ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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討伐と撃退

「桃子。昨日はひどい目にあったけれど。ちゃんと眠れたか」

 

「んー……あと五分だけ……」

 

「ダメだぞ。女王のところに。顔を出すんだからな」

 

 妖精の国の朝。

 マシュマロふわふわベッドで目覚めた桃子は、寝起きだというのに非常に疲れた様子だった。

 ふわふわベッドは非常に寝心地が良く、身体の疲れというものは吹き飛んだのだが、なにぶん精神が疲れていた。

 

「私、永遠におにぎりを作る悪夢を見てたよ……」

 

「残念だが。それは現実の記憶だぞ。桃子」

 

「んー、ヘノちゃん……私、次からはここで作るのはお鍋いっぱいのカレーにするね……」

 

「それがいいぞ。ほら桃子。しっかりしろ。裏の水場で。水でも浴びてこい」

 

「ふぁい……」

 

 

 桃子が語った悪夢というのは、まさに昨日の夕飯のことだった。

 

 女王のリクエストを聞いて、おにぎりを振る舞おうとしたのが今思えば間違いだったのだ。

 桃子とヘノにとって、忘れられない夕食になった。

 

 

 何があったのかを、簡単に説明するとこうだ。

 

 

 まず、鍋で玄米を炊く。

 水の量や火加減などは端末である程度の情報を調べてから行ったので、そこはさほどの苦労はなかった。もちろん、納得いく炊き加減だったかどうかは別として。

 時短として、その間にカレールーを削って粉末状にしておく。

 さらに、ちょっとした具としてお肉も隣でしっかり炒めておく。これをご飯の上から振りかけることで、簡単に肉カレーおにぎりを量産しようという作戦だった。

 

 だが、目論見が甘かった。

 

「おにぎりっ! ちょうだい!」

 

「ククク……ひとつ……もらおうかねぇ」

 

「うぅ……カレーおにぎり……食べたいですぅ」

 

 最初のうちは良かった。妖精も一人一人個性があって可愛かったし、おにぎりを渡していく作業が楽しかった。

 みんな喜んでおにぎりを受け取ってくれた。

 

 しかし、時間が過ぎていくと……。

 

「ずいぶん並んだヨ。おにぎり食べたいヨ」

 

「ういーっく、お酒飲みすぎちゃった♪ おにぎりちょうだい♪」

 

「おかわり! おかわりほしいぞ!」

 

 小さく玄米をよそって、上からお肉とカレー粉をかけて、光っておにぎりになるから、渡す。

 小さく玄米をよそって、上からお肉とカレー粉をかけて、光っておにぎりになるから、渡す。

 小さく玄米をよそって、上からお肉とカレー粉をかけて、光っておにぎりになるから、渡す。

 小さく玄米をよそって……以下略。

 

 終わらない。いつまでたっても列が短くならない。

 

 なんならおにぎりを食べ終えた妖精が再び並んでいる。明らかに自分の体積より多くのご飯を食べている。

 

 最終的に、お米も何度も炊き上げて、米俵はまるっと1つ消費した。肉は序盤のうちになくなった。カレー粉も途中でなくなったので、最後のほうは具もなにもないおにぎりを桃子がひたすら手で握っていた。

 とにかく、延々と妖精がおにぎりを欲しがるので、最終的には半ギレになったヘノにより、食べたい妖精が自由に鍋からご飯を持っていくシステムに変更され、桃子は解放された。

 

 

 

「おはようございます、桃子さん。昨日は妖精たちが大変ご迷惑をおかけしました」

 

「いや、疲れはしっかり取れました。大丈夫です! 妖精の子たちは悪くありませんから!」

 

「女王。次からは。おにぎりは禁止にするぞ。カレーにしよう」

 

「ヘノちゃん、余計なこと言わないでいいのっ。あと敬語使おうね」

 

「カレー。ですぞ」

 

 女王の間。

 

 女王ティタニアはいつものように大きな花びらの玉座に座り、二人を迎えいれた。

 もはや定型文のようなやり取りを繰り広げる桃子たちにクスリと笑ってから、本題に入る。

 

「数日前からの瘴気について調べてみましたが、マヨイガの上層にて、強力な魔物が出現しているようです」

 

「あいつか。ヘノは。あのヌエとかいうやつ。大嫌いだ」

 

「鵺?! あ、そうだよね。遠野ダンジョンって鵺が定期的に現れるんだよね、私も聞いたことがあるよ」

 

 ヘノの不快そうな言葉を聞いて、桃子もその魔物について思い出す。

 

 マヨイガの上層と言えば、深淵渓谷と呼ばれるダンジョンだ。

 常に薄暗い渓谷で、探索者は足場の悪い大きな崖を下っていく必要がある。

 その悪条件の中で、空を飛ぶ妖怪の数々や、岩場をものともしない俊敏な魔獣たちが襲ってくるという難所だ。

 

 そしてその渓谷において探索者たちの大きな障害となるのが、『鵺』と呼ばれる、古くは平家物語にも描写されている大妖怪だ。

 猿や虎、狸、蛇など様々な獣が融合した魔獣のような姿で描かれることが多く、文献によっては雷を操る雷獣の一種として説明されている。

 ダンジョンに出没する鵺も、様々な獣の融合した姿で、また黒煙や雷を操り、まるで古くから抱かれてきた畏怖の念が形になったかのようだった。

 

「第三層に鵺がいて、探索者さんたちは第四層から上がると危険……ああ、そういうことか! 昨日の探索者さんたち、戻るに戻れない状態なんですね」

 

「どういうことだ。昨日の連中が何かあったのか?」

 

「おそらくは桃子さんの想像の通りでしょう。第三層にて鵺と接敵してどうにか逃げてきたのが、昨日出会ったという探索者の方々のようですね。今は、桃子さんのおかげで相当落ち着いているようですが」

 

 つまりは昨日の探索者たちは、第三層に鵺が現れたため、仕方なくその下の第四層、マヨイガへと避難していたのだった。

 そうだとすれば、食料がなくなっても帰れない。それどころか水と食料を求めて内部の探索を続けていたのだろう。

 いつからそうしていたのかはわからないが、昨日気まぐれであげた食料は、彼らにとっては九死に一生を得たものだったのかもしれない。

 

「とはいえ、彼らとていつまでも帰れないわけではありません。鵺が現れれば人間たちが討伐隊を派遣しますから、いつも通りでしたら10日もあれば討伐……いえ、撃退できるとは思いますが」

 

「あの、ティタニア様。討伐じゃなくて、撃退なんですか?」

 

 討伐と撃退。女王ティタニアの言い方に疑問を持った桃子が質問する。

 桃子の知る限り、遠野ダンジョンの鵺は定期的に出現こそするものの、そのたびに討伐隊によって討伐されていたはずだ。

 しかし、女王の口ぶりだと、実際には討伐されていないように思えた。

 

「桃子。人間たちは。弓や魔法で。遠くから攻撃してるけど。あれだけじゃ鵺は死なないし。それどころか。あいつ……」

 

「期間をあければ、傷を癒してまた出現するでしょう」

 

 何か口ごもるヘノに代わり、女王が続けた。

 どうやら、ヘノはヌエに対してかなり嫌な思い出でもあるのだろう。

 

「ええと、つまり定期的に鵺が現れるのは、実は毎回倒しきれてなかっただけ、ってことなんですね」

 

「その通りです。倒し方を誤れば一時的な撃退で終わりますし、真に倒すことが出来れば、半永久的に消滅させることができる。ダンジョン内には、そのような特殊な魔物が現れることがあります」

 

 桃子の知らないダンジョンの情報がどんどん入ってくる。

 有名な逸話として、海外のダンジョンの最下層で暴れていたドラゴンが、勇敢な人間に首を落とされてからは一切復活しなくなった、というような英雄譚も聞いたことがあるのだけれど、あれは意外と本当の話なのかもしれない。

 しかし、興味は尽きないものの、いつまでも女王の間で話し込んでいても仕方ない。

 

「とりあえず、ヘノちゃん。今日はまた昨日の探索者さんたちの様子、見にいこっか? しばらく地上に戻れないっていうなら、もうちょっと手助けしてあげたい気もするしね」

 

「まかせろ。ヘノにかかれば。どんな敵でも。いちころだぞ」

 

 物騒なセリフと共に、ツヨマージを現出させて素振りを見せるヘノ。

 勇ましいが、なにぶん武器が爪楊枝にしか見えないので、ただの食いしん坊みたいになっている。

 

「じゃあヘノちゃんは、昨日の探索者さんたちが変な妖怪に襲われそうだったら、教えてね。一緒に戦おう」

 

「わかったぞ。ついでに。寝室にあるでかい剣も。持っていこう。あれ、邪魔だぞ」

 

「邪魔って……サカモトさんが泣いちゃうよ」

 

 ヘノとそんなくだらない会話をしながらも、話はまとまった。

 今日の目的は、昨日の探索者たちの手助けだ。善は急げと、相変わらずのせっかち加減でヘノがさっさと部屋を退室してしまう。

 桃子も慌てて女王に挨拶をし、ヘノを追いかけていく。

 

 そして、二人が白い光の膜に消えると、女王の間にはまた静けさが訪れた。

 

 

「……ヘノ。滅多なことは考えないでくださいね」

 

 女王は今日も、己の大切な子供たちを思い、憂慮する。

 

 

 

 

 

 

 そしてヘノと桃子は三度マヨイガへと足を運ぶことになる。

 

 そこで、理解の範疇を超えた、とんでもない光景を見ることになるとは、この時は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 先日。遠野物語を朗読しましたね。

 そのときに、マヨイガで器を拾ったらいいことがある、なんていう話をしました。

 それと同じく、今日はダンジョンの中で拾える、良いものの話ですよ。

 

 

 猿でもわかるアイテム集め。民名書房刊。

 

 これに、とても役に立つ情報が載っていました。

 

 

 ダンジョンの中に現れるモンスターは通常は煤となって消えてしまいますが、特定の状況下で倒すと、特殊な素材を落とすものがいます。

 一角兎や一角獣のように角を持つモンスターは、倒す前に角を切り落とすことで、角が煤にならずに残ることがあります。

 武器を持つモンスターの場合は、通常は武器もろとも煤になってしまうものですが、倒す前に武器を手落としていると、ごく稀にその武器が残り続ける場合があります。

 

 ほか、特殊な例として、ダンジョン内に現れる特殊個体と識別されるモンスターは、直接強力な魔力を叩きこんで絶命させることで、その生命力の源となる核を落とすことがあると言われています。

 核を失ったモンスターは、半永久的に復活しなくなるともいわれていますが、あくまでそのような言い伝えが残っているだけであり、実際にそれを確認できた例は近年ではありません。

 

 また、ダンジョン内には倒しても煤にならない小動物、魚、昆虫、などが多数発見されることがあります。

 これらは、定義の上ではダンジョン内の生物ではありますが、魔物ではなく、単純な原生動物として扱われます。

 

 

 

 だ、そうですよ。

 

 りりたんも、いくつか知ってますよ。

 

 例えば先日話題にだした遠野ダンジョンでは、一反木綿の布を斬らずに倒すと良質な木綿が手に入りますし、河童のお皿を割らずに倒すと良質なお皿が入手できるんだそうですよ。

 豚の形の魔物の中には、倒すとお肉を落とすものがいるという噂はありますが、それは多分別な話と混同しているだけですね。りりたんは、そう思いますよ。

 お肉と言えば、琵琶湖にいると噂されている人魚は、肉を食べても不老不死にはなれませんよ。食べないであげましょうね。

 

 ただ、ダンジョンにいるお魚は、外の世界のお魚と違って魔力が豊富なので、焼いて食べるととても美味しいんですよ。

 妖精さんは魔力が豊富ですが、食べちゃ駄目ですよ。

 妖精さんを捕食する魔物もいますけど、かわいそうなのでやめてあげてほしいですね。

 

 なんでそんなことを知っているのか? ですか?

 

 りりたん、たくさん読書をしているので。知識豊富なのですよ。

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