ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ビッグフットと焼いた豆

「うわああぁぁぁん!!」

 

 桃子が、またもややけっぱちの大声と共に夕暮れの空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 夕刻。

 二つ目の島である岩の島の前を、次なる島である緑の生い茂る浮き島が横切っていく。その島と島との距離は、およそ10メートル強。

 眼下は終わりのない果てしなく続く夕焼け空。

 一歩間違えればどっちが上か下かも分からなくなるようなその空間を、桃子はその両の脚につむじ風を纏い、叫びとともに飛び越えた。

 

 オレンジ色に染まった空の中を大きく弧を描いて飛ぶ桃子はかなり芸術的な姿だったというのは、それを見ていたとある妖精の談である。

 なお、ヘノは桃子にくっついて、相変わらず桃子のリズムを狂わせる声援の嵐を叩きつけていた。

 

「ククク……なかなか、良い悲鳴だったねぇ……」

 

「さすが桃子だけど、大声だったら! アタシも負けないからな!」

 

「凄く飛んでたわよ♪ 桃子なら、世界のコウシエンで金メダルをとれるわね♪」

 

「謎はとけたよ。桃子くんは、世界のコウシエンで金メダルを狙っているのでは、ないかな?」

 

「桃子さん、お疲れさまだねぇ。ゆっくり息を整えるといいよぉ」

 

 大きく息をついてへたり込む桃子を労うように、見守っていた妖精たちが次々と声をかけていく。

 彼女たちは、空中を住処とする魔物やスカイフィッシュが襲ってきた時のためのサポートとして集まってきたのだ。だが、今回も別段魔物の影などはなかったために、結果的にはただの野次馬のようになっていた。

 妖精たちのズレたコメントの数々に対し、普段の桃子ならばツッコミを入れたり、ツッコミを入れたり、ツッコミを入れたりするところだろうが、まだ半分ほど魂が抜けている状態なので何も返答が出来ない。

 ただただ、稀に存在する常識的な妖精の言葉が心に染みる。

 

「では、ボクたちは寝袋をとりに行くのでは、ないかな」

 

「すでにクヌギさんには伝えてあるから、準備できてるとは思うよぉ」

 

「すまないな。助かるぞ」

 

 桃子が息を整えている間に、妖精たちはまた妖精の国へと戻ったり、或いは自分の興味のあるものを見に行ったりで、再び解散となった。

 一方的に変な言葉をかけるだけかけて、桃子の復帰を待たずにさっさとどこかへ行ってしまう妖精たちの後ろ姿に、桃子はなんだか腑に落ちない気持ちでいっぱいになるのだが、それもまた妖精らしさだ。

 桃子は頭の横に浮かぶ疑問符を消去して、とにかく息を整えることに集中するのだった。

 

 

 

 

「それにしても! この島は! 木が多いな!」

 

「なんだか。面白い木だな。葉っぱが随分と。大きいぞ」

 

「うん、他のダンジョンではみたことないタイプの木だね。なんだか、私たちが小人になっちゃったみたい」

 

 三つ目の島は、一つ目の森と小山の島と同様に、緑の茂る島となっていた。

 既に外は暗くなってきているこの時間。いくら魔法光が所々に灯っていると言えど、やはり灯りを持ってきていない桃子にとってはこの未知の島の森は暗すぎる。

 しかし、明るさの問題は火の妖精であるフラムが共について来てくれることで解決した。

 彼女自身が明るい炎の色のオーラを発している上、フラムは桃子の周囲に灯りとなる炎の玉を浮かべてくれている。さすがに昼間の明るさ程ではないけれど、ランタンで照らすのと同程度のあかりは確保できた。

 

 そんなフラムの光源を頼りに歩くその森は、今までの他のダンジョンと比べても、異質なものであった。

 暗い為に上のほうはよく見えないのだが、それにしても葉が大きいのだ。大きい木が茂っているというより、縮尺の大きい植物が茂っている、といった風景だ。

 そういう意味では、桃子の言う「小人になった気分」というのはまさに的確な表現である。尤も、ヘノとフラムはもとから小人のようなものなのだが。

 

「葉っぱも面白いけど! 島の真ん中あたりに! もじゃもじゃの、二足歩行の変な生き物がいたんだ!」

 

「二足歩行で、もじゃもじゃかあ。ビッグフットとか、イエティとかなら知ってるけど……」

 

「いいな! ビッグフット! 意味はわかんないけど、格好いいな! アタシもビッグフットになりたい!」

 

「お前がびっぐふっとになって。どうするんだ」

 

 ビッグフット。

 見知らぬ緑の山に住む二足歩行の生き物としては、意外と的確な呼び名だろう。なので、フラムの見た謎の存在は、今のところはビッグフットということにしておく。もちろん、その正体が判明するまでの仮称だが。

 フラムの炎で照らされた、巨大な葉で作られた自然のアーチを潜り抜け、桃子たちはそのビッグフットが住まうという場所へと向かっていく。

 

「それで。そのびっぐふっとは。どんな奴なんだ」

 

「なんか、草を束ねて作った家に住んでるんだ! もうそろそろの場所だから、ヘノなら感知で分かるんじゃないか!」

 

 唯一そのビックフットを目撃したフラムの証言では、どうやらそれは草で住処を作るタイプの原生生物らしい。

 野生動物でも自分の住まいを制作する動物はいるのだから、草で住処を作る原生生物がいたとしてもなんら不思議ではない。

 とはいえ、二本足で家を自作するというのは、なかなかの知性だろう。少なくとも、地上に住まう猿やオランウータンよりも、知恵がありそうだ。

 桃子はフラムの話を聞きながら、想像を膨らませる。

 

「そうか。言われてみれば、なんだか不思議な魔力があるな」

 

「だろ! そいつな! なんか、人間みたいな衣装を、身に着けてるんだ!」

 

「衣装……かあ。ビッグフットって一般的には全身毛皮の動物だけど、じゃあビッグフットじゃないのかもしれないね」

 

「気になるだろ! とりあえず! 見に行こう!」

 

 そして、家を作るだけでなく、なんと衣装を身に着けているという。

 それはもうビッグフットとかイエティというよりも、ちょっとした類人猿的な知性の高い動物なのではないだろうか。

 いや、知性の高いと言われているゴリラやオランウータンですら、自ら衣装を身に着けることなど無いだろう。

 さすがはダンジョンの原生生物だな、知性がすごいな、と桃子は思う。

 

「びっぐふっとでも。なんでもいいけど。桃子に危害を加えるやつだったら。危ないし。まずは確認だぞ」

 

「桃子は! アタシたちの後ろ! 静かについてくるんだぞ!」

 

「フラムちゃん、静かに、静かにねっ」

 

「……アタシ、静かにするの、苦手なんだよなあ」

 

「お前。静かにしてるときの方が。うるさくなくて。いいな」

 

 フラムは、何かといつも大声でハキハキと話す妖精なのだが、いざ静かにするように言われると、声色だけでなくその佇まいもなんだかしんなりしてしまう。

 そういう所が、なんだかまだ子供みたいで、ヘノとフラムだったらヘノがお姉さん役なんだな、と。桃子は後ろから二人の姿を眺めながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

「ほら! あそこだ! あのビッグフット、火も使ってるんだ!」

 

「なんか。火を使って。なにか焼いてるな。道具も使ってるし。びっぐふっとのくせに。随分と賢そうだぞ」

 

 そして、大きな葉の森を抜けると、そこはひらけた空き地のようになっていた。

 視線の先には、フラムの言う通りに、火が。焚火のような灯りが揺らいでおり、すでにかなり暗くなった山の中を照らしている。

 妖精たち二人は、その姿をはっきりと視認出来ているのだろう。桃子にはまだ距離があり、揺らぐ松明の火しか見えてこない。

 

 だが、しかし。

 桃子の脳内には、すでに一つの仮説が浮かんできていた。

 

「……ねえ、フラムちゃん。あのビッグフットって、二本足で、道具を使って、服を着てるって言ってたっけ?」

 

「そうだぞ! 人間みたいな歩き方で、人間みたいな格好してるんだ!」

 

 人間みたいな歩き方で、人間みたいな恰好で、人間みたいに道具を使い、人間みたいに火を使う。

 桃子の脳内に湧き出た仮説が、ぐんぐんと物凄い勢いで浮かび上がってくる。

 

「あいつ。近づいてよく調べたら。まるで。人間みたいな魔力なんだな。なんか変な魔力だけど。面白い。びっぐふっとだな」

 

「まって、まって! 魔力まで人間なの?!」

 

「そうだぞ!」

 

「そんな気がするぞ」

 

 魔力までが人間と同じもの、ときた。

 ここまで来たらむしろ、仮説どころではなく、確信だ。

 

「それって……」

 

 桃子は、大きく一呼吸はさんで、続ける。

 

「人間じゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

「おい! お前! ビッグフット! 何か焼いてるな!」

 

「……ひっ?!」

 

 火の妖精であるフラムが、大声でビッグフットの名を呼ぶ。

 あれが無害な原生生物だったらそれで構わないし、桃子の言う通りに人間だったならば、フラムの言葉が通じるはずだ。あるいは危険な生物なら、今この場で撃退しても構わない。

 しかし、いきなり現れて大声でわめき散らし始めたフラムに、ビッグフットと呼ばれる存在は、目を丸くして腰を抜かしている。

 

「なんだ! 言葉は話せないのか! やっぱり、人間じゃないのか!」

 

「まっ……ごほっ、ごほっ、まって、行かないで……」

 

 そして、やはり人間じゃないのかと諦めて帰ろうとしたフラムに縋るように手を伸ばして、ビッグフットは掠れた声を上げる。

 かすれて、咳き込んで、ぎこちない発声だったけれど。それは、間違いなく人間の言葉だ。日本語だ。

 

「なんだ! 言葉は話せるのか! やっぱり、人間か!」

 

「そ、そうっ、だ。あ、あの……ひ、人と話すの……ひ、久しぶりで……ごほっ」

 

「なんか、めちゃくちゃ慌ててるな! 人間なのか! 人間じゃないのか! どっちなんだ!」

 

「に、人間だよっ。えと、君は妖精? 魔物では、ないよね?」

 

「魔物と一緒にするなよ! 失礼なやつだな!」

 

 結論。ビッグフットは人間だった。

 

 

 

「ヘノちゃん、あの人やっぱり人間だって!」

 

 ビッグフットがどのような性質を持つか分からない以上、桃子は少し離れた木陰からその様子を眺めていた。

 もしかしたら【隠遁】の効かない危険な生物の可能性もあるから桃子は近づくなと、妖精たちに言いつけられているのだ。

 

 しかし、ビッグフットはやはり、言葉を話す人間だった。

 フラムの言うところの『もじゃもじゃ』も、恐らく彼は元から癖の強い髪質だったのだろう。伸びに伸びた髪の毛と口髭が、確かにもじゃもじゃと表現するに相応しい外観になっている。

 だがしかし、掠れた声とは言え、その声は意外なほどに若い。髭の貫禄からもっとかなりの年配のイメージだったのだが、実はまだ年若い男性なのかもしれない。

 

「なんで。こんなところに。人間がいるんだ?」

 

「数年前に、カリンちゃんと同じように行方不明になった探索者さんがいたはずだから、その人がずっとここで生活してた……っていうことなのかな?」

 

「そうか。そんなのが居座ってるなんて。全然。気づかなかったぞ」

 

 行方不明になった探索者がいるという話は聞いている。

 桃子はその探索者の詳細を知らない為にあくまで憶測でしかないけれど、恐らくこのビッグフットこともじゃもじゃ男性が、その行方不明の探索者その人ではないだろうか。というか、他に考えられない。

 

 しかし、カリンのように一番高い位置の島に落ちたのなら分かるが、いま桃子たちがいるのは上から数えて3つめの浮き島だ。

 仮に第一層の階段のついた小島から落下してきたとすると、彼のスキルにもよるが、流石に普通の人間が耐えられる高さではないだろう。

 もしかしたら、カリンとはまた違う経路をたどってここまで漂着してきたのかもしれない。

 なんにせよ、それは本人に聞いてみるしかないのだが。

 

「ねえ、ヘノちゃん。あの人のことも助けてあげようよ。えと、もちろん事情をきちんと聞いてからだけど……」

 

「……まあ。桃子がそう言うなら。考えてみるけど。まだ安心できないから。桃子はここで。隠れてるんだぞ」

 

 桃子としては、カリンを助けに来た旅路だけれど、他にも遭難者が居るのならば助けるべきだと思っている。

 さすがに彼自身が進んでこの島に移住してきて、好きでここで暮らしているわけではないだろう、と思う。

 

 だが一方、ヘノとしては見知らぬもじゃもじゃなど警戒して当然の存在だ。

 カリンのように遭難した理由もはっきりしている非力な少女ではなく、正体不明のもじゃもじゃした大人の人間なんかに、迂闊に桃子を近づけるわけにはいかない。

 確かに今は大人しくしているように見えるが、人間だからといって決して安全なわけではないことを、妖精たちは知っている。

 このもじゃもじゃが、助けるに値するか否か、まずはヘノ自身の目で判断せねばならない。

 

 桃子の【隠遁】が通じない相手だった場合を考えて、桃子には木陰に隠れて待つように言いつける。

 そして己はその手に神槍ツヨマージを現出させると、ふわりと飛んで、フラムに並ぶようにそのもじゃもじゃ男の眼前へと舞い降りた。

 

「おい。人間」

 

「よ、妖精がもうひとり……っ?!」

 

 赤い妖精だけでなく、緑の光を放つ妖精までが現れた。男性は、驚きでその眼を白黒させている。

 ヘノは静かにその男を頭から足まで眺める。近くで見れば確かに、探索者がよく着ているような衣装を身に着けているが、しかしかなりボロボロだ。

 どうやらこの島にある池か何かで水浴びだけは欠かしていないようで、見た目ほど不衛生ではなさそうなのが救いか。

 

「お前。どうして。こんな場所にいるんだ。あと。その焼いてるの。なんだ。食べ物か?」

 

「ま、豆を焼いてたんだ。ま、まって、もちろん差し出すから、睨まないで……」

 

 これは、もじゃもじゃ男性には非はないだろう。

 自分の食料を焼いているときに唐突に現れた妖精が、無表情で爪楊枝を構えているのだ。爪楊枝を食材に向けて、「食べ物か?」と問い質してきたのだ。

 男性から見れば――いや、隠れて見ている桃子から見ても、食べ物を要求しているようにしか見えなかった。

 

「えと、その……よかったら、食べる、かい?」

 

「食べ物か! 食べてみよう!」

 

「そうか。食べるぞ」

 

 もじゃもじゃ男の危険性を調べるためには、もじゃもじゃ男の食べているものを調べなければならない。

 ヘノとフラムは、そのような責任感を持って。或いは、ただの食欲と好奇心に負けて。男性の差し出す焼いた豆とやらに視線を向ける。

 平たい石で作った手製の皿の上には、ヘノたちの身体よりも大きく、緑色をしたやや楕円の平たいものが、ホクホクとした湯気を発していた。

 

「えと、まだ熱いから、気を付けて……端っこから、フーフーしながら、食べるといいよ」

 

「アタシ! 熱いの平気だ!」

 

「ふーふーするのは。得意だぞ」

 

 そして、妖精たちはその提供された豆料理を、パクパク、パクパクと。

 無心で味わいはじめた。

 

 

 

「……あれ? 何してるの? なんか皆でご飯食べてない? どういうこと?」

 

 木陰に隠れた桃子だけがひとり、この状況を理解できずにいるのだった。

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