ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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チームインディときどき桃子

【チームインディ配信 コメント抜粋】

 

:カリンちゃんの配信からきました。どういう配信なのか教えてください。

 

:アイドルの配信に戻ってやれよw

 

:テントで見てたけど、インディたちは記録配信しかしてないから配信の何たるかがわかっておらんのだ。美少女の視聴者を盗んだのは許さんぞ。

 

:2窓だから大丈夫です。

 

:あ、はい。

 

:説明するよ。配信主はインディとジョーンズ。砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』での調査や探検を主な活動にしている二人組パーティ。たまにこうやって、配信を行うけど、あくまで迷宮記録を残すのが目的だ。トークもコメント読みもないからな。

 

:いつもフィルターつけて配信してるんですか?

 

:いや、こういうのは初めてだ。先週潜ったときに何か事件があったらしいんだが、本人たちもその記憶が曖昧らしい。

 

:なるほど。今の映像の場所は第三層なんですよね?

 

:そう。しばらくはピラミッド内を進むだけだと思うぞ。

 

:ピラミッドの最深部を目指してるところだ。そこは罠も魔物も出ないんで調査隊の主なキャンプ場所でもあり、第四層へ続く閉ざされた門がある場所でもある。

 

:第四層へは降りられるんですか?

 

:その扉を開くための魔法の鍵があれば、降りられるらしい。最後にその鍵が見つかったのは十年以上昔の話だから、どうなっているのかは分からない。

 

:なるほど。ありがとうございました。

 

:フィルターかかってるから視聴者が礼儀正しい奴多いなw

 

:そりゃ、一定の実績ある探索者か、きちんと申請して許可をもらってるダンジョン関係の仕事をしてる人間しか見れないフィルターレベルだからして。

 

:ところで、さっきから映像で気になってることがあるんだけど

 

:奇遇ですね、私もです。

 

:同じくw

 

:なんか、特定の方向をカメラが向くたびにノイズかかってません?

 

:やっぱり、後ろのほうに何かいるのか?

 

:こういう時、記録配信だと俺らから何か伝えることが出来なくて歯がゆいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下遺跡の最深部に存在すると言われている、スフィンクスの間。

 この大きな神殿のような空間には罠はなく、均等に並べられた柱に台座と、そして一番奥の壁には巨大な石の門があるだけだ。

 そこには古代の文字でこう書かれていた。『勇気あるもの。賢きもの。鍵に導かれしものたちよ、スフィンクスの試練へ挑むのだ』と。

 

 地下遺跡の道のりの最後。長い下り坂で大岩に追い立てられて、インディとジョーンズの二人は駆け込むようにこのスフィンクスの間へと飛び込んだ。

 いつものことなのだが、何故かあの大岩はギリギリで助かるような速度と距離感で転がってくるのだ。こちらが速く走れば速く、鈍足ならば岩も遅く。あれは罠なのではなく、何らかの演出なのではないかとインディは疑っている。

 そして今日もギリギリで飛び込んだのだが、気のせいか、今日はインディとジョーンズの二人がこの部屋へ飛び込むと同時に、何かが駆け抜けていくような風が吹いた気がする。

 第二層までならともかく、地下遺跡で強い風を感じることなど普通はない。しかし、周囲には変わった様子もなかった。

 ならば気のせいなのだろうか、最近は色々あったから神経が過敏になっているのだなと、インディは己に言い聞かせる。

 

「なあ、ジョーンズ。確認作業と行こうか。お前は前回のことどれくらい覚えてる?」

 

「……あー、インディ。何となく。ぼんやりした記憶だけが残っているというか、夢なのか現実なのか、どうなってんのかわからん程度だ」

 

「本当にインディとジョーンズっていうんですか? 日本人じゃないのかな……」

 

 

 

 スフィンクスの間へと飛び込んだ二人は巨大な扉の前に立つと、互いの意思を確認するように、そこで足を止める。

 たった二人のパーティだ。互いの言いたいこと、互いに聞きたいことは言わずともわかる。それは言うまでもなく、一週間前のことだ。

 そこで自分たちに何が起きたのか。自分たちが何を忘れているのか。それを今、二人は互いに確認しようとしていた。

 この場で確認作業を挟むことで、自分たちに何があっても記録配信を見る視聴者たちが目撃者になってくれるはずだ。カメラの向こうの彼らに説明するように、インディたちは会話を続ける。

 

 冷静なほうの男、インディは己の外套の内側に手を入れて、そこから一つの石製の品物を取り出した。

 それは、鍵だ。

 質素な石で作られた鍵。中央には何かをはめ込むような穴が空いているがそこには何もない。

 しかしそれでも探索者なら分かる、ただならぬ魔力がその石からは感じられる。

 

「知らんうちに……俺の服の内側にこの鍵が隠されていたんだ。恐らく、前回のアタックで俺たちはこの鍵を発見したんだと思う」

 

「教授が持ってた鍵と似てるな。教授がよく話してたろ、スフィンクスの鍵は意志を持つ、ってよ。どうだ? なんか話しかけられたか?」

 

「鍵の真ん中にぽっかり穴が空いてるけど、石でも入ってたんですか? 鍵は石を持つ、なんちゃって」

 

「いや、残念ながらただの鍵だな。教授のように鍵と話せる気はしない」

 

「え、鍵と話してたんですか……? なにそれ、なんか、すごいですね」

 

 

 

 

 

「あいつら。でかい部屋にたどり着いたと思ったら。いきなり。ぺちゃくちゃ話し出したな」

 

「あの鍵は……。どこか、懐かしい気がするのでは、ないかな?」

 

「しまった。リドルも。まともに会話できない奴だった」

 

 

 

 

 

 インディとジョーンズは、十年ほど前に行方不明になった砂園教授の教え子だ。実際に学校で学んだわけではなく、駆け出しの探索者だった頃に様々なことを彼から学んだのだ。教え子、あるいは弟子と呼んでも良いだろう。

 彼らの師、砂園教授は考古学者であり、一流の探索者でもあった。そしてある日、彼はまるで導かれるようにしてこのスフィンクスの鍵を発見したという。教授はしかし鍵を使って下層へと降りることはなく、まずは鍵そのものを研究した。

 その過程で、その鍵について様々な事実を解き明かした。

 しかし、その解き明かされた事実が何だったのかは教授は公開せぬまま、消えてしまった。教授が行方不明になった今となっては、誰もその真相を知ることがない。

 

「そして、だ。俺たちはおそらく扉を開いた。しかし、俺たちはその先で何を見た? 俺たちは、教授を見つけたか?」

 

「え、扉あけたんですか? 誰かいたんですか? って、覚えてないのか……」

 

「いや、どうなってんのかは分からんが、教授はいなかったぜ。少なくとも、俺が夢だと思ってた光景にはいなかったはずだ」

 

 二人は互いに記憶のすり合わせをする。

 まるで霧の向こうを覗き込むような、すりガラス越しに相手を探すような、そのような曖昧過ぎる記憶だ。しかしそれでも、二人の記憶の中にはうっすらと見知らぬ風景が残っているのだ。

 そこには、誰かの姿があったのだ。教授ではなかった。だがしかし、何か謎を問いかけられた気がする。

 それでも、会話をしたような記憶はあるものの、その姿を思い出せない。

 インディは考える。己の記憶に蓋をしたのは誰なのか。そして、その存在の目的はどこにあるのか、と。

 

「俺たちは恐らく、記憶を消された。誰に? 何のため? そう、これは『謎』さ」

 

「おう。わからんことだらけ、謎づくめの、謎のフルコースだぜ」

 

「なんか、この遺跡に関わる人たちってみんな『謎』って言葉が好きすぎません? 使用頻度が高すぎません?」

 

 謎。

 

 そう、この地下遺跡においては『謎』というものが重大な意味を持つ。横で聞いている桃子の中で『謎』という言葉がゲシュタルト崩壊しそうなほどに。

 

 このピラミッドは、過剰なまでに謎だらけなのだ。

 ダンジョンの罠を解くために、古代の言葉でつづられた謎を解き明かさねばならない。巨大な通路が一つの古代文字となっていた事実に気付かなければならない。罠と罠を同時に発動させ制限時間内に相殺しなければならない。

 ただ、ひたすらに謎と向き合う。

 ここはそういうダンジョンだ。

 

 そのダンジョンで多くの発見をしてきた砂園教授は、まさに『謎』に生きがいを感じている変わった人だった。そして、まるで迷宮から選ばれるように『鍵』を授けられ、そして消えた。

 

 教授が消えて10年以上、インディたちは大学で考古学を学びながら、この迷宮を調べ続けた。

 当時は発見できなかった部屋や、解き明かせなかった文字も解き明かした。新たな仕掛け、新たな罠も調べて来た。それでもまだ、この迷宮は広く、底が知れない。

 

「情報を整理しよう。俺たちは、砂園教授が持っていたこの『鍵』を使い、扉を開いたんだ。しかし、そこで何者かに出会った」

 

「はい」

 

「そして俺たちは、その誰かに何かをされた。勝負を挑まれたのか、はたまた新たな謎があったのか。そして記憶を消された」

 

「なるほどお」

 

「朦朧とする意識のなか、気づいたときには迷宮の罠にはまってしまった」

 

「あ、そっか、二人とも前は意識が朦朧としてたから罠に気づかなかったんですね」

 

 

 

 

「桃子も。頑張って会話に入ろうとしてるけど。気づかれてないな」

 

「教授があの鍵を、持っていた、のだね」

 

「リドルも。桃子を見習って。もう少し会話をしたほうが。いいぞ」

 

 

 

 

 

 

「あの時は俺も死ぬかと思ったぜ。俺の人生どうなってんだ? ってな」

 

「だがしかし、朦朧とした意識の中でも俺は、教授の言葉が聞こえた気がするんだ」

 

「奇遇だな。俺もだ。『キミたちはここから抜け出て、更なる謎を解くべきでは、ないかな?』ってな。声そのものは教授の声じゃあなかったが、言葉は教授のものだ」

 

「多分だけど、それってリドルちゃんの声ですよ。ないかな? って、リドルちゃんの口癖だし……」

 

 インディたちは、ちょうど1週間前にこの迷宮内で罠を避けきれず、密室に閉じ込められていた。

 その前段階でも様々な罠にやられていたのだろう、身体は至る所に裂傷を作り、水も食料もないままで。

 朦朧とする意識のなかでしかし、二人は声を聴いたのだ。不思議と若い少女のような声にも聞こえたが、しかしそれは確かに、教授の言葉だった。

 インディも、ジョーンズも、それが何を意味するのかは分からない。

 だがしかし、教授が自分たちを救ってくれたのだと、それだけは間違いなく確信できた。

 

「俺たちを救ってくれたメジェドが……いや、メジェド様が教授とどういう関係なのかは分からないが。しかし、俺たちは更なる謎を解くことを求められてるのかな」

 

「ああ。教授の痕跡を探す。教授が何も残さずに消えるわけがねえんだ。教授とメジェドの関係は、その後だ。すべての謎を解こうぜ、相棒」

 

「あの、私と教授は無関係ですよ? 盛り上がってるところ、本当申し訳ないんですけど」

 

 なんだか二人で誰かに説明するかのように延々と過去回想のような話をしていたが、しかしそれもようやく終わる。

 インディは先ほど取り出した鍵をその手に取って、掲げる。

 そしてその鍵を扉へと向けると、その鍵が扉に反応し、薄らと黄色い光を放ち始める。

 

 そして、ゴゴゴと低い音を立てて、巨大な扉が左右に開かれていった。

 

 

 扉の向こうは、スフィンクスの間の延長のような空間だった。

 左右には紋様を彫られた石柱が並び、オレンジ色の魔法光が松明のように揺らいでいる。

 

 そしてその奥には、巨大な何かが、いた。

 

「魔物か?! ……いや、あれは……やはりそうだ!!」

 

「まあ、いるだろうな!!」

 

「うわ、でっかい! ……って、え?! スフィンクス?!」

 

 巨大な獅子が、丸まって眠っていた。

 二人の探索者も、そしてその横でずっと『自然な会話ごっこ』にチャレンジしていた桃子も、驚きに目を丸くする。

 

 いや、しかしそれはよく見れば獅子ではない。

 黄金色の艶やかな毛並みの胴体と、しかしその背には巨大な鷲の羽根が。そして獅子の頭のあるべき部分には、褐色の肌に濃い目の茶色の美しい髪をもつ、ヒトの女性としか思えない顔がついていたのである。

 

 その姿はそう、スフィンクス。

 巨大なるスフィンクスが、オレンジ色の魔法光に照らされて、その巨体を露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

「桃子。会話ごっこも楽しかったけど。今はそいつらから離れろ。あれはまずい。探索者たちと一緒にいるだけでも危険だぞ」

 

「う、うん。でも、あのスフィンクス、悪い魔物じゃない感じがするけど……」

 

「そのとおり、なのさ。彼女は魔物では、ないのさ。謎を提示するが、決して人に危害を加えることはない迷宮の守護者、なのだよ?」

 

「え、知ってるの? リドルちゃん」

 

「ボクの宿敵であり、話し相手、なのさ」

 

「リドル。お前。いつも皆に黙って。あんなのに会ってたのか……」

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