ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
桃子の鼻歌が、スライムの集合するスライムハウスに響く。
「ふんふんふーん、はんまーそーん♪」
ここは琵琶湖ダンジョン第三層、滝の迷宮。四方八方に大きな滝が存在し、常に轟音と水飛沫が飛び交っているダンジョンだ。
桃子はいま、その滝の迷宮に隠された大量のスライムが潜む隠し部屋、所謂スライムのモンスターハウスにて、鼻歌交じりにスライムたちを粉砕しまくっていた。
ここは本来ならば、お宝を求めてやって来た探索者を閉じ込め、大量のスライムで逃げ場を失くして襲い掛かる恐ろしい部屋なのだが、例の如く、今回は逃げ場のないスライムを氷結ハンマーモンスターこと桃子が狩りつくす、逆の意味で恐ろしい部屋となっている。
もしスライムが魔物でなく、そして感情を表現する声帯を持っていたならば、阿鼻叫喚の叫び声で混乱の極みになっていたことだろう。
尤も、スライムは基本的には音を立てない魔物なので、先ほどから室内に響くのは滝の轟音と、桃子がうろ覚えで歌う、有名ミュージシャンのハンマーソングのみである。
滝の轟音で外には声が殆ど漏れず、しかし室内では程よく自分の声が反響する。ここはカラオケにもとてもちょうどいい部屋だった。
「桃子。今日は全部。袋に入れて。回収していくのか?」
「うんっ。今日は大きな袋も持ってきたし、この袋いっぱいに入ってれば大丈夫じゃないかな?」
本日の目的はスライムの虐殺ではなく、あくまでそれによって入手できる素材だ。
和歌から教えて貰った情報によると、スライムを氷結させ、即粉砕すると特殊な結晶体が魔物素材として入手できるのだが、それを加工した素材が非常に高い断熱性を持つ新素材として注目されているのだという。
元々その素材が発見されたのが、人魚姫――すなわち桃子がこの部屋でスライムを倒しまくった際の産物。つまりは、スライムが湧く限り、桃子はその新素材を取り放題と言うことである。
世界を探せば桃子のように【氷結】を付与した鈍器を持っている探索者もどこかにいるだろうとは思うが、その誰かも今頃は新素材のために引っ張りだこなのではないかと思う。
桃子はある程度スライムを砕くと、逃走を図るスライムは無視して、その場でひとまず手を止めた。
スライムを倒すことは可能だが、さすがに袋に入り切れない量の素材をこれ以上作りだしても仕方ない。
ヘノと共に、持ってきた大きな布袋にひたすらスライム結晶とスライムから出て来た魔石を放り込んでいると、その空間に横穴がいくつか空いていることに気が付いた。
「あ、横穴。前は確か、ここに探索者さんたちが隠れてたんだってね」
「スライムが。多すぎて。あのときは人間の魔力には。気づかなかったな」
「今日は誰もいないかな? ノックノック、誰かいませんかー?」
以前桃子がここで暴れたときは、実はスライムから逃げ隠れていた探索者が、この横穴のどれかに隠れていたのだという。
当時は桃子もヘノも、スライムを倒すのに熱中していて、まさか探索者がそのような危機に陥っていたとは全く気付かなかった。後からネットでその情報を見たときは、驚いたものである。
とはいえ、結果的には人命救助に繋がったので結果オーライだ。あの時桃子がハンマーの【氷結】をテストしなければ、誰かがこの場で命を落としていた可能性があるのだと思うと、世の中なにが功を奏するか分からないものだなと、世の不思議を実感する。
「今日は誰も。いなさそうだな。特に。魔力の反応もないぞ」
「ん。スライムに襲われてる探索者さんはいなかったなら、良かった」
「でも。今気づいたけど。向こうのほうで。魔物に襲われて。苦戦してる探索者は。いるみたいだぞ」
「ええっ?! じゃあ、助けに行こう!」
第三層までやってくる探索者というのは、皆それなりに実力があり、強い人たちだ。
とはいえ、桃子のように相棒たる妖精が魔物を事前に察知してくれるわけでもなく、魔物から認識されないというスキルを所持しているわけではないので、やはり苦戦するときは苦戦するし、それで帰らぬ人になることもある。
なので、苦戦している探索者がいるのならば頼まれずとも助けに行くというのが、最近の桃子の行動原理であった。
なお、ヘノと出会う前は人助けをしていなかったのかというと、決してそういうわけではない。
ただ単に、そもそも桃子が出没するのは房総ダンジョンの上層ばかりだったので、桃子の近くで命の危機に直面するほど苦戦する探索者が殆どいなかったというだけである。
「よいしょお!」
探索者を囲っていた魔物の粉砕作業は、今の桃子にとっては容易い仕事であった。
自分に気づいていない魔物を、後ろから順番に叩いて行くだけである。粘液の多いタイプの魔物も多いが、【氷結】で瞬時に凍らせるので、妙なねちょねちょが飛び散ることも無く、実に快適だ。
以前は目の前でいきなり魔物が弾け飛ぶと探索者たちもパニックになっていたものだが、最近ではどうやら人魚姫のやり方というのが周知されているようで、探索者たちは人魚姫に感謝の言葉を叫びながら逃走していった。
別に逃げなくても、と思わなくもないが、周囲に誰もいないほうが桃子としても自由にやれるので、気楽に魔物を退治していく。
「桃子も。最初に会ったときと比べて。だいぶ。強くなってきたな」
「え、そう思う? ヘノちゃんがそう言ってくれるなら嬉しいな。最初のうちは、ヘノちゃんが色々修行つけてくれたんだもんね」
倒した魔物から出て来た魔石を拾い集める桃子に、ヘノが上から声をかける。
今回はヘノは魔物の居場所を察知しただけで、魔物の撃退自体は桃子が一人でやってのけたのだ。特にヘノが手助けをするようなこともない。
最初に出会った頃は、河童にも苦戦していたし、一反木綿で修行させたりしていたものだが、桃子も立派になったものだと、ヘノは上から師匠面だ。
「今なら。河童と戦っても。問題なく倒せるんじゃないか?」
「んー、まあ……河童になら、負けないと思うよ。やっぱりちょっと、苦手意識はあるけどね」
今ならば、戦闘時の立ち回りも理解しているので河童に組み付かれることも無いだろう。
そうでなくとも【氷結】があるので、初めて河童と戦った時のように甲羅でガードされたとしても、その一撃で河童を凍り付かせて相手を行動不能へと追いやれる自信がある。
とはいえ、腕力勝負で負けて意識を失いかけたのは、そしてあわや尻子玉を抜かれるところだったのは、今でも桃子にとっては苦い思い出として残っているのだが。
桃子がいつかのマヨイガを思い出していると、ヘノも満足そうに頷いている。
「桃子は。修行の甲斐あって。ハンマー力も上がって来たし。魔力も充実してるな」
「そうだヘノちゃん、柚花も言ってたんだけど、私の魔力って人よりも多い……んだよね?」
魔力と言えば、だ。
北海道で柚花にも言われたことなのだが、どうやら桃子の魔力量というのは人並み外れて多いのだという。魔力を目視できる柚花が言うのだから、それは嘘ではないのだろう。
桃子本人としては魔力量なんていうものは目にも見えず、人との比較もしようがないので、魔力が人一倍多いという自覚は全くなかった。
しかし、最近色々なところで戦うようになってからは、自分が人より魔力に恵まれているらしいことを、実感する機会が多い。
普通の探索者は魔力を込めてもダンジョンの壁をここまで頻繁に破壊したりしないし、モンスターハウスを全滅させる勢いで【氷結】の連発などしていたらもっと早く息切れしている筈だろう。いくら『鵺の魔石』という特殊なブースターを所持していたとしても、だ。
それについて、ちょうどいい機会なのでヘノに聞いてみることにした。
「そうだな。桃子の魔力は。順調に。多くなってきてるぞ。なによりだな」
「待って待って、魔力ってそんなに順調に増えていくものなの? 聞いたことないんだけど」
ヘノに聞いてみたら、なんだか聞き捨てならない言葉が返ってきた。
桃子は自分の耳を疑う。いまヘノは「順調に多くなってきている」と言ったが、魔力は順調に増えるようなものだったのだろうか?
無論、幼少期より青年期の方が魔力が多いとかそういう話はあるが、ヘノと出会ってからまだ数か月だ。数か月という短時間で順調に増えていくだなんて話は、桃子は聞いたことがない。
「なんだ。知らなかったのか。桃子は。カレーを食べる度に。魔力が。ちょこっとずつだけ。増えてってるんだぞ」
「えっ?!」
衝撃の事実。
桃子はカレーで魔力が増えていく、新種の探索者だった。
ヘノの説明は、こうである。
桃子はもう何年もの間、【カレー製作】にてダンジョンの薬草などを配合した自作のカレーを食べて来たのだが、桃子の【カレー製作】には、その素材に含まれる魔力の一部を己のものとする力があるのだという。
そしてここ数か月の桃子の作るカレーは、妖精の国の魔力が豊富な材料を使用している。つまり、ソロ探索者として薬草や果実をカレーに混ぜこんでいた時期とは段違いの、破格の魔力がカレーに備わっているのだそうだ。
もちろん、その魔力の全てを吸収できるわけではなく、あくまで効果としては微々たるものの積み重ねとのことだが。
「そ、そっか……もしかして、それって公表したらすごいことになっちゃうのかな」
魔力を人為的に上昇させる術。
それは、もしかしたら物凄い大発見なのではないか? 桃子は冷や汗をかく。なんだか、とんでもないことを知ってしまったようで、ドキドキしてきた。
「どうだろうな。普通の探索者は。妖精の国の食べ物なんて。食べられないからな」
「そ、そっか。そうだよね、私も長年ソロでカレー食べ続けたけど、ヘノちゃんと会う前はそこまで魔力の恩恵とかもなかったもんね」
「最初は。人よりも少し多い。程度だったと思うぞ」
実際のところ、ヘノと出会う前段階でも、房総ダンジョンの薬草や果実から得た魔力で桃子は並の探索者よりは魔力を持っていたらしい。
だがそれでも、平均よりは高いといった程度だ。やはり、第一層の薬草や果物から得る魔力などは本当に微々たるものだったようだ。
もしかしたら、その調子で何十年も過ごせば人並外れた魔力を持つことは出来たかもしれないが、流石に何十年もカレーを食べ続ける探索者など、桃子か、インドの探索者くらいだろう。
その理屈だと、インドのダンジョンならば世界と比べて魔力が高い探索者が多いのではないかと桃子は考えるが、しかしその疑問に答えてくれるものはこの場に居なかった。
「それに。桃子も人間だし。さすがに魔力量もそのうち限界がくるだろ。あの魔女は。半分人間じゃないから。滅茶苦茶な魔力だけどな」
「りりたんは人間じゃない扱いなんだね……」
人間の身体でも、りりたんは滅茶苦茶な魔力を保有している。
ならば同じ人間の桃子もやろうと思えばそれくらいの高みに上れるのかとも思ったが、ヘノに言わせればりりたんは人間じゃないらしい。
遺伝子上はりりたんは人間なのだろうけれど、ならばそこに入っている魂というものが違うのだろう。桃子はオカルトが苦手だが、幽霊や魂というものの存在は信じている。
妖精女王の魂。人間の魂。カレー。インド人の魂――。
しかし、桃子の脳が遥か高みの哲学の門を開ける前に、ヘノが桃子を引き戻してくれた。
「まあ。人間に教えたほうがいいかどうかは。ヘノにはわからないけどな。こんど。後輩や。窓口にでも。聞いてみたらどうだ」
「あ、うん。そうしてみる、かな」
「それよりなんだか。カレーの話をしてたら。カレーを食べたくなってきたぞ」
「そ、そうだね! よし、さっさと岩を適当に砕いて、ノンちゃんに持ち帰ってあげなきゃね!」
己の知られざる新事実について、インドの探索者について、意外と深刻に考えこんでいた桃子だけれど、どうやらその事実を伝えたヘノにとっては大したことではなかったようである。
柚花も、桃子の魔力が半端ないという話をしたうえで、ペンション内では爺やとツインペアーの方が上だと断言していた。つまりはりりたんとクヌギであるが、桃子がいくら人並み外れた魔力だとしても、実際の人外の生物たちと比べればまだまだ大したことはない、ということだろう。りりたんは一応人間だけれど、やはりカテゴリとしては人外らしい。
桃子は気を取り直して、結晶でいっぱいになった袋を肩からかけて、両腕にいっぱいの岩を抱える。
正直言って、持ちづらい。
「こういう時に。前に房総ダンジョンで使ってた。タイヤ付きのカゴとかがあると。便利なんだけどな」
「そうだねえ。今度、【加工】で一つ制作しておいてもいいかもしれないね」
ヘノが言っているのは、桃子が平日に仕事として鉱石掘りに来ていた時期に貸し出されていた籠のことだろう。あれは私物ではなく業務だからこそ貸し出されたものだが、個人的にもあれがあると楽なのは確かである。
氷部屋に、タイヤ付きのカゴ。
正月明け早々、作りたいものが沢山増えていく桃子であった。
【琵琶湖ダンジョン専用 雑談スレ】
:人魚姫の見た目とか、喋り方とかってわかりますかね。
:過去の稀少な目撃例だと結構小柄なんだよね。それで、胸は意外とある。これはライブカメラが映してた。
:なんかスク水みたいなの着てたな 下半身どうなってたんだろう いや変な意味じゃなくて
:喋り方かー? 人魚姫ってそもそも喋ったことあるの?
:腕力でコミュニケーション取りたがる姫様だからな・・・
:声聞いたことありますよ。
:詳しく
:おお、新情報。どんな風に喋る方なんでしょうか?
:前に、羽交い絞めにされて変な肉を食べさせられそうになった時の声、今でも覚えてます。
:お前かw
:クリスマスに人魚姫に泣かされてた奴で草
:お前雑談スレ住人だったんかい!
:後ろから羽交い絞めにされて、なんか淡々というか、片言というか
:片言のイメージわかる。日本語下手っぽい
:文字で表記するなら「いいから。泣いてないで。肉でも。食べろ」って感じで、文節ごとに区切る感じかな。そんな感じで耳元で話しかけられました。
:それだ!
:解釈通りで感動
:お前、姫様に抱き着かれて、ご馳走勧められたのに泣いて逃げたのかよ
:×抱き着かれ 〇羽交い絞め
:×ご馳走 〇謎の肉
:姫様ってさ、勝手な俺のイメージなんだけど、イラストで描くならギザ歯でジト目褐色肌のイメージある
:あーなんとなくわかるw
:ギザ歯は漫画的表現だけど、リアルでも牙とかは生えてそう
:首から何かじゃらじゃらした貝の首飾りとかつけてて、顔にペイントつけてそう
:どこの蛮族の姫だよw
:琵琶湖の蛮族の姫だが……