ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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鍵の記憶

「あ。というわけで、桃子。ヘノ。ボクは元々、この鍵にはまっていた魔力核だった、ようだね」

 

「そうか。よかったな」

 

 この砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』にて、文字通り重要なキーとなるその存在。スフィンクスの鍵を小脇に抱えながら。

 額に指を当てた賢そうなポーズを崩し、リドルが桃子たちを振り返ったかと思うと、さらりとそう宣言した。

 その鍵に空いている穴には元々核となる魔石がはまっていて、それが本来の自分だったのだ、と。

 

 それを話すリドルのノリは、そして聞いたヘノの受け答えは、実に軽かった。まるで、今日の朝食を説明するくらいの軽いノリだ。

 

「あの、それってリドルちゃんのずっと謎だった出自なんだよね? そういうのってもっと、ドラマチックな感じになるものじゃないの? 滅茶苦茶さらっと流してるけど」

 

「ふむ? 人間は、己の出自が分かったときは、もっとドラマチックに語るもの、なのかな?」

 

「桃子は。漫画の。読みすぎなんじゃないか?」

 

「そうかなあ」

 

 桃子としては、ずっと謎のままだった自分の正体というのは、もっと重要で、大切で、気になるものなのではないかなと思う。

 

 例えば桃子が、実は普通の地球人でなくカレー界の姫だと判明したとして。しかしきっと桃子は今のリドルのように、その事実を何でもないことのようにさらりと流すことは出来ないだろう。

 ドラマチックに――とまでは言わなくとも、少なくとも本日の朝食よりは重要で大切な話だと思う。なんせ、人間じゃなくてカレーなのだから。

 一方、桃子の相棒たるヘノは殆ど仲間の正体を気にしていなかった。どころか、全く以て興味もなさそうだ。

 

「妖精は。そこら辺の木からも生まれるんだから。石が妖精になることも。珍しくないだろ」

 

「えー、そういうものなの……?」

 

 意志を持った魔法道具、もしくは力のこもった魔力の結晶が、妖精として生まれ変わるという現象。

 日本でも付喪神という概念はある。だけれど、流石にそんなこと、そうそうあることではないだろうと桃子は思う。仮にそんなことが頻繁にあるならば、ティタニアの国はもっとバラエティ豊かな妖精が増えているはずだろう。

 とか考えたけれど、よくよく考えるとティタニアの国の妖精たちはかなりバラエティ豊かだなと思い直し、桃子はなんだかよく分からなくなってきたので、考えるのをやめた。

 

「っていうか、スフィンクスさんはリドルちゃんが元々は鍵だったこと、知ってたんですよね? なら教えてあげればよかったのに……」

 

『そのリドルはもう、鍵ではない、自由な存在よ。ならば己自身の謎くらい、自分で解くべきであろう?』

 

「その通りさ。己に隠された謎は、己で解き明かすべき、なのだね」

 

「なんか。ここのダンジョンの連中。本当にみんな。面倒くさいな」

 

 謎は自分で解くべし。スフィンクスたちの返答は、いかにもこのピラミッドの守護者といった内容だった。ヘノが呆れてしまうくらいに、ここの人たちは謎が大好きなようだ。言葉は悪いが、正直いって面倒くさい。

 だがしかし、『答えを知っているなら先に教えて欲しい』と思ってしまう桃子やヘノの方が、いまこのダンジョンに於いては異端なのだろう。

 

 もしかしてだけれど、この鳥取の砂丘ダンジョンには、とにかく自分で謎を解き明かさないと気が済まなくなる不思議な魔法でもかかっているのではないかと、桃子は訝しむ。

 あたかも、琵琶湖に行くとすぐに何かを破壊してしまう現象のように。あれも恐らく、不思議な魔法かなにかの影響に違いないと桃子は考えているのだ。

 

「つまりスフィンクスは、ボクのもう一つの謎も、自分で解き明かせと言いたい、のだね?」

 

「えー? リドルちゃん、まだ謎があるの?」

 

「リドル。お前。全然わかってないこと。だらけじゃないか。なんなんだ。もう」

 

「そうさ。ボクは、謎だらけだ。自分の生まれた理由も。何を望んで生まれたのかも、何も覚えていないのでは、ないかな?」

 

 ヘノはとうとう呆れ果ててしまったが、そういえば前にも妖精の国でルイが呟いていたなと、桃子は思い出した。

 リドルはずっと昔から、この砂漠の迷宮で何かを探し続けていると。リドルをよろしく頼むと、桃子はそうルイに言われているのだ。

 ならば、これはルイとの約束だ。ヘノの呆れてしまう気持ちも分からないでもないが、しかし桃子はリドルに寄り添うことに決めた。

 リドルの謎に、徹底的に付き合ってみようと決めた。

 

 彼女は、この迷宮の『意志ある鍵』だった。厳密に言えば、石鍵に装着されていた魔石こそが、リドルだったのだろう。

 しかし、それが何かのきっかけで、今の妖精の姿へと転じた。そのきっかけとはきっと、リドルにとって重要な出来事であったはずなのだ。

 

「ヘノ。桃子。ボクは、自分でもわからない理由に突き動かされて、いるんだ。このダンジョンの第四層へと、行きたいんだ。そこにはボクの真の願いがあるはず、なのだよ」

 

『リドルよ。ならばだ。何故、鍵であることを辞めたのか。何故、下層を目指すのか。その謎、今ここで解き明かしてみせよ』

 

「もちろん、なのだね。今ならば、鍵の記憶を引き出せるのさ。すぐに解き明かして、みせるよ」

 

 守護者であるスフィンクスの言葉に、リドルは胸をはって宣言し、そしてその答えを探すために彼女は思考の海へと潜る。

 長きにわたって不在となっていた己の半身たる石の鍵を抱き。迷宮に住まう道具だった頃の記憶を漁る。

 

 リドルに寄り添おうと決めたばかりの桃子だったが、リドルは完全に己の世界へと潜ってしまっている。

 どうやら完全に。桃子がいまやれることというのは、皆無なようであった。

 

 

 

 

 

『さて、どうやらリドルは次なる考え事で忙しいようだの』

 

 巨大な体躯で桃子の前に立ちはだかるスフィンクスだが、リドルが意識を鍵に潜らせているのを確認すると、鼻をふんすと鳴らし、いよいよ桃子に向き直った。

 どうやらリドルの結論が出るまでの間、ここで桃子と話し込むことにしたらしく、象のように大きな獅子の胴体をその場に猫のように屈みこませる。

 腹を床に密着させ、二つの前足はくるりと曲げて己の胸元に潜らせる。これが猫ならば香箱座りとして和む光景だが、巨大なスフィンクスだと和むに和めない。

 また、隠す布地すらないその巨大な女性の胸にあたる部位が桃子の正面にきているので、桃子も目のやり場に困る。

 

『本来ならば、鍵に選ばれたもの以外は踏み込むことは許されぬが、其方がリドルの友人というのならば、大目に見てやろう。奴の成長に一役買ってくれたようだしの。改めて問おう。其方、名は?』

 

「……あ、はい! 初めまして、桃子です、人間です!」

 

「ヘノだぞ。風の妖精だぞ」

 

『うむ、我が名はスフィンクス。双方とも、好きに呼ぶが良い』

 

 名を問われた桃子――と、ついでにヘノが自己紹介すると、スフィンクスも改めて己の名を名乗り返す。

 コミュニケーションの最初は自己紹介から。目の前に屈みこんだスフィンクスは、どうやら見た目や言動の威圧感と裏腹に、意外に話しやすい魔物――いや、魔法生物だったらしい。

 リドルのことも気にはなるけれど、桃子も今は目の前にいる巨大な相手に意識を向けることにする。

 

『して、モモコ。その白い装束は其方が作ったのか? なかなか面白い魔道具を制作するではないか。良いぞ、良いぞ』

 

「あ、ええと、別なダンジョンの魔物素材を組み合わせて、熱を防ぐ装備を作ったんです」

 

「砂漠ポンチョだぞ」

 

『なるほど、ポンチョか。遺跡の探索者たちとは方向性が違うが、創意工夫の出来る賢き娘であるな。良いぞ』

 

「ど、どうも……」

 

 緊張気味の桃子に対し、質問していくスフィンクス。場所が地下遺跡の広大な部屋でなければ、ちょっとした面接のような情景だったことだろう。

 スフィンクスはそんな緊張気味の桃子に少しばかり目を細めて苦笑すると、そのまま続いて桃子に背負われているリュックに視線を向ける。

 白い砂漠ポンチョと同様の白布を被せられた、断熱性の高い砂漠リュック。その中には、水筒とドライフルーツ、そしてシートにくるまれたサボテンの葉が入っているはずだ。

 

『モモコ。その鞄の中身は何が入っておる? 何やら甘い香りであるの』

 

「あ、それならきっとドライフルーツです! ええと、スフィンクスさんも食べますか?」

 

「ヘノが。作ったんだぞ」

 

『ほほう、風の妖精というものは人の食料を作れるのか? 種類も色々と入っておるようだの。我にも見せてくれぬか』

 

 甘い香り。それはもちろん、今日の非常食代わりに持ち込んでいるドライフルーツだろう。リュックにはサハラ砂漠で収穫してきたサボテンの葉も入っているが、少なくともサボテンの葉は甘い匂いはしなかった。

 桃子がリュックを開いて中から幾つかのドライフルーツの入った袋を出し、スフィンクスに見せてみる。

 サイズ的には、このドライフルーツなどスフィンクスにとっては飴玉ひとつ分にも満たないだろうが、桃子はドライフルーツを取り出してスフィンクスに差し出してみた。

 するとスフィンクスは、ぺろりと桃子の手からドライフルーツを舐め取り、口の中でモゴモゴと味わい始める。彼女の体躯からすればゴマ粒のような大きさしかないドライフルーツだが、それでもきちんと味わうことはできているようだ。

 

『悪くないの。我は他の味も所望するぞ』

 

「あの、じゃあ……これ、どうですかね! 小さいけど、サハラ砂漠でとれたデーツ……ええと、ナツメヤシの実なんですよ」

 

 桃子はスフィンクスがドライフルーツを褒めてくれたのが嬉しかったのか、先ほどまで緊張していたのが嘘のように、今度はドライフルーツをスフィンクスに売り込み始める。

 基本的に、桃子は警戒心が薄いのだ。ドライフルーツというきっかけさえあれば、自然とスフィンクスにも心を開きつつあった。

 

 

 そして、食べ物の話題で場が温まれば、桃子には伝家の宝刀がある。

 日本人なら誰でもそれが大好きで、妖精たちもそれが大好きで、化け狸だってそれが大好き。

 いったいそれは何なのか。そう、それは至高のスパイス料理、カレーの話題だ。

 

「なんだ。すひんくす。物知りなくせに。カレーを食べたこと。ないのか」

 

『カレーか。知ってはおる。知ってはおるが、我は知識こそあれど、実物は見たことがないのだよ。この部屋から出ることも叶わぬ身だからの』

 

「そうなんですか?! 勿体ない、人生……じゃなくて、スフィンクス生? の半分は損してると思います! 勿体ない!」

 

『そ、そうかの……?』

 

 リドルが思考に沈み、記憶の海へ潜っているその横では。

 桃子がカレーについて熱弁し、ピラミッドの守護者たるスフィンクスに、少しばかり引かれているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある鍵の記憶】

 

 

『この石鍵には、人を導くための意思が宿っているのだね。意思があるならば、名前を持つべきでは、ないかな?』

 

『この謎に満ちた地下遺跡の鍵、つまり謎そのものの象徴だ。故にキミの名は――リドル、というのは、どうかな?』

 

 

 

『リドル。どうだろうか、僕の分析は間違っていると思うかい?』

 

『聞いてくれよ、リドル。学会の連中は嘆かわしいことに、ロマンを失くしてしまったのさ。謎を解こうともしない』

 

『リドル、その罠の性質なのだがね――』

 

『なあリドル、スフィンクスにどうにか下着を着用してもらえないか――』

 

『リドル、これは永久の謎さ。目玉焼きには、はたして何をつけるべきか――』

 

『ごらん、リドル。あそこに新しい謎が――』

 

『リドル――』

 

 

 

 

『リドル。君はいつの日か、鍵という役目から解き放たれ。自分の心で自由に動けるようになる日が来るのでは、ないかな』

 

『今まで、ありがとう』

 

『キミという相棒と会えて、楽しかったよ……リドル』

 

 

 

 

『きょうじゅ……どこ……きょうじゅ……』

 

『ククク……これはまた、珍しい妖精だねぇ? もう消えかけているじゃあないか。名前は……あるのかい?』

 

『ボクは……なに? リドル……?』

 

 

 

『ククク……今はゆっくり、眠るといい。キミの探しものはもういないけれど……妖精の国なら、全て忘れて、穏やかに過ごせるはずだからねぇ……』

 

『忘れ……ボク……』

 

『……やれやれ、難儀なものだねぇ』

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