ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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サンドワーム

 砂漠を駆ける探索者の乗り物の下に、大きな魔物が潜んでいる。

 そしてそれが、今にも出現しようとしている。

 

「ヘノちゃん、それって――うわっ?!」

 

 桃子が探索者たちの乗り物を眺めていると、ヘノがそのような、とんでもないことを言いだした。

 そして、それに対して桃子が聞き返す間もなく、実際に巨大な影が探索者の走らせる乗り物の正面に、勢いよく飛び出てくる。

 

 それは桃子も知っている魔物、この第二層の代名詞でもあるサンドワームだ。大きなミミズのような姿だが、サイズがミミズどころではない。例えるなら、大きめのプールに設置されているウォータースライダーのような筒状の物体が、激しく動き回っているようなものだった。

 その大きなミミズのようなサンドワームが、砂漠を滑るように駆ける車両の正面に突然躍り出たのだ。探索者たちはそれに反応しきれず正面から衝突してしまい、そしてその乗り物ごと砂の上にひっくり返ってしまった。

 

「おおきなニョロニョロにぶつかって。乗り物がひっくり返ったな。探索者たち。乗り物の下で大慌てだぞ」

 

「ええっ?! サンドワームに襲われちゃうじゃんっ! ヘノちゃん、解説してないで急いで助けに行こう!」

 

「わかった。あれを倒しにいくんだな。いいぞ。戦うぞ。ここには障害物もないし。つむじ風は全開でいいな」

 

 この第二層であるサハラ砂漠をホームとする探索者チームなら、本来ならば手助けなしにサンドワーム討伐を為すことくらいは出来るのだろうとは思う。

 だがしかし、車ごとひっくり返った混乱状態を狙われるのは、どう考えても危険だ。これは流石に静観していられない。

 

 この場所からはかなりの距離はあるが、ヘノの力を借りればさほどの時間もかからない筈だ。

 ここは砂漠で、魔物までの間に障害物も何もない。

 ヘノの風を受けて真っ直ぐに走り抜け、あの巨大なミミズをハンマーで叩き、探索者たちを守るだけだ。

 

 桃子が駆け出すと、阿吽の呼吸でヘノが桃子の両脚に再びつむじ風を発生させる。

 先ほどと同様に桃子の足もとを起点にして小型の砂嵐が巻き上がり、それはどんどん大きくなっていく。砂丘の頂上で、ド派手な砂嵐が発生した。

 ヘノの言う通り、つむじ風の魔法を全開にしているようで、今までにないくらい身体が軽い。というか、油断すると桃子が風に飛ばされそうな勢いだ。

 そのまま桃子は暴風に押されるようにして、砂丘を重力に引かれるままに駆け下りていく。そしてそのスピードを殺さないまま大量の砂嵐を引き連れて、サンドワームと、その目前で車両ごと転倒した探索者たちの元へと駆けて行った。

 

 全開状態のつむじ風は、桃子の想像以上であった。

 桃子は自分がバイクにでもなったかと思うほど、速い。

 砂漠だからいいようなものの、障害物のあるようなダンジョンでこれを使ったらあっという間に交通事故を起こしていると思う。

 桃子は、物凄い砂嵐を引き連れて、爆走していく。

 

 そして幸運というべきか、サンドワームは目前で隙を見せている探索者たちを襲うよりも、唐突に発生した謎の砂嵐に反応して動きを止めていた。たかが巨大ミミズと言えど、未知の現象には警戒心を持つ知能くらいはあるようだ。

 だが、ここでサンドワームが砂嵐を警戒をしたところで既に遅い。

 

「よし。翔ぶぞ。桃子」

 

「うん! えええぇえいいっっ!!」

 

 遠くの砂丘から真っすぐと向かってくる謎の砂嵐の軌跡を迎え撃つべく、その顎を振り上げたサンドワームだが、しかしその大きく開かれた凶悪な顎の更に上を、桃子は翔んだ。むしろ勢いがつきすぎて大ミミズの頭を追い越した。

 そして、サンドワームの頭を追い越したあたりを頂点にして、重力に従って桃子の身体は下降していく。それに合わせて、巨大なサンドワームの胴体部分に魔力を込めたハンマーを振り下ろす。今回は北海道ではないので、【氷結】の魔法も存分に発動させた。

 

 巨大な砂嵐を伴う桃子の跳躍と、鵺の魔石の魔力を込めたハンマーの衝撃で、その周囲は何かが爆発したかのような大量の砂が巻き上げられる。横倒しになった乗り物の下から這い出て来たばかりで事態を飲み込めない探索者を、砂嵐が飲み込んでいく。

 

 

「なんだ?! カートが倒れたと思ったら、新手の魔物か?!」

 

「砂嵐だっ! 物凄い速度の砂嵐が真っすぐにきて……うわっ、砂が!」

 

「お前ら伏せろ! 目を閉じて身を守れ! カートを壁にして小さくなれ!!」

 

 

 砂嵐の中からは、巻き込まれた探索者たちの怒号のような、悲鳴のような、余裕のない叫び声が聞こえる。

 

 サンドワームの胴体に強烈なハンマーの一撃を叩きつけてから、慣性のままにサンドワームの背後へと着地した桃子だが、振り返ってみたその光景に冷や汗をかく。

 

 桃子の後ろには、サンドワームがどうのではなく、桃子が巻き起こした砂嵐のお陰で大変なことになっていた。大量に空へと舞い上がった砂と暴風により、探索者たちは砂まみれで、とてもではないが周囲を確認できるような状況ではない。

 あくまで砂嵐は桃子の軌道上の一過性のものなので、暴風そのものは収束している。しかし空に散らばった大量の砂がパラパラと舞い落ちてくるこの状況では、彼らもとにかく身を縮めて身を護るしかないだろう。

 サンドワームに乗り物をひっくり返されたと思ったら、謎の砂嵐に巻き込まれて前後すら分からない事態に陥ったのだ。探索者たちがパニックになるのも当然である。

 

「ヘノちゃん、ちょ、ちょっとひとまず、つむじ風は抑えよっか」

 

「そうだな。なんか。大変なことになっちゃったな」

 

 桃子の一撃で、サンドワームは探索者たちとは逆側の地面に横倒しになっている。

 いや、その形状が上下も左右もよくわからないミミズなため横倒しも何もないのだが、少なくとも砂の上でジタバタとその巨体で藻掻いており、すぐに探索者たちへと攻撃が向かうことはなさそうだ。

 

「ありゃ、倒せなかった……?」

 

「一応。じたばたしてるから。効いてはいるみたいだけど。どうする?」

 

 サンドワームの生命力はなかなかのものだったようで、胴体の一部を凍らされた上、ハンマーの衝撃でもう半ば千切れかけてはいるのだが、しかしそんなダメージなどお構いなしに、地面の上をジタバタとのたうちまわっている。

 どうやら体の中心部を氷結粉砕されたことで、バランスが取れなくなっているようだ。起き上がろうとする度に転ぶ、を繰り返しているように見える。

 

「んー、これなら探索者さんたちだけでも大丈夫じゃないかなあ。乗り物は起こしておいてあげようね」

 

「桃子。優しいな」

 

「えへへ」

 

 ようやく収まった砂の雨の下では、事態を飲み込めないままの探索者たちが武器を取り出し、サンドワームへと立ち向かっている。

 何が起きたのかは理解できないものの、弱っているサンドワームをとにかく倒して危険を少しでも減らしておこう、といった判断のようだ。

 

 桃子は彼らの奮闘を横目に、先ほどからずっと横倒しになって砂に埋まっている乗り物を、力づくで持ち上げる。【怪力◎】に最近の桃子の魔力による身体強化を合わせれば、ちょっとしたスーパーパワーを発揮できる。

 疲れるので毎回ここまで魔力を込めたくはないけれど、今回は人助けだから桃子は頑張った。

 

「この乗り物……ええと、さっきはカートって言ってたっけ? すごいね。人力で、足元のペダルで漕ぐタイプなんだけど、タイヤの根元にギアか何かが仕込まれたボックスが入ってる。多分これ、摩周湖の荷車のギアと同じものなのかな? 中はどうなってるんだろうなあ」

 

 そしてついでとばかりに、桃子はまじまじとその乗り物――カートの機構の観察を始める。

 やはりこれはエンジン車などではなく、あくまで脚で漕ぐタイプの乗り物であった。だがしかし、恐らく魔石動力を使ったギアが仕込まれており、あたかも電動自転車のように、漕いだ力以上の走力で爆走するようになっているのだろう。

 桃子が興奮気味に解説しているのを、ヘノが面白そうに眺めている。無論、ヘノが興味を持っているのはカートのギミックなどではなく、興奮している桃子の姿だ。

 

「桃子は。こういう乗り物も。好きなのか?」

 

「うーん、特別に乗り物が好きなわけじゃないけど、見たことないものだから仕組みが気になるって言う感じかな」

 

 所有者の探索者たちが背後でサンドワーム相手に戦いを繰り広げているのも忘れて、桃子はこっそりとカート内部に上がり込む。そしてその内部のペダル、ハンドル、様々なところを観察していく。

 途中、うわーと驚いたり、なるほどと感心したり、カートを眺める桃子はなかなか表情豊かだった。

 

「桃子。妖精の国にも。この乗り物があったら。便利か?」

 

「ん-、乗り物はいらないかなあ。速く走るなら、ヘノちゃんの魔法のほうが好きだもん」

 

「そうか」

 

 一通り満足した桃子は、カートからぴょこんと飛んで、ヘノの前に降り立つ。

 カートに興味があるし、構造を知りたいけれど、速く走るのならヘノの魔法の方が好き。これは嘘でもなんでもない桃子の本心であり、桃子にしてみれば当たり前の返答である。

 ヘノはその答えを聞いて、相変わらずの無表情ながらも、桃子の肩に降りて、いじいじと桃子の耳たぶをいじる。桃子が気づいているかどうかはさておき、これはヘノなりの愛情表現なのだった。

 

「あ、でも。この前みたいに、鉱石を沢山入れたりするための持ち運びやすいカゴか荷車くらいはあった方がいいかもね」

 

「そういえば。この前その話もしてたな。今度。探してみようか。探せばどっかに。落ちてるだろ」

 

「えー、あんなカゴなんて落ちてるかなあ……」

 

 カートを観察して満足したので、桃子はゆっくりと歩き出す。

 背後では探索者たちがサンドワームを討伐し終えている。しかし彼らは素材を収集するでもなく、武器を構えたまま周囲を警戒しているようだった。

 先ほどの謎の砂嵐や、半ばで粉砕されたサンドワームの胴体についてあれこれ話し合っている声が聞こえるが、やることをやった桃子としては変に勘付かれても面倒くさいので、さっさと退散してしまうことにする。

 さすがにまた彼らを砂まみれにするわけにもいかないので、しばらくは徒歩でヘノと一緒に砂漠の散歩だ。

 

 ジリジリと桃子たちを照らす日差しは、相も変わらず真上から動かない。

 砂漠ポンチョがなければ、今頃熱中症で倒れていたのだろうなと思いながら、桃子は先ほどみたオアシスか、サボテンか、はたまた他のまだ見ぬ何かに思いを馳せる。

 そして、何か美味しい食材があればいいなと、新たな発見へと心を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【砂丘ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:なんか急にサハラ砂漠立ち入り禁止になったけど詳細わかるやついる?

 

:そうなの?

 

:一層で素材集めしてたら端末に連絡が入ったよ。

 

:中継テントだけど、なんか下から戻ってきたパーティが新種の魔物か何かの話してる ちょっと聞いてみるわ

 

:新種の魔物? 怪我人とかが出たってこと?

 

:いや、戻ってきたパーティは見た所元気だよ

 

:じゃあ何か目撃したってことか?

 

:とうとう出たか サンドワーム亜種

 

:聞いてきた。なんか高速移動する砂嵐がサンドワームとぶつかってサンドワームが千切れたって。

 

:WHAT?

 

:高速移動する砂嵐?

 

:要領を得ないところがあるんだけど、サンドワームと遭遇したタイミングで、遠くから砂嵐が迫ってきて、それの動線上にいたサンドワームが腹の真ん中で千切れてたとか言ってる。

 

:なにそれ気持ち悪い

 

:ぶつかっただけでサンドワームが千切れるって、人間がそれに巻き込まれたらミンチじゃん

 

:新種の魔物? それとも下層から出て来たのか? スタンピード?

 

:それが分からないから今は緊急で立ち入り禁止

 

:待って、第三層に潜ってるパーティは帰りどうするんだ? なんか連絡がつかないみたいな話だったけど

 

:流石に遺跡内部には砂嵐こないだろうし、帰り道で気を付ければ・・・

 

:遺跡調査パーティは普段から1、2週間籠ることとかザラだし、連絡なくてもそんなに心配はしてない

 

:それもそうだな

 

:まあでも、最悪の事態には備えた方がいいかもしれない。何があってもおかしくないのがダンジョンだ。

 

:スフィンクスは奇跡のコロポックルみたいに人間の味方じゃないからね

 

:ぶっちゃけスフィンクスについては眉唾だと思ってる探索者が俺です

 

:スフィンクスのレポート作った教授が消えてからもう10年以上たつのか・・・

 

:ナゾナゾの偉い人だっけ

 

:考古学者って言ってやれ

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