ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ヘノとニムの事情聴取

「ヘ、ヘノぉ……あ、あそこの島に、カリンさんが、い、いるんでしょうかねぇ……?」

 

「そうみたいだな。何となく。人間みたいな魔力を感じるぞ」

 

 桃子たちとひとまず別れたヘノとニムは、真っすぐにダンジョン内の大空を上昇していった。

 ここは、一面の空。いくつかの浮き島があるものの、それ以外は全てが空のダンジョンだ。どこかのダンジョンの第二層にあたる世界なのだが、人間たちはここを上高地ダンジョンと名付けているらしい。

 北アルプスの南側に出現したその『上高地ダンジョン』こそが、風の妖精、ヘノの生まれ故郷だった。

 

 ヘノたちは、その天空のダンジョンに漂う巨大な浮き島のうち、一番高い位置にある島を目指している。

 あの動画の通りならば、カリンという人間は上層の入り口から落ちてきた。ならば、その入口から一番近い場所を浮遊している最上段の島が一番怪しい。

 そしてヘノの予想通り、その島には、一人の人間がいた。それは桃子よりも大きい人間で、柚花と同じくらいだろうか。涙声を上げて、助けを求めていた。

 

「……ぐすっ……ねえ、パティシエさん! クルミちゃん! リンゴちゃん!」

 

 ヘノたちが到着したそこは、それなりに大きな浮島だ。

 日本人的な例えで言うなら、押し込めば東京ドームが10個は入りそうな広さだ。テレビ番組でアイドルが開拓する無人島くらいの広さとも言える。

 その島は、およそ半分以上が森となっており、そして木々に覆われた小さな山もある。更には小さな湖もあり、小さいながらも自然豊かな島であった。

 

 そしてその島にある見晴らしの良い小高い丘の上で、パステルカラーのフリルの衣装に身を包んだツインテールの少女が、泣きながら、己の端末にひたすら声をかけていた。

 本来ならばその画面には彼女の配信画面が流れ、それを観ている多くの視聴者とコミュニケーションが取れるはずなのだ。だがしかし、端末はぼんやりとした光を灯すだけで、カリンの声に返答をくれない。カリンの姿を地上へと転送してくれない。

 

「やだよぉ、怖いよぉ、誰か来てよぉ……!!」

 

 ヘノたちがその少女へとふわりと近づくが、しかし少女は妖精たちには気づかず、ただただ縋るように端末に呼びかけていた。

 見た所怪我もなく、なんなら大きな声を上げるくらいには健康そうである。

 

「なんだ。お前。意外と元気だな」

 

「け、怪我とかは……してなさそうですねぇ……」

 

 以前のヘノたちならば、知らない人間を見かけて不用意に近づくことはなかっただろう。だがしかし今のヘノたちは、本人も自覚していないけれど人間に大分慣れきっている。

 初対面であるそのアイドル少女に堂々と近づいて、普通にその背後から、声をかける。

 

「……へ? だ、誰? お化け?! お化けやだ! お化けやだぁああ!! お母さん、お父さん! たちばなぁ! 助けてよぉ!!」

 

「なんだか。随分と。うるさいやつだな。どこも弱ってるようには。見えないぞ」

 

「うぅ……な、なんだか、こ、怖がりな人ですねぇ」

 

「だ、誰か……助けてよぉ……ひっく……」

 

 既に空は暗く、少女の周囲もまた闇の帳が落ちてきているのだが、その闇の中からいきなり声をかけたのがいけなかったらしい。

 上に浮かぶ緑と蒼の光を見た途端、身を守るようにその場で丸く縮こまってしまった。ヘノたちに目もくれず、ギュッと目を瞑ってガタガタ震えてしまっている。

 さすがのヘノも、こんな対応をされては困ってしまう。

 

「おい。人間。助けてやるから。泣くな。顔をあげろ」

 

「わ、私たち、妖精ですから……て、敵ではないですよぉ……?」

 

「え……よ、妖精……?」

 

 敵ではない。助けに来た。

 その言葉を理解して、ようやくアイドル少女は恐る恐るその顔を上げる。

 そして、目の前に浮かぶ二人の妖精少女の姿を認識するのであった。

 

 

 

 

 

「わ、私……わけもわからないままで、こんな場所に来ちゃって……どうしたらいいのか……ひっく……わからなくて……」

 

 妖精という、初めてみる魔法生物に最初は当然ながら驚いた。しかし、暗い夜空にポツンと浮かぶ見知らぬ島に独りぼっちだったカリンにとって、彼女たちは天から舞い降りた救いのような存在だ。

 孤独ではない。それだけで、随分と気力が戻ってくる。

 カリンは適当な芝生に腰を下ろして、目の前をフワフワと浮かんでいる妖精たちに、己の身に何が起きたのかを語っていく。

 その大半はヘノたちも例の映像で知っていたことだが、しかしどうやら彼女本人も、あの時何が起きたのかきちんと理解出来ていなかったようである。

 

 魔法をつかってジャンプして、気づいたら見知らぬ階段を転げ落ち、そのまま空へと転落した。それからは落下しながらも【身体強化】を何重にもかけ、とにかく自分の身を守ろうとしていたらしい。

 だがしかし、落下の衝撃によるものか、はたまた急激な魔法の連発による魔力欠乏か、彼女の意識はここで途切れる。

 時が過ぎて、ようやく意識を取り戻したら周囲は闇夜。魔法光が所々にあるのでダンジョン内ということは理解できるのだが、周囲には誰もいない。

 ひとり見知らぬ島に取り残されて、必死で端末にすがっていたのだという。

 

「こいつ。ずっと泣いてるな」

 

「わ、私は気持ち……わ、分かりますよぉ……めそめそ」

 

「ひっく……おうち……帰りたいよぉ」

 

「うぅ……めそめそ」

 

「なんなんだ。お前ら。左右でヘノを挟んで泣くな」

 

 カリンの事情は分かった。しかしそれはそれとして、説明するだけでこうも泣かれてしまうと、ヘノとしては非常にやりにくい。

 更に訳が分からないのが、自分の友人たるニムまでもがカリンに釣られて泣き始めてしまったこの状況である。

 二人が泣き止むまで、ヘノはぼんやりと、カレーの材料のことでも考えて過ごすことにした。

 

 

 

 

 

 そして、しばらくの時が過ぎて。

 

「えと、ごめんなさい、妖精さん。今更なんだけど、私、アイドル探索者のカリンって言います。ここがどこだかはよく分かってません」

 

 ニムと二人で泣きまくったアイドルは、ようやく冷静になれたらしい。

 ヘノがツヨマージで地面にカレーの絵を描き終えたところで、ようやくまともな会話が出来るようになったようだ。

 

 それにしても、昼間に撮影したであろう動画の奔放な姿と比べて、今のカリンは非常にじめじめしていて、しおらしい。

 人間は一人になるとここまで変わるのかと、ヘノは今更ながら思う。自分のことも「カリン」ではなく「私」と呼んでいて、本当に別人のようだ。

 ヘノの相棒たる桃子は見た目に反して精神力が鋼のように強いので、今のカリンのように精神的に参ってしまうことがなかったのだ。

 

「アイドル。お前。落ちて来たんだろ。ここは。お前たちが言う。上高地ダンジョンの。第二層だぞ」

 

「う、上のほうに……小さな浮き島があるの、見えますかぁ? あそこの階段から、落ちて来たみたいですねぇ」

 

「嘘……?! あんな高いところから?!」

 

 ニムが指をさしているのは、雲の上を飛んでいるこの島から更に上。

 夜空の中でもうっすらとした魔法光で照らされているそれは、確かに小さな浮き島だった。

 下から見上げただけでは見えないが、あの島には上層へと続く階段があるのだという。

 

「それにしても。良かったな。身体を丈夫にする魔法。使ってなかったら。今頃大怪我してたぞ」

 

「うぅ……ほ、本当に、良かったですねぇ」

 

 カリンが無事だった理由は、彼女のもつ【身体強化】の魔法の効果だろう。彼女はそれを何重にも自分にかけたというから、一時的とはいえ彼女の身体は人間離れした耐久力を得ていたはずだ。

 その反動で、魔力を急速に消費してしまったカリンは、落下の衝撃とともに魔力が底をついてしまったが、命を失うよりは遥かにマシだろう。

 無傷のまま今ここにいるのは。この高さから落下して気絶程度で助かったのは。彼女が行使した【身体強化】のお陰だ。

 

「あの! 私、あそこに帰りたいんですけど……妖精さんたちでどうにか出来ませんか……?」

 

「わ、私たちには難しい……ですねぇ……」

 

「人間たちも。救助とかいうの。考えてるらしいけど。すぐには。無理なんじゃないか?」

 

「そ、そんな……わ、私どうしたら……」

 

「とりあえず。数日くらいは。ここで生活。するしかないかもな。安心しろ。助けてやるから」

 

 ヘノは桃子に頼まれて様子を見に来たが、実のところ、ヘノ個人の力ではカリンを救助することは出来ない。それを少しだけ、もどかしく感じる。

 桃子と共に過ごすようになって、ヘノの中にも、人間に親愛を感じる気持ちが育ってきていた。

 以前のヘノだったら、このカリンという少女に対して興味も持たずに、そのまま見殺しにしていたかもしれない。少なくとも、もどかしく思うなどということはなかったはずだ。

 

 それは恐らく、ニムも同様だろう。

 以前のニムなら、恐怖の対象でしかなかった人間に同情して一緒に涙するなど、なかったはずだ。

 しかし、そんな己の変化に対する自覚など殆ど持たないままで、妖精たちは会話を続けていく。

 

「じゃ、じゃあ……まずは、寝る場所と、た、食べ物ですかねぇ……」

 

「寝る場所はノンに作らせて。食べ物は。リフィでも呼べば。どうにかなるんじゃないか」

 

 人間が生存するのに必要なのは、第一に水である。これは砂漠で桃子が説明してくれたことだ。

 そして水ならば、この島を上から見た時に小さな湖があったから、それでどうにかなるだろう。

 そうでなくとも、水の妖精ニムがいる以上、適当な器にでも水を作り出しておけば飲み水に困ることはない。

 ならば次に必要なのは、寝る場所と食料だ。

 

 寝る場所は、妖精たちの仲間ならばノンが適任だ。彼女ならば、カリンの体躯に合わせた適当な洞穴部屋を作るくらいは出来るだろう。

 妖精ならばそこらの野原で眠れるが、人間が休むには部屋が必要なのだとヘノたちは知っている。

 

 そして、食べものならば、植物を育てる力を持つ緑葉の妖精、リフィが適任だろう。彼女なら、カリンが食べるための果実を提供することができる。

 同じ植物の力でも、残念ながらルイはどちらかと言うと人間を嫌っている側だし、クルラは論外だ。カリンを酔い潰す未来しかない。

 最悪、ヘノたちが妖精の国から毎回食べ物を持ってきてあげることもできるが、流石にそれは面倒臭い。

 

「あ、あの! それと、この端末が動かない理由って、分かりますか?」

 

「き、機械は……よく、分からなくて……うぅ……」

 

「叩けば。治るんじゃないか? 貸してみろ」

 

「わあ! ダメですよー! 壊れちゃったら本当に、本当に……困るから……」

 

 魔法道具から生まれた妖精がこの場にいたならば話は違ったかもしれないが、ヘノは風の妖精、ニムは水の妖精だ。人間の端末の不調など、分かりようがない。

 だがしかし、カリンからみれば二人は人間よりすごい力をもつ、何でもありの存在のようなものなのだろう。

 ダメもとで、探索者用端末を見て貰おうとしたわけだ。

 

 しかし、ヘノがいきなり端末に向かって攻撃しようとする姿を見て、慌てて端末を懐にしまい込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで。今は。ニムがアイドルと一緒にいるぞ」

 

 どれくらい時間がたったことだろう。

 ヘノが浮き島から戻ってきた。そして、柚花たちがずっと気になっていたカリンの安否やその様子を聞いて、柚花は安心したのか、その場にへたり込む。

 やはり、ずっと緊張状態にあったのだろう。脱力した柚花は、涙目だ。

 

「カリンの馬鹿……本当に、怪我も何もないんですね。全く、心配かけて……」

 

「救助とかはもちろん考えるとしても、カリンさんが無事なのが分かってホッとしたよ」

 

「ただ、私たちがホッとしたところで、カリンの親御さんとかにもどうにかして伝えてあげないといけないとは思うんですけど」

 

「難しいなあ。カリンさんの端末で、報告を出来ればいいんだけど」

 

 ギルドから伝えて貰う……とも考えたが、救助活動が難航している状態で、根拠も提示せずに「本人は無事です」などと言ってのけるのは余計な混乱と不和を産むだけだ。

 出来れば、端末の通信などで本人から無事を証明して貰えるのが一番確実なのだが、肝心の端末が動かないという。

 

「私の端末をカリンちゃんに使ってもらうことも考えたけど、私のIDでカリンちゃんがメッセージを送っても、悪質ないたずらみたいになっちゃうよね」

 

「そこら辺は、窓口さんにも相談してみましょうか」

 

「なんにしても、次は私とリドルが、代わりに見に行くよぉ。リフィにも後で、来るように言ってくれると助かるよぉ」

 

「端末が動かないという『謎』だね? 腕がなるのでは、ないかな?」

 

 桃子と柚花が話し合っている間に、妖精たちの間でも話が進んでいた。

 記憶を取り戻した今のリドルは、ヘノやニム、クルラと同じく人間に対して好意的な妖精だ。ノンは人間に対して警戒心がないわけではないが、親友のリドルが協力するというのならば、手伝ってくれるだろう。

 この場にはいない緑葉の妖精リフィも、ノンと同じく人間を警戒して近づかないようにしている側だが、ここはヘノによる説得を信じるしかない。

 

「しばらくは。妖精たちで。交代で見に行くことにするか。人間なら。火も必要だろ。フラムにも声をかけてみるか」

 

「ごめんなさいヘノ先輩、私の……ええと、知り合い? が、迷惑かけてしまって」

 

 なんだか気づけば、カリンのために多くの妖精たちを巻き込んでいる。

 頼み込んだのは自分達なのだが、カリンの無事を知って冷静になれた柚花は、今更ながらヘノたちに礼を言う。

 

「ねえ柚花、そこは『友達』でいいんじゃない?」

 

「私、あの子とそんなに仲良くしたことないんですけどね……」

 

 仲良くしたことはない。

 柚花はそう言うけれど、それでもソロとして活動をしている今でも、元パーティメンバーとして気にかけているし、危険な目に遭ったときは本気で心配している。

 ならもう、それだってひとつの『友達』でいいんじゃないかと、桃子は心のなかで仄かに、考えた。

 人と人との距離感というのは、難しい。

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