ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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空の世界と妖精たち

【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】

 

 いきなりの配信でごめんなさい!

 お父さん、お母さん、リンゴちゃんにクルミちゃん、それにパティシエのみんな! あと……タチバナはみてるかな。わかんないけど。

 いま、多分みんな心配してくれてると思うけど、ええと……何から言えばいいんだろ……。

 

 うわ、コメントすごい、ごめんね、実はええと……端末の魔石が駄目になっちゃってて、数分間しか動かないんだって! だから必要なことだけ伝えるよ! コメント読めません、ごめんね!

 

 

 皆さん。この景色見てください。いまカリンは、見ての通りの空の上のダンジョンにいます。

 なんか、空を飛ぶ無人島みたいな場所に落っこちちゃいました。

 

 上の方、夜で暗いけどカメラでちゃんと映ってるかな? なんでか分からないけど、上高地ダンジョンの一層から、カリンはここまで転げ落ちちゃったみたい。

 上のほう、あそこに小さい島が浮いてるでしょ? あそこに、第一層と繋がる階段があるんだって。カリンが飛べたらすぐに帰れるんだけどね。

 

 

 ええと、無事かどうかって言ったら怪我とかもないんだけど……ええと……言っちゃっていいの? いい? ……うん、ありがとう。

 

 

 ……いま、小さな妖精さんたちがカリンのことを助けてくれてます!

 

 カリン、ここに落ちてから気絶してて。起きたら誰もいなくてひとりで泣いてたら、このダンジョンに住んでる妖精さんが見つけてくれて、私のこと助けてくれたんだ。

 ちゃんと寝る場所作ってくれて、壊れた端末も直してくれて、お水とかも出してくれて……カリンと一緒に居てくれて……仲間の妖精さんたちを呼んでくれて、色々とお世話してくれてるの。助けてくれてるの。

 

 だから、ええと、何を言えばいいんだろ。

 

 心配しないでね! カリンは元気だからね!

 それで、妖精さんの仲間が私のこと助けてくれるっていうけど、時間はかかるみたいで……。

 

 あ、端末のバッテリーがもうなくなっちゃうみたい。

 

 端末が壊れちゃって、バッテリーが少ししか持たないです。だから、またバッテリーの魔力が溜まったら配信するね! またね、みんな大好――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は日曜の夜。既にどの家も夜食を終えて、人によっては既に就寝の準備をしようかという時間。

 女王ティタニアの間にて、桃子たちの話し合いは『桃子が直接救助に向かう』ということで落ち着いていた。

 柚花は最後まで反対意見を述べていたが、当の桃子が件のダンジョンを上ることを楽しみにしているという事実が判明し、説得を諦めた形だ。

 

 そして、話がまとまったところで、桃子がポン、と手を叩いて。自分の探索者用端末を懐から取り出して見せた。

 

「そうだ、これを先に言えば良かったかなあ。柚花は心配してくれてるけど、最悪ね、私が落っこちても命の保証があるんだよ」

 

「なんですか? 端末? 命の保証って……」

 

 桃子の端末と、落ちた時の命の保証がどう繋がるのか理解できない。

 柚花は、眉を顰めながらも桃子が操作する端末の画面を覗き見る。

 それは、端末同士のメッセージ画面。

 

 どういう仕組みで端末に【隠遁】が働きかけているのかはよくわからないが、桃子は他者と個人間のメッセージのやりとりができない。なのでメッセージ画面には、一括送信のギルドからのお知らせが並んでいる。

 ただ、その最新のメッセージだけは、ギルドではない。特定の人物からのものだった。

 

 

『ももたんなら大丈夫ですよ。でも、落ちた時は助けてあげますね』

 

 

「ティタニア様と話し合ってたときにね、いきなりメッセージが届いて驚いちゃった。私の端末にメッセージが入るなんて、今まで無かったからさ」

 

「……これって、りりたんからのメッセージですよね」

 

 先代女王りりたん。恐らく、能力だけで言えば、彼女が最初から進んで動いてくれれば事件は大体解決する。

 だがしかし、彼女はヒーローにもスーパーマンにもなる気はなく、なんなら前世の影響か、見知らぬ探索者に対する情も極端に薄い。なので、カリンの救出に出向いてくれるとは初めから期待はしていなかった。

 けれど、どうやら桃子の友達としては。最低限の手助けはしてくれるようである。

 メッセージのタイミング的にも、ティタニアとの話し合いをしている姿をずっと覗き見されていたようだ。

 

「あの子、先輩のストーカーか何かなんですか?」

 

「あはは……ノーコメント。でも、りりたんが大丈夫だって言ってるなら、きっと大丈夫なんだよ」

 

「……はあ、もう。分かりましたよ。もう止めませんから。でも本当に、それでも私は心配してますからね!」

 

 笑顔で、大丈夫だ、と言ってのける桃子。

 恐らく、りりたんというジョーカーが命の保証をしてくれた時点で、最悪の展開というのはあり得ない。カリンはともかく、桃子の無事だけは保証されているのだろう。

 だけれど、そうだとしても。仮に世界中の偉い人たちにこの作戦に危険性はないと言われても。だからと言って、柚花が桃子を心配しないわけではないのだ。

 この先輩は、すぐに他人を思いやる割に、自分がどれだけ心配されているかを本当の意味では分かっていない。本人がポジティブ過ぎて、周囲のネガティブに理解が追いついていない。柚花は、桃子のそういう強い所が好きだけど、嫌いだ。

 だからどうしても、口では分かったと言いながらも、眉の間にしわが寄る。不本意です、という顔になってしまう。

 

 

「後輩! そんなに暗い顔しなくても大丈夫だ! アタシたちも一緒に! ついてくからな!」

 

「そうだヨ。よく分かんないけど。ついてくヨ。高い場所なら新しい葉っぱ、沢山獲れるかもしれないヨ」

 

「フラムさん、リフィさん……」

 

 しかし、その柚花の気持ちを文字通り読み取ったのだろう。横から見ていた妖精たちが、声をかけてくれた。

 

 火の妖精、フラム。赤い髪を小さく後頭部でまとめた、元気な妖精。

 彼女も、桃子と違った意味で、とにかくポジティブだ。武器が大好きなフラムは、夜だというのに今日も元気に、大声で。柚花を励ましてくれる。

 

 緑葉の妖精、リフィ。緑色の毛が、まるで新芽のようにぴょこんと飛び出ているのが特徴的な、葉っぱマニアの妖精。

 彼女はどちらかと言うと一人でふらふらどこかへ遊びに行っているイメージがあるが、今この時は、カリンのため……かどうかはさておき、桃子たちに協力してくれるようだ。

 

 彼女たち妖精は柚花の【看破】と同じく、いや、恐らくはそれ以上に人の心の動きを魔力の形として読み取れる。その上で、普段は全くそれを気にしない生物だ。

 だけれど、今回はきちんと柚花の不安と不満を読み取って、応援してくれている。

 そしてそれは、フラムとリフィだけではない。

 

 

「ククク……人間を助けるのに協力をするわけじゃないさ……ただ、桃子くんひとりじゃ、心配だからねえ……」

 

「そうよ♪ 高い場所で、お酒を飲むのも、素敵なのよ♪」

 

「ルイさん、クルラさん……今回はお酒はやめてくださいね」

 

 毒草の妖精ならぬ、薬草の妖精ルイ。しっとりとした暗い緑髪で、その顔の半分を隠した妖精だ。ジメジメした場所が好きな水の妖精以上に、ルイは雰囲気がジメジメしている。

 彼女は他の妖精と比較しても特に、己の意思で人間と距離をとっている節がある。だけれど、それでも。ルイは桃子と柚花のことは仲間として認めてくれた。そして今も、仲間としてついてくれている。

 

 お酒の妖精――ではなく。桃の木の妖精クルラ。少し黄色がかった白い髪は、光の加減によって桃色にも見える不思議な色合い。ルイとは逆に、彼女のオーラは金色で、神々しい。

 とある村で神として祀られていた彼女は、酒浸りの言動とは裏腹に、人々を守る神であろうとしている。村の住民でないカリンのことも、もちろん桃子のことも。きっと彼女なら、護ってくれるだろう。

 

 

「うぅ……わ、私も頑張ります……か、カリンさん、ずっと怖がってて、寂しそうで、私も……助けてあげたいって……」

 

「そうだぞ。後輩。お前は心配しすぎなんだ。桃子なら。空くらい。カレーの力で飛べるだろ」

 

「ニムさん、ヘノ先輩……いや、カレーを何だと思ってるんですか」

 

 そして、柚花の相棒である水の妖精ニム。気弱で怖がりなニムは、いつもおどおどしていて、うつむき加減だ。彼女が俯くと蒼い肩まで伸びた髪が、可愛らしい顔を隠してしまい、勿体ないなと、柚花は思う。

 そのニムが今は、真っすぐに柚花を見て、自分の意見を述べている。見知らぬはずの人間のことを想って、行動しようとしている。柚花はそれをただ、嬉しく思う。

 

 桃子の相棒である風の妖精ヘノ。緑色の長い髪を揺らす彼女は、相変わらず変なことを言っている。しかし、本当はヘノが一番桃子の身を案じているし、桃子のことを見ているのを柚花は知っている。

 ヘノを羨ましく思う。彼女は空の上まで、桃子と共に行けるのだ。少しばかり、妖精相手に嫉妬してしまう。

 しかしそれはそれとして、ヘノの適当すぎる発言には思わず苦笑が浮かんでしまう。

 

 今はカリンのそばにいて、この場にいないリドルとノンも。もしこの場にいたのならば、皆と同じように柚花を心配してくれただろう。

 謎がどうとか、意味不明な発言と共に励ますリドルと、それをいさめるノンのやりとりが容易に想像ついた。

 

 そんなことを考えていると、柚花ももうなんだか嫌な気分が霧散していって、笑うしかなくなってきた。

 妖精たちの背後では、訳知り顔でティタニアが微笑んでいる。

 ニムから聞いた話では、先日はクリスティーナとの再会を果たし、クリスティーナが居る間、丸々二日間ほどずっと、子供に戻ったようにべったり甘えていたらしいが、しかしそんな彼女も今はしっかりと女王の顔つきだ。

 柚花はティタニアに微笑み返して、一つ、頷いておいた。大丈夫です、と、妖精の女王に心で返す。

 

 

 ふう、と一息ついて柚花は改めて桃子に向き直る。

 

「先輩。私は何か出来ませんか? サポートさせてください」

 

「うーん、考えてることはあるんだけど、柚花は学校があるでしょ? だから、無理なら無理でもいいんだけど……」

 

「やります! どうせテストも終わってあと数日で終業式です!」

 

 今日は日曜の夜なので、本来ならば明日は学校だ。とはいえ、先ほど両親には、学校は休ませて貰う旨を連絡している。

 カリンのことを考えると学校どころではないのは本当だ。妖精の加護というのは、誰もが持っているわけではない。今は、ニムの加護を持つ柚花にしかできないことが、絶対にあるのだ。

 それに、どうせもう数日で春休みだ。実はすでに授業という授業も残っていないため、柚花の探索者としての事情を知る学友たちも理解を示してくれるだろう。

 担任の先生は、理解を示した上で補習の準備をしてくれるだろう。仕事を増やしてしまう先生にだけは、本当にごめんなさい、と心で謝罪する。

 

 ちなみに、本来ならば学生の柚花よりも社会人である桃子のほうが簡単に休みをとれない立場なのだが、そこはギルドにも協力して貰うらしい。

 桃子の職場の工房は、ギルドともつながりが深い。ヤマガタから連絡を入れて、桃子に何かしらの協力を頼むということを説明すれば、ある程度は話をつけやすいのだそうだ。

 持つべきものはギルドとのツテだな、と柚花は改めて思った。

 

「先輩だって工房休む気満々じゃないですか。後輩の私だって、先輩を見習ってお休みしますからね!」

 

「そこは見習っちゃ駄目な奴だなあ。まあでも、やるかどうかの判断はちゃんと話を聞いてからじゃなきゃダメだよ。実はね――」

 

 

 その後、桃子の語った作戦。

 それは言ってしまえば、桃子がダンジョンから、そして柚花は地上からカリンを助けよう、という作戦だった。

 奇しくも、いつぞやのうどん大会フェス祭りの時と同じである。手分けをして事態を解決しよう、というわけだ。

 まず何はともあれ、地上班は第一層から降りるための『謎』を解かなければいけない。

 上高地ダンジョンの探索者たちは、とにかくしらみつぶしに調べてくれているのだろうけれど、残念ながら現状では「何か」のピースが足りていない。

 でもきっと、【看破】を持つ柚花ならばその「何か」を見つけられる。柚花は、あの場所の『謎』を解くために必要だ。それが、桃子の出した答えだった。

 

 明日は、窓口かヤマガタに頼み込んで、桃子のこと、柚花のこと。そしてもう一人、皆を安心させるために欠かせない人物へのコンタクト。とにかく色々と手配して貰わなければいけないだろう。

 その人物には、寝る前に一度端末からメッセージを送っても良いかもしれない。クルラかクヌギに伝言を頼むことも可能だけれど、流石に今回はギルドを通した方がいいだろう。

 とにかく、今日はしっかりと眠って、決行は明日からだ。

 

 

 そして、リドルが修復した端末による、カリンの生存報告の生配信が始まったのは。

 それを見て、事情を知る桃子と柚花が、安堵の気持ちで笑い合ったのは。

 

 この後すぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある探索者たちの会話】

 

 

「君たちは、例の配信動画は確認したかい?」

 

「はい。彼女は些細な縁ではありますが、見知った顔だったので」

 

「アイドルちゃんたち、明るい子でしたよ。なんつーか、妹とか姪っ子たちがいたらあんな感じなのかなって、自分の年齢を感じちゃいましたよ」

 

「そうだったのか。君たちは、あの子に何が起きたかは、わかるね?」

 

「ええ、あれと同様の罠には地下遺跡で何度か阻まれたことがあります。おそらくあの壁画が、扉です」

 

「ただ、詳しい解錠方法までは直接触って見ないとわかんねーな」

 

「上出来だ。この10年で君たちも成長したね。ならば、君たちは、どうする?」

 

「はい、早朝の便で向かいます。きっちりと、あの子の助けになってきますよ」

 

「こないだはメジェド様に全部持ってかれたけど、俺たちだって成長したんだって、教授に見せてやりますからね」

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