ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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森と小山の浮き島

「がー!」

 

「ぐぇっ! ぐぇっ!」

 

「ガー! ガァー!」

 

 巨大な鳥に変化している化け狸たちが口々になにかを言っているが、しかし残念ながら桃子には鳥の言葉は理解できない。

 だが、状況からすると恐らくは「予定の島に到着したぞ」とでも言っているのだろう。

 大迫力の空中遊泳の末、桃子の視界の先には巨大な島が近づいて来ていた。

 光の膜が存在する小さな島の広さが小学校のグラウンドなら、ここはグラウンドを含めた小学校そのものに加え、その周囲の学区が丸ごとひとつ、すっぽり入りそうなサイズの島である。大きい。

 

「ひ、ひええ、陸地についたー……」

 

 空から見たその島は、小さな山と森で構成されているようだ。

 島の半ばにある開けた土地にゆっくりと鳥たちは降下していき、桃子がそれに合わせてスタッと地面に着地する。人の手のついてない雑草の群れが桃子を包み込み、草の匂いが鼻をつく。

 たった今まで空中を揺られていたので、両足をついてもしばらくは身体が揺れているような錯覚に陥るが、しかしそれもすぐに落ち着いていき、両足の裏にはしっかりとした大地の感触を確認できる。

 やはり、桃子は地面の上で生きる生き物だ。両足が地面についているというだけで、心の中の安心感が違う。

 

「タヌキなのか鳥なのか。なんだかわかんないけど。とにかく。助かったぞ」

 

「ククク……お礼に今度、新種の薬草煙草を作っておくかねぇ」

 

「今度、タヌキの里のお酒も飲んでみたいわ♪」

 

 桃子の周囲の妖精たちが、ここまで運んでくれた彼らに口々に礼を伝える。

 地面に立つ喜びを噛み締めていた桃子もハッと気づいて顔をあげて、ここまで運んでくれた四羽の鳥に、あるいは四人の化け狸に向かい頭を下げる。

 彼らは恐らく、桃子と直接の面識など無いだろう。むしろ、桃子よりも柚花のほうが互いに面識があるのではないかとすら思う。

 それでも。彼らは面識のない桃子を手助けしてくれたのだから、感謝してもしきれないくらいだ。

 

「皆さん、ありがとうございました! 助かりました!」

 

 桃子たちの礼を受けとると、巨大な鳥たちはどうってことねえよ、とでも言うようにそれぞれが一声鳴いて。

 そして、頼まれた仕事を終えた彼らは、化け狸の住まう地である香川ダンジョンへと帰っていくのだろう。大きな鳥たちが再びその翼を広げ、来た道を戻るように、蒼い空の中へと飛び立って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ。ボクたちは一度、妖精の国へと戻ると、するかな」

 

「夕方くらいになったら、桃子さんの食べ物とか、必要そうなものも持ってくるよぉ」

 

「そうだな。桃子はしばらく。野宿が続くから。荷物はお前たちに任せるぞ」

 

 小山の麓の開けた空き地に桃子たちは着地した。そして、ここまでついてきてくれていた妖精たちは、一旦ここで解散となるようだ。そもそも彼女たちが今ここまでついてきてくれたのは、それぞれ口にはしないが桃子の旅路が心配だったからだ。

 安全に大きな浮き島まで到着したのならば、彼女らも安心してこの場を離れることが出来る。大人数でついていなくとも、多少のトラブルくらいならヘノひとりがいればどうとでもなるのだから。

 そもそも誰かが妖精の国へと戻って桃子の食料などを持ってこなければいけないので、ずっとここにいても仕方がない。

 

「ククク……桃子くんの、カレールーと小鍋でも持ってくれば、カレーが作れるかねぇ」

 

「お酒も持ってくるわね♪」

 

「待て。クルラ。お酒は。いらないぞ」

 

「みんな、ありがとうね。じゃあまたあとでねー」

 

 そして、ヘノとニムを残して、妖精たちは妖精の国に戻るために空へと舞い上がり、光の膜のある浮き島へと帰っていった。

 またしばらくしたら彼女たちは顔を出してくれると分かっているので、あくまで一時的な別行動だ。桃子は一緒に来てくれた妖精たちにも大きく手を振って、それぞれの魔力の光が離れていくのを眺めていた。

 

「あ、あのぉ……も、桃子さんの道具って、さっきのタヌキさんたちに、一緒に運んでもらうんじゃ、ダメだったんでしょうかぁ……?」

 

「それも。そうだな。なんでわざわざ。荷物。置いてきたんだ?」

 

「あー、あー、えーと……あ! ほら! 折角だから島をさ、探索しよ? ニムちゃんもヘノちゃんも、探索好きでしょ?」

 

 桃子とて、うっかりすることはあるのだ。

 特に今回は急な計画すぎてそこまで頭が回っていなかったのだ。

 

 なので今のニムの気付きは、なかったことにする。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ。島の探索でも。してみるか。次の島が近づくのは。もっと後のはずだしな」

 

「な、なにか、美味しいものとか……み、見つかるかもしれませんねぇ」

 

 先ほど、空の上から眺めたときは、ここは小さな小山の上で、この周囲はほとんどが森だった。

 森と言っても色々な森があるが、この島の森はさほど鬱蒼ともしておらず、もしかしたら森というより雑木林と呼んだ方がイメージ的に近いかもしれないような代物だ。

 もちろんこの階層に住まう魔物や原生動物のような危険も潜んでいるのかもしれないが、それと同時に桃子の知らない木の実や食材などもあるかもしれない。

 

「あれ? でも、ここってヘノちゃんの生まれたダンジョンなんだよね? ヘノちゃんは、この森とかは把握してるの?」

 

「あんまり。知らないぞ」

 

「そっかー」

 

「ヘ、ヘノは前から……細かいところ、気にしなかったんですねぇ」

 

 てっきり、ヘノならばこのダンジョンのことを隅々まで見知っているのかと思ったのだが、どうやらそんなこともないらしい。

 桃子は少々拍子抜けをしてしまうが、しかしポジティブに考えよう。ここにはまだ、ヘノすら知らない食材があるのかもしれないのだ。

 そう考えると、途端にやる気が沸いてくる。

 

「それじゃあ、何があるかわからないなら気を付けて行かないとね。私って今、ハンマーで戦えないからさ」

 

 桃子の武器であるハンマーには、遠野ダンジョンで人々を苦しめていた大妖、鵺を討伐して入手した紅い魔石――紅珠がはまっている。

 いつもならばその紅珠に魔力を込めることによって、強大な破壊力の一撃や、付与された【氷結】の魔法を発動させることが可能なのだが、今はそれが出来なくなっている。

 というのも、カリンを救出するために、一時的に【転移】の魔法が付与されているのだ。

 うっかりハンマーに魔力を込めようものなら、その場で一回きりの【転移】を発動させてしまう可能性があるため、今回の冒険では極力ハンマーの使用を控えなければならないのだ。

 

「そういえば。そうだな。魔物が出たら任せろ」

 

「うぅ……チュパカブラとか、出てこなければいいですねぇ」

 

「チュパカブラって、そんなに有名なの……?」

 

 とはいえ、あくまでここは階層としては第二層。

 第二層で桃子の【隠遁】を破るような魔物など恐らくは出てこない。万が一襲われることがあったとしても、道端で拾った木の棒でも持って桃子が戦えば第二層に出没する程度の魔物ならばどうにかなるだろう。

 しかし、どのような魔物がいるのかも分からない以上、油断は出来ない。

 警戒心のないことで有名な桃子でも、流石に初めて訪れるダンジョンで己の武器を封じられた状況となれば、少しは警戒するのだった。

 

 どのような魔物がいるのか。どのような原生生物がいるのか。とりえずはチュパカブラが出現しないことを願いながら、桃子は妖精二人とともに浮き島の森を探検していくのだった。

 

 

 

 そして、しばらく散歩がてらこの島を探索した結果。

 結論から言えば、魔物の姿はなかった。どうやらヘノの記憶によると、この階層の魔物は空を飛ぶ魔物がメインで、陸地でしか生息できないような魔物に覚えはないそうだ。

 

「キノコはあるけど、食べられるのかどうかわからないねえ」

 

「毒きのこだったら。困るな。ルイにも。ついてきて貰えば。良かったな」

 

「き、木の実も、妖精の国にあるものでしたねぇ……」

 

 そして食べ物だけれど、収穫は幾つかの見たことのある木の実だけであった。

 もしかしたら食べたら美味しいキノコなどもあるかもしれないし、桃子が詳しくない為に見逃しているだけで食べられる野草や山菜もあるのかもしれないが、しかし残念ながら分からないものは食べようがない。

 結果としては、妖精の国にもある木の実を幾つか食べただけである。それはそれで美味しかったし元気も出たのだが、しかし新種の果物を期待していたので、ガッカリ感は否めない。

 

「妖精の畑の木の実は。だいたい。リフィが手当たり次第。持ってきたものみたいだな」

 

「じゃあ、リフィちゃんはここにも来たことがあるのかな?」

 

「うぅ……リフィは、葉っぱのあるところ、どこにでも行くみたいですからねぇ」

 

 妖精の畑の、全体の管理はヘノとニム。薬草の管理はルイ。そして、そのほとんどを占める果樹であるが、その大半は緑葉の妖精リフィがあちこちから持ち込んだものなのだという。

 リフィは、葉っぱが大好きだが、葉っぱの元となる樹木なども大好きなのだ。そして当然、樹木になっている果物にも造詣が深い。

 

「悔しいけど。あいつ。植物のことは。ヘノより断然。詳しいからな」

 

「あ、もしかしてお野菜について、リフィちゃんに聞いてみたらわかるかな」

 

「そうだな。聞いてみてもいいんじゃないか? あんまり。期待できる気は。しないけどな」

 

「リ、リフィも……甘い果物以外は、そ、そんなに、食べ物として認識してなさそうなので……」

 

「そっかー」

 

 仮にどこかのダンジョンにきゅうりやピーマンがあったとしても、それが甘くなければ食べ物として認識しない。

 食べ物として認識していないから、妖精の畑へ持ち帰ることがない。

 なるほど、シンプルな話で分かりやすい。

 

 今度、地上の八百屋から目ぼしい野菜を持ち込んで、リフィにそれらを見せてみようかなと、桃子は考える。あるいは、野菜図鑑でも持ってこようか。

 地上の野菜を見て貰った上で、ダンジョン内でそれに似たものを探して貰う。それは策としては、悪くないのではなかろうか。

 リフィに丸投げのようにも聞こえる策ではあるが、しかし実際問題としてヘノや桃子よりも、リフィのほうが圧倒的にそれらを探しだす能力に秀でている。

 ヘノと新たな野菜を探して様々なダンジョンを見て回るのも楽しいし大好きだけれど、それはそれとしても、ダンジョン野菜は欲しいのだ。

 

 そんなことを考えながら、最初に足を踏み込んだ浮き島の森を、ゆっくりと探索していくのだった。

 

 

 

 

「あ、桃子さん……そ、そこに、蜂の巣がありますよぉ」

 

「わー、こんな場所でも蜂なんているんだねえ」

 

「桃子。はちみつだ。あの巣を襲って。はちみつをとるぞ」

 

「え、待って待って! 嫌だよ、刺されちゃうよ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とあるアイドルと妖精たちの会話】

 

 

「カリン、こんな果物初めて食べました。ダンジョンって、こんな果物あるんだ」

 

「人間は、ダンジョンの葉っぱをもっとよくみるといいヨ。探せば。もっと色々な葉っぱが、あるヨ」

 

「葉っぱ……確かに、カリン、いつも配信とか、自分の活躍見せたがるばっかりで、葉っぱまでちゃんとみたことないや……」

 

「知ってるヨ。地上では人間たち、葉っぱをどんどん伐採してるの。人の住むところには葉っぱがないの。悲しいヨ」

 

「あ……う……ご、ごめんなさい」

 

「おい! しんみりするなよ! アタシそういうの嫌いなんだよ! なあリフィ、そこの果物って焼いたら美味しいかな!」

 

「焼いたことないけど、試してみようヨ。ほら、人間も、一緒に実験するんだヨ」

 

「え、まって、これ焼くの? 美味しいのかな……」

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「うまい!」

 

「美味しい!」

 

「驚きだヨ!」

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