ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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良き旅路を

「やったか?」

 

 ヘノが発したそれは、柚花が聞けば「フラグやめてください!」などと叫びそうなものだったが、しかし爆発の煙の中で、バジリスクを本当に倒せたかどうかも不明な状況では、そのような台詞が飛び出るのも仕方がない。

 桃子の。ヘノの。そして、石と化した妖精たちの魔力を吸い上げた鵺の魔石は、恐ろしい程の破壊の力を生み出した。

 それは、既に頭部に怪我を負っていたバジリスクに致命傷を与えるには十分なものだったはずだ。いかなバジリスクでも絶対に倒せていると、桃子とヘノは確信している。

 それでも、実際にその眼で確認するまではわからないのが、ダンジョンの魔物というものだ。

 

 魔力の爆発の影響で、バジリスクの周囲にあった円柱は崩れ落ち、所々で石壁が崩壊している。猛烈な砂煙も巻き起こっていたが、しかしそれもすぐに薄くなり、視界がひらけていく。

 そして、砂煙の中から現れたのは、動くことを止めた。巨大な、巨大な、蛇の亡骸であった。

 

「……倒した……」

 

「ああ。倒した。倒したぞ。桃子。すごいぞ」

 

 ヘノと二人、恐る恐るその巨大な蛇の身体に近づいてみるが、それは既に動いていない。魔力を視認できるヘノの目から見ても、瘴気の名残こそあれ、それが動くようには思えない。

 桃子が蛇の頭のあった個所へと目を向けると、見事に首から先が消えていた。断面にあたる部分は凍り付いており、首を斬られて冷凍された蛇は、何となく異国の食料品店を思わせる。

 更によく見れば、その断面から徐々に黒い煤となって、少しずつ消えていっているのがわかった。

 

「煤に……煤になってる! 倒した、倒したんだよ! ヘノちゃんが鏡で倒してくれたんだよ! あの時私、負けたと思ったもん!」

 

「倒したぞ。でも。この蛇は。ヘノじゃなくて桃子が倒したんだ。すごいぞ」

 

 何度目かの同じようなやり取りを繰り返してから、桃子もヘノも、ようやく巨大なバジリスクを打倒したのだということを実感する。

 砂園教授がバジリスクの片目を無力化し、石化してなお鏡の盾を構えていてくれなければ勝てなかった。石像と化した先達たちが命を賭して情報を残してくれなければ勝てなかった。和歌と親方が鏡の盾を作ってくれなければ勝てなかった。妖精たちが力を貸してくれねば勝てなかった。決してこれは、自分たちの力だけではない。

 けれど今は、ヘノと桃子、二人は間違いなく英雄だ。他に誰もいないこの場所で、互いを褒め称えることくらい許されるだろう。

 

「そうだ、みんな、みんなは?!」

 

「桃子。服の中だ。桃子の服が。もぞもぞ動いてるぞ」

 

 そしてようやく、脳内麻薬で麻痺していた思考回路が動き出した。

 あくまで結果的に、桃子たちは第四層に住まう強大な特殊個体、バジリスクを討伐出来た。

 だが、元々は討伐を目的としてここを訪れたわけではないのだ。桃子たちは、仲間であるリドルを連れ帰るために追いかけて来ただけなのだ。

 しかし、そのリドルが。そして桃子と共にリドルを追いかけてここまでやって来たフラムが、ノンが。彼女たちがバジリスクによって石と化してしまったからこそ、それを救うために戦いを選ばざるを得なかった、というだけである。

 

 そしてその肝心の妖精たち。彼女らが呪いで変化した姿である小さな魔石は、戦いの余波で傷つかないようにと桃子が己の懐にしまっていた。

 その呪いが解け、桃子の服の中で妖精たちがモゴモゴと動き出している。

 

「おーい! なんだこれ! 出してくれ! 狭いぞ!」

 

「ここは、どこかの布の中だねぇ。暖かくて、なんだか覚えのある匂いがするよぉ」

 

「なるほど、謎は解けたよ。ボクは石化していたのでは、ないかな? しかしここは、どこだい?」

 

 三者三様の反応を見せて、桃子の着衣のポケットの中で妖精たちが外へ脱出しようと動きまわる。

 彼女らが無事だった嬉しさと、そして彼女らに刺激されるくすぐったさが混じり合い、桃子はついその場で大きく笑いだしてしまう。

 笑いながら、その瞳からは涙も零れ落ちる。

 

「あはっ、くすぐった……あははっ……みんな……良かった、良かったよぉ……あはははっ……ひぃっ……」

 

 笑いながら、泣きながら、どうにか服から抜け出そうと動き回る妖精たちをポンチョの下から一人ずつ出していく。

 フラム、リドル、ノンの三人が全員元の姿のまま桃子の懐から出てきて、ようやく。

 

「良かったぞ。これでようやく。帰れるな」

 

 暗く冷たい、地下遺跡に。

 ようやく暖かい空気が、戻ってくるのだった。

 

 

 

 

「でも、教授は……まだ石のままなの?」

 

 妖精たちが元に戻ったのはいいのだが、しかし助けに来たはずの砂園教授の石像の元へと戻ってみれば、相変わらず教授は石のままだった。

 まさか手遅れだったのではと考えて桃子は顔色を青くするが、しかし妖精たちは何も心配していない様子で、教授の頭にのったり、鏡の盾とにらめっこしたりしている。

 どういうことなのかと、桃子は妖精たちの中でも一番まともな説明を期待できそうな大地の妖精、ノンへと視線を向けた。

 

「人間は身体も大きいし、魔力で出来てるわけじゃないから、呪いが解けるまで時間がかかるんだよぉ。でも、ちゃんと命はあるから、大丈夫だねぇ」

 

「あ、そういうことなのか。うん、ノンちゃんが言うなら間違いないね! よかったー」

 

 ノンは、大地の属性を持つ妖精で、鉱石なども司っている。

 なので、呪いによる石化に対しても、他の妖精たちよりも詳しくその状況を読み取ることが可能なのだ。

 そのノンが大丈夫というならば、大丈夫だ。桃子はようやく、教授も元の姿に戻れるのだと理解して、安堵の息を吐く。

 

「これから先、石化のことはノンに聞けばいいのでは、ないかな?」

 

「さすがノンだな! まるで石化の博士だな! 石化のノンって呼ぶか!」

 

「うーん、なんだかあんまり嬉しくないよぉ」

 

 桃子の耳に届く、砂園教授の石像を取り囲む妖精たちの相変わらずの珍妙なやり取りが、今は非常に心地よかった。

 そして、心に余裕が生まれたことで、桃子はその謎に気づくことができた。

 

「あれ? ……そういえば、ここにいるのって砂園教授だけなのかな?」

 

「そうだね。この場にいる石像は、鏡を構えた教授だけでは、ないかな?」

 

 桃子は周囲を見回してみる。

 倒れた柱や崩れかけた壁などでボロボロになってしまっているが、少なくとも教授のような石化した人間の姿というものは見当たらない。

 

「そうだねぇ。他の石像の反応は、この近くにはないよぉ?」

 

「なんだ! 何かあったのか!」

 

「あ、ううん、なんでもないの。なんでもないんだけど……」

 

 桃子が感じた違和感。

 

 教授は鏡の盾を作った。それは何故かといえば、石化の邪眼を持つバジリスクがいたからだ。当然だろう。

 では、教授はいつ、どうやってバジリスクの存在に気づいたのだろうか。

 過去の探索者たちの成れの果てを目撃して気が付いた、とも考えられるだろう。

 けれど、それならばその場で引き返すべきなのだ。わざわざ奥までやってきてから即興の鏡の盾を作り、不利な戦いを挑む必要など無いはずだ。

 

 では、なぜ教授は、即興の鏡の盾を作るに至ったのか。どうやって、石化の視線のことを知ったのか。

 それは恐らく。教授が鏡の盾を作るより前の時点で、石化の視線による襲撃を受けたと考えるべきなのだ。

 石化の視線を持つバジリスクに追い詰められたからこそ、身を守るためには戦わざるを得なかった。その場にある道具だけで即興の鏡の盾を作り、バジリスクに挑む必要があった。

 そうは考えられないだろうか。

 

 でも、この場には教授しかいない。他の仲間は、スフィンクスの間に揃っている。

 

 そこで更なる謎だ。

 そもそもこの場所からスフィンクスの間まで、かなりの距離がある。石化の呪いに蝕まれた身体で、彼らはどうやってあそこまで移動できた?

 それに、バジリスクは初手で出入り口を塞いでくる狡猾な魔物だ。そう易々と獲物を逃すものだろうか。

 

 リドルは気づいていないが、これはまさに、謎だ。

 

「桃子。どうした。教授を運んで行くの。やっぱり無理そうか?」

 

 しかし、相棒たるヘノの声で、桃子の思考は中断される。桃子は我に返る。

 今は教授を運ぶのが先決だった。少なくとも、この謎は今すぐ解かなければいけない謎ではないだろう。それこそ、意識を取り戻した教授が解いてくれるかもしれない。

 ならば、この謎は、今日のお土産として持ち帰ろう。

 

「ごめん、ちょっと考え事してた。教授も、流石にここに置いていくわけにもいかないしね。私が抱えていくよ」

 

 桃子は気を取り直す。

 

 教授の呪いが解けるというのならば、次はこの砂園教授の像を持ち帰らねばならない。

 だが、この名もなき第四層には砂漠を走るカートのような便利なものはないため、必然的に教授は桃子が運んでいくことになる。

 正直なところ、先ほどの戦いで魔力をほぼ使い果たしているので【怪力◎】を行使するのもなかなか大変なのだが、現状では桃子が頑張るしかない。

 

「前から抱き抱える……のはちょっと難しいかな。背中に背負ってみるのはどうだろう、こんな感じ……かな?」

 

 教授の抱えていた鏡の盾は、申し訳ないけれどこの場に残して行くことにする。

 この鏡の盾もバジリスク打倒の一環ではあったので、置いていくのは勿体なくも思う。しかし、運び出すにあたり本当に邪魔なのだから仕方ない。

 盾をどかして、前から抱き抱えたり、背中に背負ってみたりと試行錯誤していたのだが、とある角度で驚くほどに教授の石像が桃子にフィットした。

 桃子の背中の、少し上よりに教授を乗せる。いわゆる「おんぶ」だ。

 

「桃子。それが一番。ちょうどいいんじゃないか」

 

「すごいな! なんだか! 姿勢がピッタシじゃんか!」

 

「あ、意外に運びやすい……」

 

 驚いたことに、教授が盾に手をかけていた姿勢が、そのまま桃子の肩に手をかける形になって、それがまたピッタシであった。桃子はかなり前屈みで歩く必要はあるが、それはこの際仕方ないことだろう。

 背負っていたリュックはフラムが持ってくれた。妖精の身体に対して桃子のリュックはかなりの大きさがあるが、どうやらフラムは妖精たちの中では力自慢なタイプらしく、桃子のリュックを持ちあげて浮遊するくらいは問題ないようである。

 リュックをフラムに任せ、改めて、地面に屈んだ姿勢のままの教授を桃子が背負う。

 足の部分が不安定だが、これはリュックからロープでも取り出して支えるように縛り付ければ、多少は楽になりそうだ。

 

 その後、桃子と妖精たちがあれやこれやと話し合いながら、細身のロープ紐を教授の身体に巻き付けていたのだが。リドルは横からそのやり取りを観察して、何やら独り言ちていた。

 

「聞いたことがあるよ。昔はそのようにして、年寄りを山に、運んでいたのでは、ないかな?」

 

「なんだそれ。年寄りを山に運んで。どうするんだ?」

 

「ある国の統治者がだね。年寄りを――」

 

「まって、その話はやめよう! なんか、人聞きが悪いから」

 

 恐らく、リドルが言っているのは、姥捨て山という物語のことだろう。

 老人を口減らしのために山に捨てる話で、あくまで創作であり実話ではないと言われているが、なんにしても人聞きが悪い。今の状況が桃子が教授をダンジョンに捨てに来ている絵面になってしまう。

 そうでなくとも、無駄に妖精たちのなかで人間の印象が悪化しそうなエピソードを広めないでほしい。

 リドルが色々と見聞きして知識を得るのは構わないのだが、一体どこでそんな物語の知識を覚えたのかと、桃子は首を捻る。

 

 なお、リドルに変な物語の知識を与えた犯人は、桃子の背中で石となって揺られているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 教授を背負って歩いていくと、桃子たちは一つの通路に出た。

 そこは、教授たちよりも以前に、ここへとやって来た勇敢なるものたち。過去の探索者たちがバジリスクと遭遇してしまい、彼らの最期となった場所だ。

 通路には、石が転がっている。見る人が見ればわかるだろう。石化した人々の成れの果てが、幾つも転がっていた。

 

「彼らは、ボクとスフィンクスが、この第四層へと送り出した者たち、なのだね……」

 

 リドルが、小さく呟いた。

 

 風化し、砕けた石の数々。呪いが解けたとしても、その身に命の灯が灯ることは既にない。それが、通路に散乱しているのだ。

 石となっても鏡の盾で身を護り続けていた砂園教授とは違い、彼らは石となって尚、バジリスクに蹂躙されたのだ。仮にこのまま石化が解けたとて、そこには命を失った骸が残るだけである。

 

 しかし、桃子はそこで目を見開く。

 

「あ……」

 

 暗く、冷たい通路に。

 いくつもの暖かい光たちが、集っていた。

 

 彼らは、人に戻れなかった彼らは、桃子たちが訪れるのを待っていた。

 

 桃子は、彼らを救えなかった哀しみで言葉を失い。リドルは過去、鍵として送り出した彼らに対する悔恨の念で表情を歪める。

 だがしかし、そのまばゆい光たちは、桃子たちを責めるでもなく。その周囲を優しく照らすようにぐるりと一回りすると、そのままゆっくりと上昇を始める。

 そして、遺跡の天井をすり抜けるように。そのまま上へ、上へと消えていってしまう。

 

 桃子には、彼らの伝えたい言葉は聞こえなかった。見ることはできなかった。けれど。

 

「桃子。リドル。泣かなくていいぞ。お前たちは。助けたんだ」

 

「そうだよぉ。きっと、ありがとうって、言ってるんだよぉ」

 

「こういう空気、苦手なんだよ! 笑って見送れよ! 二人とも!」

 

 妖精たちの言う通りだ。

 石の身体に縛り付けられていた彼らは今、ようやく、人として旅立てたのだと。そう信じて。

 

 桃子は、彼らの良き旅路を。心から、願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【砂丘ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:いまキャンプにいるやつみんな外に出て見上げてる(写真添付)

 

:なに? 何かあったの?

 

:みんなで夜空を見上げててなんかシュールな写真だな

 

:キャンプ上空(動画添付)

 

:なに、これ 光の玉? 沢山あるけど

 

:空に昇っていってる これは魔物とかじゃないよな?

 

:現地でみてる。魔物じゃない。絶対違う。なんかわかんないけど、あれはそういう悪いものじゃない。

 

:それ、第一層に上っていったのか。第二層でもさっきそれ見たよ。ピラミッドの入り口から出て来たんだよ。

 

:メジェド様がピラミッドに向かっていってからかなり時間たってるけど、関連あるのかな

 

:わからんけど、ほぼ見えないくらい遠くに行っちゃった(動画添付)

 

:確証もないけど、映像見て思ったこと言っていい?

 

:どうぞ

 

:これ、魂だと思う。爺ちゃんが死んだときにも見たんだ。不思議な光が婆ちゃんに挨拶してから、空に昇っていったんだよ。

 

:そうか、そうかもな

 

:だとしたら、あれって今まで戻って来られなかった探索者たちなのか

 

:教授もあの中にいたのかな

 

:それ早く言ってくれよ 驚いて逃げちゃったよ おかえりって言うべきだったんだ・・・

 

:今さらだけどさ。おかえりなさい、お疲れ様。

 

:そして、良き旅路を

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