ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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妖精といくピラミッドの旅

「うわっ?! 何?」

 

「落ち着け。ただの。鳥だぞ」

 

 ピラミッドとは呼ばれているが、第三層『地下遺跡』は広大だ。その規模は、当然ながらエジプトのピラミッドどころではない。少なくとも桃子は、新宿区が一つまるまる入るようなピラミッドなどは聞いたことがない。

 なので、その内部も様々だった。

 

 最初のうちはただの石壁通路の迷路のようなダンジョンだった。

 しかし先に進むに従って、巨大な柱の立ち並ぶ大部屋や、深い水路が流れている回廊、底の見えない大穴の空いた部屋など、奥に行くほど造形のバリエーションが豊かになってきた。

 そしてたった今踏み込んだ非常に天井の高い部屋では、ふいにバサバサと黒い影が桃子の頭上を抜けていった。

 一瞬身構えた桃子だったが、どうやらただの原生生物だったようだ。いくらダンジョン内の生態系が地上とは全く違うと言っても、遺跡の中にいる鳥というのは何となくロマンを感じる。

 どのような鳥なのか。やはりエジプトなら隼だろうか、と思いながらその鳥の姿を探すが。

 

「どうやら、ピラミッド内に住み着いているコウモリの、ようだね?」

 

 鳥じゃなくてコウモリだった。

 

「……まあ、いいか。鳥でも哺乳類でも、ピラミッド内で生活してる原生生物もいるんだねえ」

 

「ここは、非常に広いからね。鳥もいるし、魚もいるのでは、ないかな?」

 

「なんだ。意外とここ。楽しそうだな」

 

「遺跡の研究を目的とした探索者たちは、ここで自給自足で、何日も生活をしていたり、するのさ」

 

「へぇー……」

 

 桃子はリドルの説明に感心する。先程も大きな水路があったが、魚も泳いでいたのかもしれない。飲み水も先ほどのような水路から汲むのだろうか。

 魚も小動物も、ついでに蛇もいる。鳥取のピラミッドは意外と原生生物の生態系が豊かそうだ。

 その上で魔物があまり出てこないというのならば、確かに準備さえすればこの階層に住み着くことも可能かもしれない。

 しいて言えば、野菜や穀物、それにスパイス的な調味料が欲しいな、と。桃子は頭の片隅で遺跡生活に想いを馳せた。

 

 

 

「あ、探索者さんたち休憩に入ったね。あんまり近づきすぎるのもなんかアレだし、私たちもここら辺で休憩にしようか」

 

 桃子たちの先を行く探索者たちも、順調に進んでいるとはいえ休憩は必要だ。

 どうやら今いる広い区画は比較的安全なようで、見れば二人とも荷物を下ろし食事休憩に入っている。

 いま桃子たちがいるこの場所は、大きくひらけた巨大通路だ。円柱の柱が左右に立ち並んでおり、まるで古代の王宮の中央通路のような雰囲気を醸し出していた。

 左右の壁や柱には様々な紋様や絵のようなものが描かれているが、桃子にはそれがただの模様なのか、それとも意味のある古代の文字なのか、残念ながらよく分からない。

 

「桃子。右の柱は。罠が多い。左の柱の下なら。大丈夫だぞ」

 

「ありがと、ヘノちゃん。それにしても本当に罠だらけだね。探索者の人たち、どうして罠がわかるんだろう」

 

 桃子もひとまず食事休憩だ。ヘノが安全だという柱の下に腰を下ろして、リュックから水筒と大量のドライフルーツが入った袋を取り出す。

 これは、前に砂漠に訪れた際にドライフルーツのつくり方を覚えたヘノが、手当たり次第に畑の果物を乾燥させてまわったときのものである。

 流石に無暗に作りすぎたとヘノも反省したのだが、ドライフルーツはそれなりに長持ちする上、栄養的にも凝縮されているので、こういう時にリュックに入れておくにはちょうど良い。

 出発前にニムが注いでくれた水筒の水をコクコクと飲みながら、ヘノが作ったドライフルーツをはむはむと頂く。至福だ。

 桃子がエネルギー補給をしている横で、ヘノとリドルもあれこれ雑談を交わしながら、ドライフルーツをもぐもぐと食べている。

 

「むぐむぐ。もしかしたらあの連中。罠がわかるスキルでも。持ってるのかもな」

 

「はむ。そうだね。しかし、スキルとて、容易く得られるものでは、ないのさ。はむ。彼らが先人の知識を教本とし、幾度も罠と対面してきた賜物、なのだね」

 

「そうか」

 

 罠が察知出来るスキルがあったとしても、そのスキルを覚えられたのは、彼らが何度も何度も罠に挑んできたからこそである。

 桃子は何度もカレーを作り続けたからこそ【カレー製作】を得た。何度も一人で魔物と戦うために道具や武器を自作してきたからこそ【加工】を得た。

 それと同じことである。彼らがスキルを持っていたとしても、それはきっと何度も何度も、罠と戦ってきた証なのだろう。

 それこそ、先人たちの知識と研究を、罠と戦うための武器として。

 

「先人と言えば。ボクが生まれる少し前に、とある偉大な考古学者の教授がこのダンジョンに籠り、様々なことを調べて、いたのさ」

 

「あ、それってもしかしたら私が子供の頃にテレビでみた教授かもしれないね。エジプトと、謎なぞが好きな面白いおじさん」

 

「そうかもしれないね。この遺跡は謎が沢山ある。古代文明も謎だし、罠の解除にも様々な謎を解いていく必要が、あるのさ。謎を求める人間にとっては、まさに秘宝の園だったのでは……ないかな?」

 

「そうか」

 

 ヘノはほぼ話題に興味を失っているが、桃子にとっては懐かしい話題だった。桃子が幼い頃にテレビでみた考古学の教授は、今思えばまるで子供のようなおじさんだった。

 考古学者というのは主に古い遺跡などを研究し、過去の文明について色々調べる者たちだが、その教授はそれを実に楽しそうに語っていたのを覚えている。

 文明文化に限らず、未知の謎を求めることの楽しさを語っていたのを覚えている。

 もしかしたら、その映像は桃子が探索者を目指すきっかけの一つだったのかもしれない。

 

 そんな教授たちにとっては、失われたはずの、或いは誰も知ることの無かったはずの未知の文明の様式で形作られたこの地下遺跡など、まさに謎という名の秘宝そのものだったのではないだろうか。

 

 そして、桃子は連鎖的に思い付く。

 

 謎。といえば、桃子は褐色肌の妖精、リドルを見つめる。

 彼女はこの砂丘ダンジョンで生まれたという。

 最初はそのオリエンタルな外見からして、熱砂砂漠出身なのかと思っていたが、しかし改めて考える。

 彼女はその名の通り、いつも謎を求めているし、謎を解明することに何かしらの執着があるように思える。そして、このピラミッドは、そのような謎で構成されているダンジョンだ。

 

「ねえ、もしかしてリドルちゃんは、このピラミッドで生まれたの?」

 

「おや、流石は桃子くん。その通り、ボクはこの遺跡で、とある目的を持って生まれたとの、ことだよ?」

 

「リドル。目的って。なんだ?」

 

「それをボクも、知りたいのさ。それを知るために、ボクは謎を解き進めるのでは、ないかな?」

 

「そうか。お前も。大変だな」

 

 結局の所、謎が深まるだけだった。

 

 だがしかし、桃子にも理解できたことがある。

 リドルは、このダンジョンで『何かしらの目的』を伴って生まれた妖精だが、しかしそれを本人が覚えていない。そして、彼女はその『何かしらの目的』を知るために、このダンジョンで謎を探し続けている。

 

 妖精たちは人間と違い、様々な生まれ方をする。

 

 とある村人たちの信仰心によって姿を得た、桃の木の妖精。

 とある魔法生物の願いの下、迷宮を救う役目を背負って誕生した氷の花の妖精たち。

 彼女たちは誰かの願いによって誕生した。

 勿論それとは逆に、本当にたまたま、そこに集まった魔力が意思を持っただけという子だっているだろう。

 きっとリドルは、前者に近いのかもしれない。何かしらの祈りが、何かしらの役目が、彼女の誕生を後押しした。

 果たしてそれは一体なんなのか。

 

 そこで桃子は、己の相棒たるヘノを見る。

 

「ヘノちゃんは、生まれたときはどうだったの?」

 

「ヘノは。気づいたら。空の上を飛んでたぞ。浮いてる島があって。しばらくの間は。そこの木の実を食べてたぞ」

 

「ヘノちゃんは生まれたときから食いしん坊だったんだねえ」

 

 どうやら、ヘノは何かしらの役目や誰かしらの願いとは無縁だったようだ。

 聞く限り、生まれた時から自由に空を飛び、自由に木の実を食べていた。そこには何の目的も、役目も、なさそうである。

 

「ほほう、浮いてる島とは、不思議なダンジョンでは、ないかな? 人間が探索するのは、難しそうだけれどね」

 

「そう言えば。あの場所は。人間はいなかったな。まだ。見つかってない場所だったのかも。しれないな」

 

 ヘノの生まれたダンジョン。空の上のダンジョン。

 話を聞いている桃子も、そこがどのような作りのダンジョンなのか今一つ想像がつかない。だがしかし、世の中には階層全てが水中のダンジョンがあるのだから、階層全てが空中のダンジョンがあるのかもしれない。

 ダンジョンとは、何でもありなのだ。

 

「でも、見つけたとしても空の上のダンジョンじゃあ、私たち人間には手も足も出せないねえ」

 

 桃子がヘノの生まれ故郷をその眼にするためには、どうにかして空を飛ぶ必要がありそうだった。

 世の中には空を飛ぶスキルがあるかもしれない。というか、北海道では一応は人間であるはずのツインペアーことりりたんが空を飛んでいたのだから、人間も空を飛ぶことくらいは出来るはずだ。

 自分もヘノの故郷を見るために頑張って空を飛ぼうと、桃子は心の中で目標を立てるのだった。

 

 そしてそうこうしている間に、探索者たちも短い休憩時間を終えたようで再び立ち上がり、先へと進んで行く。

 桃子もドライフルーツの最後のひとかけをもぐもぐと味わいながら、リュックを背負いなおしてその後を追いかけていった。

 

 

 

 

「ところでさ、あの探索者さんたちがどこに向かっているのかって、リドルちゃんは知ってるの?」

 

「そういえば。そうだな。あいつらどこまで。進んで行くんだ」

 

 休憩してから再び歩き続ける一行。石壁の通路を抜け、鋭い針が並ぶ穴の上にかかる橋を渡り、大きな滑り台を滑り、ミイラが襲い掛かってくる棺の間を抜けていく。

 この三層へと降りて来たときには、桃子はこの場所をピラミッドのようだと表現していたが、前言撤回である。こんなに広く、底なし穴やら巨大滑り台やら、何でもありの巨大アトラクションのようなピラミッドなんてものはない。あるわけがない。

 ここはやはり、ダンジョンなのだと。

 

 前を行く探索者たちが、どこか目的の場所へと真っすぐ向かっているらしいことは、なんとなく分かる。そして、リドルが解きたがっている『謎』がそこにあるらしいということも。

 だがしかし、結局のところ彼らは。そしてリドルは。一体どこへ向かっているのか。

 今は蛇行する長い下り坂を下っていく一同だが、この下り坂がやたらと長く、しばらくは続きそうである。

 

「そういえば、桃子くんたちは知らないの、だったね? この先がスフィンクスの間、なのだよ」

 

「スフィンクス?」

 

「すひんくす?」

 

 スフィンクス。エジプトはギザの大ピラミッドの横に佇む巨大な石像があまりに有名な、獅子の身体に人の顔を持つ怪物だ。

 エジプト以外にもギリシャやメソポタミアの神話にもその存在は語られており、旅人に謎かけをする怪物としても知られている。

 

 しかしそれは、あくまで神話の話。スフィンクスなど、伝説上の、現実には実在しない生き物だ――と、言いきれないのがダンジョンである。

 

「スフィンクスの間は、この階層の最深部にある荘厳な部屋の名称、なのだよ。そこには第四層へと続く巨大な階段が、あるのさ」

 

「え?! ここって第四層の階段、見つかってるんだ?」

 

「ただし、そのスフィンクスの間には大きな扉が、あるのさ。人間たちがその先へと踏み込むには、このピラミッドのどこかに隠された『鍵』を探す必要があるのでは、ないかな?」

 

「そっか、下層に挑むためにはこのピラミッドで『鍵』を探さなきゃいけないんだね。それは……大変じゃん」

 

 ダンジョンに潜る探索者たちの目的を大きく分けると、大まかには二つに絞られる。

 一つは、既に発見されているダンジョンで魔物を狩り、素材を集め、既存のダンジョンの探索を進める者たち。

 

 そしてもう一つは、ダンジョンの『先』、あるいは『未知のもの』を見つけるために、より深く、新たなダンジョンの開拓を進める者たち。

 彼らが探すのは、下層へ続く入り口だ。

 

 だがしかし、どうやらこのピラミッドの場合は、ただ下層への階段を発見すれば良いわけではないらしい。

 未知の階段の先へと降りるためには、既存のダンジョンを探索しつくして、そこから鍵を探さねばならない。

 前者と後者、どちらも必要となるハイブリッド探索者向けのダンジョンのようだ。

 

「それで。すひんくすの間っていうのは。まだか?」

 

 ガコン

 

「もうすぐそこさ。最後に、大岩の罠が起動するのだけれど、その大岩を躱して進んだ先に、そのスフィンクスの間が、あるのさ」

 

「ふーん、大岩の罠ってなあに?」

 

 ゴゴ・・・

 

「巨大な岩が、探索者に向かって転がって、くるのさ。あの罠は自動で発動するから、解除は不可能なのでは、ないかね?」

 

 巨大な岩が転がってくる罠。

 それを聞いて、桃子の脳裏にもありありとその光景が浮かんでくる。昔見た映画にも、そのような派手なシーンがあったはずだ。

 巨大な地下遺跡の中。長く蛇行した下り坂で、登場人物たちの後ろから丸くて巨大な岩が転がってくるのだ。

 そして主人公たちは岩に追いつかれないよう全力で走り、あわや潰される直前でどうにか横道に飛び込んで命拾いするという、遺跡発掘ものではある意味王道とも言える展開だろう。

 しかし、それは映画として見る分には楽しいが、実際にいま地下遺跡を歩いている身からすると、とんでもない仕掛けだと思う。あんな大掛かりな仕掛け、作る側も作る側だ。どうかしている。

 

 ゴゴゴゴ・・・

 

「おいリドル。その大岩っていうのと。このごろごろいう音は。なにか関係あるのか?」

 

「もちろん関係、あるのさ。これは、大岩が転がってくる音では、ないかね?」

 

「そうか」

 

「すごいねー」

 

 

 

 

「……じゃないよっ?!」

 

 どうやら、先ほどからこの通路に響いている謎の重低音は、本当にこの狭い通路の上から岩が迫ってくる音だったようである。

 そこまで来て桃子はようやく呑気な妖精の空気から脱却し、パニックになることが出来た。

 

「ヘノちゃん! 私たち潰されちゃうじゃん! 走るよ!!」

 

「なんだと。じゃあ。走れ桃子」

 

「その通り、桃子くん。最後の罠は逃げるしかないのさ。誰しもが全力で逃げるのでは、ないかね」

 

「んにゃああぁぁっっ!!」

 

 桃子は走った。白い布を靡かせて走った。謎の雄たけびを上げながら走った。

 ヘノがすぐにつむじ風の魔法をかけてくれたのだが、長い下り坂を猛スピードで駆け下りるのはさながらジェットコースターに乗っている気分である。

 

「この位置から見る岩は、なかなかの迫力では、ないかな?」

 

「すごいぞ桃子。岩が。コロコロ転がってきたぞ。みてみろ」

 

「見てたらつぶれちゃうでしょーっ!」

 

 そんな超ド必死な桃子の肩にしがみつき、いつものように呑気なやり取りを繰り広げている妖精たちに対して、桃子はちょっとばかし、プチ激怒していた。

 

 

 

 

 

「桃子なら。気合いをいれれば。岩を砕けると。思うんだけどな」

 

「桃子くんなら、魔力を込めれば。岩が上を転がっても、無傷でやり過ごせるのでは、ないかな?」

 

「ひっ、人をびっくり人間みたいにっ、言わないでーっ!!」

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