ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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七章 空の妖精たち
一反木綿と座敷童子


『お母さん、おつかれさま。はい、お水』

 

 振り下ろし、畳にめり込んだままのハンマーをちょっとした椅子代わりにして桃子が休憩していると、その腕をキュッと握る何者かの感触があった。

 そして、耳から聞こえているはずなのに脳内に響くような、一部の魔法生物たち特有の声で話しかけられる。それは、幼い少女の声。

 桃子がそちらを見ると、自分とよく似た顔立ちをした赤い着物姿の童女――座敷童子の萌々子が、水の入った湯飲みを持って桃子を見上げていた。

 

「あ、萌々子ちゃん来てくれてたんだね。うん、ありがとう」

 

 桃子はその湯飲みを受け取ると、ごきゅっとその水を一気に頂く。運動後の火照った身体に、冷たい水が染みていくのがわかる。

 

 桃子がそのスキル【創造】にて生み出してしまったこの童女は、母親と同じ【隠遁】の特性を少なからず受け継いでいる。

 桃子のそれと違い記憶に影響するほど強力なものではないのだが、しかしその姿は一般的な人間からは認識できず、人間である桃子にもそれは当てはまる。

 なので、互いの身体が触れ合うことでようやく、桃子は座敷童子の姿を認識できるのだ。

 座敷童子の萌々子は、母親である桃子の腕をぎゅっと握ったまま、にこにこと桃子が水を飲む様子を眺めていた。

 

 

 

 ここは、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』の一室。一反木綿が大量に現れるという、一反木綿ハウスだ。

 三月のとある週末。桃子は午前中から精力的に一反木綿を狩りまくっていた。ハンマーで、どったんばったんと叩きまくっていた。

 一反木綿は、遠野ダンジョンの主に第三層以降に出現する飛行タイプの魔物だ。その身は大きな一枚の布地で構成されており、その身体を生地を破らずに倒すことで、高確率で魔物素材としてその木綿生地を落とすことがある。

 桃子の目的は、この魔物素材の布地である。

 砂漠ポンチョの素材としても使った一反木綿生地だが、魔物素材だけあって耐久性もあり、魔力のノリが良いので加工も容易。

 桃子が新たに作ろうとしているアイテムにも最適な素材だったので、それを集めるためにひたすらに一反木綿を狩り続けているのである。

 

「桃子も。一反木綿叩きが。随分と。様になってきたな」

 

「えへへ。私、多分日本で一番一反木綿を叩き潰してる探索者だと思うよ。木綿つぶしの桃子って呼んでいいよ?」

 

「わかった。木綿つぶしの桃子。とりあえず。魔石も。布も溜まったし。そろそろご飯にするか」

 

 桃子が水を飲んで休憩していると、室内で魔石と魔物素材の布地を拾い集めていたヘノが桃子の肩へと戻ってきた。

 ヘノが集めてきた生地素材と魔石は、桃子の足もとに無造作に積まれて、山となっている。枚数こそ数えていないものの、ヘノの言う通りで分量としてはもう充分に集まっているだろう。

 午前中はずっと一反木綿を叩いていたので、そろそろ時刻もお昼どきだろう。

 

「萌々子ちゃん、せっかくだから一緒にお昼でも食べない? 例の、囲炉裏のお部屋で何か作ろっか」

 

『うん。萌々子も木綿つぶしの桃子お母さんのお料理、食べたいな』

 

「おっけー。じゃあ、今日のお昼は囲炉裏の部屋に行こうかな。何がいいかなあ……手軽に、カレーうどんとかかな?」

 

 カレー自体はスキル【カレー製作】で簡単に作れるのだが、そのために玄米も炊くとなると囲炉裏部屋では鍋が足りないし、時間がかかってしまう。

 ならば、ポンコが大量に作り置きしている冷凍うどんを一緒に煮込んで、煮込みカレーうどんを作るのが一番手早く作れそうだ。

 

「なら。冷凍うどんを持ってくるついでに。ニムと後輩も。連れてくるか。あいつらも。そろそろお昼どきだろ」

 

『やった。萌々子ね、カレー大好き。みんなでおうどん食べるのも。大好き』

 

「えへへ、カレー仲間だね」

 

 にっこり微笑む萌々子に、同じように優しくにっこりと微笑む桃子。

 もし誰かがこの光景を見ていたら、仲の良い母子――にはまず見えないが、仲のよい姉妹として映ったことだろう。

 

 

 そして時間は進み。

 

 

「あ、萌々子さんお久しぶりです。今日も可愛いですね」

 

「ざ、座敷童子さんも、元気そうで……よ、よかったですねぇ」

 

『柚花さん、ニムさん、こんにちは』

 

 囲炉裏の部屋へとやってきたのは、午前中は別な場所で活動していた柚花とニムの二人だった

 

 数週間前。柚花はりりたんからのご褒美として、新たな魔法【召雷】を習得することが出来た。しかし魔法スキルは習得すれば良いと言うものではない。息をするようにそれを使いこなせるようになって、初めて己の武器となるのだと、柚花は考えている。

 ここしばらくの間、柚花はその新たな雷の魔法を我が物とするために時間を充てていた。その甲斐もあり、最近はようやく【召雷】を自然に使いこなせるようになってきたので、今日は午前中から強めの魔物相手の実践訓練を行っていたのだ。

 彼女の得意魔法【チェイン・ライトニング】は非常に使い勝手の良い魔法だったが、しかしその反面、威力が小ぶりで、耐久力の高い魔物には効果が薄いという弱点があった。

 そんな柚花の決定力不足という弱点を補える【召雷】は、柚花のソロ探索者としての活動範囲を大きく広げてくれることだろう。

 

「それにしても、この囲炉裏部屋はいい場所ですね。マヨイガの探索者チームにはまだ見つかってないんですか?」

 

『ここね。秘密のルートでしか、来られないんだよ』

 

「そうなんですか? うーん、そんなのがあるとは、まだまだマヨイガ踏破は時間がかかりそうですね。下層もまだ遠そうです……」

 

 遠野ダンジョンの探索者たちは、マヨイガの中庭と、そこに隣接する炊事場周辺を中継キャンプ地として活用している。最近は中庭に畑を作り、食料の自給自足も始まっているようだ。

 常に複数人の探索者がキャンプ地へと常駐し、座敷童子に見守られながら、彼らはそこを拠点に更にダンジョン内の探索を進めていた。

 柚花がネットでその探索状況を確認した限り、以前と比べて明らかに探索効率が上がっており、柚花や桃子も知らない新たな部屋などが発見されているようだった。

 

 とはいえ、彼らの真の目的は下層、第五層へと続く階段だ。

 下層に何があるのかは分からない。無事に帰れる保証もなく、バジリスクのように危険な特殊個体が待ち構えている可能性もある。それでも下層を探してしまうのが、探索者というものなのだ。

 

『あの場所には……行かないほうが……』

 

「ざ、座敷童子さん、い、今なにか……言いましたかぁ……?」

 

『う、ううん、何でもないよ。探索者のみんな、頑張ってるなあって思ったんだよ』

 

 座敷童子の萌々子は、探索者以上にこのマヨイガを熟知している。そして、探索者たちが向かおうとする場所に、いったい何があるのかも。

 その萌々子の小さな呟きは、幸いにも、この場の誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 ずるずる。ずるずる。

 

 例の如く、信じて混ぜることで光と共に完成したカレーうどんを器に分けて、それぞれがずるずると味わう。

 カレーうどんというものは白い服を着たときに食べてはならないという暗黙のルールがある。桃子はこの日、砂漠ポンチョを着てこなくてよかったなと、心の中で思う。

 

『ところで、お母さんはどうしてそんなに、一反木綿を叩いてるの?』

 

 それは、桃子の膝の上でうどんを食べながら、座敷童子の萌々子が問いかけた些細な質問である。

 萌々子が母親の来訪に気付いて来てみたら、母親たる桃子は相変わらずひたすらに一反木綿を叩いていた。というか、最近は桃子がマヨイガに訪れるときは、大体が一反木綿狩りを目的としている。

 果たして、何でそんなに一反木綿を狙っているのか。もしかしたら一反木綿に相当な恨みがあるのか。

 娘たる萌々子がそれについて気になって聞いたとしても、仕方がないことだろう。

 

「そういえばそうですよ先輩。最近なんか、一反木綿の数が減ってきてるっていう噂がありますよ? 絶滅でも目指してるんですか?」

 

「ええ?! 一反木綿て絶滅するものなの?」

 

「うぅ……ま、魔物とはいえ、一族全て全滅だなんて……よ、よっぽど桃子さんを、怒らせてしまったんですねぇ」

 

 そして、萌々子の質問に被せて、柚花の追撃だ。

 本当か嘘かは定かではないが、どうやら柚花調べでは、最近は遠野ダンジョンにおける一反木綿の出現率が大幅に下がってきているのだという。

 特殊個体ならまだしも、ダンジョン内に湧き出てくるような魔物が討伐しすぎで絶滅するだなんて話、桃子は聞いたことがない。だがしかし、言われてみれば今日はモンスターハウスで出てくる一反木綿の数も少々少なかった気がする。

 横で話を聞いていたニムの脳内では、どうやら何かしらの理由で怒りに燃えた桃子が、一反木綿の一族郎党まで根絶やしにしようとする復讐鬼のようになっているようだ。

 無論、実際にはそんな殺害動機などというものはない。ちょっとばかし、素材を集めすぎただけである。

 

「なんか話が怖い方に転がって行っちゃってるけど、私は単に、魔物素材の布を集めまくってただけなんだよ。一反木綿一族を滅ぼすつもりとかないからね?」

 

「そうだぞ。この前。リドルに相談されたんだ。すひんくすに。下着を作れないかって」

 

「下着ですか?」

 

『すひんくすって、なあに?』

 

「そういえば。お前たち。誰も。すひんくすを見たことないんだったな」

 

 すひんくす。もとい、スフィンクス。

 それは鳥取の砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』に住まう、巨大な魔法生物のことである。

 巨大な獅子の胴体に、上半身は美しい小麦色の肌を持つそれまた巨大な美女だが、その姿を知っているのはこの場では桃子とヘノだけだ。

 

「ええとね、鳥取の砂丘ダンジョンに住んでる、ものすっごい大きいライオンの身体をした、美人さんなんだよ。顔立ちはリドルちゃんそっくりなんだけどね」

 

「ええ、まあ一応、そこは話としては聞いてますけど……」

 

「ピ、ピラミッドの……守護者さん、なんですよねぇ?」

 

 柚花とニムは砂丘ダンジョンで起きた事件の概要くらいは聞いているため、砂丘ダンジョンにおけるスフィンクスが何者なのかも理解はしている。

 それに加えて、柚花はそもそも一般常識としてのスフィンクスというものを知っている。いくつかの神話にも語られているし、本物のエジプトのピラミッド脇に鎮座するその巨大なスフィンクス像はあまりに有名だ。

 

「そのスフィンクスさんね。下着つけてなくて、その……でっかいのが、ばーんって……!」

 

『でっかいのがばーん?』

 

「で、でっかいのが……ばーん……よ、よく分からないですけど……つ、強そうですねぇ」

 

 でっかいのがばーん。桃子の中では、あの衝撃を伝える言葉が咄嗟には他に思いつかなかった。

 スフィンクスが桃子と話すときは、獅子部分が足を曲げ、桃子の目の前にはちょうどスフィンクスの胸部がやってくるのだが、それがもう、すごいのだ。

 もっと具体的な説明方法もないことはないが、流石に小さい子供である座敷童子の萌々子の前で具体的に話すのも気が引ける。

 

 しかし、どうやら。

 同じ日本人の女子であるところの柚花にだけは、桃子の効果音だけでもしっかりと伝わったようである。

 

「なるほど。でっかいのが、ばーん、ですか」

 

「うん。全身で抱きつけるサイズだったよ……」

 

 なんとなく、二人とも遠い目になる。

 そして柚花の視線は、桃子の鎖骨より少々下のあたりへ向かう。

 桃子は自分の胸部をちらりと見てから、ぼんやりと遠い目になってしまった。

 

 柚花と桃子の間に、なんとも言えない沈黙が降り立った。

 

 

「なんで。桃子も。後輩も。静かになっちゃったんだ」

 

 風の妖精であるヘノは、ずるずると、カレーうどんを一本ずつすすりながら。

 人間二人の不自然な沈黙に、疑問を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美少女配信者について語り合うスレ】

 

:あしひきの山のしづくに妹待つと 我立ち濡れぬ山のしづくに

 

:古今和歌衆ちっすちっす

 

:引退して10年以上経つのにまだ固定ファンがいるってヤバいよな

 

:でも引退って、寿とかそういうのじゃないの?

 

:和歌さんは違うんだよ。パーティの仲間が、遠野ダンジョンの鵺の犠牲になったのよ。

 

:え・・・いきなり重

 

:当時はちょっとしたニュースだったよ。鵺に巻き込まれた探索者たちを助けるために奮闘して、それで何人もの命は救われたんだけどさ、本人は帰らぬ人となった。

 

:話変えない?

 

:俺、美少女の楽しい話がしたいんです……

 

:美少女配信者ならタチバナだろ オッドアイで中二っぽさもアップ

 

:そこはあんまり茶化すとこじゃないと思うけど、まあオッドアイは目立つよな

 

:最初は俺たちだけがチェックしてるようなマイナー配信者だったのに、一気に有名になっちゃったな。寂しい。

 

:タチバナはわしらが育てた

 

:タチバナの自称ライバルのカリンちゃんが可愛くて馬鹿でいいよ(URL)

 

:明るくてよろしい

 

:これくらい明るい子がさ、浅い階層で安全に楽しく冒険してる姿でいいんだよ。タチバナはもう危険なところ行かないでくれ。

 

:カリンちゃんの動画見たけど、本人がカメラ持ってるからほとんど本人映ってないじゃねえかw

 

:仲間の子二人も可愛いからスレ的にはオッケーです

 

:ただただ朗読するだけの美少女配信者がいましてね(URL)

 

:可愛いけど、何故だかこの子の配信は視てると不安になる。ちょっとホラーみがある。

 

:深夜にアーカイブ見てるとなんか怖くなるのは分かる

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