ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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かまぼこポンチョの神様

「ねえ、ねえ、柚花。なんで分かったの? 【看破】じゃないよね?」

 

「まあその前に話をちょっと戻しましょう。さっきのメジェド様って、こういう神様なんですよ?」

 

 砂漠に行ったときの桃子の服装当てクイズ。

 砂漠ポンチョは桃子が自作したもので、柚花はそれを見たことはない。なので当てられるわけがないと桃子はドヤ顔で勝利を確信していたのだが、柚花にはあっさりと白い布を頭から被った姿であると当てられてしまった。

 なぜ分かったのかと問い詰めてみるが、しかし柚花はまた話をはぐらかして、エジプトの神様の話に戻ってしまう。

 なんだか今日の柚花はやたらと回りくどい。きっとストレスが溜まっているのだろうな、と桃子は優しい気持ちになった。

 

 そしてそのエジプトの神様だが、柚花がスマホで表示したその姿は、なんだか珍妙なものだった。

 例えるなら、細長い半円に直接目を描いて、下からニョキッと両脚が生えているような姿である。かまぼこに足が生えたゆるキャラのような外観だが、ゆるキャラにしても雑だ。

 だがしかし、具体的にどこで見たのかは思い出せないが、確かにこの外見は何らかの漫画だかで見たことがあるような気もする。

 

「このキャラは見たことあるかもしれない。メジェド様って漫画のキャラクターだったんだ?」

 

「違います、本当にエジプトの神様なんですよ。まあ最近は漫画とかゲームにも多いですけど。エジプトで発掘された古文書に、本当にこういうのが描かれてるんです」

 

「ええー? かまぼこ会社のゆるキャラとかじゃないんだ……」

 

 エジプトの神といえば、ハヤブサのホルスやジャッカルのアヌビス、猫の姿のバステトなど有名どころは桃子とて把握している。独特の横から描いた画風の神々の絵も、知らないわけではない。

 だがしかし、このメジェドという神に関しては知らなかった。もし過去に見たことがあったとしても、その時も漫画の創作キャラか何かだと思い込んでいたのだろう。

 しかし、柚花が見せてくれているページにはしっかりと、エジプトの神として紹介されていた。国が違えば文化が違うとは言うものの、エジプトの文化はなかなかに奥が深いようだ。

 

「こんな身なりですけど、神様としてはかなりの格を持っているみたいですね。神話としては『打ち倒すもの』と呼ばれていて、その姿は不可視の存在なんですよ」

 

「不可視の存在なの? じゃあこのヘンテコな絵は?」

 

「不可視だからこそ、白い布を被った謎の姿で描かれているんでしょう。謎のヴェールに包まれていて、その真の姿は認識できないっていう奴ですよ」

 

「ああ、この楕円ってかまぼこじゃなくて白い布なんだね。なるほど、頭から白い布……」

 

 頭から白い布を被っているメジェド。

 頭から白い布を被っている桃子。

 

 布の下は認識できないメジェド。

 布の下は認識できない桃子。

 

 なるほど。さすがに桃子も、柚花の言いたいことが分かってきた。

 

「つい先日、『地下遺跡』で連絡が取れなくなっていた探索者パーティが、そのメジェド様に助けられたそうですよ。頭から白い布を被り、その姿は認識できなかったそうです」

 

「そういうことかー。まあ、それだけ聞くと間違ってはいないけど……」

 

 頭から白い布を被った桃子が、探索者を助けた。それは事実である。実際には遺跡で助けたのはリドルで、砂漠で助けたのが桃子なわけだが。

 だがしかし。確かに桃子は白い布を被っていたけれど、だからといって、だ。このかまぼこみたいな神様と間違えるだろうか。桃子は納得いかず、渋い表情を浮かべる。

 桃子としては砂漠ポンチョはかなり可愛らしい出来の、どこに出しても恥ずかしくない、自慢の逸品だったのだ。

 いくら【隠遁】で認識がぼやけていたとはいえ、あの可愛らしいポンチョをこのかまぼこ神と一緒くたにするというのは、あんまりな話だろう。桃子は少しだけ、助けた二人組に対して憤怒を覚える。

 

「また、神話のメジェド様は目から破壊光線を放つらしいですが、ちょうど同じ日に『熱砂砂漠』で謎のビームでサンドワームが撃退されたらしいです。ヤバいですね、とうとう目からビーム撃っちゃったんですね、先輩は」

 

「待って! 待って! たしかに救助したのは私だよ、認めるよ。でもさすがにビームは出してないから! 噂に尾ひれがつきすぎでしょ」

 

「なーんて、流石に分かりますよ。先輩もまだそこまで人間捨ててないでしょうし」

 

 柚花は慌てて否定する桃子に対してニヒヒと悪い笑顔を見せる。

 もちろん、柚花の言う通り桃子はそこまで人間を捨てた覚えはない。「まだ」というのが少々引っかかったが、おそらく柚花の言葉のあやだろうと判断して無視を決め込んだ。

 

「はぁ……私としては、もっと可愛いポンチョを着てるつもりだったんだけどなあ。そうか、私はメジェド様」

 

「ポンチョはポンチョで気になりますけど、やっぱり先輩でしたね、メジェド様」

 

 エジプトの神様と同一視されるプレッシャーよりも、この絵姿と同一視されたショックの方が大きい桃子だったが、しかし勘違いされてしまったことに今更文句を言っても仕方がない。

 【隠遁】のせいで変な風に勘違いされるのは今に始まったことではないし、ドワーフのときに三つ編みを髭扱いされたのと比べればまだショックは少ない。

 きっと救助された探索者も、意識が朦朧としていて白い布とそこから見える足くらいしか覚えていなかったのだろうと、心の中で割り切ることにした。

 

「我はメジェド。エジプトの神なり……」

 

「ほっぺたにクリームついてる神様ってあんまりいないと思いますけどね」

 

 柚花に指摘されて、口の周りを紙ナプキンで拭う。どうやらプリンアラモードのサクランボを口で転がしていたときにクリームがついてしまったようだ。

 口元を拭って、さすがに冷めてしまったストレートの紅茶を口に運ぶ。甘味と紅茶はマッチするけれど、いざプリンが無くなって紅茶だけになるとミルクと砂糖が欲しくなる。

 

「でもなんか、座敷童子とかならともかくさ。神様とまでなると、ちょっと話が大きくなりすぎじゃない?」

 

「まあ言いたいことは分かりますけどね。でも感謝してますよ、先輩」

 

「え、なんで?」

 

 柚花は、先ほどまでメジェド様の画像を表示していたスマホ画面をポチポチと弄りながら、話を続ける。

 桃子は特に今の流れで柚花に感謝される覚えはない。しいて言えばスイーツ代もカレー代も奢るという話はしたけれど、話の流れ的にさすがにお金の話ではないと思う。

 

 桃子が首を傾げると、柚花はどこかのまとめサイトを表示して、桃子にも見えるように卓上にスマホを置く。

 そこはどうやらダンジョンの情報をまとめた掲示板のようだが、そこのトップにはメジェド様についてのスレッドが上がっているようだ。

 ちなみに、メジェド様の次に上位に並んでいたのは萌々子ちゃん妄想スレと琵琶湖蛮族スレだったが、桃子はそれらは見なかったことにした。

 

「メジェド様降臨のインパクトで、奇跡のコロポックルの話題が減ってきました。私の謹慎もお陰で早くとけそうです」

 

「あー、なるほどね。新しい話題が増えたら、柚花が早めに自由になれるっていうことか。私としてはなんか、喜べばいいのやら、困ればいいのやらだけど」

 

「いいじゃないですか、先輩は人助けしてるだけなんですから、噂とかどうでも。いっそのこと、もっと砂漠に出没して人助けしまくりませんか? 私のためだと思って」

 

「もう、気軽に言ってくれるじゃん」

 

 柚花は、北海道のダンジョンにおいて話題性抜群すぎる配信動画を公開してしまったために、一時的に話題の人になってしまった。

 ギルドのほうでも色々と柚花を守るために手をまわしてくれていたようであるが、しかし広まってしまった知名度はすぐには収まらない。それには時間が必要だ。

 

 昨年の秋頃には、半年間の行方不明から戻ってきた鎧マンことサカモトが、いまの柚花と同じように話題の人になっていた。

 当時のサカモトは記者会見やら取材やら、或いは道行く人々に声をかけられたりで大変だったようだが、しかし彼は見た目からして強そうな、体格の大きい成人男性である。そして深援隊という大手パーティに所属していたので、後ろ盾も大きい。

 それと比べて柚花は現役の女子高生で、どこのパーティにも所属しないソロ探索者だ。お世辞にも、安心できる立場とは言えない。

 なので、しばらくの間は念のため、せめて一人でダンジョンに潜らないほうがいい、というのがギルドの判断だった。

 

 無論、実際にはダンジョン内では柚花には相棒たるニムが引っ付いており、一人ということはない。

 また、その母であるティタニアをはじめとする妖精たちも柚花の味方だ。香川の化け狸たちも、長と良い仲の柚花のためなら動いてくれるだろう。更に柚花は、りりたんのお気に入りのひとりになっている。柚花になにかあれば彼女が黙っていない、ということだ。

 つまりは、ダンジョン内という魔法生物たちの目の届く領域においては、柚花はソロで危険どころか、この上なく安全を保障されているのである。

 だが、それはそれ、これはこれ。話題が落ち着くまで、大人しくしておくに越したことはない。

 

「もう、最近は本当にパーティの勧誘とか、コラボのお誘いとかがしつこいんですよ。酷いのになると学校の前で待ち伏せしてるメディアもいましたからね」

 

「うわ、大丈夫なの? ストーカーとか、そういうのは本当に気を付けてね?」

 

「ええ、もちろんです。まあ、学校がしっかりと動いて、対応してくれましたしね」

 

「ああ、それは強いね」

 

 桃子の母校。そして柚花が通う聖ミュゲット女学園は、この二人からはあまり想像つかないが、良家の子女たちが多く通うミッション系の学校だ。

 生徒たちの保護者には様々な業界のお偉方が揃っており、その学校が柚花を守ってくれるというのならば、それは社会的にかなり強力な後ろ盾と言えるだろう。

 そして来年には、実はりりたんというバケモノじみた新入生が入学予定なので、学園における後ろ盾がオーバーキルなのだった。

 

 

 

「ところで先輩、話は変わりますけど。バレンタインって予定ありますか?」

 

「予定もなにも、14日は平日だからお仕事だよ。柚花も学校でしょ」

 

「まあ、そうなんですけどー」

 

 もう2月に入り、世間はバレンタインムード一色だ。

 今日はプリンアラモードを食べたけれど、カフェメニューもバレンタイン仕様らしくチョコレートのスイーツが期間限定で販売されている。

 桃子も一応、工房の親方と所長さんにはちょっとした日ごろのお礼を込めてチョコレートの差し入れくらいはする予定だが、逆に言えば予定としてはそれくらいである。

 

「じゃあ、別に当日じゃなくていいです。私、先輩の手作りチョコ、食べたいです♪」

 

「いきなり甘えん坊じゃん。別にいいけど、でもそれなら多めに作ってヘノちゃんたちにも手作りチョコレートあげようかなあ」

 

「いいじゃないですか、ヘノ先輩たちきっと喜びますよ」

 

 手作りチョコのリクエスト。

 お料理研究会に所属していた桃子は、手作りチョコくらいなら普通に制作できる。それこそ、市販のチョコを溶かして手を加える程度なら簡単なものである。

 だがしかし、折角作るならば柚花のものだけでなく、甘いものが大好きな妖精の子たちにも作ってあげたい。

 その場合は数が大量に必要になるため、必然的に作るチョコのタイプも絞られてくるが、それについては後ほど考えればよいだろう。

 

「あ、でも……」

 

「でも?」

 

 だがしかし、そこまで話を進めたところで、言い出しっぺの柚花が表情を曇らせる。

 何か困るような話題があったかな? と、桃子は首を傾げて考えるが、ただチョコを手作りする話をしていただけなので、柚花が曇る部分が見当たらない。

 なので、柚花の続きの言葉を待っていたのだが。

 

「カレー味のチョコだけは、勘弁してください、ごめんなさい!」

 

 作ってもいないカレー味チョコについて、謝られてしまった。しかもかなりガチめに。

 これには桃子もびっくりである。桃子とて、流石にチョコをカレー味にはしない。スパイスをいれてカレー風味にするだけである。

 

 

「あの、柚花? 別に私はカレーの権化とかそういうのじゃないからね……?」

 

「……え?」

 

「……ん?」

 

 柚花はたまに、自分に対する認識がおかしいところがあるな、と。

 桃子は柚花と無言で見つめ合いながら、後輩がたまに見せる意味不明な言動に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

MOMOKO:窓口さんに一応報告しておきたいことがあるんですけど、いいですか?

 

ANZU:どうしました? なにか緊急ですか?

 

MOMOKO:いえ、ただの事後報告なんですけど。

 

ANZU:はい、聞かせてください。

 

MOMOKO:私、メジェド様なんです。

 

ANZU:はい。

 

ANZU:すごいですね。

 

ANZU:意味はわかりませんが。

 

MOMOKO:すみません、端折りすぎました。砂丘ダンジョンで、噂になっちゃったんです。

 

ANZU:詳しく。

 

MOMOKO:ええと、エジプトのサハラ砂漠で白い布を被って人助けをしたら、また勘違いされちゃったみたいで。メジェド様っていう神様が降臨したって噂になってるんだって、柚花が言ってました。

 

ANZU:意味不明なところが多々ありますが、とりあえず了解しました。

 

ANZU:ちょっと私のほうでも砂丘ダンジョンの情報と今の話を照合してみますので、少々お待ちくださいね。

 

MOMOKO:はい。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

ANZU:確認しました。確かに、他の事件と合わさって噂が独り歩きしていますね。

 

MOMOKO:私、本当に行き倒れてた人を助けただけなんですけど。これってなにか、問題になったりします?

 

ANZU:いえ、正体を隠していたとはいえあくまで人道的な救助活動をしただけですから、悪いことはないと思いますよ。安心してください。

 

MOMOKO∶よかった、怒られたらどうしようかと思っちゃった。

 

ANZU:ただ、現地の探索者たちは正体不明の存在を警戒し続けるのも大変でしょうから、上層部を通して砂丘ダンジョンには『件の存在は友好的魔法生物である』と発表しておいてもらいましょうね。

 

MOMOKO:なんだか窓口さんが気軽に上層部に口利きをするようになってきた、すごい!

 

ANZU:はい。桃子さんと橘さんのお陰で、ギルド上層部や魔法協会の偉い方々にも知り合いが増えました。その件に関しては、また今度個室でゆっくりとお話ししましょうか?

 

MOMOKO:もしかして、藪蛇踏んじゃった?

 

ANZU:さて、どうでしょうね。

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