ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
鳥取砂漠
『え、先輩砂漠にいくんですか?』
「うん、まあすぐに行くってわけじゃないよ? でも、なんかヘノちゃんが行ってみたいんだって。ヘノちゃん情報だけど、なんか砂漠でとれる食べ物がおいしいって、探索者さんが言ってたらしいよ」
『砂漠でとれる食べ物ですか? まあ、砂漠でもオアシスとかありますけど、それってやっぱり鳥取のあそこですか?』
「うん、多分その鳥取の砂丘ダンジョンだと思う。それで、柚花なら色々と知ってるかなって」
氷の花の妖精たちの寝床を兼ねた氷部屋が完成してから数日後。
桃子は工房での本日の仕事を終えて、自宅で夕食のタンドリーチキンを焼きながら、柚花と通話を繋いでいた。
ハンズフリーマイクのお陰で、フライパンで料理をしながら人と会話が出来る。桃子は現代文明を満喫中だ。
そこでの話題は、ヘノの言っていた『砂漠』についてである。
砂漠のダンジョンといえば、日本国内では鳥取にある砂丘ダンジョンが有名だ。恐らくヘノの言う砂漠も、その砂丘ダンジョンのことだろう。
鳥取砂丘に口を開いたダンジョンで、その上層部は巨大な砂丘。いや、砂漠が広がっているという。
『私も、砂丘ダンジョンなら、昔一度だけ第二層まで入ったことはありますけど……うーん、一言で言えば、あれは砂漠ですよ』
「シンプルじゃん。でも、砂だらけなのはさすがに想像つくんだけど、具体的にはどんなダンジョンだったの?」
『そうですね、第一層はただの広い鳥取砂丘です。それで問題は第二層なんですが――』
鳥取砂丘に口を開く、その名も砂丘ダンジョン。
その第一層「巨大砂丘」は、その名の通りにただただ広大な砂丘だ。
鳥取砂丘は日本有数の広大な砂丘だけれど、第一層はある意味それがそのままダンジョンになり、更に広くなったものと言える。
果てしなく続く砂地に描かれた風紋に、巨大な砂丘列。
鳥取砂丘では通称「馬の背」とも呼ばれる標高50メートルにもなる巨大な砂の丘が有名だけれど、ダンジョン内にはそれを凌ぐ巨大な丘が存在しており、景色としては一見の価値がある。けれど、探索をする上ではなかなかに苦労をする地形だろう。
ただし、最初にある一番巨大な丘の頂上まで上れば、そこからはかなり先まで見通すことが出来る上、第一層の中ほどには探索者たちの中継基地となる巨大テントが存在しているのが見通せるはずだ。探索者たちは、まずはその中継基地であるテントを目指せばさほど苦労することはない。
魔物としては、砂に隠れて人を襲うサソリのようなもの、蛇のようなもの、更には昆虫タイプの魔物が出現するようだが、所詮は第一層の魔物だ。きちんと強度のある防具を装着しておけば、そうそう苦戦することはない、らしい。
そして、柚花が苦々しげに話ったのは、第二層「熱砂砂漠」だった。
第二層は、景色だけならば第一層と大差ない、どこまでも砂の広がっているだけの環境なのだが、一度足を踏み入れれば数秒も経たずにその違いに気づくことになる。
そこは、常に50度以上の気温を保ち、沈まぬ太陽が延々と照り付ける、夜のない熱砂砂漠である。その上、第一層よりも更に広大な面積を誇るため、その砂漠を通過しようとするだけでもかなりの過酷な環境を進んで行かねばならない。
そして当然そこには第一層よりも巨大で強い魔物が出没し、探索者たちに牙をむくのだ。
人の体力を削り取る熱波と、広大な砂地という足場の悪さ。そして、砂の中を自由に泳ぐ魔物たち。
砂の丘以外には障害という障害もなく、第三層への階段も既に発見されているので、通り抜けるだけなら道のりとしては非常にシンプルだ。だがしかし、それは簡単なことではない。そこは第二層という浅さにしては、非常に過酷な階層と言える。
ただし、そこに時折現れるというオアシスでは多様なダンジョン食材や薬草が発見されており、砂漠に点在する岩場では貴重なダンジョン鉱石が採れる。また、砂漠で見ることが出来るサボテンは、処理が必要ではあるものの希少価値の高いダンジョン食材にもなるので、それらを目的にやってくる探索者は少なくない。
砂丘ダンジョンに訪れる探索者たちは、この熱砂砂漠をこう呼ぶ。
灼熱の砂の原。サハラ砂漠、と。
「鳥取なのにサハラ砂漠なんだ?」
『はい、サハラ砂漠なんです。まあ、砂の原で「さはら」だって現地の探索者の方々は言い張ってましたけどね』
「それはまた、上手いこと言うじゃん」
ダンジョンに関わる公式な名称と、探索者たちのつける通称との間で、その呼び方に差異があるということは往々にしてある。
香川ダンジョンとうどんダンジョン、摩周ダンジョンとカムイダンジョンなどがそれにあたる。
そしてそれはダンジョン名だけでなく、各階層ごとにつけられた名前でもしばしば通称がついていることが多い。
房総ダンジョンの第一層『森林迷宮』などは最近では『キャンプ場』などと呼ばれることもある。遠野ダンジョン『深淵渓谷』は、鵺の討伐後は深淵というには明るい階層となってしまい、一部では『陽光渓谷』だとか『明るい深淵渓谷』などと呼ばれているらしい。
そして、鳥取の砂丘ダンジョンの第二層は『サハラ砂漠』だ。
地方のいちダンジョンの第二層がアフリカ大陸に広がる広大な砂漠の名を冠するのは、いくらなんでも規模が違いすぎる気もする。
が、砂の原でサハラと読むならば、それはあくまで日本語の名称だ。世界最大級の砂漠と名前が似ているのは、あくまで偶然なのだと言い逃れが出来る。
『ちなみに、砂丘ダンジョン第三層「地下遺跡」は、通称「ピラミッド」です』
「それはもう言い逃れ出来ないくらいエジプトじゃん」
サハラ砂漠にピラミッド。偶然どころか、明らかに狙ってつけた組み合わせだった。
まあ、桃子とて別にダンジョンの名称を探索者たちがどう呼んでも構わないとは思うが、流石にサハラ砂漠を抜けた先にピラミッドがあるというのは、エジプトみが過ぎる。
鳥取成分をもう少し残してあげた方がいいんじゃないかとすら思った。
『でも、第二層にはサボテンがありますから南米っぽさもありますよ』
「もうなんか滅茶苦茶だね」
サボテンとは、基本的には南北アメリカ大陸に原生する多肉植物だ。
砂漠に生えているイメージの強い植物ではあるが、それはあくまでアメリカ大陸の砂漠帯の話であって、アフリカやエジプトの砂漠にサボテンは生えていない筈である。なんだか国籍が中途半端すぎる。
いや、そもそも今ここで話題になっているのは鳥取のダンジョンの話であって、アフリカでもアメリカでもないのだが。
詳しく聞けば聞くほど、鳥取の要素がどんどんなくなっていく気がした。
「それにしても、熱砂砂漠かあ。それはニムちゃんが猛烈に嫌がるわけだね」
『ニムさん言ってましたよ、ヘノ先輩は何処にでも気軽に行こうとするから大変だって』
桃子は火の通ったタンドリーチキンの具合に満足しながら、炊飯器のスイッチをいれて奥の部屋へと戻る。
あとはご飯が炊けるまではゆっくり、ベッドにでも横になりながら柚花とお喋りだ。
そして柚花とのお喋りであるが、先ほどの砂丘ダンジョンの話題から派生して、いまは妖精たちの話だ。
というのも、桃子たちが北海道に行っている間に、ヘノはニムを砂漠へ何回か誘ったようなのだが、ニムは猛烈にそれを嫌がっていたのだという。
しかし、それはそうだろうな、と桃子も思った。
空気が乾いた灼熱の砂漠など、水とは正反対の環境だ。普通に考えても、水の妖精が出歩く場所ではない。
オアシスなどもあるらしいが、そうだとしてもジメジメした場所を好むニムが、わざわざ砂漠などに行くことはないだろう。
むしろ属性的なものを考えると、水の中をすいすい泳いで渡る風の妖精がおかしいのだ。
『妖精の皆さんでも、さすがにあれだけ環境が極端だと、得意不得意はありそうですね。火の妖精のフラムさんなら砂漠も得意なんじゃないですか?』
「うん。私もそう思ったんだけど、ニムちゃんと柚花が来れないなら、ヘノちゃんは今回は私と二人で行くことにするって。ほら、北海道のときは一緒にいられなかったから」
『いいなあ、私も早くニムさんと一緒にダンジョン潜りたいですよ』
柚花は相変わらず、ダンジョン禁止令が解除されていないのだそうだ。
というのも、どうやら現在は娘を心配した両親の意向もあるのだけれど、出来るだけ話題が下火になるまでは頼むから自粛してくれないかと、房総ダンジョンギルド室長のヤマガタと、担当スタッフの窓口杏が直々に、頭を下げに来たのである。
柚花としても、房総ダンジョンのヤマガタと杏の二人に対しては恩も義理もあるので、彼らを追い詰めるのは本意ではない。なので、しばらくはその通り大人しくすることになったのだそうだ。
ただ、それはそれとしてニムに会えない日が続くのは辛いらしい。
桃子も、仮に自分がヘノと会えない日が続いたら寂しいだろうと思う。
今度、こっそりとヘノとニムを地上へつれてきて、柚花も呼んで一緒に地上で一日遊ぶ日を作ってもいいかもしれないなと、頭の片隅で考えた。
『そうだ、先輩。暑さに関しては先輩の【環境耐性】スキルがあればどうにかなるのかもしれませんけど、それでも日差し対策とかは考えておいたほうがいいですよ? お肌へのダメージまでスキルがガードしてくれるとは限りませんしね』
「ああ、そっか。砂漠だから日差しがすごいもんね。日傘とかじゃ難しいかな」
さすがに通話も長くなったので、今日はそろそろお開きにしようかというタイミングで、柚花が思い出したかのように情報を付け加える。
それは、砂丘ダンジョンの。その中でも特に第二層の熱砂砂漠での注意点だろう。
季節としてはまだ1月下旬だが、ダンジョンの中は日本の真夏以上に日光が照り付ける環境だ。日差し対策は念入りに行う必要がある。
『日傘とかだと、動くときに邪魔じゃないですかね? 現地の探索者たちは、しっかり肌を隠すような衣装を羽織って、あと肌にはギルドで売ってる専用のジェルをつけてますよ』
「んー、妖精の国からこっそり入るわけだから、流石にギルドで買い物はできないなあ」
日差し対策は大切だ。
お肌のダメージという観点でも、ダンジョンとはいえ砂漠の日差しを直に浴び続けるのはあまりよくは無いだろう。
日焼け程度で済めばいいが、肌へのダメージというのは将来的にも蓄積していくものだというし、肌年齢が10歳の桃子とはいえそこのところは気を付けておきたいと思う。
そしてそれ以上に、砂漠の日差しを直接浴び続ければ、熱中症などの症状に陥るリスクもあるだろう。スキルで耐性がついていると言えど、それにも限度というものがある。
日本の夏ですら、昨今は帽子なりなんなりが必須と言われているのだ。それより高温の砂漠を進むならば、普段のジャンパーなどではなく、何かしら日光を遮るものが必要になりそうだ。
いっそ雪ん子のわら帽子でも被ろうかとも思ったが、しかし流石にあれは冷気対策にはなっても暑さ対策になるとは限らないし、一点ものなので日差しで駄目になってしまったら取り返しがつかない。却下だ。
「まあ、ちょっと色々と考えてみようかな」
鳥取の、サボテンの生えたサハラ砂漠を渡るための衣装。
後にそのために自作するものが、次の新たなる噂の重要なファクターとなるとは、この時の桃子はこれっぽっちも気づくことはないのであった。
『そうだ、じゃああと最後にもう一つ。砂丘ダンジョンには、名物のとある乗り物があるんです。あれ、先輩は気に入ると思いますよ』
「乗り物? ダンジョン内で?」
『ええ。この前の荷車じゃないですけど、鳥取の砂丘ダンジョン仕様の乗り物なんですよ。本当の砂漠ならラクダでも連れて歩くんでしょうけど、砂丘ダンジョンではその乗り物がラクダ代わりですね』
「えー、なんだろ。人力車みたいなもの? ネットで探せば見つかるのかな?」
『ネットでも見つけられるでしょうけど、現地に行けば普通に見つけられると思いますよ? 目立ちますし』
「そっかー、じゃあせっかくだし、あえて調べないで現地に赴いてみようかな。そのほうが面白そう」
『ええ。今度それの感想でも教えてくださいね』