ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ドライフルーツの妖精

「でーつ。分からないけど。とりあえず。食べてみるか」

 

 古代エジプトが何なのかわからないヘノは、桃子の説明を聞いてもさっぱりだったが、とりあえず地上でも食べられているということは理解したようだ。

 さっそく、目の前にあった赤く熟した実に手を伸ばしている。

 ならば自分は他の色合いのを、と桃子が手を伸ばしたのは、黄色い実。見た所はまだ本格的に熟す前のものなので、あまり期待は出来そうにないが、物は試しだ。

 

「じゃあ、こっちの黄色い方は……んー、渋い。ちょっと早すぎたかな」

 

「むぐむぐ。こっちの赤いのは。ほんのり甘いな。悪くないな。種が邪魔だけどな」

 

 桃子が口に入れた黄色い実は、シャクっとした爽やかな口当たりではあったのだが、しかし残念ながら渋味が強い。見た目からしても熟す前のこれはさすがに食べられそうにない。

 一方、ヘノは赤い実を食べていた。大きさ的にはヘノが両手で抱えるサイズではあるのだが、これくらいならヘノは幾らでも食べられるだろう。いつもながら、妖精の食事というのは摩訶不思議で、身体より大きいものでも気づけば食べ終えている。一体その体積はどこへと消えているのだろうか。

 そのヘノの食べている赤い実だが、そちらはきちんと甘いらしく渋味もなさそうだ。やはり、果物というのは熟しているほうが美味しい。

 

 そして気になるのが、萎れて色が黒くなっている実だ。

 ぱっと見では熟れすぎて、もう駄目になってしまっているように見える。桃子もこれが一般的な果物なら、変色してしわしわになったものを食べようとは思わない。

 だがしかし、これがデーツだとすれば話が変わってくる。このしわしわの状態こそが、一番地上では見慣れたデーツの姿だ。すなわち、ドライフルーツだ。

 

「こっちのしわしわなのって、これってあれだね。樹上乾燥? はむはむ……うん、美味しいよこれ! 口の中で蜜が広がっていくね」

 

「枯れてるのに。美味しいのか? むぐむぐ。本当だ。ねちょっとするけど。甘いな。種が邪魔だけどな」

 

「ドライフルーツって言ってね。熟した果物をあえて乾燥させて、甘さを凝縮させる作り方があるの。このデーツっぽいのも、木の上で自然に乾燥して甘さが凝縮されてるんだね」

 

 樹上乾燥。つまりは、熟した実をそのまま摘み取らずに、樹の上で乾燥させる製法である。乾燥により甘さが凝縮される上、限界まで樹から養分を吸い取るために、より味が豊かなものになるのだそうだ。

 桃子も聞きかじった程度の知識でしかないが、たしかコーヒー豆などではよく知られている製法だったはずだ。

 なんにせよ、これはまごうことなきデーツである。天然の、熱砂砂漠の日差しで樹上乾燥されたドライフルーツ、ドライダンジョンデーツだ。ヘノの言う通り少々ねちょっとした食感だけれど、まるで黒糖のような風味豊かな強い甘みがある。例えるならば、干し柿に蜜を多く含ませた感じだろうか。

 

「なるほどな。乾燥させると。甘くなるのか」

 

「まあ、必ずしもってわけじゃ……って、いきなりじゃん」

 

 水分を減らすと味が凝縮される。ある意味ではシンプルなその理屈だが、しかし本来はなんでもかんでも乾燥させられるわけではない。形状が乾燥に適さなかったり、乾燥しきる前に傷んでしまうようなもの、乾燥の工程にその細胞が耐えられずに駄目になってしまうものもある。

 だが、それは地上の人間の技術の話であり、風の妖精は一味違った。桃子と話をしている傍らで、ちょちょいのちょいで赤く熟していた木の実に乾燥の魔法をかけて、実のなった枝ごとその場でカラカラに乾燥させてしまったのである。

 

 しかし、ドライフルーツというものは必ずしも完全に乾燥させれば良いかというと、そういうものでもなく。

 

「わっ、ヘノちゃん、ちょっとカチカチに乾燥させすぎて、食べられなくなっちゃったよ」

 

「しまった。やりすぎたな」

 

 先ほどまで赤く熟していた木の実は、ヘノの魔法で完全に乾燥し、カチカチの硬質な物体になってしまった。

 ねちょ、どころか、歯をたてたら下手したら歯の方がパキっと割れそうだ。地上のデーツを同じように乾燥させてもここまで硬くはならないだろう。これはもはや、魔力コーティングによって作られたちょっとした鉱石だ。

 

「なんだか悔しいな。よし。もう一回。試してみるか。上からとってくるぞ」

 

「あ、うん。いってらっしゃーい」

 

 どうやらヘノも、すぐに己の失敗に気付いたらしい。

 カチカチになってしまったダンジョンデーツを見て、すぐさまリベンジを決めたらしく、上へと飛び立っていく。今度は赤く熟した状態のものに狙いを絞って、桃子の上空8メートル地点に留まり、枝に連なっているデーツの実の吟味を始めている。

 桃子は真上を見上げて、そんなヘノの奮闘をぽかんと眺めていた。

 

「なんか、ヘノちゃんがドライフルーツの可能性に目覚めちゃった」

 

 冷凍果実に、ドライフルーツ。

 果物だけで言えば妖精の国はなかなかの種類を誇る果樹園になっているので、更にドライフルーツという選択肢が増えるのも悪くはないなと。桃子は漠然と、ヘノを見上げながら考えるのだった。

 

 

 

 

「うん、すごいよヘノちゃん。なんか、お店に売ってそうなちょうどいいドライフルーツって感じ!」

 

「覚えたぞ。ある程度。ねちょっとするくらいが。一番ちょうどいいんだな」

 

 あれから何度かヘノのドライフルーツチャレンジを繰り返し、最終的にはコツをつかんだようで、ヘノの魔法だけで程よく蜜の柔らかさだけが残る乾燥具合を再現できた。樹上で乾燥されたものとはまた風味は違うのだろうが、ヘノが作ってくれたものも十分に甘く、美味しい出来である。

 実のところ、このデーツに関してはすでに樹上乾燥されたものがあるので、ヘノがわざわざ乾燥させる必要はない。だがしかし、それはそれ、これはこれ。ヘノが自分の魔法でドライフルーツを制作できるようになったことが重要なのだ。

 

「この分ならさ、妖精の畑にある他の色んな果物も、ヘノちゃんがドライフルーツにしたらより美味しくなるのがあるかもしれないね」

 

「よし。帰ったら。一通り試してみるか。しばらくは。畑にある果物を。乾燥させていくぞ」

 

 ヘノが大量に作ったドライダンジョンデーツを、とりあえず全て袋に詰め込んで行く。

 固いものから柔らかいものまで色々とあるけれど、いざとなれば氷部屋で保管するなり、桃子が更に手を加えてカレーの調味料でもあるチャツネを作るなりしても良いだろう。あるいはドライフルーツなら日持ちするので、地上の知人たちにちょっとしたお土産として配っても良いかもしれない。地上では内包されている魔力が拡散してしまうが、それでも市販品とはまた違った味が楽しめることだろう。

 何にせよ、しばらくはドライフルーツには困らなくなりそうである。

 

 

 

 

「じゃあ、デーツは袋一杯になったし、次のものも探しに行こうか。ヘノちゃん、薬草って見分けつく?」

 

「あまり。よくわからないな。ルイなら。見分けがつくかもしれないし。手当たり次第。それっぽいものを。抜いていくか?」

 

 デーツの採取に思いのほか時間をくってしまったものの、今日は出来るだけ色々なものを採取していく予定である。

 例えば、このオアシスで見つけられるという薬草。他のダンジョンでも薬草の類は多く取れるけれど、やはり薬草というものが種類が違えば微妙に効果も変わってくる。

 外傷に効くもの、免疫力をあげるもの、中には精神を落ち着かせるもの、そして中には瘴気を浄化する効果をもつ薬草などもあるのだ。

 ここで採取さえしておけばあとは妖精の畑でルイが管理してくれるので、是非ともこの機会に新しい薬草を仕入れておきたいところであった――のだが。

 

「本当は他の探索者さんたちが採取する様子を見て判断したいところだったんだけど、結局誰も来てないね」

 

「そういえば。本当に一人も来なかったな。ダンジョンの第二層なら。もう少し。人間がいてもよさそうなものだけどな」

 

 桃子もヘノも、初めて見る草木を見ても、どれが薬草かの判別は出来ない。

 多少魔力の多い植物はあるにはあるのだが、必ずしもそれが薬草というわけではないし、ダンジョン内の絶対数で言えばそのまま食べると人体に悪影響を与える植物のほうが多いのだ。

 桃子の腹積もりでは、現地の探索者が薬草を採取する姿を観察し、それを参考にして自分も薬草を摘んでいくつもりだったのだが、なにせ参考にするべき探索者がいない。

 事前に調べた情報でも、第二層まできた探索者たちはまずオアシスを目指すという話であったのだが、一体これはどういうことなのか。桃子は不思議を通り越して、もしかしたら上の階層で何かあったのではないかという心配になってくる。

 

「……ねえ、ヘノちゃん。なんだかちょっと不安になってきちゃった。第一層で事件か何か起きてたりするのかな」

 

「そんなに。変な感じはしないけどな。でかい魔物が暴れたりとか。そういうのはないと思うぞ」

 

「ん、そっか。それならいいんだけど……」

 

 以前、ヘノと二人で遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』を訪れたときに、ヘノが一つ上の第三層『深淵渓谷』にて、鵺と探索者たちの大規模な戦闘を感じ取ったことがある。

 さすがに普段は別な階層のことまでは感じ取れるわけではないようだが、鵺のような強大な魔物が暴れている場合は、やはり階層を隔ててその気配が感じ取れることもあるそうだ。それが瘴気の少ないはずの上層ならばなおのことである。

 桃子は、もしかして今回も上の第一層がそのような緊急事態に陥っているのではないかと危惧したが、しかしそれはヘノによって否定される。どうやら上の階層で魔物による被害が出ているとか、そういうことではないようだ。

 

 しかし、集中してダンジョン内の状況を探っていたヘノが、ふと何かに気付いて顔をあげる。

 

「桃子。あっちだ。風にのって。うっすらとだけど。人間の魔力を感じるような。感じないような。ちょっと感じるような。気がするぞ」

 

 なんともはっきりしない表現だが、しかしヘノはふざけた様子ではない。恐らく本当に『感じるような、感じないような、ちょっと感じるような』という表現になってしまう程度の微かな反応なのだろう。

 しかし、小さな反応とはどういうことか。桃子はヘノに問う。

 

「ええと、それはなんか、分かりづらいけど。どこかに人がいる……ってこと?」

 

「人間だとしたら。死にかけだな」

 

「ええ?!」

 

 ヘノの爆弾発言だ。

 さすがに死にかけの人がいるとなると、悠長に薬草など拾っている場合ではない。桃子は慌ててリュックを閉じて、その背中に背負う。

 

「どういう状況かはわからないけど。桃子は。助けにいくんだな?」

 

「もちろん、助けにいかない理由がないからね! ヘノちゃん、どっち?!」

 

「あっちだ。じゃあ。つむじ風使うぞ」

 

「うん、お願い!」

 

 ヘノも、こういう場合は桃子が真っすぐ助けに行くことくらい把握しているので、当然のように桃子の肩に着地して、つむじ風の魔法を発動させる。

 桃子の両脚が緑色のつむじ風を纏い、そして先ほどと同じように砂漠の砂を巻き上げる。オアシスの一角が砂まみれになるが、今は巻き上げる砂など気にしている場合ではない。

 ヘノの示す方角を目指し、桃子は颯爽とオアシスを後にして、空気のゆらぐ灼熱の砂漠を駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 

 おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 ところで朗読の前に。最近、新しい秘密の場所を見つけたのですよ。

 前までの場所はそろそろ他の探索者さんたちが見つけてしまいそうだったので、しばらくは色々な場所を転々としていたのですが、ようやく落ち着ける場所を見つけました。

 ふふふ。どこか知りたいですか? もちろん、秘密ですよ。

 

 ただ、ちょっと冷える場所ですよ。いつものドレスだけでは少々冷え込みますので、ケープを羽織っているのはそういう理由です。

 ドレス以外の服、ですか? もちろん色々とありますけれど、ダンジョン内ではドレスが正装ですから。

 ああ、でも。仮面舞踏会のような、お洒落なマスクをこのドレスに合わせてみても、良いかもしれませんね。ふふふ。

 

 さて、今日朗読するのは、『ダンジョンフルーツ図鑑2023』ですよ。

 図鑑の朗読は読む分には面白いのですが、皆さんは絵がないので分かりづらいかもしれませんね。頑張って、想像してくださいね。

 では、適当なページから。

 

 ダンジョンモンビン。

 マンゴーとパッションフルーツを足して二で割ったような外観で、内部は杏のような豊潤な香りが――。

 

 

 

 

 ――というわけで、本日の朗読はここまで。

 

 紹介ページにあった、ダンジョンのフルーツを、ダンジョン内で干してドライフルーツにするという手法は素敵ですね。

 皆さま知ってのとおり、魔力というのは地上では拡散してしまいます。ですので地上では魔石という形で結晶化した魔力を使用するのが一般的ですが、ドライフルーツにすることで拡散し辛くするというのは、先人の知恵ですね。賞味期限ならぬ魔力期限は、地上でも2日ほど持つそうですよ。

 ふふふ。りりたん、フルーツは好きですし、ドライフルーツも嫌いじゃないです。

 でも、個人的には瑞々しい採れたての果物が一番好きですけれどね。

 

 え、好きな果物ですか?

 果物はどれも美味しいですけれど、高級品の苺はとても美味しくて好きですよ。あれを開発した人間という種は、その功績を認めざるを得ませんね。

 他には、桃と柚と梨なんてどうですか? 三つ並べてみると、悪くないのでは? ふふふ。意味深ですか?

 

 ああ、お話していたらフルーツが欲しくなってしまいましたね。どこかに何か、美味しいフルーツがあれば良いのですけれどね。

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