ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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タヌキヘリコプター

「よし。準備はいいか。桃子」

 

「うん。リュックは改造して、すぐにパラシュートが飛び出るようにしたし。工房にもお休み貰えたし、大丈夫!」

 

 月曜日。

 

 朝からギルドにて室長のヤマガタと交渉し、桃子が工房を数日休む理由を作って貰ったり、柚花が動きやすいようにギルドからの緊急依頼をねじ込んで貰ったりという裏工作を終えて、桃子とヘノは妖精の国へと戻ってきた。

 

 工房への連絡は、意外にもすんなりと受け入れられた。

 というのも、工房の人たちは探索者のタチバナが桃子の仲の良い後輩だということを知っている。

 そして、件の行方不明になってしまった少女がタチバナの関係者だというのも昨日今日で有名になってしまったので、恐らく桃子もそれに付き添っているのだなと、勝手に勘違いしてくれていたらしい。

 

 カリンの巻き添えで再び世間の噂に名前が浮き上がってしまった柚花であるが、しかし流石に今回はカリンが話題の中心だ。柚花が再び自粛しないといけない事態には陥らないようで、ひと安心である。

 

 柚花とは地上のギルド前で別れ、ここからは別行動だ。

 これから数日間は、恐らく桃子は上高地ダンジョン第二層で過ごすことになる。

 

「うぅ……パ、パラシュートって、ちゃんと開くんでしょうか……?」

 

「ニムは心配性だな。まあ。大丈夫だろ。そもそも。桃子が落っこちなければ。いいだけだぞ」

 

「そうだねえ、頑張るよ。じゃあヘノちゃん、お願い」

 

 そしていよいよ、出発だ。

 いつものリュックは改造を施して、しっかりと身体に固定されるように強化した上、外に出ている紐を引っ張ればスフィンクスのブラジャーことパラシュートが飛び出るようになっている。

 なので、中身は他には空っぽ。つまりは、腰につけた工具と懐に入れているハンマー以外は、全くの手ぶら状態だ。

 食べ物やらなにやら、必要なものは後から妖精の仲間たちが運んでくれる手筈になっている。持つべきものは、仲間だ。

 

「よし。光の膜。開くぞ」

 

 ヘノと桃子。そしてそれに続き、ニムたち妖精の仲間も連なって、上高地ダンジョン第二層へと続く光の膜を抜けていく。

 花畑からは、興味本位でそれを見ていた小さい妖精たちの声援が、桃子の背中をしっかり押してくれるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、上高地ダンジョン第二層。

 ここは全方位、上を見ても下を見ても、遥か先まで蒼く広い空が続く、果てなき空のダンジョンだ。

 光の膜が出現するのは、その中間ほどに存在する小さなひとつの浮島だった。およそグラウンド一つ分の広さの、芝の緑だけが広がっている島だ。

 

 そして桃子と妖精たちがその地に降り立つと、まさかの先客がそこに待ち構えていた。

 

「あー! 桃子師匠、待ってたっすよー!」

 

「え?! ポンコちゃん?」

 

「がー! がー!」

 

 そこにいたのは、桃子が以前着ていたピンクのスカジャンコーデを模した衣装に身を包んだ、およそ11歳程度の少女。

 どんぐり色の柔らかい髪のその少女は、どこからどう見ても人間の女の子だ。だがしかし、桃子は知っている。その正体は、うどんを愛する化け狸の少女である。

 

 そう、ポンコがそこにいた。

 

 初め出会った時には獣と人間を合わせたような半獣人姿にしかなれなかったポンコだが、最近はきちんと人化の術をマスターし、人間の少女として振る舞う姿が板についてきていた。

 こうして屈託のない笑顔で桃子に駆け寄るその姿は、知らない人間がみたならば、普通の小学生女児同士が戯れているように見えたことだろう。

 

 そして、そのポンコの後ろには、彼女の身長ほどはあろうかというサイズの、見たこともない4羽の巨大な茶色い鳥が、ズラリと並んでいた。

 

「待って、なんでポンコちゃんがここに? それにその、この大きな鳥さんたちは……?」

 

「えと、順番に説明するっすね。実はっすね、夜に妖精の国にポンが遊びに行ったときに、師匠がこのダンジョンを上っていくっていう話を聞かせてもらったんすよ」

 

「そうなのか。寝室にいたから。ヘノも。気づかなかったな」

 

「ポンコちゃん来てたんだね。ごめんね、私たち早めに寝ちゃってて」

 

 まず、ポンコがここにいる理由。

 それは単に、夜中に妖精の国を訪れた際に、居合わせた妖精の誰かに話を聞いたとのことだ。

 ポンコの父であるクヌギは、今は山形県の山村のダンジョン、桃の窪地の番人となっている。

 その父に会いに行くための経由地として、ポンコは夜中に頻繁に妖精の国を訪れるのだ。そして、その際になんだかんだで妖精の皆とも顔を合わせるので、今ではポンコと妖精たちは普通に仲良しの顔なじみである。

 

「だから、ポンたちも協力するっすよ! そして何を隠そう、こっちの大きな鳥は、化け狸のお兄ちゃんたちっす!」

 

「ガァー! ガァー!」

 

「ちょっと鳥に化けてるときはうまく喋れないっすけど、途中までは師匠のこと運んでってくれるっすよ」

 

「え?! 本当?! タヌキさんたちなの?! え、でも、運んでくれるって……?」

 

 驚愕。巨大な鳥だと思ったら、それは化け狸だった。

 お兄ちゃん、ということはポンコよりも年上の雄の化け狸たちなのだろう。このような巨大な鳥に化けてしまうとは、さすがは化けるのに特化した魔法生物と言える。

 

 さすがに鳥の肉体になっている最中は人の言葉を話すのは難しいようだが、しかし巨大な羽根を広げてポンコの頭をファサファサと撫でる姿には、それぞれ鳥と人間という姿ながらも、兄妹のような慈愛を見てとれた。

 そしてそんな彼らが、途中まで桃子を連れて行ってくれるというではないか。

 

「お兄ちゃんたちが先に飛んだ感じでは、三つ目の大きな島くらいまでは飛べるみたいっす。それより上だと強風が吹いてる場所があって、ちょっと飛ぶのが難しいから無理みたいっすね」

 

 大きな島。

 

 今立っている場所から上を見上げれば、広い空には7つの巨大な島が浮いている。

 それぞれの島は大体が1日周期でゆっくりと動いており、島と島が近づくのは日に一度。つまり、単純計算で桃子が島を一つ一つ渡っていくならば、7日はかかる計算であった。

 しかし、最初の2つの島をスキップして直接3つ目の島まで運んで貰えるならば、その2日分が短縮できる。

 5日間と7日間。これは、慣れない野宿を強いられるカリンと桃子の二人にとっては、大きな違いである。

 

「ううん! それだけでも、2日は短縮出来るもん。大助かりだよ! あ、でも、本当にいいの? 大丈夫なの? その、タヌキの里とは無関係な場所で、人間を救助するために力を使うのとかって……」

 

「あのね、桃子師匠と柚花さんにはね、ポンたちは返しきれない恩があるんすよ。だから、当たり前なんすよ」

 

「ぐぇっ! ぐぇっ!」

 

 ポンコの言葉に、そこにいた大きな鳥も肯定するように声を上げ、激しく首を上下させる。

 恩。それはきっと、化け狸の長の息子であり、ポンコの父であるクヌギを救ったことだろう。

 もちろん、桃子たちは恩を着せるために救ったわけではないし、恩を返せなどと思ってすらいない。しかし、化け狸たちがそれを理由に協力してくれるというのならば、今回は遠慮せずに受け取っておこう。

 情けは人の為ならず、とは言うけれど。以前クヌギを救ったことが、今この時にカリンを救う一助に繋がったのだとしたら、やはりクヌギを救った甲斐があったというものだ。

 

 さて、ところでその恩は受け入れるとして。桃子が気になっているのは、その運び方である。

 見た所、大きな鳥は四羽。いや、化け狸なので四匹、或いは四人と言うべきか。

 そしてそれぞれの鳥の足には太いロープが結ばれており、そして全てのロープの先は、1つの小さなハンモック状の網へと繋がっていた。

 桃子はこれを見たことがある。世にも有名な妖怪少年のアニメで、その主人公の少年がこれに座り、空飛ぶ大量のカラスに運ばれていたのを覚えている。

 通称、カラスヘリコプターだ。

 

「ところで。桃子はどうすればいいんだ。その網に座ればいいのか」

 

「ぐぇっ! ぐぇっ!」

 

「座れって言ってるのかな? わ……す、すごい、アニメで見たやつだこれ。大丈夫なのかな」

 

「がー! がー!」

 

 桃子がその網に腰を下ろすようにするが、流石に不安は隠しきれない。

 ヘノの故郷に足を踏み入れるのを楽しみだとは言っていた桃子だが、いきなりカラスヘリコプターならぬタヌキヘリコプターに運ばれる覚悟までは、出来ていなかった。

 しかし、その桃子の不安げな様子を見かねたのか、大きな鳥たちは桃子に一斉に声をかけてくる。

 

「がーっ! ぐぇっぐぇっ!」

 

「安心してくれって言ってるっす」

 

「あ、はい! よ、よろしくお願いします」

 

 ポンコの通訳を挟んで、桃子は鳥たちに頭を下げる。しかしポンコはなぜこの鳥の鳴き声で相手の伝えたい言葉を理解できているのだろうか。

 化け狸同士、種類が同じならば言葉などなくとも意思は通じ合うものなのだろうか。

 そんな疑問はしかし、四羽の鳥が飛び立ち、網に座った桃子自身が地面からふわりと浮き上がる感覚に、すぐに吹き飛ばされてしまう。

 

「じゃあ桃子師匠、行ってらっしゃーい!」

 

「ありがとー、ポンコちゃーん!」

 

 みるみる内に離れていく芝生の上では、桃子を見上げてポンコが大きく手を振っている。

 どうやら彼女はまだ鳥類の姿には化けられないのだろう。鳥に変化して付いて来る、ということはないようだった。

 

 

 

 

「と、飛んでる、わ、ひええええ」

 

 ポンコを見送ってすぐ、鳥たちはみるみる上昇していき、桃子は足場も見えない空の上の空中散歩状態となる。

 周囲を見渡せば、件の大きな浮き島以外は何もない。雲と空だけの世界だ。

 北海道までの飛行機で移動した際は、眼下を見れば地球という地面が見えたものだが、このダンジョン内には地面という概念がないのか、下を覗いてもずっと蒼い空と白い雲に覆われている。

 あまりにあり得ない光景。地上の常識が全く通用しないこの状況に、桃子は目をまわしかけていた。

 しかし、いくら平衡感覚や上下感覚がおかしくなろうとも、桃子は左右の手で掴んだロープだけはギュッとつかんで離さない。というか、左右のロープしか縋るものがないのだ。意地でも離すものかと、桃子はロープを握力でとにかく握りしめる。

 

「なんだ。桃子。飛行機とかで。空を飛んだことくらい。あるんじゃないのか」

 

「ヘノぉ、ひ、飛行機は……もっと、でっかくて、なかに地面があって、椅子が並んでるんですよぉ」

 

「なるほど。人間の世界では、乗り物が空を飛ぶのでは、ないかな?」

 

「いまヘノたちがその話をしたばかりだよぉ」

 

 桃子の周囲では共についてきてくれている妖精たちがいつもの調子でヘンテコな会話を繰り広げているが、残念ながら桃子はその会話にツッコミを入れるどころか、彼女らの会話に耳を傾けている余裕すら存在しない。

 とにかく身を固くして、両手のロープを強く握りしめている。

 もしいま桃子に余裕があったならば、桃子たちを見つけて群がってくるスカイフィッシュたちと、周囲でそれを撃退していく妖精たちの魔法にも気づいたかもしれないが、残念ながら現在の桃子にはその余裕はなかったようである。

 

 

 

「がー! がー!」

 

「すごいな。もう2つ目の島も通り越えたぞ」

 

 タヌキヘリコプターはかなりの速度で上昇していく。

 桃子にとって幸運なのは、ここに風の妖精であるヘノが居たことだ。

 化け狸の変化した鳥たちはかなりの速度で上空を飛翔している為、実は今は桃子には物凄い突風が吹きつけている。ヘノが桃子の周囲の風を操作してくれているので、桃子はその突風に晒されずに済んでいるのだ。

 もしヘノが居なければ、桃子は地上ではまず味わえない、全身で突風を浴びながら網に座って大空を飛ぶという、スリル満点の飛行体験を味わう羽目になっていただろう。

 

 だがしかし、突風が無ければ怖くないのかと言えば、決してそんなことはなく。

 

「す、すごひゃああああすごいい」

 

「うぅ……も、桃子さんが、変な声を上げてますねぇ……」

 

「ククク……どうやら、桃子くんには、この飛び方は少し、刺激的過ぎたようだねぇ」

 

「桃子♪ お酒飲む? お酒を飲めば、怖いのも忘れられるわよ♪」

 

「ダメだぞ。桃子は。お酒ですぐ。寝ちゃうからな」

 

「なるほど。桃子くんは、お酒ですぐに寝てしまうのでは、ないかな?」

 

「ヘノが今言ったことそのまんまだよぉ」

 

 怖い。でも景色はみたい。でも怖い。

 恐怖と感動の狭間で、謎の奇声を上げ続ける桃子の周囲では、スカイフィッシュたちを払い除けながら妖精たちが相変わらずの調子で変な会話を繰り広げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とあるアイドルと妖精たちの会話】

 

 

「どうだ! アタシにかかれば! 魔法の火くらい簡単だぞ! 数日はここで、燃え続けるぞ!」

 

「すごい、すごーい! あっという間に火がついた! 妖精さんすごいですねっ」

 

「お礼に武器! 見せてくれ! 強そうなのがいいぞ!」

 

「え、あの……カリンの武器、魔法の杖ですよ?」

 

「そっか! 剣じゃないのか! そっか……」

 

「なんかすみません」

 

「人間。こっちに果物もあるヨ。特製の種、育てておいたヨ」

 

「わ、いつのまに?! えと……た、食べてもいいんですか?」

 

「朝ごはんにして、どんどん食べちゃって良いヨ。あと、こっちにはスーッとする葉っぱを育てておいたヨ」

 

「うわっ、カリンが寝てる間に洞穴の脇にハーブ畑ができてた……」

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