ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「頑張れ。頑張れ。まだまだ。いけるぞ」
桃子のパートナーである風の妖精ヘノは、たまにやたらとスパルタ気質を見せる。
修行と称して一反木綿ハウスで桃子がヘトヘトになるまで戦わされたのは、桃子の記憶のなかでも上位にランクインするスパルタエピソードだ。
そして今、新たなスパルタエピソードが追加されている。
「が、頑張ってください……も、もう、半分いきましたよぉ」
「二人とも……辛かったら、こちらの薬草を使えば、物凄い身体能力が……ククク」
妖精の国の調理部屋。ここは部屋と言うのは名ばかりで、花畑の一角に作られた四角い床の上にかまどや調理台、流し台などが並んでいるだけという、壁のない吹きさらしの施設だ。
そして今。そのすぐ横に位置するスペースが、ちょっとした強制労働施設のような状態になっていた。
そこで労働させられているのは、人間である桃子と化け狸のポンコの二人である。周囲を妖精たちが囲い、二人に声援を送っている。
「ひぃ、ひぃ、な、なんでポンは……延々と、ブロックを運んでるっすかね……?」
「ふ、ふう、頑張れポンコちゃん! ファイトだよ! 終わったらカレーだよ!」
「キューン……」
「二人とも、あとは任せたよぉ……私はこっちで、力つきてるよぉ」
そこでは、ポンコと桃子の二人がひたすらにブロック状の岩を運び、積み上げ、岩壁を作らされていた。
ちなみに、二人に先んじてひたすらにブロックの製作をさせられていた大地の妖精ノンは、すでに魔力を使い果たしたようでヘロヘロの状態で力尽きている。
今は仲間の妖精たちがノンを介抱しているが、岩を作り出せるという能力ゆえに、彼女は今回はとんだ貧乏くじを引かされたようだ。
北海道、摩周ダンジョンと繋がる光の膜が調理部屋の脇に現れてから1週間。
この間、氷の花の妖精はもっぱらこの光の膜のすぐそばのスペースを主な寝場所に使っていたのだが、その結果としてこのスペースに咲いていた花々が魔力を伴う冷気によって凍り付き、地面には霜が降り、周囲が丸ごと寒さで駄目になってしまった。
元から桃子を中心にして氷妖精たちのための寝場所を作る計画をたてていたので、どうせ何処かしらのスペースを潰す必要はあった。なので、この冷気で駄目になってしまった調理部屋横のスペースに、そのまま氷妖精たちの寝場所を建てようということになったのが、数日前のことである。
あくまで氷妖精たちの寝場所ではあるものの、ついでにその冷気を氷部屋として活用しようという予定である。なので、調理部屋のすぐ近くというのならその方が今後も色々と都合が良い。
そして場所が決定したら、あとは桃子が持ち帰った琵琶湖ダンジョンの岩を触媒にして、ノンがひたすらにブロックを作り出す。そしてそのブロックを桃子がひたすら運び、並べて、壁を組み立てる。そのような工事スケジュールであった。
そのスケジュールの欠点は、単純に人手が足りていないことに尽きる。そもそも、ブロックを持ち上げて並べるなど、妖精たちの小さな身体では出来ないのだ。なので、ブロックを延々と運ぶ作業は桃子ひとりの仕事となった。
そこで不幸なのは、たまたま遊びに来ただけのポンコである。ポンコは正体こそ小さな狸だけれど、人間に化けることができるので、ブロック運び要員として問題なしとして妖精たちに捕まってしまった。実に不運な巻き添えである。
ブロックを運び、並べる。
ブロックを運び、並べる。
力つきたポンコが子狸に戻ってその場で寝始める。
ブロックを運び、並べる。
そんな延々と続くかと思われた労働が終わりを迎えたのは、既に日も傾いて、夕焼けが夜の色へと変化しようとする時刻である。
そこはただ四方に岩壁が並んだだけの、扉も天井もない空間だ。しかしどうにか部屋と呼べる代物にはなったのではなかろうか。やはり、四方に壁があるだけで、その場所は部屋っぽくなる。
流石にくたくたになった桃子も、岩壁に囲まれた室内で満足げに笑顔を浮かべている。
いくらスキルや魔力で強化された身体とはいえ、もう全身疲労がすごい。明日はきっと、筋肉痛だろう。
「桃子。たぬき。頑張ったな。すごいぞ」
「ポ、ポン……どうにか形になったっすね」
「うん、ポンコちゃんもごめんね、お疲れさま」
「キューン……」
子狸状態のポンコもどうやら目が覚めたらしく、感慨深そうに四方の壁を見上げている。
人間の視点からすれば実のところ2メートルちょっとしかない壁なのだけれど、子狸の視線で見ると、非常に高い岩壁に見えているに違いない。
ただ呑気に遊びに来ただけだというのに、強制労働に巻き込まれても文句ひとつ言わないで手伝ってくれたポンコは、実にいい子狸である。
桃子はお礼にポンコの全身を撫でてあげたし、撫でられてうっとりしているポンコのお腹に顔を埋めてたぬ吸いまでした。
「ところで。この後は。どうするんだ?」
「んー。天井と扉はまだだけど、とりあえずこの岩壁に例の素材を定着させて、ついでに崩れない様に調整すれば今日の所はいいんじゃないかなって」
さすがに壁を建てればそれで終わりというわけでもない。
最初の予定通り、この壁に断熱効果のある新素材を散布して、ようやくそこでひと段落だ。
ついでにその際に【加工】で壁が崩れないように強化もしておけば、より安心だろう。
「こ、この石の壁に、例のスライムの粉を、どうやってくっつけていくんですかぁ……?」
「うん。試しにやってみたら、水で溶いたものを散布して、最後に【加工】で定着できそうだったから、お水はニムちゃんにお願いできるかな?」
「は、はい……じゃ、じゃあ……桶に水を注げば、いいですかねぇ?」
「これが新素材っすか? きれいな粉っすね」
「すごいぞ。これをつけると。熱も。氷も。防げるようになるんだぞ」
前日のうちに桃子とヘノが琵琶湖ダンジョンで集めて来たスライム結晶は、その後桃子が更にハンマーですりつぶして、綺麗な透明感のある粉状のものになっている。
恐る恐るポンコが指先でつまむと、それは元がスライムとは思えないくらいにサラサラしており、その一粒一粒が透明感のある光沢を持っている為、粉だけでもそこはかとない高級感を醸し出していた。
瓶にでも入れて飾っておくだけでも、立派なインテリアになるかもしれない。
「ククク……こいつは色々と、使い道がありそうだねぇ……」
「カレーにいれたら! どうなっちゃうんだろうな!」
「断熱して、カレーが温まらなくなっちゃうんじゃないっすかねえ?」
「それじゃ、ダメだな!」
「まって、そもそもカレーに入れないでね?」
妖精たちは油断すると食べ物じゃないものまでカレーに入れようとするので、桃子はさっさとこの素材は使ってしまおうと心に決める。
さすがの桃子も、安全性も定かではない魔物素材入りのカレーは食べたくはなかった。
水に溶いたスライム結晶を散布する作業が終わったころには既に日も暮れて、時刻も既に夜となっていた。
その間、桃子はひたすら【加工】を繰り返し、魔力が尽きたら女王ティタニアから魔力を譲渡してもらい、再び【加工】の繰り返しだ。
本日の夕食は桃子ではなく、ポンコがカレーを作ってくれた。ポンコは【カレー製作】を持っていないので時間はかかってしまったが、さすがは料理人の弟子である。桃子の【カレー製作】ほどではないものの、丁寧に作られたカレーは妖精たちのお腹をしっかり満足させてくれたようだ。
そして、妖精たちがポンコのカレーに満足した頃に、ようやく桃子の作業も完了した。
『おへや、おへや』
『カレー』
『ヘノねーさま、お部屋』
「そうだぞ。お前たちは。これからはここで。好きに寝ていいんだぞ」
さすがの桃子も、昼間からずっと肉体労働を続け、最後は【加工】の連発で、身体も魔力もクタクタである。
ポンコが作ってくれたカレーを食べて多少は元気になったものの、やはり疲れたことには違いない。花畑に大の字になって寝転がると実に開放的で気持ちよくて、今にもこの場で眠ってしまいそうだった。
なので、桃子の代わりにヘノが氷の妖精たちを氷部屋へと案内して、今日からはここで眠るようにと誘導する。
『おやすみ、おやすみするの』
『おやすみなさーい』
既に時刻もとっくに夜だ。生後一週間の良い子たちは眠る時間だ。
誘導された氷の妖精たちは我先にと氷部屋の中へと入っていき、最初こそきゃーきゃー騒ぐ声も聞こえたが、しかし5分も経たずに静かに寝息を立て始める。
どうやら、彼女らもこの施設が自分たちの寝場所だということは把握していたらしく、桃子の作業が終わるのをずっと待っていてくれたようだった。
漸く体力が回復した桃子が起き上がり、扉のない入り口から中を覗くと、白い光を放つ妖精の少女たちがすやすやと皆で、土の上で雑魚寝をしていた。
漂う冷気が周囲の土に霜を降らせているが、きちんと壁に散布した断熱素材は仕事をしてくれているらしく、その冷気は外には漏れていない。無論、扉のない入り口からはひんやりとした空気が漏れてきているけれど、それくらいだ。
しかし、予定通りの効果を発揮したのは喜ばしいのだが、妖精たちが雑魚寝をしている姿に桃子は何とも言えない表情を浮かべる。
「うーん、氷妖精さんたちは喜んでるけど、地面に雑魚寝状態っていうのはなんだか申し訳ないや。何か敷いた方がいいのかな」
「大丈夫だろ。この妖精たちが使っていれば。そのうち自然と。氷の花が咲いてくると思うぞ」
「な、中には……食べ物を置くために、棚とかが欲しいですねぇ……」
「ククク……氷が作れるのだろう? なら、それを入れる入れ物も必要だねえ……」
どうやら、妖精たちからすれば地面に雑魚寝というのは大した問題ではないようである。
考えてみれば、桃子と柚花はいつも寝室のベッドで寝ているが、大体の妖精たちは普段から適当に屋外で眠っているのだ。土の上でも、たいして気にならないのだろう。
むしろ、棚やら箱やら、妖精たちのほうが今後の具体的な利用についてあれこれ考えているようだ。
「いつでも氷があれば、冷やしうどんが作れるようになるっすね!」
「じゃあ、そのときはポンコちゃんにお願いしようかな? おうどんはもう、私よりポンコちゃんのほうが腕前が上だもん」
「て、照れるよう……。でも、やるからには頑張るっす! 氷河師匠に詳しく教えて貰うっすよ」
カレーには冷やしカレーというものもあるが、あれは氷が必要なほどキンキンに冷やして食べるというものではない。
むしろ、ポンコの言う通り冷やしうどんや、他にも夏になれば素麺なども食べやすくなるだろう。
桃子は基本的には夏でもカレーを食べているのだが、せっかくなので気分転換に別な料理もいいかもしれないなと思う。
そして、やはり食材を冷やせるといえば。
「あとは、冷たいスイーツが作れるようになるよ!」
「桃子。冷たいスイーツってなんだ?」
「うーん、普通に果物を冷やすだけでも美味しいんだけど、やっぱり氷があったらかき氷が作れるようになるよ。あとは、材料は地上から持ってこないといけないけど、プリンとゼリーも作れるよ」
桃子は決してカレーしか食べない新生物ではない。
普通に甘いスイーツも大好きだし、カレーのあとに食べる食後のデザートは素晴らしいものだと思う。
今まではダンジョン内の甘味と言えば持ち込んだチョコレートや、畑でとれる果物類をそのまま食べるだけだったけれど、もし保冷が出来るようになれば、地上から多少の材料を持ち込んで色々なものを作れるようになるかもしれない。
妖精たち全員が食べる分を用意するのは難しいだろうけれど、しかし材料さえ持ち込めばバケツプリンくらいなら作れるようになるのではないだろうか。なかなか夢が膨らむ。
しかし、どうやら桃子のその夢溢れるスイーツ計画も、妖精たちには今一つピンと来ていない様子だった。
「うぅ……カキゴーリに、プリントゼリー……な、なんだか強そうな言葉ですねぇ」
「桃子。もしかして。氷のゴーレムでも作るのか?」
「作らないよ?」
ヘノは地上に来たときなどにプリンやゼリーは見たことがあるはずだけれど、さすがに名前までは覚えていないのだろう。
桃子はこの場での説明は諦めて、スーパーで小さいスイーツを買ってきて、妖精たちに振る舞ってあげようと思った。
「でも。冷たい食べ物が作れるなら。これで安心して。桃子を砂漠に。つれていけるな」
「えっ?! 私、砂漠につれていかれるの?!」
なお。
桃子の知らないところで、次の行き先が決定されているようであった。
幕間 氷の花の子供たち 了