ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「そういえば桃子。今回は。カレーは作らないのか?」
炊き立て熱々の玄米を大きなしゃもじで混ぜている桃子の右肩に座り、羽釜の中身を覗きながらヘノが問う。
そこで喋られると、耳元にヘノの小さい吐息がかかってくすぐったい。
「カレーも考えはしたんだけどね。今回は、お釜の使い方が今一つわからなかったから、玄米だけ、かな。ヘノちゃん、もしかしてカレーが食べたかった?」
「ちょっとだけ。期待していたが。仕方がないけれど。でも。カレーを作らないなら。何をかけて食べるんだ?」
どうやらヘノの中では、ご飯というものは上になにかを上にかけて食べるものという認識らしい。
桃子は玄米がある程度ほぐれてきたので手をとめ、はてさてヘノにどう説明したものかと考え込む。
「ええとね、ご飯って色々な食べ方があるんだよ。とりあえず今回はあくまでお試しで、一番シンプルに『おにぎり』でも握ってみようかなって思うんだけど、ヘノちゃんはおにぎりって知ってる?」
「おにぎり? ……ううん。わからないぞ。どんなのだ?」
「じゃあ、作ってみようか」
ヘノと話しながらも、桃子は自分のリュックをとりだして、中からラップを取り出している。
ラップの口からある程度の長さを引き出して、かまど横にある作業台の上に敷く。
江戸時代の人々は現代人よりもかなり小柄だったというが、それと関連しているのだろう。マヨイガの炊事場まわりは小柄な人間が使用するのにちょうどいいつくりとなっており、桃子にとっても意外と使いやすい高さだ。
「ええと、ご飯をね。こういう風に丸めるの。あちちっ……よいしょっとぉ」
ラップの上に炊き立ての玄米をよそい、それをラップごとクルっと丸めた。真ん丸にせずに、ある程度三角形になるように整えていく。
すると、海苔もなく、具も入っておらず、塩すらつけていない代物だが、見た目としてはきちんとしたおにぎりが仕上がった。
「ヘノも。これなら見たことがあるぞ。よく。探索者たちが。食べているやつだな。何かと思っていたが。丸めたご飯だったんだな」
「うんうん。カレーばかりの私が言うことじゃないけど、日本人のお弁当って言ったら、やっぱりおにぎりなんだよね。本当はこれにいろんな具を入れたり、海苔を巻いたりして食べるんだよ」
ヘノは桃子の肩から調理台へと着地すると、ラップで包まれたおにぎりに近づいて、しげしげと興味深く観察している。
ツヨマージでツンツン突いたりしている。あまりに突くものだから、ラップにいくつか穴が開いてしまったが、ヘノは気にしない。
「じゃあ桃子。いろんな具の代わりに。桃子が持っている。カレーのもとをいれよう。そうすれば。カレーのおにぎりになるぞ」
「カレーのもとって、カレールー? おにぎりの具の代わりになるかなあ。……まあ、わかんないけど、味付けとしてはありかもしれないね」
作業台にラップを引き、同じように玄米をひと盛りして軽く広げる。
そこに、カバンから取り出したカレールーを、調理用のナイフで端っこを軽く削るようにして振りかけていくと――唐突にラップの上に置いた玄米が、白く光りはじめた。
「えっ、なにこれ、私なにもしてな……」
桃子が言い終わる間もなく、光が収まる。
するとそこにはどうだろうか、誰が握ったわけでもないのだが、きれいな三角形のおにぎりが鎮座していた。
「わ、おにぎりが出来ちゃった」
「なんだかわからないけど。すごいな。桃子がカレーをかけるだけで。おにぎりが出来たぞ」
「いやいや、すごいけども……え? これってもしかして【カレー製作】なの? 玄米にカレー粉かけただけでカレー判定になるの?」
きれいな三角形のお握りは、先ほど桃子がラップ越しに握ったおにぎりよりもよっぽど整っており、もとが失敗気味の玄米だとはとても思えない代物だ。
ヘノが近づいてツンツンつついているが、特に変わった様子もなかったので、恐る恐る桃子はそれを手に取ってみる。熱々だった玄米が、ほどよく食べやすい温度になっていた。
試しにと真ん中で割ってみると、なんと驚くことにおにぎりの内部には、程よくカレーと玄米が絡まったドライカレーが綺麗に詰まっていた。
「桃子。これ。カレーだぞ」
「うん、これはカレーだね」
試しに一口食べてみたら、けっこう美味しかった。
「さすがだな。桃子はやはり。何を作ってもカレーなんだな」
「いや、これはどうなんだろう。おにぎりのつもりだったんだけどなあ」
結局あの後、残りの玄米にもカレー粉をかけて、ドライカレーの詰まったおにぎりを量産した。
今回は手作りのおにぎりを作る気持ちでいた桃子としては、なんだか納得いかない気持ちもあるのだが、ヘノが喜んで食べていたので良しとしよう。
桃子も幾つかを食べて、残りのおにぎりは包んでおいた。おにぎりは携帯しやすいのが最大の利点だ。
今は土間から庭園に出て、ヘノが見つけたというキノコを探しているところだ。
庭園と言っても、実際のところはちょっとした面積の雑木林である。松の木やら杉の木やらが乱立し、ところどころに苔むした岩が鎮座し、湧水が出ている。
そして木々の狭間に、ときおり枯山水が整備されていたりして庭園ぽさを醸し出しているものの、目線を上に見上げてみれば、数十メートル先の頭上には不思議に明るい天井が見えるため、やはりここは屋内のようだ。
なんとも奇妙な場所である。
「桃子。気をつけろ」
「え? どうしたの?」
桃子が松の根本に松茸でもないものかと探していると、肩に乗っていたヘノが桃子に声をかける。
キノコの場所でも忘れちゃったのかな? と思ったが、ヘノは桃子の肩から飛び上がると、空中でツヨマージを掲げる。
「ちょっと。面倒臭いモンスターがいるぞ。あいつは。勘が良い」
「魔物なの!?」
桃子も懐から小槌を取り出し、念じて巨大なハンマーへと変化させる。
ヘノの視線を追って、ひときわ太い松の木の上のほうへと目線を送ると、そこには確かに、何かが飛んでいた。
黒い羽根を広げた、人型のシルエット。長く棒状の武器を持ち、山伏のような衣装が見えた。そしてその顔はまるで鳥のようで、黒い大きな嘴。
それが、羽根を広げて、庭園の上空を旋回している。
「あれ、カラス天狗……!」
「あの鳥人間。動きが速くて。面倒くさいんだ」
「どうしようか、ここじゃ見つかったら危ないし、さっきの炊事場に逃げる?」
どうやら【隠遁】の効果で見つかってはいないものの、万が一でも俊敏に飛び回るカラス天狗に勘付かれることがあれば苦戦は免れないだろう。おそらく、一反木綿の比ではない。
ここは引き返し、もとの室内へと戻ることも提案してみたが――。
「桃子。ここはひとつ。おにぎり作戦だ。耳をかせ」
「ヘノちゃん、準備はいいよ。やってみよう」
「わかったぞ。じゃあ。あいつがこの真上に来たらやるぞ」
桃子は松の木の根本に屈んで、砂利を敷き詰めた枯山水の岩の陰に隠れているヘノに合図を送る。
合図を受け取ったヘノはツヨマージを掲げて、つむじ風を発生させた。すると、枯山水の砂利が巻き上がり、石と石がぶつかり合って派手な音が庭園に響く。
「グギャ! グギャギャ!?」
「いまっ!」
小石の音に反応し、地上へと舞い降りてくるカラス天狗に向けて、桃子はそれを投擲した。
それは、まさにヘノの立案した作戦の最終兵器。
カレーおにぎりである。
「グギャギャギャ!!? ………ギャギャ?」
枯山水に舞い降りたカラス天狗は、さらにどこからか降ってきたおにぎりに気を取られている。
最初はおにぎりから距離をとり、手に持つ棍で突き。そして横から振り抜く。
横から殴り飛ばされ弾け飛んだおにぎりが、苔岩に衝突して無残に潰れてしまう。岩の周囲にドライカレーが飛び散った。
このスパイシーな香りにカラス天狗が食いついている間に、桃子がハンマーで一撃、というのが、ヘノの立てた究極の作戦である。
が、悲しいかな、現実は。
「グガギャギャギャ!! ギャギャ!!」
完全に、潰れたおにぎりをスルーするカラス天狗。
無残に飛び散った、ドライカレーおにぎりの物言わぬ亡骸。
スパイシーな香りが周囲に漂い始める。
そして。
「ふん!!」
気配を殺して近づいた桃子の一撃が振り下ろされる。
犬死にとなってしまったドライカレーおにぎりの恨みを込めた一撃は、カラス天狗を一撃で煤へと帰す。
「ふふふ。桃子。ヘノのたてた。おにぎり作戦は。大成功だったな」
カラス天狗が煤になるのを見送ると、ヘノがふよふよと出てきて、定位置となりつつある桃子の右肩に着地する。
相変わらず表情筋はあまり仕事をしていないが、なんとなく声色がドヤっている。
「……いや、思うんだけどさ。これの作戦って、おにぎり不要じゃなかった?」
「そんなことないぞ。おにぎりの犠牲があって。初めて成り立つ作戦だ」
「そうかなあ……?」
しきりに首をかしげる桃子。
とりあえず、枯山水にドライカレーをばらまくのはマナー違反だろう。潰れて飛び散ったおにぎりの破片を回収して、丁寧に木の土に埋め、土をかぶせた。これできっと、土へと還るに違いない。
ついでに悪ノリで、飛び散ったカレーがこびれついてしまった苔岩をそこにドカンと乗せたら、なんとなく見た目だけなら古めかしい墓石のようになった。
「こりゃまた、立派なお墓みたいになっちゃったね」
「おにぎりの墓だ。おまえの犠牲は。わすれないぞ」
さようなら、おにぎり。
あなたのことは。わすれない。
ヘノは墓石に向かって手を合わせて、祈りをささげる。
「ところで妖精も、お墓ってわかるの?」
「妖精が死んだら光になって消えていくから、墓なんてないぞ。見様見真似だぞ」
「そっか……」
それでも、お墓に祈りをささげるヘノの姿は。
何かとても儚げに、桃子の目には映るのだった。
【りりたんの朗読チャンネル】
するとどうでしょう。
女がその拾った器で米の量を量るようになってから、いくら食べても、米も麦も減りません。実はそれは、迷ヒ家からの授け物だったのです。
そうして迷ヒ家の器を使うようになってからは、家は幸運に恵まれるようになり、女の家は村一番の金持ちとなりました。
――という、迷ヒ家のお話でした。
あら、今来た視聴者さんもいらっしゃるんですね。
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
今日は、『遠野物語』という本を朗読しています。
『遠野物語』は、遠野に伝わる様々な不思議な言い伝えなどを短編の物語としてまとめた本ですよ。
一つ一つは短いお話なので、読んでみてくださいね。
いま朗読していた迷ヒ家というのは『遠野物語』の中に書かれたお話のひとつです。
山で迷った人がふと不思議なお屋敷で、その中からお椀などを持ち帰ると、幸運が授けられると言われています。
最近話題になっている、遠野のダンジョンにあるマヨイガとは違って、一度入ったら出られないなんていうことはありませんよ。
むしろ、物語で語られている迷ヒ家は、同じ場所を探しても二度と出会うことができないというお屋敷なんですよ。
もちろん、恐ろしい妖怪が襲ってくるような場所ではないですよ。
もしかしたら、遠野ダンジョンのマヨイガにも、幸運を授けてくれる器などがあるのかもしれませんね。
もし視聴者さんが遠野ダンジョンで迷ったら、マヨイガで持ち帰れる道具を探してみたらどうですか?
いいことがあるかもしれませんね。
美味しいおにぎりが、作れるようになるかもしれませんよ。ふふふ。
りりたんは、おにぎりよりも、りんごが好きですね。
まだ未成年なのでお酒は飲みませんが、豚のお肉は好きですよ? 意外と、肉食なんです。
イメージが違いましたか? ふふふ。