ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「うわーっ、ヘノちゃん待った! 一回戻ろう! これは想像以上にサハラ砂漠だよ!」
「そうか? じゃあ。一度。戻るか」
一月ももうすぐ終わるというとある土曜日。
今日も午前中から房総ダンジョンへとやってきて、妖精の国で妖精たちと輪投げ遊びに興じていた桃子だったが、本当に思い付きで砂丘ダンジョンへと行ってみようと思った。
ヘノと砂丘ダンジョンに行く予定は立てていたものの、それは別に今日すぐにという話ではない。それに砂漠へ行く服装などの準備も何もしていない。
ただ、衣装を用意するにしても、まずは一回その眼で確認してみようと思ったのだ。
そして、そういうことならとヘノは桃子を連れて砂丘ダンジョンへと続く光の膜を作り出し、二人で意気揚々と砂漠の様子を見に行ったのである。
それから、10秒も経たず。
光の膜が消えるよりも早く、泡をくったような桃子と、それに続いてヘノが妖精の国へと舞い戻ってきた。
「は、早かったですねぇ……ど、どうでしたかぁ……?」
先ほど出て行ったばかりの桃子とヘノが10秒もせずに戻ってきたため、それを見ていたニムが驚いて声をかけて来た。
ニムが、ちょろちょろとした水を桃子に差し出すと、桃子は礼と共に両手でその水を受け止めてゴクゴクと飲み干し、そこでようやく一息つく。
「想像以上に砂漠だったよ。熱と日差しがすっごいね。スキルである程度の軽減は出来そうだけど、本格的に砂丘ダンジョンの砂漠を探索するなら、しっかりとした事前の準備が必要だね」
「うぅ、桃子さんが、いきなり乾いて……ミ、ミイラになって帰ってくるのを、か、覚悟していたので……よかった……めそめそ……」
「いやニムちゃん、人間ってそこまであっという間にミイラになったりはしないからね?」
そして、砂漠で食材を探すための作戦会議が始まった。
会議は、すぐに話題を逸らせかねない他の妖精たちがあまり来ない場所として、人間用の寝室で行われている。
参加者は、桃子、ヘノ、ニムの三名だ。
「まずやっぱり、砂漠に行く前に、何はともあれ砂漠用の装備が必要だよね」
「そうだな。桃子は寒いところばっかり行ってたから。暑い所の装備も準備しないといけないな」
「も、桃子さん、雪の降ってるところばかり、行きましたからねぇ……」
妖精たちの言う通りで、北海道のカムイダンジョンや桃の窪地と言った雪の降る地域に行く機会こそあったものの、その逆の暑い場所というのには行ったことがない。
房総ダンジョンや遠野ダンジョン、琵琶湖ダンジョンはそれぞれ環境こそ違えど、気温という意味では暑くも寒くもない、ある意味では過ごしやすい環境だった。
なので、当然ながらそのようなダンジョンで装着する衣装というものも桃子は持っていない。
しかし、暑いダンジョンと言っても、蒸し暑いのか、乾燥して日差しが暑いのかでまた、必要な衣装というのが変わってくる。
ここら辺は妖精であるヘノやニムにはピンとこないのかもしれないが、日本の夏を18回も経験している桃子は、暑さの質の違いというのは十分に承知していた。
そして、今回の砂丘ダンジョンは、後者。空気が乾燥し、とにかく日差しが熱を持つタイプのダンジョンだ。
「まずは実物から見てみようと思うんだけどね。ええと……あったあった、これは本物のサハラ砂漠の画像なんだけど、みんなこういう長い布を使った服を着てるでしょ?」
桃子は探索者用の端末をベッド脇のサイドテーブルに乗せて、妖精たち二人にそれが見えるように画像を表示する。
それは実際の、アフリカ大陸にある実際のサハラ砂漠と、そこを旅する人間たちの写真画像。そしてそこに映された人々の服装は、ターバンやマントのような長い布地を使ったものが主である。
彼ら彼女らは皆、出来るだけ肌を隠し、余裕のある布地で身体を保護している。
もちろん、本物のサハラ砂漠とダンジョン内の熱砂砂漠では条件も何もかもが同じわけではないのだが、しかし服装のイメージとしては十分に参考に出来るだろう。
「人間は。暑いところでは。もっと。薄着になると思ってたけど。身体中に。布を巻いてるんだな」
「そ、そういえば、そうですねぇ。暑くはないんでしょうか……?」
「うん、砂漠には色々と気を付けないといけないことがあってね――」
ヘノとニムは、日本で生まれた妖精なので、恐らく彼女らの考える人間の服装というのは主に日本の現代人のものなのだろう。
探索者とはいえ、基本的にはそこまで特殊な服装でダンジョンに訪れるわけではない。あくまで地上で着用されるような衣装の上に、各々の武装を重ね着するのが普通だ。
全身を西洋鎧で固めた有名な探索者もいるが、あくまで彼は特殊すぎる例である。
そしてそんな妖精たちのために、桃子は幾つかにまとめて、砂漠で服装を選ぶにあたり重要となりそうなことを説明していった。
まず何よりも重要なのは、日差しを直接浴びないこと、だ。
砂漠という場所ではその強烈な日光を遮るものがなく、直射日光による肌の日焼けや火傷の恐れがある。それを防ぐためには、肌を布地などで覆う必要があるのだ。また当然ながら直射日光による熱射病の恐れもあるため、とにかく余裕をもった布地で身体を隠すのが大切だ。
その際に出来るだけ布地に余裕を持つことで、服と肌の間に空気の流れが発生し、身体の涼しさを保つ効果がある。ターバンやマントが大きくダボっとした布地なのも、それを目的とした部分が大きいだろう。
もちろん暑さや熱に関しては、妖精たちの魔法で付与できる耐性、そして桃子が所有するスキルによって、ある程度は普段の服装のままでも耐えることは出来るだろう。だがしかし、衣装を工夫してどうにか出来る問題ならば、工夫をするに越したことはない。
そして次に大切なポイント。それは砂嵐などから身を守れる服装であること、である。
ここでも推奨されるのは、やはり長く大きい布地だ。
ターバンやマントのように長く余裕のある布地は、それらの物理的な被害から着用者を守る役目を担っている。
砂丘ダンジョンにてどれ程の砂嵐があるのかは分からないけれど、風の妖精であるヘノと共に魔物と戦う機会があるとしたら、そこで少なからず砂嵐が巻き起こるのは想像に難くない。
巻き上がる砂から身を守れる服装というのも、今回必要な条件の一つだ。
実際のサハラ砂漠を例にあげるならば、あとは夜の寒さに対応できる服装という条件も入ってくる。砂漠というのは昼は暑く、そして夜は非常に寒いのだ。
だが、今回の砂丘ダンジョン第二層「熱砂砂漠」はどういう原理か24時間ずっと同じ暑さをキープしている階層なので、寒さという問題はないだろう。
なので、ここでは防寒については考えなくても良い。
桃子は、そのような説明を一つ一つ、ヘノとニムに説明していった。
「なるほどな。日光っていうのは。人間にとっては。必ずしも。いいものなわけじゃないんだな」
「で、でも、日光がないと人間は生きていけませんし……む、難しいですねぇ……」
「そうなんだよ。難しいの。それでね、私が考えたのはこれ!」
以上の説明をするのに思いのほか時間がかかってしまったが、桃子が二人に提案したかったのはここから先である。
というのも、本物のサハラ砂漠の人々の衣装を妖精たちに見て貰ったのも、実はこのため。桃子の脳内には、すでに一つの解決策が存在していたのだ。
桃子がニコニコした笑顔でベッド脇から取り出したのは、畳まれた白い布地だった。それも1枚や2枚ではなく、それなりの量がある。
「し、白くて大きい布地ですねぇ……? でもなんだか、ま、魔力を感じるような……」
「これは。覚えてるぞ。一反木綿だな」
「そう! これは一反木綿の魔物素材なの! これってさ、ものとしてはただの大きい木綿の布なんだけど、魔物素材だから、普通の布よりも丈夫で強いじゃない?」
これは、昨年末に空いた時間にマヨイガで乱獲してきたものだ。
マヨイガには一反木綿という妖怪が出没する。見た目はただの空飛ぶ布地なのだが、あれは探索者を見つけると集団で巻き付き、圧迫してその意識を奪い取るという恐ろしい魔物のひとつだ。
だがしかし、桃子の【隠遁】があれば一反木綿に捕捉されることもなく、言ってしまえば一方的に素材を狩れるカモの一つであった。
以前、ヘノに修行と称して連れて一反木綿ハウスに連れていかれたときは、打撃武器であるハンマーとの相性の悪さで苦戦したものだ。しかしお陰で、一反木綿をハンマーで倒すと白い布地の素材を落とすということが判明している。
厳密には「一反木綿を破らずに倒す」という条件なのだが、桃子にしてみれば同じことだろう。
そんなわけで、以前の修行のように一反木綿を全滅させる必要はなく、ちょうど叩ける奴だけを狙って叩いて、素材にする。
それを繰り返していれば、ある程度の布地素材が入手可能なのである。
「確かに。うっすら魔力を纏ってるし。丈夫で強いかも。しれないな」
「こ、これを……先ほどの、砂漠の方々のような服装に……か、改造するということですかねぇ……?」
「うんうん。それで、実は布地だけじゃないの。これも使っちゃおうと思います!」
そして、次に桃子が取り出したのは一つのガラス瓶。
中には、艶のある光沢を持った半透明の美しい結晶が入っている。
これを更にハンマーで細かく砕けば、それは先日の氷部屋の時にも使用した『断熱材』となるのだ。
「な、なるほどぉ。先日の、す、スライムの素材……ですねぇ……?」
「確か。熱を通さなくなるんだったか。氷部屋に使ったやつだな」
「この一反木綿の丈夫な布に、耐熱性の高いスライム粉を散布して、それで衣装を作ったら最強なんじゃないかなって!」
遠野ダンジョン第四層の魔物素材に、琵琶湖ダンジョン第三層の魔物素材を掛け合わせるのだ。
桃子は自前でそれらを集められるので、下手に地上で探索者用の装備を揃えるよりも安く済むのだけれど、この組み合わせで強化した布地を地上で作ろうとすれば、素材を揃えるだけでもかなりの金額が必要となるだろう。
それくらいには、贅沢なダンジョン素材の使い方である。
「なるほど。今日の桃子は。冴えてるな。ヘノも。鼻が高いぞ」
「えへへ、冴えてるでしょ? というわけで、今日はそれを完成させるために、裁縫の日にします!」
「も、桃子さん……お裁縫もできるんですね……す、すごい……」
「えへへ、すごいでしょ? まあ、そこまで裁縫自体が得意なわけじゃないけど、最終的には【加工】で仕上げられるしね」
桃子の所持するスキル【加工】――厳密にはいま所持しているのは【加工】が進化した【創造】という上位スキルだが――これはダンジョン内で人工的な工作物を簡単に制作してしまう便利スキルである。
もちろんなんでも作れるわけではなく、その所有者本人の持つ技量次第でその品物の出来栄えも変わってくる。なので服飾に明るくない桃子が【加工】で仕上げたとしても、そこまで大層な服飾加工は出来ない。
とはいえ、砂漠を旅するためのシンプルな上着の縫い合わせくらいならば、問題なく仕上げられるだろう。
というわけで、桃子はさっそく本日の作業、砂漠用の衣装制作に取り掛かるのだった。
「じゃあ。ヘノも頑張って。応援するぞ。頑張れ。負けるな。桃子」
「ありがと。ヘノちゃんの応援があったら私も百人力だよ!」
大切な相棒たるヘノの応援があれば、桃子はもっともっと頑張れる。
思えば、北海道ではヘノがいなくて心細い夜を過ごしたものだ。
カムイダンジョンの事件で、ヘノのいない時間を過ごしたことで、より一層に。桃子はヘノの応援のありがたみを、心から感じるのだった。
「も、桃子さんが百人いたら……カ、カレーが百倍で……た、大変なことになりますねぇ」
「そうだな。さすがに。カレーが百倍あっても。食べきれないな。食べ物を無駄にしたくないから。応援はほどほどにするか。ほどほどに頑張れ。桃子」
「え? あ、うん、え? どういうこと?」
なんだかよく分からない理屈によって、ヘノの応援は、ほどほどに抑えられてしまうのだった。
【北海道ダンジョン用 雑談スレ(札幌/摩周)】
:親父がマタギムービー見てずっと泣いてる
:摩周ダンジョンの事件の日に現地に行こうとしてた親父さんか?
:そう。あれから話を聞いたんだけど、昔コロポックルたちを助けられなかったこと、ずっと後悔してたんだってさ。親父からそういう話聞くの初めてだったから、なんか俺も泣いちゃったよ。
:33年前の事件では亡くなった探索者も少なくないから、お前の親父さんは生き残った側だったんだな
:札幌ダンジョンでも摩周ダンジョンの話で持ち切りだったわ
:摩周ダンジョンじゃなくてカムイダンジョンがいい
:いやどっちでもいいけど
:あれから摩周ダンジョンて入れるようになったのか?
:いや、実はまだ規制が解除されてない 地元の慣れた探索者だけで内部確認してる
:聞いた話じゃ、魔物とかも第一層から強い奴が出てこなくなって、雪もほどほどになったからだいぶ安全性の高いダンジョンになってるっぽいが
:それでも流石に、あれだけの事件のあとだからね。しばらくは調査隊が入るんじゃない?
:コロポックルは? コロポックルの女の子がいるんか?
:落ち着け
:地元民情報 残念ながらコロポックルも妖精も、姿を見せてはくれないらしい
:(´・ω・)
:いや、元からそういう存在でしょ。あのマタギムービーが凄いだけだよ。
:リピートしすぎて夢にマタギのおっちゃんが出てくるようになったぞ!
:草
:なんであの動画、マタギのおっちゃんのアップから始まるんだよ
:タチバナの演説が入ってるのはギルドから規制が入っちゃったからね。さすがに未成年のあの痛ましい姿を広めるのは駄目だってさ。
:だとしても切り抜くタイミングというものがだな
:あの後ちゃんと目は治ったらしい それだけが心配だったんだ
:ところでコロポックルがジャガイモ探してたって話はどうなった?
:今となってはそれが一番意味不明なんよ