちょっと話しましたけど、ギルドの偉い人たちがうちの両親に謝罪に来ちゃったんですよ。まあ、詳細はさすがに言えませんけどね、両親とギルドの偉い人に挟まれて、私としてはダンジョンよりその時がきつかったです。あの居心地の悪さは二度と味わいたくないですね。
はい、でも重たい話はここまで!
視聴者さんも、いつもの調子でお願いしますね。ほら、美少女が喋ってるんだから、喜んでね。
はぁ? 美少女がどこにいるんだって? ふーん、眼鏡の度数があってない人がいるみたいですね、ちょっと明日にでも眼鏡屋さんへ行ってみてください。
新しい眼鏡なら、驚くくらいの美少女に目玉が飛び出しますから。
……なんて、あははっ、いつもの目が腐ってる視聴者さんですね! いつものノリで書き込んでくれてありがとうね。
大好きですよ、歯を食いしばって屋上で待っててくださいね、殴りにいきますよ。
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で、そのうどんが滅茶苦茶美味しいんですよ。
凄かったですよ、【うどん製作】スキル。本人はスキルを使わず自分で作った方がうどんを作った気になる、とか言ってましたけどね。
あれは本当、一見の価値がありました!
皆さん、興味があったらうどんダンジョンこと香川ダンジョンに行ってみてくださいね。
四天王だけでなく、色んなうどん職人さんがいて、うどん好きならダンジョン内の食べ歩きで100パーセント満足できますから!
……っと、もうこんな時間かー。
さすがに自宅配信なんで、そろそろお開きにしますかねー。
では皆さん、タチバナは元気なので、心配しないでくださいね。
みんな、大好きですよ♪
じゃ、おやすみなさーい。
「お、おやすみなさい、柚花さん。ま……また、お話聞かせてくださいねぇ」
ここは妖精の国。畑の一角に置かれた休憩用テーブル。
妖精の国に畑が出来て以降、畑の脇にあるスペースが何かと皆が集まる場所として利用されているので、桃子が【加工】で造り上げたベンチを設置していた場所だ。
そして今は、ベンチだけだといざという時にカレーが食べづらいという重大な理由により、新たにテーブルも設置されている。
そのテーブルの上に立て掛けられた端末の前では、ニムが噛り付くように、愛する柚花の生配信を視聴していた。
画面では柚花がカメラに向かって手を振り、ニムもそれに手を振り返している。
そして配信は終了、動画リスト画面に戻って、ようやくニムが画面から離れてくれた。
「後輩は。しばらくダンジョンにこれないのか。残念だな」
「まあ、仕方ないよ。柚花ったら、いまはちょっとした時の人だしね。ご両親も今回ばかりは心底心配してたみたいだし、周囲も騒がしいみたいで、大変みたい」
そんな配信とニムの様子を眺めていたのは、ヘノと桃子である。
今日は平日なのだけれど、ヘノと会いたくて仕方のなかった桃子は仕事終わりに一度帰ってから、そのまま房総ダンジョンまでやって来た。
このままここで夜を過ごして、明日の朝はダッシュでダンジョンを駆けあがり、電車で工房まで出勤予定である。
「うぅ……ど、どうして、柚花さんの部屋に通じる光の膜は、出来ないんでしょうか……」
「柚花の部屋がダンジョンじゃないからだね」
北海道の件で、カムイダンジョンにニム達が雪崩れ込んだ時から、柚花はまだダンジョンへと訪れていない。
さすがに、いくら同意書を書いているとはいえど、柚花は未成年の現役の女子高生だ。更には、客観的に見ても可愛らしい美少女である。
そんな少女があんな過酷なダンジョンに放り込まれて、あげく片目を魔物によって凍らされるという悲惨な姿を配信してしまったので、それはもう色々と波紋を呼んでいるらしい。
即日のうちにギルドが手を打ってはいるものの、しかしそれでもギルドが情報を操作するよりも、情報の拡散速度の方が上だった。なので、ほとぼりが冷めるまではダンジョンに訪れるのは難しいのだそうだ。
その代わり、と言ってはなんだが、柚花はしばらくは室内からの雑談配信を行うとのことである。
桃子が千葉に戻ってきてからすぐに房総ダンジョンギルドに訪れた際は、事情を知るギルドスタッフの窓口杏が涙ながらに抱き着いてきたのだが、杏も配信動画で見た柚花の容態が心配で食事も喉に入らない状態だったと言う。
きっと、同じように柚花を心配する人は沢山いるだろう。自宅配信と言えど、杏のように心配している人たちに向けて元気な姿を配信するのは、悪くない選択だと桃子は思う。
その自宅配信だが、これは配信を見てくれている知人や視聴者へのアピールでもあるし、多分あれはきっと、ニムへのメッセージも込められているのだろう。
大丈夫だから、心配しないで、と。
大好きだよ、と。
そんなわけで、桃子はしっかりと、柚花からの生メッセージをニムへと伝達することができた。任務完了だ。
『ヘノねーさま、いたー』
『へのねえさまー。へのねえさまー。お話してー』
『カレー』
『ヘノねえさま、あそぼ?』
「こいつら。カレー食べて。大人しくなったと思ったら。また来たな」
続いて、北海道から帰ってきて、大きく変わったことその2。
それは改めて言うまでもなく、彼女たち、氷の花の妖精、略して氷妖精たちの来訪である。
彼女たちは、カムイダンジョンの新たな護り手として生み出された妖精たちだ。
桃子には具体的なことまでは感じられないのだけれど、彼女たちはこれでもしっかりと、カムイダンジョンの瘴気の乱れを制御しつつあるらしい。
とはいえ。
彼女たちは成り行き上、女王ティタニアの魔力で生まれた存在だ。結果として必然的にカムイダンジョンとティタニアの間にも繋がりが発生しているようで、実質いまのカムイダンジョンはティタニアの領域となっている。
なので、一時的に氷妖精たちをこの妖精の国に集めて、カムイダンジョンに妖精が居なくなったとしても、それが原因でカムイダンジョンの瘴気が乱れるということはない。
当の氷妖精たちだが、昼の間は主にティタニアの女王の間で様々な教育を受けているらしいのだが、しかし隙を見てはヘノに会いに来るのだという。
「なんかさ、この子たちってティタニア様よりもヘノちゃんに懐いてるよね」
桃子は、ヘノに群がる小さな少女たちを眺める。
ヘノやニムも人間からすれば十分に小さいのだが、彼女たちはそれよりも小柄だ。
背中に白い氷の羽根がついている分だけわかりやすいが、しかし遠目に見ると白い蝶か何かと勘違いしてしまいそうである。
そんな少女たちは、ヘノが北海道へやって来たあの時から、ずっとヘノに懐いている。
生まれたての雛が初めてみた鳥を親と認識するのと同じく、彼女たちが初めて見た妖精がヘノだったからか。
それとも、ヘノの風の魔力があの吹雪の地で育った彼女たちと相性が良かったのか。
それともまた、更に別な要因があるのかもしれないが、とにかく彼女たちはヘノが大好きなようであった。
懐かれている側のヘノも、彼女たちと顔を合わせた直後は困惑しきりだったが、流石に数日もいれば慣れたもので、今は適当にあしらっている。
昼のうち。彼女たちはティタニアの女王の間に集められ、色々な妖精の常識や、魔力の扱い方、人間とのつきあい方、等を教えられているのだが、生後数日の妖精たちが果たしてどれだけ理解してくれているのか、という状態だったらしい。
ただ、この花畑に元から住んでいた同じくらいの妖精たちと仲良くしてくれているのは救いだろう。
先ほどは、夕食として桃子が作ったカレーを花畑に住まう大勢の妖精の子たちと一緒に仲良く食べていた。
しかし今は、カレーで満腹になったあとのヘノねーさまに甘える時間のようだ。
ヘノが疲れたように、ため息をつく。
「うぅ……ヘノが……私の知らない間に、お姉ちゃんに……めそめそ」
「そんなこと言われてもな。ヘノの方が。纏わりつかれて。めそめそ。だぞ」
「まあ、生まれて数日だからね。でも、なんだか生まれたての時よりも、色々喋るようになってない?」
「そうか?」
ヘノはピンと来ていないようだが、桃子の記憶違いでなければ、彼女たちは言葉数が増えている。
というか、最初に出会ったときは「ヘノねーさま」しか言葉を発さなかったはずだ。いや、もしかしたら別な言葉も混ざっていたかもしれないが、なんにせよ、ヘノの名前を呼ぶばかりだった。
それが今では「お話して」とか「あそぼ」とか言っているので、少なくともこの数日でかなり成長しているようである。
「数日でこれくらい喋れるなら、一週間もすればもっとお話しできるようになるんじゃないかな……?」
「うぅ、一週間もこの調子だと……な、なかなか、大変ですけどねぇ……」
そこは、ヘノに頑張って貰おう。
そして、氷の妖精たちに付随する問題は他にも山盛りであった。
「おい! ヘノ! お前の妹たち、集まってて寒いぞ!」
「ククク……畑に、霜が、降りているねぇ……」
そう、彼女たちは氷の花の妖精。
一人二人ならばともかく、集まって行動すると、寒いのだ。
寒さだけならば妖精たちならどうにか耐えられるだろうが、花畑のお花や畑の植物にも影響が出てしまっている。
いかにティタニアの魔力で保護された土地とはいえ、魔力のこもった冷気を当て続ければ、この妖精の国の植物とて駄目になってしまう。
これはなかなか、由々しき問題だった。
『ワーン、お花、枯れちゃったー』
『うぇーん、お花、死んじゃったー』
遠くでは、小さな妖精たちが泣いている。どうやら、お気に入りのお花が今回の被害にあって駄目になってしまったらしい。
お花を駄目にされたのは花畑に元から住んでいた妖精で、お花を凍らせてしまったのは氷の妖精なのだが、二人でめそめそ泣いている。
せっかく妖精同士で仲良くなっても、これではいけない。
「これは、至急どうにかしたほうがいいかもしれないね」
「せめて。魔力の制御が。もっと。うまければいいんだけどな」
「うぅ……仲良くなったのに……か、悲しい、めそめそ」
桃子は明日は工房へ行かなくてはならないけれど。
どうにか週末までには解決策を何かしら考えてみようと、心に決めたのだった。