ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「やっぱり単純に、断熱性の高いもので部屋を作って、そこで寝て貰うのが一番かなあ。となると建材かあ……」
工房にて。いつものように午前の作業を終えて、お弁当を食べながら桃子は独り言ちている。
件の氷妖精たちの騒ぎだけれど、あの後桃子たちが色々と聞き取り調査を行ったところ、どうやら氷妖精たちは睡眠時に特に多量の冷気を放出してしまうということがわかった。
起きている間も決して魔力制御が上手くできているわけではないのだが、眠りにつくとその魔力制御が更に緩くなってしまい、冷気がどんどん漏れ出てしまうのだ。
結果として、花畑の花を凍らせて駄目にしてしまったり、畑に霜が降りたりということになってしまう。どうやらあれは、氷妖精たちが睡眠をとった名残だったようである。
そこで桃子が考えたのは、彼女たち専用の寝場所だ。
起きている場合の魔力制御に関しては、ティタニアをはじめとした妖精の先達たちに任せるしかないが、寝場所という面で言えば桃子も力になれるはずだ。
現状では、区画を分けて氷妖精たちには眠る場所を限定して貰うことでどうにか被害が広がりすぎないように対処しているのだが、そこで桃子は思いついた。
それは、氷室。冷蔵庫が発明されるよりももっと昔から存在する、夏場にも氷を貯蔵するための施設である。
氷室のような部屋を制作して氷妖精の寝場所として使ってもらい、その漏れだす冷気を食材保管に使えるならば、一石二鳥ではないか。
氷妖精たちを便利に使ってしまうみたいで申し訳ない気持ちもあるが、実際問題として、妖精の国に食材を保冷する場所というのがあると、桃子としては非常にありがたいのだ。
というわけで、氷室である。
ティタニアたちに提案するにしても、もう少し具体的な案が必要だ。
同僚のお姉さんから正月土産に貰った、東北地方の砂糖菓子で脳にエネルギーを送りながら考える。
「あらあらー。桃ちゃん、お正月明け早々また何か悩み事ですかー?」
「あ、いえ、悩み事っていうか、アイデアが浮かばなくて」
「アイデア、ですかー?」
「ええとですね、ダンジョン内で、冷気を逃さないような氷室みたいなのを作るとしたら――」
そして、例のごとく考え込む桃子に話しかけてきたのは、お土産の砂糖菓子をくれた本人。隣の席のゆるふわお姉さん、和歌だ。
正月明け、桃子を見た和歌は、まずやはりというか、桃子の後輩でもある探索者タチバナ――柚花の安否を心配していた。
柚花の無事を報告すると、和歌はホッとした様子を見せる。やはり、元探索者である和歌なので、ダンジョンでの不幸な事故というのも経験があるらしく、あのような若い美少女に何かあったらと思うと気が気でなかったのだという。
それに加えて、柚花本人が心配だったのも事実だが、仲良い後輩に何かあった場合は桃子もショックが大きいのではないかと、桃子のことも心配してくれていたようだった。
実は桃子も摩周ダンジョンで頭から大量の血を流していましたなんて言ったら、和歌は泣いてしまうかもしれない。もちろん、桃子もわざわざそんなことは言わないけれど。
そんな和歌だが、彼女は探索者用アイテムの設計士であり、ダンジョン内の技術や素材については桃子より遥かに色々と知っているはずだ。
なので、素材について和歌に聞いてみてもいいかもしれないと思い、桃子は掻い摘んで説明をする。
もちろん、実際に妖精の国に氷室を作るとは言えないので、あくまで『たとえ話』の体での相談だ。
和歌はこういう時、多少気になるところがあったとしても、あまり深入りしてこないので桃子としてもありがたい。
「ふむー。氷室……ダンジョンで氷室でしたら、最近面白い新素材が出回ってるんですよー」
「新素材、ですか?」
すると、和歌から飛び出て来たのは『新素材』の話題だった。
和歌はその職業柄、一般にはまだ出回っていないような新たな技術や新素材情報も知っている。
無論、その一般に出回っていない新素材は得てして桃子が入手出来るようなものでは無いのだが、それはそれとして普通に新素材というものが気になるので、桃子はその話の続きに耳を傾ける。
「はいー。粉なんですけど、断熱性が非常に高いので、新たな断熱材や、防具の素材として注目されているんですよー」
「へぇー。新しい素材っていうと、やっぱりダンジョンで見つかった素材なんですか? 鉱石とか、魔物素材とか」
桃子の質問を受けると、和歌はカチカチとキーボードをたたき、何かのデータなどが並べられた資料を開く。
文字が多くて桃子には何だかよく分からなかったが、画面をスライドさせると、何か瓶に入った粉のようなものの写真が画面に表示された。
それは非常に綺麗な色合いの粉だった。写真の中でも、青白い色の透明感のある粉が光を反射しているように見える。
「そうなんですよー。魔物素材なんですが、作り方が難しいのですよねー。スライムをまるごと凍らせて、それが煤になる前に核ごと砕く必要があるんですよー。そうするとスライムが変化した結晶がその場に残るんですが、それを更に細かく粉砕した粉なんですよー」
「……はい?」
スライムを、一瞬で冷凍。そして砕くと、入手できる結晶。
桃子の気のせいでなければ、桃子の記憶違いでなければ。その素材の入手方法は、とてもよく覚えがある。
それは、桃子が琵琶湖ダンジョンで、鼻歌交じりにスライムを殲滅させて創り出していたあの素材と同様で――。
「なんでも、琵琶湖の人魚姫が最初に作り出した素材なのですよー。最初はそれがどう作られているのか分からなかったのですが、色々と研究したところ、スライムを凍らせて即粉砕、という手順が発見されたそうですねー」
「へ、へぇー……」
その後、和歌はモニタに様々な資料を表示して、その素材について色々と教えてくれた。
その素材の特性に、最近確立された素材の入手方法など。そして、最初に琵琶湖でその素材が発見された際のエピソードまでも。
桃子は途中からこれでもかというくらい目が泳いでいたのだが、幸運にも、モニタを見ていた和歌に気づかれることはなかった。
「桃子。そもそも。ヒムロというのは。なんなんだ?」
「ああ、そうか。ヒムロは……んー、そうだなあ。別な言い方だと、氷部屋、かな?」
「なるほど。氷部屋か。それはいいな」
桃子はその日の夜も、さっそく房総ダンジョンを訪れて、ヘノにその『氷室』の案を出してみる。
が、当然ながらヘノに氷室などという名前を言っても伝わらないため、氷室改め『氷部屋』ということになった。これならば他の妖精たちにもわかりやすいだろう。
物を冷やす用途だけで言うならば冷凍庫などでも通じるかもしれないが、流石に妖精の寝場所を冷凍庫扱いするのは忍びない。氷の妖精たちの部屋だから、氷部屋だ。即興でつけた名称だが、悪くない。
「というわけでヘノちゃん、週末にはスライム狩りに行こう!」
「わかったぞ。よくわからないけど。氷部屋には。スライムが必要なんだな」
「いや、スライムはいらないんだけどね。ええと、スライムから出てきた結晶あるでしょ? あれがね――」
スライムから出る不思議な結晶ならば、そのうち専門店で買い取りをお願いしようと思っていた分が手元にも残っているが、これを砕いて氷部屋の断熱材として散布するならば、もっと量が欲しいところである。
その日はティタニアや妖精たちも交えて、氷部屋についての計画を立てながらの夕食となった。
ちなみに、今日の夕食の献立はカレーである。
カレーを食べながら、何人かの妖精たちにも氷部屋について相談してみたが、食事のレパートリーが増えるならば是非とも作るべきだと、全員が賛成。驚くことに、女王であるティタニアまでもが賛同してくれた。
もちろん当の氷妖精たちにも聞いてみたのだが、寝場所については何も拘りがないのか、或いは話の成り行きが理解できていないだけなのかはわからないが、反対意見というのもなさそうだった。
「じゃあ、しばらくは頑張って、氷部屋を制作していこうね」
話し合った結果として。
まず、ある程度の広さの土地を決めて、その周囲をダンジョンでも準備が容易である岩や石で固め、適当な木材などで天井を設置。
最後にその内側の岩面に新素材のスライム粉を散布して、とりあえずの完成、という計画に落ち着いた。
最後のスライム粉は、桃子が【加工】で岩面に定着させていけば大丈夫だろう。
出入口になる扉は何かしら準備するとして。氷妖精たちの寝室を兼ねるならば窓くらいは必要かとも思ったが、彼女たちは暗い中で眠るのも好きだということだった。とりあえず窓は保留となった。
生まれ育った場所が、夜になると瘴気の吹雪が発生する環境だったので、そこら辺の生態も微妙に他の妖精たちとは変わっているようである。
「あの粉。そんな便利なやつだったのか。じゃあ。沢山スライム。狩らないとな」
「か、壁に使う、岩とかは……ノンに用意させますねぇ……?」
「頼み事っていうから、来たんだけどねぇ。なんか、大変な作業をまかされちゃったよぉ」
大地の妖精、ノン。
彼女はヘノたちと同様に、自我の育った妖精の内のひとりだ。
やや間延びした口調が特徴的で、おっとりした、他の子たちと比べると大人びた性格の妖精である。
茶色のふんわりしたボリューミーな髪の毛に、スリムな体型のヘノらと比べるといくらか女性的な豊かな体型をしている妖精である。豊かと言っても、あくまで手のひらサイズの小さな少女ではあるけれど。
そんなノンが、どうやら氷部屋の壁の素材を作る役割として駆り出されていた。
彼女は大地の妖精だが、魔物と戦うときは地面から岩壁などを出して攻撃を防ぐという、物理的な防御の術に長けている。
そして今回は防御ではなく、その岩を作り出す術にて岩壁の素材を大量生産させようという、ヘノによる人選だ。
確かにそれならば、桃子が延々と岩を掘って運び込むよりも圧倒的に工事期間が短縮できる。
「ノンちゃん、大丈夫? 無理そうなら、私が板なり岩なりを持って来たっていいんだけど……」
「そうだねぇ。触媒になる岩とかがあると、その分だけ、岩も作りやすいよぉ」
「ん、わかった! じゃあついでに、岩も砕いて適当に幾つか持って帰ってくるね」
「桃子は。琵琶湖ダンジョンにいくと。何か壊さないといけない。運命なのかもしれないな」
琵琶湖ダンジョンで集めてくるものに、岩壁の触媒となる岩が追加された。つまり、またもや琵琶湖ダンジョンの岩壁を破壊するということでもある。
桃子は、なんだかんだで予感はあったのだ。琵琶湖ダンジョンに行くとなった時点で、またどうせ何かしら壊すことになるのだろうと。
だがしかし、せめて今回は岩を砕くにしても、静かに。さりげなく。琵琶湖の探索者を泣かせたりしない様に。人魚姫の悪評を広めない様に。
どうにか気を付けて破壊しようと、心に決めるのであった。
「うぅ……び、琵琶湖ダンジョンは……どうしてすぐ、壊れるんでしょうか……」
「桃子が。壊すからだぞ」
ぐうの音も出なかった。
【琵琶湖ダンジョン専用 雑談スレ】
:奇跡のコロポックルさ、なんか後姿しか見えなかったけど、癒し系っていうか、優しそうだったな
:おいやめろ
:お前! それは言っちゃ駄目だぞ!
:何も言ってないのに猛烈に否定されてて笑う
:人魚姫だってついつい破壊行為に走っちゃうだけで根はやさしいだろうが!!
:あーあ、名前出しちゃった(ここまでいつもの流れ)
:冗談はさておき、本当にダンジョンは奇跡があるんだなって
:すみません、琵琶湖ダンジョンの方々に質問をしたいのですが良いでしょうか? 人魚姫についてなんですが。
:おうよ
:我らが姫様のことならなんでも答えるぜ
:実は私、こういう漫画とか描いてるんですけど、とある理由で人魚姫の漫画を依頼されたので、もう少し詳しく知っておきたいなと(URL)
:萌々子絵師やんけ!
:とうとう人魚姫が(同人)漫画デビューか!!
:俺たちの姫様が、(同人)世界に羽ばたくわけか……
:それでですね。イラスト化するにしても、人魚姫の情報があまりに少なくて、そこのところを現地の方々に伺いたいのですが。
:うーむ
:すまん、俺たちは力になれないようだ
:いきなり白旗で笑う
:いざ聞かれると、知ってるようで知らないんだよなあ
:いきなり具体的じゃなくてもいいんです。特徴とか、現時点での情報を教えて行っていただければ、そこから探っていきますよ。
:特徴? 何かと荒っぽい
:素手でやってるんだよな、あの破壊行為は
:スライムを結晶化させて砕くぞ
:あれって瞬時に冷凍してたんだっけ? なんか研究して判明したんだよな
:肉食。人間捕まえて何かの肉を食わせようとする。
:コミュ障
:過度に文明を持ち込むとキレる
:怪我人に死ぬほど苦い薬草を食べさせる(なお効果は最高)
:根はやさしい。
:ペルケトゥスと一緒に泳いでる姿はちょくちょく目撃されてるから、水中では姿が見える説ある
:ペルケトゥス狙いの魚人どもが定期的に全滅してる(なお関連性は不明)