ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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お嬢様のヤバいスキル

【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】

 

 

 パティシエのみんな、クルミちゃん、リンゴちゃん、お母さん、お父さん、おはよー! 火曜日の朝だよ♪

 端末の魔力が少し溜まったから、近況報告の配信するよー。ああ、でもカリンはちょっとボロボロで汚れてるし、メイクも落ちちゃってるからさ、あんまり見ないでね。

 

 昨日はね、妖精さんたちが木の実を沢山くれて、火も起こしてくれたんだよー?

 カメラで見えるかな? こっちの焚火が、妖精さんが作ってくれた魔法の火だって。しばらくこのまま消えないんだってよ、すごくない?

 それと、こっちの木の実はすごく美味しい木の実だよ♪

 そのまま皮をむいて食べても十分美味しかったんだけど、これをね、こっちの火で焼いて食べたら滅茶苦茶美味しいの! 甘さが増して、花みたいな香りになって、不思議なシャクシャク食感になってね、すっごいの! 妖精さんたちも驚いてたくらいだから、皆にも食べさせてあげたいなー。

 

 妖精さんはいまもそっちにいるんだけど、配信とかで姿を見せるのは駄目なんだって。

 すっごくみんな、可愛い子たちなんだよ。カリンよりずっとかわいいの! ……え? この話は駄目? そっかあ、残念。

 

 あとは、ええとね。夜はね、洞窟で、魔法の布をお布団にして寝たよ。柔らかいお布団じゃないから、ちょっと身体中痛いけどね。

 普段から野営してる人たちってすごいんだなーって思ったよ。

 

 えと……他には、何があるかな。

 カリンがいる島は、魔物はいないんだって。だから、そういうのは心配ないみたい。

 今日はちょっと勇気を出して、池で水浴びして身体の汚れとかをどうにかしたいけど、外で水浴びって勇気いるね、妖精さんたちしか見てないけどね。

 

 えと、えと……。

 

 妖精さんたちは、カリンのこと助けてくれるって言ってるから、みんな心配しないでね?

 でも、もちろんみんなが助けに来てくれるのも、待ってるからね。

 

 だから、その……どうしよう、泣けてきちゃった。

 ごめんね、多分また明日も同じ時間くらいに配信するからさ、元気なアイドルに戻るから、期待しててね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 上高地。北アルプスは飛騨山脈南部に位置する、標高1500メートルの景勝地である。

 そして、そこにはその地の名を冠したダンジョン『上高地ダンジョン』が口を開いていた。

 

 とはいえ、現状では第一層までしか見つかっておらず、市街地や鉄道路線からは離れているため気軽に挑戦できる立地でもない。訪れる探索者も大半は鉱石掘りを目的とした常連の探索者たちばかりという、規模の小さなダンジョンに収まっている。

 故に他所のダンジョンのように探索者向けの施設が建ち並ぶようなこともなく、ダンジョンとしては全体的に周囲の施設規模がこぢんまりとしているのは仕方ないことだろう。

 それでもやはり景勝地のダンジョンだけあって、小さいながらもホテルの作りは立派なものであった。評判を調べれば、探索者たちの満足度はなかなか高いらしい。

 

 火曜日の朝。そのホテルのロビーにて、二人の探索者が邂逅していた。

 

「おはようございます、お久しぶりですね、オウカさん。その節はどうもお世話になりました」

 

「ええ、タチバナさんもお元気そうで何よりですわ」

 

 黒髪を靡かせ、その両サイドに装着したワンポイントのクリップリボンが特徴的な少女は橘柚花。【看破】という人には視えないものを視ることを可能とするスキルを持つ、現役女子高生探索者タチバナだ。

 そしてもう一人、優雅に椅子に座り紅茶を嗜んでいるお嬢様然とした女性探索者は、鳳桜華。高名な財閥の娘であり、本人も医療を学んで来たエリートにもかかわらず、半ば家を飛び出す形で探索者の道を選んだという異色の経歴の持ち主だ。

 今は高レベル探索者パーティ深援隊に所属する治癒魔法のエキスパート、オウカとして活動している。また彼女は、【天啓】という人ならざる大いなる意志の声を代弁するスキルを所有していることでも知られていた。

 

「いい場所ですね、上高地。ちょっとまだ寒いですけど、景色も綺麗です」

 

「4月になれば山も開かれますし、たまにはダンジョンではなく、普通に登山としてこういう場所に訪れるのも悪くはありませんわ」

 

 オウカの横に座り、その正面に見える窓から外の景色を眺める。

 まだ雪の残る冬山であるが、しかしやはり日本有数の景勝地である。ダンジョンにて様々な自然の姿を眺めてきた柚花であるが、やはり地上の景色もダンジョンに負けず劣らずに美しい。

 きっと、春になればまたここから見える景色も変わるのだろう。

 

「さて、それで本題です。ギルドからもう話は伝わってますかね? オウカさんを呼んで貰ったの、私なんですけど」

 

「予想は出来ておりますわ。大方、私の【天啓】ということにして、公に出せない情報を皆に広めて欲しい、というところですわね?」

 

「話が早くて助かりますよ。オウカさんにはもう隠しても仕方ないんでぶっちゃけちゃいますけど、今は先輩が、下層の方から上に上って行ってるんです」

 

「先輩……と言うと、桃子さん、でしたかしら?」

 

 実のところ、このオウカは数少ない、桃子たちの事情を把握している人間の一人である。それは、深援隊のリーダーである風間や、ヘノと顔見知りでもあるサカモト以上に、事情を把握していた。

 まず、彼女は女王ティタニアとの面識がある人間の一人である。また、桃の窪地で起きた事件の際はニムやルイと協力して人命救助を行っており、今ではクルラやクヌギの事情までをも把握している数少ない人間だ。

 更には、魔法協会が桃の窪地を訪れた際には、クリスの引き連れた魔法生物たちとも面会を果たしており、既に魔法生物についての事情を知る協力者としてカウントされているらしい。治癒魔法の技量も非常に高い為、協会から引き抜きを打診されている程である。

 

 その上でオウカは、北海道ではヘノやニムに囲まれた状態で柚花の治療、そして最終的に桃子の治療をも請け負っているのだ。

 桃子や柚花が大小さまざまな怪我をしておいて傷跡一つ残さず帰ってこられたのは、その日の内に治療を済ませてくれたオウカのお陰と言えるだろう。治療を受ける時点で桃子の正体を明かさないわけにもいかず、最終的にはオウカには桃子の事情をしっかりと説明してあった。

 無論、それもまたダンジョン内での出来事だったので、その後【隠遁】の効果によりオウカの記憶としては桃子の容姿、その詳細まではもう思い出せない。だがしかし、漠然とした情報としてはどうにか理解し、覚えてくれていたようである。

 

「はい、桃子先輩が、妖精さんたちと一緒に救出に向かってるので、実のところカリンが助けられるのって時間の問題なんですよ。とはいえ、流石に『あと数日で助けが来るから安心してください』とは私の口から言えないじゃないですか?」

 

 カリンは、間違いなく助かる。柚花はそれを知っているし、桃子を信じている。

 だがしかし、それを柚花の口から言う訳には行かない。何故それを知っているのか、どうやってそれを証明できるのか。それらを説明出来ない以上、ただの都合の良い戯言にしか聞こえないだろう。

 そこで頼れるのが、オウカの【天啓】だ。

 何も、本当に【天啓】を発動させなくともよい。【天啓】のふりをして、少し語ってくれれば良いだけなのだから。

 彼女の【天啓】による言葉は、ちょっとした神の言葉である。

 何故それを知っているのか? あくまで天の言葉を代弁しただけなので知っているわけではない。

 どうやってそれを証明できるのか? 天の言葉に証明など必要ない。

 それがどれだけ現実離れした言葉だったとしても、それを疑うような者など存在しない。

 

「そのために遠く東北から呼び出されるわたくしの身にもなって欲しいのですけれど。まあ、良いですわよ。わたくしの言葉で人が救われるなら、安いものですわね」

 

「お礼に、私が二十歳になったらお酒に付き合いますよ♪」

 

「うふふ、随分先の話ですわね。まあ、楽しみにしておこうかしら」

 

 柚花は、このオウカという女性探索者とは比較的相性が良い。

 選ばれし上流階級という魔境と、派閥争いの嘘の飛び交う環境が嫌になりひとり抜け出したオウカは、人の感情に振り回されてソロ探索者を選んだ柚花と似ている所があるのだ。

 柚花にとって、北海道で出会ったえあろやイリアは、真っ直ぐすぎた。白すぎた。眩しすぎた。彼女らの信頼が強いほど、いつか彼女たちの負の感情を見せられたときの痛みも大きくなる。

 だがしかし、最初から人の醜悪さを織り込み済みで人付き合いをしており、元より程よく曇っているオウカの精神は、柚花にとっては心地よく感じるものだった。

 

「さて、そろそろ私たちも行きましょうか」

 

「そうですわね。では、作戦は道のりで話し合うことにしましょうか」

 

 

 

 

 

 石壁に囲まれた通路を進む。

 カリンの配信で紹介されていた通り、高い天井の石壁と、不思議な彫刻や台座が所々に並んでいる。

 しかし、彫刻などが神秘的といえば神秘的ではあるのだが、作りとしては石壁で隔てられた巨大迷路のようなもので、風景としては殺風景なダンジョンと言えた。

 所々で鉱石を掘った跡などがあるため、ここを訪れる探索者たちの目的はもっぱら鉱石掘りがメインなのだろうと予想できる。

 

「こちらが現在の上高地ダンジョンのマップですの? なかなか歩きますわね」

 

「高い岩壁ばっかりで、風景が似てるんで、ちょっと迷っちゃいそうですね。第一層だし、魔物は楽ですけど」

 

「では、さっさと例の場所まで行って、第二層への道を開くに限りますわね」

 

「……ただ、その道が開けるかどうかってのが、一番の問題なんですよね」

 

 探索者用端末で地図を表示し、現在の座標と照らし合わせながら進んで行く。

 所々で魔物も出現するものの、所詮は第一層の魔物である。【チェイン・ライトニング】だけでも軽く一掃できる程度でしかない。

 しかし、問題は魔物ではない。

 

 例の、第二層への道のり。

 カリンの配信で肝心なところが全く映っていなかったため、何をどうしたら第二層へと転げ落ちてしまったのか、それを解き明かさねばならないのだ。

 だがしかし、それを考えて悩む柚花とは裏腹に、オウカの口調は実に軽いものだった。

 

 なぜなら、オウカには【天啓】がある。

 だから、オウカは知っていた。オウカは聞いていた。

 

「ああ。それは大丈夫ですわよ。わたくし、先んじて【天啓】を受けておりますから」

 

「は? ……え、なんて?」

 

「要約するとわたくし、『空の上で水の妖精と再会する』って言われておりますの。ニムさんは今、第二層にいらっしゃるんですわよね?」

 

「え、と。はい、そのはずですけど……え? うわあ、天啓ってヤバいですね」

 

 空の上というのは、言うまでもなく第二層のあの果てなき空のことだろう。そして、水の妖精は無論、柚花の相棒のニムだ。

 オウカが第二層でニムと再会する。つまりは、少なくとも第二層への扉は開かれることが確定している、ということだ。

 悩む前から、既に解決することが分かってしまうスキル。北海道では、あのりりたんを一度は出し抜いたスキル。

 もしかしたら、【看破】や【隠遁】以上にとんでもない、人間が持つには過ぎたる力なのではないかと気づき、柚花はうっすらと冷や汗をかく。

 

「とってもヤバいですわよ。ですから、私も最初から何も心配はしておりませんの。既に頭の中は、夜に飲むお酒のことを考えておりますわ」

 

「いや、オウカさん……相変わらず、なんていうか、凄いですね」

 

 柚花の【看破】でオウカの感情を覗き込むと、彼女の感情は本当に雑念で濁っていた。多分本当に、お酒のことを考えている。

 こういう程よく汚れた精神性が柚花にとっては心地よかったのだが、しかしそれはそれとして、こういう大人にはなりたくないなと、ちょっとだけ思う柚花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とあるアイドルと妖精たちの会話】

 

 

「ねえ、葉っぱ妖精さん。カリン、この島を探検しようと思うんだけど、大丈夫かな?」

 

「特に問題は無いと思うヨ。心配なら、付き添うくらいはするヨ」

 

「昨日さ、葉っぱ妖精さんが言ってたでしょ? 人はもっと、葉っぱを見た方がいいって。言われてみたら、カリン、ダンジョンのそういう所まで今までちゃんと見てなくて……」

 

「ふーん、葉っぱに興味持ったのヨ? ニムは、どうするヨ?」

 

「わ、私は……あ! い……いま、柚花さんが、ここの第一層に入ってきました……わ、わあ……」

 

「ユカ? ねえ、妖精さん、第一層のことわかるの?」

 

「この子は、仲良しの人間がいるんだヨ。その人間とは離れていても、通じ合って、いるらしいヨ」

 

「わ、私、う……上の浮き島まで、行ってきますねぇ?」

 

「人間はリフィが見ているから、安心して行ってくればいいヨ」

 

「行っちゃった。でも、第一層には階段も何もなかったんだけど、どうやってその人と会うのかな……」

 

「リフィの仲間が言ってたヨ。そのくらいの『謎』なら、すぐ解けるはずだってヨ」

 

「え、そうなの?!」

 

「人間の中には、『謎』の研究ばかりしてる連中がいるんだヨ」

 

「よく分からないけど……じゃあ、第一層から助けがくるのかな?!」

 

「さすがに、上空の小さな浮き島からここまで降りるのは簡単じゃないヨ。まあ、葉っぱでもしゃぶって、気長に待つといいヨ」

 

「そっか……ところで、葉っぱ妖精さんさ、なんだか面白い話し方するね」

 

「人間も、だいぶリフィたちに遠慮がなくなってきたヨ」

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