ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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マヨイガ探索

「桃子。その意気だ。フットワークだぞ」

 

「ていやっ! っぷはぁ!」

 

「桃子。もっと足だ。足をつかえ」

 

「ひぃっ……ヘノちゃ……ちょ……」

 

「あと一匹だぞ。風のように走るのだ」

 

「ひぃ……ひぃ……むり、だってば……」

 

 汗だくになった桃子が、部屋の真ん中でしりもちをつく。

 ここはマヨイガの中の一室。体育館ほどの大広間。この部屋で先ほどから桃子はずっと、空飛ぶ布切れ――ではなく、空飛ぶ木綿生地の妖怪である一反木綿を追い回していたのだ。

 

 床に尻をついた桃子は、まだ荒い呼吸を整えつつ、ひらひらと部屋の隙間からどこかへ逃げていく一反木綿を見送った。

 

「ひぃ……やっぱりさ、一反木綿はさ、ハンマーで叩くのには……はぁ……向いてないっていうか……」

 

「しかし桃子。この部屋にいた。一反木綿の半分以上は。叩きつぶしただろう。一撃離脱がうまくなったぞ」

 

「いや、倒したけど……武器の相性がさ……これ、一撃離脱って言わないよね……?」

 

 この場所は、ヘノが見つけたという面白い場所のひとつだ。

 やたらに広い畳張りのほかに何もない大広間なのだが、部屋の端にあるふすまを開けると、中には大量の布団とともに、これまた大量の一反木綿が出てくる、いわゆる一反木綿のモンスターハウスだ。

 

 並の探索者だと数の暴力で一反木綿の集団に締め付けられてアッという間に意識を手放してしまうところだが、そこはスキル【隠遁】。部屋に湧いて出てきた一反木綿は特に何をするわけでもなくそこら辺を漂うだけだった。

 ヘノはそれを利用して桃子の修行を行った。つまり、ひたすら気配を消して、妖怪を全滅させよ、というミッションである。

 

 しかし困ったのは桃子だ。なにぶん相手は空を飛ぶ布である。どれだけハンマーを振るっても、いまひとつ攻撃が当たった手ごたえがなく、するっとすり抜けてしまう。

 一反木綿は一反木綿で【隠遁】にあてられて標的を見失ってしまっているのだが、しかし室内を漂っていると唐突にハンマーを振り下ろされるので、とにかく部屋中をあちこち飛び回り、訳も分からず逃げ惑う。

 室内はドタバタのパニック状態だった。

 さほど天井が高い部屋ではなかったため上空に逃げられることはなかったものの、ひたすらハンマーを振っては追いかけ、振っては追いかけで、さすがに敵の全滅より先に桃子の体力のほうが尽きてしまったようだ。

 ちなみに部屋の畳は幾度と叩きつけられたハンマーによって、ボコボコのズタズタ、無残なものである。

 

「なるほど。言われてみれば。一反木綿はハンマーでは倒しにくそうだな。とりあえず桃子は疲れてそうだし。休んでおくといい。ヘノが戦利品を拾っておくぞ」

 

「うん、ありがと。なんだか解せないけど……」

 

 まだ原型をとどめている畳の上で、ペットボトルの水で喉を潤した。

 なお、戦利品として魔石のほかに、木綿の布切れを沢山拾った。

 

 

 

 

「まあでも、ヘノちゃんの言う通り。私が動き回ってると、きちんと【隠遁】が働いてくれるのはわかったよ」

 

 一息ついてから、再びヘノの案内について歩き出す。

 この巨大迷路のような家屋の中でヘノとはぐれたらそれこそ致命的なので、周囲に興味はあるもののあまりよそ見はしない。

 桃子がよそ見をしていてもさっさと進んでしまうのがヘノという妖精なのだ。

 

「よかった。一撃離脱を。マスターしたのだな。よし、次の面白い場所は。こっちだ」

 

 到着したのは、幅の広い廊下から一段下がった、いわゆる土間のような雰囲気の空間だ。

 土間の向こうには屋外のような空間も広がっている。実際にはここも巨大な建築の内部でしかないため、やたらに広い中庭、あるいは巨大な室内庭園と言ったほうが近いかもしれないが。

 

「ヘノが調べてみたところ。ここは。料理を作る場所みたいだぞ。あそこにあるのは。火をたくかまどだろう」

 

「本当だ。じゃあここは炊事場なんだねえ。ここで料理する妖怪とかいるのかな」

 

 桃子がその空間を見渡すと、ヘノの言う通りに時代劇で見るようなかまどと鍋が設置されていた。

 その周囲には古めかしい食器類や包丁にまな板。様々なサイズの桶や籠。そして大きな水瓶や謎の壺。と言ったように、ダンジョンというよりは映画のセットのような状況だ。

 反対側には大きな石臼や、桃子の知識では何に使うかわからない大きな木や石で出来た器具がいくつか並んでいて、おそらく歴史愛好家が見たら垂涎ものなのかもしれない。

 

「見ろ。外には大根が干してあるぞ。これは食べられるんじゃないか」

 

「え、いや……ええ……? いや、ちょっと、それ食べるの?」

 

 ヘノの言う通り、外――と言っても室内庭園だが――にはズラリと大根が並んで干してあった。よく見ればその脇には米俵のようなものも積まれている。

 マヨイガは他のダンジョンと比べても非常に特異な場所だけれど、まさか人工的に手が加えられて食べ物までが揃っているとは初耳だ。

 ヘノはさっそく大根をツヨマージでつついて調べているが、あれはいったいどこから来た大根なのだろう。

 

「大丈夫だぞ、桃子。探索者たちは、ダンジョン内に生えている木の実とか食べるだろう。それと同じだぞ」

 

「えー……正直なんか、怖いんだけど、そういうものかなあ」

 

 桃子も一つさわってみてみるが、確かに何の変哲もない大根である。干し大根である。

 こんな場所では天日干しもなにもないと思うのだが、見たところはしっかり干せてあるようだ。

 ついでに、その脇に置いてあった米俵もさわってみたが、重い。やはり中身がつまっているようだ。

 

「ヘノちゃん、この中お米が入ってるかもしれないよ。見てみようか」

 

「なんだと。それは一大事じゃないか。すぐにあけてみよう」

 

 米俵をよいしょと一つ持ち上げて、ひとまず室内に運んでみた。大根が食べられるのなら、米も食べられるに違いない。もしかしたら、カレーライスが作りやすくなる可能性もある。

 

「ええと、開けてみるって言っても米俵ってどうやって開けるんだろ。まわりの紐をほどけばいいのかな?」

 

「よくわからないが。あそこの台にある包丁で。切ってしまえば。良いんじゃないか」

 

 桃子はソロ探索である程度のキャンプ飯のようなことはしているが、基本的には現代っ子だ。米俵などはテレビで見たことがある程度で、実物に触ったのも初めてのことだった。

 なので、正しい開け方を模索するのは諦めて、ヘノが見つけた包丁で端のほうの藁を切ってみることにする。

 

 少し刃を当てると、藁が豆腐のようにすっぱりと切れた。

 

「うわ、すごいねこの包丁、滅茶苦茶切れ味いいんだけど」

 

「せっかくだから。桃子が持って帰ってしまえばいいんじゃないか。そんなことよりも。中身はどうなんだ」

 

 ヘノの言う通り、この包丁はダンジョンで見つけたアイテムとして持って帰ることにしよう。ちょうど木綿が沢山あるからあれを巻いておけば大丈夫だろう。

 などと考えていたが、ヘノに急かされたので、包丁は後回しだ。俵の切れ目を開いて、中を覗いてみると。

 

「おー、お米だねえ。ちょっと色が茶色いけど、これって玄米かな? まあ、ご飯だね」

 

「素晴らしいな。よし。桃子。さっそくそこのかまどで。米を炊いてみよう。外に水も流れていたから。水はそれを使えばいいぞ」

 

「せめて、ろ過とか煮沸とかしておきたいけど……まあ、とりあえず水を汲んでみようか」

 

 とりあえず、最低限の煮沸さえしておけば大丈夫だろう。ヘノが飲めると言ったら飲めるのだ、きっと。多分。

 桃子は大体の判断をヘノにゆだねて、自分は考えるのをやめた。

 あとは、自分の胃腸の【頑強〇】スキルを信じることにした。

 

「たしか、玄米の場合は水の量が違うんだよね。水は多めに入れて……っと」

 

「では。桃子がご飯を作っている間に。ヘノは。周囲に何かないか。見てくるぞ」

 

「うん、気を付けてねー?」

 

 

 そして、しばらくの後。

 

 

「包丁は貰っていくことにして、食器類とかもちょうどいいのがあったら貰っちゃおうかなあ。干してある大根はどうしよ。数本くらい持って帰ってギルドで鑑定……はダメか、房総ダンジョンから干し大根を持って帰るとか、意味不明すぎるよね」

 

 玄米が炊き上がるまでの間、桃子がその周囲の炊事場の家探し……ではなく、あくまで探索をしていると、外のほうからヘノが戻ってきた。

 

「桃子。桃子。あっちにうまそうな木の実があったぞ。あと。いいにおいのキノコが生えていた。あとで一緒に行こう」

 

「あ、ヘノちゃんお帰りー。じゃあ、あとでそのキノコ一緒に見てみようか。ご飯のほうはそろそろ火を消して、もう少し蒸らしたら一緒に開けてみよう」

 

「知ってるぞ。ご飯は。途中で開けたらダメなんだろう。今は我慢のときだな」

 

 ヘノから赤い木の実を受け取ると、どうやら山桃の一種のようだった。すでに食べているヘノに倣って、桃子も軽く水洗いしてから口に放り込む。甘酸っぱい。

 

「むぐ。そういえば。この庭の向こう側にある廊下に。何人かで休んでいる。探索者たちがいたぞ」

 

「へー、探索者の人がここまで入ってきてたんだ? そっか……」

 

 マヨイガが未踏破の難関ダンジョンだとは言え、それは探索者がいないというわけではない。

 むしろ、踏破を目指して挑む、あるいは未踏破ダンジョンにまだ見ぬお宝を求めて探索する者たちがいてもおかしくはない。

 しかし、このような広い迷宮内で他の探索者を見つけるとは、さすがにヘノの、妖精の感覚は鋭いものだと、桃子は感心した。

 

「その人たちは、当然だけどここの第三層を抜けてきたんだよね? すごいねえ」

 

 遠野ダンジョンの第三層は、房総ダンジョン第三層の鍾乳洞窟とは比較にならない難易度だと聞く。

 そこを抜けてきた者たちなら、よほどの凄腕なのだろうなと、桃子は感心する。

 

「妖精の国を通って。やってきた桃子のほうが。すごいと思うぞ」

 

「まあ、それは確かにすごいことなんだけど、私のはちょっとした裏技だしね。すごいのはヘノちゃんだよ。私はあんまり凄くないもん」

 

「ヘノがすごいのか。そういわれると。照れるな」

 

 今頃、ここの中庭の向こう側では、見知らぬ探索者たちが下層を目指して命がけの探索をしているのだろう。

 

 そう考えると、同じ場所でご飯を食べている自分はわけわからない存在だなあと、炊き立ての玄米の香りをかぎながら思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!

 今日はちゃんと、ダンジョン探索用の衣装ですよー。

 さてさて、今日も房総ダンジョンに来ております。

 とりま、サクサクっと第一層の森林地帯を歩いていきましょうねー。

 

 

 

 え? 最近ここばっかり?

 

 まあほら、一応私、都市伝説解明系を自称してますからね。

 最近噂になってるドワーフとか、やっぱり私も一回くらいは見てみたいじゃないですか。

 

 萌々子ちゃんのほうがいい? ったく、これだからロリコ……じゃなくて、子供好きな男性陣は困っちゃいますわね。おほほ。

 いや、わかりますよ。わたしだって髭のおじさんよりも、可愛い女の子のほうがいいですもん。

 

 こんなゴブリンだらけのっ! ちょっとごめんなさいね、片付けるね!

 

 

 ふう、こんなゴブリンだらけの場所でおじさん探して回るのってどうかなって思いますけど、ぶっちゃけた話、房総ダンジョンってほら、楽なので……。

 そりゃ新宿のほうが近いですけど、あそこはソロで気軽にうろつくにはちょっとガチすぎるじゃないですか。その点ここは、ちょっとしたキャンプ場扱いみたいなところありますからね。

 知ってます? 房総ダンジョンの第一層と第二層って、定期的に水質検査してるんですよ?

 だから、ある程度濾過とかしておけば、ここに流れる水は安全だって保障されてるんです。すごいでしょ?

 

 

 

 はい、第二層に到着ですね。

 ここからは洞窟なんで、ちょっと画面が暗いんですよね、美少女の配信としては第一層のほうが映えるんですけど、仕方ないですね、こればっかりは。

 

 え? 今日の目的?

 そりゃまあ、ドワーフ……なんですけど、ちょっとね、ここに来たら会えないかなーって相手が居るんですよ。

 個人的な知り合いというか、えーまあ……。今のところは私が一方的に会いたがってる感じですかね。

 っ、違う違う、男関係とかそういうのじゃないよ! 私みたいな美少女配信者にスキャンダル話を捏造するのはダメですよー。

 本気にしちゃうガチ恋勢が沢山いるんですから。

 

 あ? いるわけがない? あーお前、覚えてるぞこのID。毎度毎度失礼なこと言う人でしょ! 屋上だよ屋上。キレちまったよ。

 なに? 屋上がない? しゃーない、毎晩私のチャンネルのアーカイブ視聴で許してやんよ。ちゃんと崇めてよ!

 

 え、私が会いたいのは結局誰かって?

 んー……ええと、妖精、かなー?

 

 あはは、そうそう、ドワーフじゃなくて妖精が目当てです。もともとドワーフより妖精のほうが目撃談多いわけですしね。

 

 それにやっぱり、おじさんよりも、ちっちゃくて可愛いほうがいいじゃないですか!

 皆もそう思いますよね!

 

 ちっちゃくてカワイイ子をね、抱っこしたいじゃないですか!

 

 ……あれ? 見知らぬ番号から電話が。

 いやなに、怖っ、誰か本当に通報したの? マジで勘弁してくださいよ、こわっ。

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