ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
探索者は、なかなか儲かる。
いや、あくまで高レベルの、効率的に素材やアイテムを持ち帰れる探索者は儲かる、と言うべきか。
そういう意味では、桃子は高レベル探索者であり、副業としてはかなり儲けていた。
「こっそり近づいて……と。後ろから一撃! てい!」
スキル【隠遁】によりソロ探索を余儀なくされているものの、なんだかんだでとても強いスキルなのだ。
静かにモンスターの背後を取り、思い切り振りかぶったハンマーの一撃で一撃KO。だいたいこれでどうにかなる。
倒されたモンスターは時間とともに塵になって消滅していくのだが、低確率でモンスターが所有していた装備品や、死ぬ前に抜け落ちた牙、そして何より魔力の塊である魔石を残すことがある。
それを売りさばくと、なかなか良いお小遣いになる。桃子はこれでも平日はお仕事をしているのだが、正直なところ探索での収入のほうがコスパは高い。
「おっ、牙だ! 魔石は……ないけど、この牙はいい素材になるんじゃない? 売らずに自分で加工しちゃおうかな。とりあえず拾っとこ」
人獣型のモンスターが落とした鋭い牙を背負いカバンに詰め込んだら、さらなる発見を探しに、奥へと進んでいった。
さて、先日は鉱石集めに精を出したが、今日は普通に房総ダンジョン第二層の探索中だ。
キャンプ場のような第一層と違い、第二層は坑道のような巨大迷宮になっていて、いかにも言葉のイメージ通りの『ダンジョン』といった佇まいである。
野草などの食料素材は少ないものの、鉱石類が多く採れるのが特徴だ。また、敵モンスターも群れではなく単体のものが多いため、桃子としては好都合だった。
「それにしても、ヒカリゴケとか、なんか光る壁とかで結構明るいのはいいんだけど、やっぱり独りだと寂しいなあ。誰かいないかな」
音の響くダンジョン内なため、今は探索者用端末の配信動画は閉じ、カツン、カツンと自分の足音だけを響かせて進んでいく。
配信動画の代わりに表示しているのは、現在の位置情報。さすがにダンジョンの地図が表示されるようなことはないのだが、ダンジョン入り口からの、大体の距離と方角はこれで確認できる。
いくら難易度の低いダンジョンといえど、うかつに迷い込めば遭難してしまうということも少なくないため、位置情報の確認は必須技能だった。
「迷宮の形さえ変わらなければ、地図とかも作れたんだろうけど……って、あれ?」
音が聞こえた。
モンスターが威嚇する声。それが複数。
「え、なに? 誰かモンスターと戦ってるの? なんか随分と……」
遠くからも音が響くダンジョンだ。いくら音が届くとはいえ、すぐ近くで事が起こったわけではないだろう。
だが、モンスターの威嚇に続いて断続的に聞こえる激しい戦闘音は、どうやらただならぬものを感じる。
「あっ、これ、私も行ったほうがいいよね」
自分に言い聞かせるように呟くと、ギュッとハンマーの柄を握り直し、音の響いてくるほうに足を向けて駆け出した。
お世辞にも房総ダンジョンは難易度の高いダンジョンではないのだが、それでも稀に大きな怪我を負う探索者もいるし、残念ながら地上に帰ってくることのない探索者だっている。
認識されなくとも、自分を覚えていない相手でも、誰かが危機に遭遇しているのなら助け合うのが探索者というものだ。
岩肌が倒壊した跡があった。
運悪くその倒壊に巻き込まれたのだろう、岩の横で倒れて動けなくなっている探索者が二人。呼吸はしているものの、その装備は血に染まり、危険な状態が見て取れる。
そして、その前では、血の匂いで寄ってきたモンスターたちから仲間を守るように奮戦している少年が一人。
「くそっ、くそっ、さっさと消えてくれよ!!」
少年は三人パーティの後衛で、本来なら弓で二人の仲間を補佐するポジションだった。
しかし、運悪くダンジョンの罠に巻き込まれ、崩れてきた岩に二人の前衛が巻き込まれ、重傷を負ってしまう。
さらには運の悪いことに、血の匂いでモンスターたちが集まってきてしまった。
すでに弓で戦える状況ではなく、動けない仲間の武器を借り、どうにかモンスターを撃退する少年だが、いくら低級モンスターとはいえ、本職ですらない少年の剣で無双することは叶わない。
数匹の獣を仕留めたところで、少年も壁際まで追い詰められてしまう。
「う……うぐ……誰かっ、お願いだから……助けて……!!」
涎を垂らす、二足歩行の肉食獣が、少年の眼前でその爪牙を振り上げ――
グチャッ
虚空から振り下ろされたハンマーで、ぺちゃんこに潰れた。
「え……えっ……!?」
「大丈夫? ちょっと待ってね?」
突然、モンスターの消滅を表す煤を浴びることとなった少年は、状況が理解できなかった。
いきなりハンマーが出てきた? 違う。気づかなかっただけで、そこにはいつのまにか何者かが立っている。
その人影が話しかけてくるが、ノイズのような声で、少年にはそれが男性なのか女性なのかも判断つかない。
「やっぱり聞こえてないのかな? まあ、しょうがないか。とりあえず助けるよ」
謎の人影とは、もちろん駆け付けた桃子である。残念ながら少年にはうまく認識できていないようだが。
倒れている探索者たちも心配だけれど、何よりまずは困惑して足を止めたモンスターを順番にハンマーで叩き潰すお仕事を終わらせることにした。
グチャっ
パキュっ
棒立ちのモンスターに大きく振りかぶったハンマーを振り下ろす小柄な少女。
誰かがそれを見ていたならば、シュールなブラックジョーク映像として楽しめたかもしれないが、残念ながら誰もこれをきちんと視認していないため、ブラックジョーク映像はお蔵入りである。
「ええと、そっちの人の怪我は……うわ、血がすごいね。こういう時は包帯で圧迫しておくんだっけ? あっ、いい薬草あるから、これでいっか。はい、これ食べてもらって。いいやつだから、血は止まると思うよ」
何やらカバンをガサゴソ漁ったかと思えば、そこから乾燥した薬草を取り出す人影。否、桃子。
唯一無事だった少年は腰を抜かしたかのように呆然と壁にもたれかかっていたが、人影から差し出された薬草を恐る恐る受け取って、ようやく理性が戻ってきた。
「そ、そうだ、タケル! ミコト! 大丈夫か、いま助けるからな!! この人……人? なに? わかんないけど薬草くれたぞ!!」
「一応さっき座標つけて救難信号出しておいたから、すぐに誰か来てくれると思うよ。私はちょっと周囲にモンスターがいないかどうか、見ておくからね」
会話が成り立っているのか成り立っていないのか、息のある仲間の口に薬草をねじ込む少年に苦笑を浮かべて、桃子は周囲のモンスターを狩りにその場を離れていくのだった。
なお、地上のダンジョン庁管轄の探索者ギルドには、個人情報が存在しない謎のアカウントからの座標信号が届き、救助を派遣する際にはちょっとした騒ぎになっていたとか、なんとか。
そこは、いまは桃子の知りえぬ話であった。
【草薙チャンネル コメント抜粋】
:崩落した
:やばくない? カメラいまどうなってるの?
:だmだにげてにげえt
:お前らヤマトのカメラに切り替えろ! タケルとミコトが巻き込まれたっぽい
:血が出てるぞ、やばくね
:頭の怪我は血が出やすい ヤマト圧迫止血わかるか
:ちがうヤマト逃げて
:涙でてきた
:モンスターきてる
:救援信号出せ
:いま房総ダンジョンのギルドに連絡した、すぐ救援出すって
:ヤマトがんばれ 敵は見た目だけで強くはないから 落ち着いて戦えば大丈夫
:まってまっt てきおおsいぎだ
:音と血の匂いで寄ってきてる
:涙でてきた
:救援、座標がわからないからすぐにいけないって ヤマトが信号送らなきゃ
:やばいかも
:嘘
:ヤマトも
:いや、画面ノイズひどいけど、ヤマト無事っぽい
:カメラkわれtああ
:なんか画面にノイズ走ってよく見えないけど、本当に助かってるのか?
:ミコトのカメラ生きてる ヤマトは無事 多分モンスター死んでる
:涙でてきた
:音声生き返った、なんか救援が薬草くれたって
:消える瞬間、ハンマーと妖精映ってた これ最近噂があったドワーフだ
:ヤマト、落ち着いたら俺たちにも状況教えてくれ
:ギルドの救援きたみたい
:さっきのギルドの救援じゃないのか
:ドワーフが助けてくれたのか
:涙とまらん