ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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萌々子ぬらりひょん

「ええと……『皆さんで食べてください。庭園をずーっとまっすぐ反対側に行くと、炊事場があります。もし食べるものがなければ、行ってみてください』っと」

 

「桃子。どうせ。座敷童子になりきるなら。名前も書いておいたら。どうだ」

 

「うー、なんか自分でそれを名乗っちゃうのはちょっと抵抗があるんだけどなあ。まあ、その方が好都合だもんね。『ざしきわらしより』っとぉ」

 

 

 桃子とヘノの二人は現在、見知らぬ探索者たちと共にお昼寝をしていた。

 いや、正しくは『見知らぬ探索者に紛れこんで』ちゃっかりお昼寝をしていた。

 更にもう少し具体的に言うならば、庭園を抜けた先にあった部屋で、ヘノの言っていた通り複数の探索者たちが見張りを立てて休息していたので、胸元にヘノを隠して勝手に室内に入り込み、そして勝手に一緒に休憩していた。

 桃子とて、休息するときは見張りがいる場所のほうが安心できるのだ。

 ヘノが共にいると【隠遁】の魔力を乱すとはいえ、人目を引く巨大ハンマーも持たず、ただ静かに過ごすだけならばそうそう気づかれることもなかった。

 

 もはや座敷童子というより、ぬらりひょんの所業である。

 

 

 横になるついでに会話を聞いていたところ、探索者たちはマヨイガで迷っているわけではなく、何かしらの事情があってマヨイガを探索しているようだった。見れば、廊下の壁などに、帰り道の印であろう剣で切りつけたような矢印が残っていた。

 ヘノは興味本位でその矢印を逆に辿っていってみたのだが、どうやらあまりにもルートが滅茶苦茶すぎて、途中で辿るのが嫌になって帰ってきたとのことだ。

 梁の上を歩かせるヘノちゃんのルートも滅茶苦茶なんだけどな、と、後程それを聞いた桃子は頭のなかでツッコミをいれた。

 

 そしてヘノが探索をしていた一方で、桃子は一緒に休憩させてもらったお礼として、差し入れのおにぎりをお皿に並べていた。

 

 というのも、見張り役の探索者たちの会話に聞き耳を立ててみたところ、何かしらのトラブルで携帯食が尽きてしまったようで、彼らはちょっとした食糧難に陥っていたのだ。

 端末の不調なのか、上層の仲間との連絡もつけられなくなっているらしい。

 彼らも先ほどヘノが拾ってきたものと同じ小さい木の実で飢えを凌いでいるようだが、あれだけでは腹の足しにもなるまい。

 

 そういうことならと、桃子は余っているおにぎりを差し入れすることに決めた。

 先ほど炊事場からついでにと拝借していたお皿の上におにぎりを並べていく。お皿はこのままここに置いて行っても構わないだろう。

 

 普通に考えれば、知らぬ間に出現したおにぎりなど警戒対象であり、決して口に入れるようなことはないだろうが、そこは例の噂を逆手に取ることにした。

 そう。いつの間にか話題になってしまった『座敷童子の萌々子ちゃん』である。

 座敷童子を名乗る書置きさえあれば、萌々子ちゃんからの差し入れとして、受け入れてくれるのではないか、という作戦だ。

 桃子としては不本意な噂を利用することには複雑な気持ちもあるが、実際に萌々子ちゃんの正体は自分なのだ。噂を有効利用するくらいは許されるだろうと、自分を納得させた。

 

「よっし、おにぎりも並べたし、念のための水袋も置いておいたし。書置きも書いたから、きっと大丈夫だよね」

 

「大丈夫だろう。カレーのおにぎりは美味しいから。こいつらも。喜ぶんじゃないか」

 

「うん、だよね。じゃあ……ちょっと眠って頭もすっきりしたし、私たちはお暇しよっか。今日はそろそろ妖精の国に帰ろうねえ」

 

 水とおにぎりを置くだけ置いたら、物音を立てないように静かにリュックを背負いなおして、庭園へと歩き出す。

 数分後におにぎりが発見され、部屋でちょっとした騒ぎになるのだが、桃子は知る由もない。

 

 

 

 

「よいしょっ……っとぉ。到着ー」

 

 色とりどりの花々が見渡す先まで咲き誇っている、不思議な場所。

 探索者たちは、妖精の花畑だとか妖精の花園だとか様々な名称で呼んでいるが、つまりはヘノの本拠地、妖精の国である。

 

「桃子が力持ちで助かったぞ。米俵なんて。ヘノたちは持って帰れないからな」

 

 マヨイガの庭園を抜けた帰り際、桃子たちはせっかくなのでと炊事場にあった米俵を2つほど抱えて持って帰ることにした。

 米俵は桃子の体格では非常に大きく、重量はともかくバランス的には2つが限界だった。

 桃子は昔の農家のお婆さんがいくつもの米俵を抱えている写真を見たことがあるが、あのお婆さんたちは物凄いバランス感覚だったのだなと、桃子は過去のお婆さんたちに尊敬の念を抱く。

 

 なにはともあれ、調理室に米俵を運びこんだ。

 白米ではなく玄米ではあるが、これでしばらくは妖精の国でもご飯を炊くことができる。

 妖精たちは不思議な形の大きな物体を興味津々で取り囲んでいるが、また後程ご飯を炊いてみたら、きっと妖精たちは大騒ぎになるのだろう。

 

 そして、米俵を運び終えて女王ティタニアの間へと足を運ぶ。

 

 

「こんにちは、ティタニア様。本日もお邪魔しております」

 

「どういうことだ桃子。邪魔をするなら帰るぞ。女王はこれでも。忙しいんだからな」

 

「いや、言葉の綾だから、そういうことじゃないからっ」

 

 女王の間。

 

 女王ティタニアは以前と変わらず、大きな花の玉座に腰かけて、二人の訪れを待っていた。

 しかし来て早々唐突に始まった二人のコントのようなやり取りには女王ティタニアは目を丸くして、そしてすぐにクスクスと笑顔を見せる。

 

「ふふふ、仲がよさそうで何よりです、桃子さん。ヘノもほら、桃子さんは邪魔なんてしませんから大丈夫ですよ」

 

「そうか。良かったぞ。桃子が女王に嫌われたら。ヘノはとても。困ってしまう」

 

「あはは……ありがと、ヘノちゃん」

 

 二人を楽しそうに眺めていた女王ティタニアだが、しかしいつまでも笑っていても仕方がない。

 コホンと咳払いひとつして、真面目な声を作る。

 

「ところで、話は聞いておりますよ。本日は遠野ダンジョンで桃子さんの修行だったとか。修行の成果は如何でしたか?」

 

「あっはい、ええと……なんとなく、コツをつかめた……かな? っていう感じです、かね」

 

 修行について思い返すと、ひたすら一反木綿を追いかけまわした覚えしかない。

 が、どこまでヘノの想定通りだったのかはわからないが、ひたすら走り回ってモンスターを相手にしたのも思い起こせば実は今日が初めてだ。

 一撃離脱、とは少々……いや、かなり違う形ではあるが、何かをつかめたような感覚は確かに、あった。

 

「女王。桃子はすごいぞ。布切れを沢山つぶしたし。カレーおにぎりを作ったし。鳥人間も倒したし。あと。マヨイガに居た連中におすそ分けをしたんだぞ」

 

「まあ、色々あったのですね。マヨイガに居た連中……とは?」

 

 ヘノの要領を得ない質問にもうんうんと頷く女王だが、ヘノの付け加えた最後の言葉に反応して、ヘノではなく、桃子のほうを向いて聞き返す。

 まだ話したそうなヘノだったが、仕方ないので桃子に発言を譲る。

 

「あ、えとですね。マヨイガにお腹を空かしている探索者の方々が居りまして、作ったおにぎりを差し入れしてきたんです。もちろん、姿は見せていないので大丈夫ですよ」

 

「あいつら。なぜか腹を空かしているのに。マヨイガの中にいたんだ。帰ればいいのにな」

 

「なるほど。もしかしたら、数日ほど前から遠野のダンジョンに瘴気が集まっておりましたから、また何かあったのかもしれませんね」

 

「瘴気……」

 

 そういえばいつぞやも、ヘノが『瘴気』というものについて口にしていた。

 ダンジョン内の魔力ならば、人間のほうでも理解が広まってきたし、技術の進歩が進んである程度は感知や制御ができるようになっているが、瘴気というのは桃子は聞いたことがなかった。

 効く限り、ニュアンスとしてあまり良いものではなさそうだが。

 

「桃子。瘴気というのはな。悪いやつのことだぞ。ダンジョンの魔物は。悪い瘴気が籠っているから。人間を襲うらしいぞ」

 

「へぇ……そうなんだ?」

 

「妖精ならばともかく、人間の桃子さんには感じ取るのは難しいでしょうから、あまり気になさらないでも大丈夫かと思いますよ」

 

「ところで女王。今日はなんと。お米があるのだ。カレーライスと。カレーおにぎり。今日はどちらが食べたい」

 

「あら、おにぎり……ですか?」

 

 桃子が考え込んでいる間に、ヘノと女王は瘴気の話からおにぎりの話にシフトしてしまった。

 どうやら妖精たちにとっては、瘴気というのはわざわざ話題にするほど大層なものではないらしい。

 むしろ、おにぎりのほうが重要な話題のようだ。

 

「っていうかヘノちゃん、敬語つかおう敬語」

 

「敬語は。むずかしい。ですぞ」

 

「なんか違うなあ……」

 

 ヘノの語尾が子供むけ番組のキャラクターみたいになってしまった。

 

「ふふふ。では桃子さん、ヘノ。せっかくですし、今日は私もカレーおにぎりというものをお願いしましょうか。おにぎりというのは食べたことがありませんから」

 

「だそうだぞ、桃子。じゃあさっそく、玄米を炊くぞ。善は急げだ。急ぐぞ」

 

 そう言うと、女王や桃子を置いてさっさと部屋を出ていこうとするヘノ。相変わらずのせっかちだった。

 桃子も慌ててヘノを追いかけようと踵を返すが、思い出したことがあって女王に振り替える。

 

「あっそうだ女王様、お肉って大丈夫でしょうか。カレーの具として冷凍のお肉を持ってきちゃって……」

 

「お肉、ですか? はい、大丈夫ですよ」

 

「桃子。ずっと昔の。妖精の国には。食べても生き返る。豚がいたらしいぞ」

 

「ええっ?! なにそれ……こわ……」

 

 意外と肉食な妖精たちの返答に目を丸くするが、さっさと行くぞというヘノの声に急かされた桃子もヘノを追いかけていく。

 

 そんな二人を、女王は目を細めて微笑んで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野ダンジョン専用 場末の雑談スレ】

 

 

:二層のタケノコ貰ったけど、あれって普通のタケノコみたいに食べればいーの?

 

:アク抜きしっかりしないと食えたもんじゃない

 

:酒のつまみにいいぞ

 

:そりゃ普通のタケノコも一緒だな

 

:緊急 撤退アラートきた

 

:第二層のタケノコはやっぱ普通のタケノコよりも美味しかった気がする

 

:第三層 深淵渓谷からの撤退アラートきたんだが

 

:マジか

 

:↑タケノコじゃなくて、アラートへのレス

 

:アク抜きって米ぬか使うんだったけ

 

:親の仇より聞いたアラート また鵺でたのか

 

:いま潜ってるやつ大丈夫? 今週は萌々子ちゃん騒ぎで人が増えてるんじゃないの?

 

:増えてるのは二層までだろ さすがに第三層まで潜ってるやつはそんなにいない

 

:うそだろ 今回何も前兆なかったじゃん

 

:ほら、こないだ深援隊が第三層の敵を狩りつくしたから、前兆行動みせる妖怪が少なすぎてわからなかったんじゃないかって

 

:サカモトぉ! お前のせいかよ!

 

:まあ今回も遠距離チクチク作戦で1、2週間くらいか

 

:渓谷の主、鵺。定期的に出現する大妖怪。滅茶苦茶強いが崖上までは登れないので、史実どおり遠隔からの攻撃が有効。

 

:急にどうした

 

 

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:悲報 第三層崖下まで降りてた探索者7名が帰還できず

 

:鵺がいて上層に戻れずマヨイガに避難したらしい

 

:なんで7人も降りてたの

 

:ほら、こないだ深援隊が第三層の敵を狩りつくしたから、第三層を探索するなら今しかないって

 

:サカモトぉ! お前のせいかよ!

 

:全部原因がサカモトで草

 

:まあマヨイガのほうが敵は弱いっていうし、命の危険は少ないだろ

 

:あそこ食べ物あるのか?

 

:ちょっとヤバいかも

 

:タケノコの話続けていーい?

 

:うるせーキノコ投げつけんぞ

 

:ここで戦争をするな

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