ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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柚花とカレーとメジェド様

「先輩、メジェド様って知ってます?」

 

「なにそれ? ゲームのキャラクターかなにか?」

 

 平日某所、都内のカフェでは桃子と柚花が向かい合ってテーブルにつき、店のメニューを眺めながら雑談に興じていた。

 

 この日は桃子は特に休みだったわけではないのだけれど、学校が早く終わった柚花から「もし先輩が大丈夫ならお仕事のあと一緒にスイーツでも食べに行きませんか」という誘いのメッセージがあったので、仕事を終えた後に東京方面の電車に乗ってやって来たのだ。

 聞けばどうやら柚花はまだ謹慎がとけていないようで、桃子ロス、ニムロス、ダンジョンロスの三拍子で気分がガタ落ちらしい。このままでは学業も手につかないので、せめて桃子ロスだけでもどうにか軽減させたいとのことだった。

 それを伝えられた桃子は、桃子ロスなる新たな概念に対してどういう顔をしたらいいのか分からなかったが、とりあえず笑っておいた。

 

 というわけで、ここは都内の以前二人で入った探索者用ショップからほど近い場所にある、前とはまた別なカフェである。

 メニューを閲覧する桃子に対して、柚花が唐突に口にしたのはメジェドなる聞き覚えの無い名称だった。もしかしたら過去にどこかで聞いたことくらいはあるのかも知らないが、しかしパッと記憶には浮かんでこなかった。

 

「いや、最近ちょっとした話題になりつつある都市伝説ですよ。まあ、座敷童子とかドワーフと同じ類いの……」

 

「えー、もしかして柚花ったらそういう噂話がみんな私の仕業だと思ってない?」

 

「そりゃ全部とは言いませんけど、ヒット率が高すぎますもん」

 

 どうやらメジェドというのは、どこかのダンジョンで噂になっている何かのようである。

 桃子は自分が座敷童子やドワーフの噂の発端である自覚はさすがにあるのだが、メジェドなんていうものは聞いたこともない。

 前科があるために柚花がそう考えるのも仕方ない部分はあるけれど、桃子としては心外な話である。

 

「それは否定できないけども、メジェド様? っていうのは、流石に私じゃないよー。まあそれより、注文決めちゃおう?」

 

 

 世の中には様々な都市伝説がある。

 

 トイレの花子さん。口裂け女。メリーさんといった昭和から平成にかけて流行した怪談話。

 そして、平成になると本州に多数のダンジョンが発見され、流行りの噂話というものにも変化が訪れた。

 妖精に化け狸、コロポックルのようにそれ以前からダンジョン内で存在を語られていた者たち。座敷童子やドワーフなどのように、ある日突然語られるようになった者たち。他、ダンジョン内で起きる未確認現象、不思議な物体、噂だけで目撃例のない魔物。それらがまとめて、新世代の都市伝説として語られるようになる。

 古き日本妖怪である化け狸や座敷童子を現代の都市伝説と呼ぶのが適切かどうかはさておいて、それらのうちいくつかの発端となっている桃子は、柚花に言わせれば歩く都市伝説のようなものであった。

 

 その歩く都市伝説は、今現在カフェメニューのスイーツのページを眺めながら、どれを食べようか悩みながらウムムと唸っている。その姿には、威厳もミステリアスさもなかった。

 

 

 

 

「うーん、パフェは絶対に美味しいのが分かってるけど、こっちの特製のプリンアラモードも捨てがたいね……」

 

「ところで先輩。なんかこのカフェ、カレーも美味しいらしいですよ? ほら、カレーの紹介が貼ってあります」

 

「えっ、そうなの?」

 

 それは、柚花のさり気ない気づきだ。

 

 目の前に座っている歩く都市伝説こと小さな先輩、桃子は、カレーの権化みたいなところがある。

 そして本当にたまたまなのだが、本日訪れたカフェには、でっかく特製カレーの紹介写真が貼られているのだ。もしかしたら、桃子の背後に位置する壁に貼られた紹介写真なので、気づいていないのかもしれないと思い声をかけてみた。

 そしてその『野菜たっぷり無水カレー』の紹介写真を指さしたら、案の定、目の前のカレー先輩の目の色が変わる。

 

「いや、でも今日はさ。スイーツ食べにきたわけじゃない? 野菜たっぷり無水カレーって言ってもさ、カレーはどこにでもいるし……」

 

 目の色が変わるどころか、なんだか妙なことを呟き出してしまった。

 どうやらスイーツを食べようという約束と、それを無視してカレーを食べることの罪深さを天秤にかけ、心の中で葛藤している様子だ。

 なので、柚花は苦笑交じりに助け舟を出す。

 

「先輩、一緒にカレー食べませんか? 私も小腹すいてますし」

 

「柚花もカレー食べたいの? じゃあ、カレーとスイーツ両方食べよう! これなら間違ってない!」

 

「いや先輩、女子的にはそれが一番アウトな選択肢ですからね? 食べますけど」

 

 そんなわけで、二人ともがカレーとスイーツの両方を頂くことになった。

 探索者というのは、得てして健啖家なのだ。

 

 

 

 

「【カレー製作】も、ちょこちょこ試してるんだけど、オンオフを効かせるのがまず難しいねえ。うどんの人たち、どうやってるんだろ」

 

 野菜たっぷり無水カレーは美味しかった。

 桃子は脳内で、これを妖精の国で再現出来ないかと考える。ダンジョン産の野菜は相変わらず数が少ないが、野菜っぽい果物や水気の多い薬草でチャレンジしてみるのもありかもしれない。

 

 そんな無水カレーを堪能した二人の会話のテーマは、そのままカレーの話へとシフトしていく。

 

 北海道にて【うどん製作】の真髄を見た桃子は、同じ調理系スキルである【カレー製作】にもまだ先があるのだと確信しているのだが、それがなかなか難しい。

 今は、スキルの自動発動を制御する方法を模索しているのだが、どこをどうすればスキルを制御できるのかがさっぱりわからず、半ばお手上げ状態なのである。

 

「でも先輩、うどんと違って【カレー製作】って最後の煮込み段階だけじゃないですか? オンオフしたところで、大差なくないです?」

 

「えー? 柚花はまだまだカレーのなんたるかがわかってないのでは、ないかな?」

 

「急にリドルさんにならないでください」

 

 材料を入れてかき混ぜれば全自動で完成してくれる【カレー製作】スキルは、ダンジョン内では非常にありがたいスキルである。

 時間の短縮にもなるし、ダンジョン食材であれば桃子の知らないものであったとしても自動的に最適な形で調理してくれる。更には【カレー製作】で使用した食材の魔力を吸収できるという隠し機能付きときた。

 だがしかし、スキルで作ったカレーはどうしても『自分で作ったカレー』ではないのだ。

 

「そりゃ、最終的に煮込むのが簡略化出来るのはいいんだけどさ。カレーはなんていうか、そう単純じゃないの。なんだろう、ひとつの道? そこには枝分かれする色んな分岐があって――」

 

「ごめんなさい先輩、私が悪かったです。スイーツ食べながらカレーのお話するのもちょっと変ですし、別なお話にしませんか?」

 

 桃子はそのカレーの奥深さを伝えるべく、ちょっと早口になって柚花に語りだしたが、残念ながら柚花がさっさとそのフィールドから降りてしまった。

 愛すべき後輩にもカレーについてもっと教えてあげようと思ったのだけれど、柚花の言う通りスイーツを食べながらする話ではない。

 折角お洒落に彩られたプリンアラモードを食べながらカレーの話をしては、食べているのがプリンなのかカレーなのか分からなくなってしまうだろう。それは確かに変だ。

 桃子はその理屈に納得し、柚花は理屈が通じてほっとした。

 

 

 

 

「じゃあ別なお話といえば、さっき言ってたなんとか様ってなあに?」

 

 カレー以外の別な話。

 やはり、桃子としては先ほど柚花が話していた、聞き覚えのないなんとか様が気になった。

 日ごろからマイペースにヘノと遊んでいるだけの桃子だけれど、それでも探索者の端くれだ。聞いたことのないダンジョンにはロマンを感じるし、未知の存在には好奇心を掻き立てられるのだ。

 

「メジェド様、です。ところで先輩、砂丘ダンジョン行ってきたんですよね?」

 

「うん? まあ、こないだヘノちゃんと行ってきたよ。あ、そうだ、お土産のドライフルーツがあるんだけど、あとで渡すね?」

 

「お土産はあとで頂きますね♪ ……それでですね。その砂丘ダンジョンで、メジェド様が降臨したそうなんです。メジェド様って、一部では人気のエジプトの神様なんですけどね」

 

 砂丘ダンジョン。

 ちょうどこの前の週末に桃子が訪れて、ヘノと共にドライフルーツを製作したり、人を助けたり、リドルと少し仲良くなったりしたばかりの迷宮である。

 そういえば、と。桃子はドライフルーツを袋に詰めたものがカバンに入っているのを思い出した。今日は柚花に会う予定はもともと入っていなかったので、お土産を準備したというよりはたまたま持っていたというのが正解なのだが、せっかくなのであとで柚花にも貰ってもらうことにする。

 

 そしてちょうど桃子たちがそのドライフルーツを製作していた砂丘ダンジョンにて、謎の存在が降臨したとのことだ。

 桃子はメジェド様なるものを知らなかったけれど、実はかの存在は、一部ではキャラクターグッズ化されるほどに人気のあるエジプトの神である。

 とはいえ、その人気はそのメジェドの逸話や権能によるものではなく、どちらかというとエジプトにて古代より描かれていた姿――その個性的なビジュアルが、人気の由来であるが。

 

 しかし、『神』ときた。実に大ごとだなあと、桃子は感心した。

 座敷童子や化け狸は、言うまでもなくあくまで妖怪だ。ドワーフや人魚はそういう言い伝えのある種族であって、決して神ではない。クルラの転じたウワバミ様やコロポックルたちはそれぞれの地においては守り神と称されてはいたものの、それでも実際には彼らは神というわけではない。

 

「神様の降臨て……なんか、すごいねえ。あ、だからこの前は人が少なかったのかな? なんかサハラ砂漠が無人で、みんな第一層のテントに集まってたの。降臨の儀式でもやってたのかな?」

 

「そうなんですか? それはちょっと私も分からないですけど……」

 

「まあいいや。それで、そのメジェド様は何をする神様なの?」

 

「その前に先輩。ひとつちょっと、遊びませんか? 先輩が砂漠に行ったときの格好、私が一発で当てたらスイーツ代おごってくださいよ」

 

「ええ? 私の恰好? まあいいけど、分かるかなあ」

 

 先ほどから、柚花の持ち出す話題がコロコロと変わる。メジェド様の話かと思えば、桃子が砂丘へ遊びに行ったことを確認して、そして次は桃子の恰好についての話だ。

 桃子は口のなかでサクランボをコロコロと転がしながら、柚花の意図が読み切れずに首を傾げる。

 その意図を今日は自分が看破してやろうとジッと見つめても、正面に座る後輩はなんだかニヤニヤとイタズラ猫のような表情を見せるだけで、全然読み取れなかった。

 

 しかし柚花の意図がなんにせよ、砂丘へ遊びに行った時の服装当てクイズについては桃子は勝利を確信している。

 何故ならば、今回着ていったのはその前日に桃子が自作した砂漠ポンチョだ。過去には柚花と一緒に服を買いに行ったりもしたが、残念ながら砂漠ポンチョについては柚花にはまだ一切情報を伝えていない。勝った。

 

「私は社会人でお姉さんだから、柚花が当てたら別にスイーツどころかカレー代だって出しちゃうけどさ。でも、この前は私、特殊仕様だったんだよねー、うふふ」

 

 勝利を確信した桃子は、サクランボの種をプイとお皿に出して、うふふと口に手を当てて笑う。

 砂漠ポンチョのことを聞いたときの柚花の驚き顔が楽しみだった。勝利を確信した桃子はちょっとドヤ顔だ。

 

 が。

 

「ズバリ、頭から真っ白い布を被ってた。違います?」

 

「……っ?! な、なんで? どうしてわかるの?!」

 

「ふっふー、スイーツはごちになりまーす♪」

 

 柚花が決して知るはずのない砂漠ポンチョの情報を言い当てられた。柚花はダンジョンに潜ってはいない筈なので、ニムが教えたわけでもないだろう。

 りりたんならば遠くからでも桃子の砂漠ポンチョを覗き見していたかもしれないが、わざわざりりたんがその情報を柚花に伝えるとは思えない。むしろ、りりたんがわざわざそんなことを伝えていたのなら、それはそれで驚きだが。

 

 結局のところ、ドヤ顔から一転驚き顔を披露するのは桃子なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【砂丘ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:なんか、俺がいない1週間の間に大変な事件が起きてたみたいなんだが、どういうこと?

 

:まったくお前は本当にタイミングが悪いな

 

:お前が誰だか知らんけどな

 

:はい解説。ピラミッドでチームインディが音信不通になってたんだが、死にかけのあいつらが謎の存在に救出された。『白い布を被った姿の見えない存在に救われた』と報告。インディたちは現在は一応入院中だが、何があったのか記憶が曖昧。同日、熱砂砂漠にて謎のビームでサンドワームが撃退されるのを探索者チームが目撃。

 

:えーと?

 

:的確な説明で草

 

:マジなの? どこからつっこめばいいのかわからんが、ビームってなに?

 

:ビームを知らんのか?

 

:砂漠に軌跡を残して撃ち込まれたらしいです。

 

:あくまで状況からの憶測だけどね。白い布を被っている。姿が見えない。ビームを撃つ。ピラミッドにいる。この条件にハマる存在が何者かってなると、なあ。

 

:鳥取であってここはエジプトじゃないんだけどな・・・

 

:いえ、恐らくここはエジプトですよ。

 

:まって、それってメジェド様? メジェド様が現れたってこと? ネタじゃなくて本気で言ってる?

 

:この数日で何回も交わされたやりとりで草

 

:ネタみたいだけど、じゃあ他にそんな存在説明できるのかって話だよ

 

:こっそり異空間と繋がってる抜け道から砂漠に遊びに来てた白い布を被った姿を消せる探索者(小柄で可愛い女の子希望)が、ビームみたいな破壊力の技で助けてくれただけかもしれないじゃないか

 

:クソ雑すぎて笑う

 

:ちゃっかり自分の欲望を混ぜるなw

 

:メジェド説の方がいくらか説得力あるのよ

 

:とりあえず、あくまで通称としてですが、その存在はメジェド様(仮)ということで雑談スレ民は納得しています。

 

:スレ民だけじゃなくて、現地の探索者たちもそういう認識になってたぞ

 

:まあ、スフィンクスいるしな 見たことないけど

 

:ああ、一応これはあくまで噂として聞いて欲しいんだけどな 助けられた奴が言ってたぞ、鍵を見つけて進んで行った気がするって

 

:それは初見だぞ ここでもそんな情報なかったろ

 

:スフィンクスの間の先に進めた・・・ってコト?!

 

:知らん、そういう風に話してるのを聞いた奴がいるってだけ その後すぐに病院行っちゃったし 聞き間違えかもしれないし

 

:まあ、メジェド様が降臨するよりは、10数年ぶりにスフィンクスの鍵発見のほうが真実味はあるが……

 

:砂園教授だっけ、鍵とかスフィンクスとかの謎を解き明かして消えちゃったおじさん

 

:今回助けられたインディとジョーンズも教授の弟子でしたね、そう言えば。

 

:(あいつらそんな名前だったのか・・・)

 

:インディたちだけでなく、今もピラミッド調査してる調査目的の連中はだいたい砂園教授の教え子たちだよね

 

:教授は鍵を調べつくしたあと、第四層に潜っていってそのまま音信不通なんだっけ

 

:わからん。なんせ当事者が行方不明だからな

 

:まだ覚えてます、教授の口癖。「〇〇では、ないかな?」って。

 

:なつかしいね

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