ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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オアシスの果実

「でね、そのときにえあろさんが、ヘノちゃんの魔石でつむじ風を作り出してくれたんだよ」

 

「なるほどな。ヘノの魔法。桃子たちじゃ使えなかったか。その。えあろとかいうのには。感謝だな」

 

 桃子とヘノは、灼熱の砂漠の中を、二人でおしゃべりしながら歩いていた。

 

 先ほどサンドワームに襲われていた探索者たちを手助けしたあと、再び移動しようとなったのだが、どうにもこの砂漠でヘノのつむじ風を使うと砂が巻き上げられて目立ってしまう。

 いくら桃子が【隠遁】で認識されないと言えど、その後方に伸びる砂嵐までが認識されないというわけではない。恐らくは、探索者たちから見ればかなり異質な怪現象に見えていることだろう。

 なので、別に急いでいるわけでもないのだから、出来るだけ目立たずに、ゆっくりと久しぶりに二人きりで歩いてみよう、ということになったのだ。

 ありがたいことに、一反木綿とスライムの犠牲によって作られた砂漠ポンチョはかなりの耐熱効果を発揮している。灼熱の砂漠だというのに、まったく苦ではない。それに加えて桃子の持ち前の【環境耐性〇】もあり、ポンチョを着ている分には灼熱の砂漠もただただ大きな砂場のようなものである。

 

 北海道であった出来事の数々を桃子は語り、ヘノがそれを聞いて、相槌をうつ。

 桃子たちは、久しぶりの二人きりの時間を満喫していた。

 

「えあろさんて、うどん大会フェス祭りのときにヘノちゃんがキノコを乾燥させて騒ぎになったことあったでしょ? その時に、ヘノちゃんが参考にした女の人だよ」

 

「なるほど。キノコ乾燥女か。思い出したぞ。ヘノの魔法で。料理が美味しくなったのは。新しい発見だったぞ」

 

「キノコ乾燥女……」

 

 一応は彼女はうどん職人であり、北海道ではヘノの魔石を使ってくれた桃子の恩人の一人ではあるのだが、しかしヘノの中では風祭えあろは食材を乾燥させていた女性探索者という印象が一番強いのだろう。

 なお、その際にえあろが乾燥させていたのは貝類やうどんの麺であり、キノコを乾燥させていたキノコ乾燥女はむしろヘノのほうである。

 なんにせよ呼び名としてどうかと思わなくもないが、ヘノには恐らく悪気はない。ヘノは桃子以外の人間を名前で呼ぶことが殆どないのだ。

 イビキがうるさかったサカモトはイビキ男だし、柚花は桃子の後輩なので、後輩。りりたんは魔女。人間ではないが、ポンコはたぬきでクヌギはたぬき父だ。唯一ギルドスタッフである窓口杏のことはきちんと窓口と呼んでいるようにも思えるが、ヘノの中ではギルドの窓口という意味なのかもしれない。杏の苗字は紛らわしい。

 

 そんな調子で北海道での出来事をヘノに報告していると、砂丘を越えた向こうの砂漠に、目立つ緑色が見えた。

 砂漠に存在する湖と、その周囲の植物群。オアシスだ。

 

「ヘノちゃん。あそこがオアシスだね」

 

「なんだか。調理部屋の裏にある。湖と似てるな」

 

「大体サイズ感は同じくらいかな。でも、こっちは見たことない木とか草とか生えてて、探したら色々ありそうじゃない?」

 

 妖精の国の調理部屋の裏手には、大きな湖が存在する。

 もともとはシーフードカレーのための食材である魚介類を住まわせるための生け簀という話だったのだが、いざティタニアが作った水場を見てみれば、もうそれは生け簀とかいう規模のサイズではなく、ちょっとした湖だった。

 今頃は何種類かの貝や魚、カニにエビにイカが繁殖しているはずだが、あの中の生態系がどうなっているのかは定かではない。

 

 そして視線の先に見える砂漠のオアシスは、ちょうどそれと同じくらいのサイズの規模の湖であった。

 湖を中心に、緑の草花に、なんだかトゲトゲした葉っぱの低木。それにヤシの木のような高木が集まっている。

 桃子が見渡す限り、日本ではあまり見ないような植物ばかりで、ここはサハラ砂漠なのだなと改めて実感する。桃子はここが鳥取県であることをそろそろ忘れてきている。

 

「桃子。あそこにたどり着いたら休憩しよう。その砂漠ポンチョの効果で。暑くはないとは言っても。水とか飲まないと。駄目なんだろ」

 

「えへへ、ありがと、ヘノちゃん。じゃあ、あそこのオアシスで一先ず休憩、かな」

 

 確かに、ずっと喋っていて喉が渇いてきた気もする。

 いくら砂漠ポンチョの魔法的な断熱効果により熱に強くなっているとはいえ、砂漠の乾燥に対して強くなっているわけではない。

 ここらできちんと水分補給をしておくのは、正しい判断だ。ヘノもきちんと、桃子の体調を気にしてくれているようで、桃子はそれだけで嬉しくなってしまう。

 

「あのオアシスとかいう場所にも。桃子のご飯になるような。美味しいものがあればいいんだけどな」

 

 桃子のリュックには、カレーの材料の他にも、探索者用の簡易食料というものが入っている。

 簡易食料とは言っても、薬局などで扱っているビスケットタイプの栄養補給食とほぼ変わらない。あれよりもエネルギー量が多くなっているだけだ。

 味としてはそれなりに美味しくもあるのだが、しかしやはり食事としては味気ないのは確かなので、ヘノの言う通り、美味しいものがあるに越したことはないのだった。

 

 

 

 

 

「とうちゃーく! ……って、なんか誰もいないねえ?」

 

 なんだかんだで、ダンジョン内と言えども砂漠は広い。北海道で起こったことを一通りヘノに話し終えてもなお、オアシスまでは遠かった。

 途中で探索者たちの駆るカートが遠くを走っていく姿を見たけれど、なるほど確かに、この砂漠のダンジョンを渡るならばあの乗り物があると無いでは大きな違いがありそうだ。

 そしてようやくオアシスの緑の生える領域へと足を踏み入れたのだが、不思議なことに、探索者の影がひとつもない。

 

「ここは。探索者たちからは。人気がないんじゃないか?」

 

「ええ? そんなことはないと思うんだけどなあ」

 

 砂漠といえばオアシス。

 桃子が軽く調べただけの情報でも、ここ砂丘ダンジョン第二層『熱砂砂漠』では、オアシスが探索者たちの憩いの場になっていると書いてあったのだ。

 それと同じく、このオアシスは日によってあったりなかったりする、まるで蜃気楼のような土地だと書いてあったのだが、今日の所はきちんと存在してくれているようでありがたい。

 

「まあ。他の奴がいてもいなくても。やることは変わらないだろ。とりあえず桃子は。休憩だぞ。危ないからな」

 

「ん、わかった。じゃあとりあえずは適当に日陰になるところ探して、腹ごしらえにしようね」

 

 休日のダンジョン第二層だというのに、オアシスに人がいないことに少々疑問を抱くものの、桃子とてこのダンジョンは初めての場所だ。

 もしかしたら普段からこんなものなのかな? と思いつつ、適当に湖の周辺で見晴らしがよく、ヤシの木の影になる場所を探して腰を下ろすのだった。

 

 

 

 

「ぷふー、砂漠のオアシスで飲むお水は美味しいっ」

 

 断熱装備で身を固めているとはいえ、エアコンのように涼しくなるわけではないし、乾いた空気が潤うわけでもない。

 なので、ずっと喋っていたのもあり、桃子の身体はそれなりに水を欲していたようである。水筒に満たされていた水は氷でしっかりと冷やされ、非常に美味しく、桃子の喉を潤していく。

 これは氷部屋で作った氷水だが、そのもととなった水はニムが出してくれた癒しの水だ。飲むだけで身体の疲れが消えていく、実に贅沢な水筒だ。

 

「ちゃんと飲んだか? たっぷり飲んだか? もっと飲まなくて大丈夫か?」

 

「これ以上飲んだらお腹がタプタプになっちゃうよ。これ、ニムちゃんのお水だから少量でも潤いが凄いの」

 

「それならいいんだけどな。じゃあ。ヘノは少しの間。そこら辺を偵察してくるぞ」

 

「うん、じゃあ今のうちにご飯食べておくね。ありがと、ヘノちゃん」

 

 昨日、暑さというものが人間の身体にどのような影響を与えるのかを説明したのだが、ヘノはそこでようやく「水を飲まないと桃子が危険だ」という認識を持ってくれたようである。必ずしも水を飲んでおけば大丈夫というわけではないのだが、しかし心配してくれるのは素直に桃子も嬉しかった。

 そして桃子がしっかりと水を飲む姿を確認するとようやくヘノも安心したようで、颯爽と上空へと舞い上がり、オアシスの周辺を偵察に飛び立ってしまう。

 

 ヘノが離れると、本当にこのオアシスには誰もいない。

 静かな風で草木が揺れる音と、ときたま水の跳ねる音が聞こえるだけだ。もしかしたら魚がいるのかもしれない。

 不思議な砂漠の空気を味わいながら、桃子は探索者用のエナジーバーのカレー味をパクパクするのだった。

 

 

 

「おかえりなさーい。ヘノちゃん、何か見つけた?」

 

 食事を済まして、桃子がオアシスの湖畔を覗き見て魚を探していると、ようやくヘノが戻ってきたようだ。

 水面に反射した緑色の光に気が付き桃子が振り返ると、ふわりと減速したヘノが、定位置である桃子の肩に着地する。

 

「それなんだけどな。桃子。真上を見てみろ」

 

「真上? ……あ、本当だ、何かある!」

 

 ヘノが示したのは、真上。

 つまり、桃子が影として利用している樹木、ヤシの木の上方だ。

 少し見上げただけでは逆光交じりで気づきにくいのだけれど、真下からしっかりと覗き見ると、なるほど、何かある。

 遥か上。高さにして10mほどあるだろうか、サイズとしてはなかなか大きなヤシの木だ。

 その枝葉の別れる根本あたりに、小さな木の実がびっしりと連なって垂れ下がっているのが、桃子にも確認できた。 

 

「なんだか。小さい木の実が。沢山ついてるんだ。さすがに桃子じゃ届きそうにないけどな」

 

「木登りするにしても、この高さじゃさすがにちょっと、難しいねえ。ヘノちゃん、取って来れる?」

 

「もちろんだぞ。まかせろ」

 

 ダンジョン内に限っては桃子もなかなかの身体能力なので、もしかしたら頑張れば10メートルの木も登れるかもしれない。

 だがしかし、流石にそれにチャレンジしたいかと問われると、気が引ける。いくら魔力とスキルで丈夫な身体になっているとはいえ、この高さから真っ逆さまに落ちたりしたら無事に済む保証もない。そもそも普通に怖い。

 

 なので、ここは無理せずヘノに任せることにした。

 頼まれたヘノはツヨマージを振りかざし、意気揚々と真上の木の実へと立ち向かう。やることはただの木の実の採取だが、ツヨマージを振りかざす風の妖精の姿は実に勇ましい。

 

 

 そしておよそ1分ほど。

 

 

「とりあえず。実が沢山ついてる枝を。いくつか。持ってきたぞ」

 

「おー、すごいすごい。たくさんついてるね」

 

「こっちのは。黄色くて。こっちのは。なんか。赤くなってて。こっちのは。もう枯れちゃってるな」

 

 ヘノが持ってきた数本の細い枝には、それぞれに小さな丸い実が沢山連なっていた。ピンポン玉を少し細くしたくらいの実だ。

 ざっくり見た感じでは、枝一本につき実は20と言ったところだろうか。まだ黄色くて瑞々しい姿の実がついた枝から、熟れて赤く染まった実のついた枝。そして、熟れすぎたのか、色も黒くなりしわしわになった実がついた枝までがある。ヘノが気を利かせて、熟れ具合ごとに選んで持ってきてくれたようだ。

 

 そしてその枝を手に取って、連なる実を眺めていた桃子だが、ふと脳裏に閃くものがあった。

 

「あっ、これってあれじゃない? ナツメヤシ! デーツ!」

 

「でーつ?」

 

「ええと、地上にも似たようなのがあるんだよ。確か……古代エジプトの時代から食べられてて、栄養がすごく豊富なの。これはあくまでダンジョン内の木だから、地上のものとはまた違うかもしれないけどね」

 

 ナツメヤシ。その名の通り、ヤシ科の高木の一つである。

 そのナツメヤシになる実が、デーツである。日本でもよく栄養価の高いフルーツとして、スーパーなどでドライフルーツが販売されている姿を見かける。とある企業の出している有名なソースの原料としても有名だ。

 なんにせよ、桃子の記憶違いでなければ、この木の実はそのデーツにかなり近い食べ物に見える。いわば、ダンジョンデーツといったところか。

 

 デーツ自体は地上でも購入できるものだが、しかしそれのダンジョン産で、しかも一度も地上に持ち出していない採れたて天然ものである。

 意外とこれは幸先がよさそうだと、桃子はオアシスでの採取作業に期待を膨らませるのだった。

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