ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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豆とスカイフィッシュ

「なんだこれ! アタシの知ってる魚と全然違うな!」

 

 浮き島の朝。

 遭難者の青年。もじゃもじゃ改めオオアシの住処前の焚火にて、妖精たちがとても珍しい食べ物を食べていた。

 それは魚――ではなく、フィッシュ――ですらない、俗にいう『スカイフィッシュ』という都市伝説として語られる生き物だ。

 白くて細長い棒状の身体と、その側面に連なるヒレとも羽根ともつかない飛行用の膜。

 それが今、木を細長く削って作った串にささった状態で、焚火の火でパチパチと焼かれていた。

 

 これが、オオアシの言っていたもう一つの食材。スカイフィッシュである。

 

「う、うん。多分これ、名前こそフィッシュってついてるけど、エビとかの甲殻類に近いのかなって……僕は思うんだけど」

 

「エビか! 知ってるぞ! 長いカニだな!」

 

「え、ちが……」

 

 このスカイフィッシュは、巨大な豆の葉の繊維を利用して作った網を木々の間に設置しておくと、朝方そこに何匹かが絡まっている、とはオオアシの談だ。

 当然、その生態は謎に包まれたままだし。普段何を食べているのか、どのように繁殖しているのか、子育てはどうなっているのか等、どのような生き物なのかはさっぱり分かっていない。

 ただ言えるのは、毎朝オオアシはこれを食べている、ということだけだ。

 地上の人間でスカイフィッシュを捕まえて常食しているものはいないし、ダンジョン内でもスカイフィッシュを捕まえて研究しているものなどいないので、いまの所はこの癖毛の遭難者こそがスカイフィッシュの第一人者と言えるだろう。

 その第一人者曰く、これは恐らくエビの仲間なのではないかという。根拠は外側についた薄い甲殻と、味だけだ。

 

 何にしても、その生態はどうでもいい。妖精たちにとって重要なのは、食べて美味しいかどうか、だった。

 

「おい。もじゃもじゃ。この魚。もう少し持っていっていいか」

 

 フラムの横で、黙ってスカイフィッシュを咀嚼していた風の妖精ヘノがいう。

 ヘノとしては自分より速く空を飛びまわる生き物をこんな形で食べることになるとは思わなかったのか、何となく食べるときは神妙な顔つきだったが、いざ食べ始めると貪り食う様に食べていた。既に殻も残っていない。

 

「え? あ、うん、今日は沢山獲れたから、えと……葉っぱで包んでいく?」

 

「じゃあ。頼むぞ。あとでまた来るから。もじゃもじゃして。待ってるといいぞ」

 

「もじゃもじゃ……」

 

 名前で呼ばれないことを残念そうにつぶやくオオアシだが、実際に髪の毛と髭がもじゃもじゃしているうちは、妖精たちにとって彼は『もじゃもじゃ』なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく。起きたか。桃子」

 

 ヘノとフラムが帰ってくると、桃子はいつの間にか起きていたようで、寝袋の横でストレッチをしていた。

 カリンのもとにいるニムとリフィを除いた他の妖精たちは、昨夜桃子が眠りにつくとともに好き好きに解散していったらしい。実に自由気ままなメンバーだ。

 

「おはようヘノちゃん。ねえねえ、見た?! このでっかい木、豆の木だよ! これ、物凄いダンジョン食材だよ!」

 

「そうか。とりあえず桃子。落ち着いたらどうだ」

 

「地上のお豆も、焼いたり煮たり、すりつぶしたり、乾燥させたり、色々な食べ方があるんだよ。これも、工夫次第でいろんな食べ方があるかも」

 

 ヘノの顔を見ていきなり、桃子が興奮気味に周囲の木の上を指さして見せる。

 巨大な葉っぱの、縮尺が大きくなったような植物。確かにその上の方には、なんだか不思議な形をした木の実のようなものが垂れ下がっているのが見える。ヘノにはいまいちわかっていないのだが、それは豆の鞘だった。しかも特大の。

 一応この空で生まれたヘノもその存在は知ってはいたし、なんなら過去に果物かと思って齧ったこともある。その時は全く美味しくなかったので、それ以降は食べ物としては認識していなかったのだ。

 最近は桃子の料理に付き合っているのでヘノも薄々気づいているのだが、水にさらしたり、火を通したりしないと美味しくないものというのは、存外多いのだった。

 

 そして、ヘノと桃子の会話に横から大きい声で参加してきたのは、熱いの大好き、武器も大好き、火の妖精フラムだ。

 彼女も昨晩の出会いからの付き合いで、ヘノとともにオオアシの元でスカイフィッシュを食べてきた帰りだ。

 

「じゃあ! 空の豆だから、そら豆だな!」

 

「そうだな。そら豆と呼ぶことに。するか」

 

「まって、それはちょっと紛らわしすぎるから別な名称にしようね」

 

 空のダンジョンの豆だからそら豆。桃子とて、これ以上ない分かりやすいネーミングだと思う。

 ただし、既にその名前を付けられた豆さえなければ、だ。

 巨大そら豆、或いは大空豆だろうか。だがしかし、それだとまるで既存のそら豆が大きくなったように聞こえてしまう。ものとしては枝豆に近い感じもするから、空枝豆のほうが的確だろうか。桃子は思案するが、答えは出ない。

 妖精たちはそんな桃子の反応に対して怪訝そうだ。

 

「そら豆。駄目なのか? これ以上ない。名前だと思うけどな」

 

「アタシも滅茶苦茶分かりやすいと思うぞ! そら豆!」

 

「いや、地上にも同じ名前の豆があってね、なんだか区別がつかなくなっちゃいそうで……」

 

「地上の豆なら! 地上豆のほうがいいだろ! そっちを変えたほうがいいな!」

 

 地上の豆ならそら豆ではなく地上豆。これ以上ない分かりやすい理屈だと思う。

 だがしかし残念ながら、ここでどう屁理屈をこねたところで、そら豆はそら豆なのだ。空に向かって鞘の伸びる、縫い目みたいなすじがあるのがそら豆だ。この巨大な豆は決してそら豆ではないのだ。

 桃子の中で、そろそろそら豆という概念がゲシュタルト崩壊してきた。

 

「まあいいか!」

 

「よくわかんないけど。豆の名前はどうでもいいぞ」

 

 どうでもよかったらしく、妖精たちはあっさりと引き下がった。

 桃子の脳内にはゲシュタルト崩壊しつつあるそら豆という謎の概念だけが残る。

 

「それより桃子。こっちが。スカイフィッシュだぞ」

 

「意外と美味かったぞ!」

 

「うわあ、私が寝てる間に本当にスカイフィッシュ持ってきてる……さ、触っていいかな?」

 

 そして、ヘノが持ってきた大きな葉っぱに包まれたそれは、スカイフィッシュだ。動かないのは、既に生きていないのか。気絶しているだけなのか。

 桃子もスカイフィッシュというのは初めて手にするので、恐る恐るそれに指を伸ばす。

 

 イメージ通りに、白くて棒状の身体に、エラとも翼ともいえない突起膜。

 数十年前に話題になった海外のスカイフィッシュがどうだったのかは分からないが、少なくともこのダンジョンに生息しているスカイフィッシュは、薄い殻を被った甲殻類に近い生き物のようだ。

 桃子が科学者ならばこの生体を解剖し、現代の動物学に一石投じたかもしれないが、残念ながら桃子はただのカレーがちょっとばかし大好きなだけの普通の少女だ。生態への好奇心がゼロとは言わないが、しかし今はこれをどのように調理すべきかしか考えていない。

 

「うーん、スカイフィッシュかあ。エビとかシャコみたいな感じはするけど、どう食べるのが正解なんだろうね。生はちょっと怖いし……」

 

「とりあえず! カレーにいれれば! だいたい大丈夫じゃないか!」

 

「そうだぞ。カレーにしておけば。だいたい大丈夫だろ」

 

「まあ、そうだね。カレーにしておけばだいたい大丈夫だね」

 

 カレーにしておけば、だいたい大丈夫。

 妖精の国の合言葉だ。

 

 プロの料理人が聞いたならば噴飯ものな言葉かもしれないが、こと桃子の場合は冗談ではなく、それが本当に一番確実である。

 桃子の【カレー製作】は、ダンジョン素材なら鍋に入れるだけで勝手にそれを適切なカレーの具材として調理してくれる不思議なスキルだ。それが葉っぱだろうが枝だろうが、美味しいカレーにしてしまう。

 それがダンジョン食材である限りは、桃子本人が調理法を知らなかったとしても、大体の場合はこのスキルを使用してカレーを作ればどうにかなってしまうのである。

 

「信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」

 

 そんなわけで、桃子はてきぱきと、カレー鍋に水を注ぐと、水にさらした巨大な豆とスカイフィッシュをどちらも丸ごと放り込む。

 フラムの起こした焚火にそれをセットして、ぐつぐつ煮えてきたらカレールーを投入だ。あとは信じて混ぜれば、ピカっと光って完成である。実に雑な工程だが、それもまたカレーらしさの一つだ。

 

「やっぱり桃子は。カレーを。信じて混ぜるときが。いちばん桃子っぽいな」

 

「桃子っぽいってそういう感じなの……?」

 

 なお。

 

 今日の信じて混ぜたカレーは、大きな豆は細かくペースト状寸前まですり潰され、スカイフィッシュはいい感じにぶつ切りにされた、なんとも不思議な出来栄えの豆カレー。

 スカイフィッシュは、エビと鶏肉を混ぜたような肉質で、ハーブを思わせる鼻に抜ける風味も決して悪くないのだが、普通に作るなら殻の処理が非常に面倒臭そうな食材だった。

 

 

 

 

 

 

 

「おい。もじゃもじゃ。カレーだぞ」

 

「え?! か、カレー?! いったい、どうやって……あ、いや、僕も食べていいの?!」

 

 そして、桃子が改めてオオアシの為に作った分のカレーは、ヘノが差し入れとして彼の元へと運ぶことになった。

 いきなり妖精が人工的な鍋と、明らかに調理済みのカレーを持ってきたのでオオアシは困惑を隠せないが、しかしそんな困惑も、カレーの美味しそうな香りですぐに吹き飛んでしまう。

 

「もじゃもじゃには。材料を分けて貰ったし。スカイフィッシュも。教えてもらったからな」

 

「う、うん! 頂きます! 頂きます!!」

 

 いうが早いか、オオアシはさっそくそのカレーをかきこむような勢いで食べ始めた。がっつき始めた。

 うどんもないし、米もない。ただのすり潰された豆とスカイフィッシュのぶつ切りが入っているだけのカレーを、ただひたすらに味わった。飲み込んだ。

 

「美味しい……地上の味だ、美味しい……」

 

 この島の豆と、この空のスカイフィッシュだ。本当の意味では、決してこれは地上の味ではない。

 けれど、長い間この島に閉じ込められたオオアシには、カレーそのものが懐かしい『地上』の味なのだ。

 ダンジョン食材なので、豆もスカイフィッシュももしかしたら地上の料理よりも遥かに健康に良いかもしれない。魔法的な付与効果もあるかもしれない。

 けれど、それらは彼の育った故郷の、地上の味ではないのだ。

 

 オオアシは、名残惜しそうに。最後のひとさじまで、しっかりと鍋の中のカレーを食べきった。

 

「もじゃもじゃ。お前。地上に帰りたいか?」

 

「え? ……う、うん、帰れることなら……」

 

「じゃあ。待ってろ。どのくらい先になるのかは。ちょっとわからないけど。そのうち。お前のこと。助けてやるからな」

 

 オオアシから鍋をひったくるように受け取ると、ヘノは不愛想にそう伝える。

 いつも無表情で愛想と程遠いヘノだけれど、決して感情が無いわけではない。単に、感情表現が少々死んでいるだけだ。

 そんなヘノに見つめられ、オオアシは半ばパニックに陥る。

 

「え……ぼ、ぼ、僕、助けてもらえるの……?!」

 

「約束してやるぞ。しばらくまた。来られないけど。また来るから。安心して。待ってればいいぞ」

 

「あ……ありがとう、ありがとう……!」

 

 もちろん、オオアシを救助するというのは桃子の意思だし、ヘノはそれに付き合うだけの立場だ。

 だけれども、涙を零しながらも喜び、そして何度も礼を言うオオアシの姿に、ヘノは内心、なんだか不思議な、暖かい気持ちを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】

 

 みんな、おはよう♪ 水曜日のカリンだよ♪

 今日も少しだけの配信するよー。時間がなくてコメント読めないけどごめんね。

 

 昨日は、第一層の探索者さんたちが第二層の入口まで辿り着いたんだって! それで、妖精さんが寝袋を受け取ってきてくれました。

 妖精さんはちょっとそれで疲れちゃったみたいだけど、みんな、本当にありがとう。

 あのね……私、昨日までは、もしかしたらこのまま……けほっ。

 

 ……なんでもない、やっぱり暗い話はなし!

 

 おかげで今日は、こんな時間までぐっすり寝ちゃいました。起きたら、妖精さんが一緒にお昼寝してくれてんだー♪ 皆には見せられないよ、カリンの心の中の宝物フォルダにしまっておくね。いいでしょ。

 昨日はね、葉っぱの妖精さんと島を探索したんだよ~。

 私が普段見てこなかっただけで、自然って面白いものが沢山あるんだって、色々教えてくれたんだよ。

 粘着力があって便利な葉っぱとか、薬草代わりに使える葉っぱとか、美味しい木の実とか、他にも色んな話を聞いたよ。

 

 それで思ったんだ。カリンはずっとさ、ダンジョンで自分が目立つことばかり考えて、ダンジョンの自然なんて見てこなかったなって……だから、ええっと……けほっ。

 

 リンゴちゃん、クルミちゃん! カリンは地上に戻ったら、次は自然豊かなダンジョンにいきたいな。

 そこで、色んな自然をみて、もっと沢山のことを知って行きたいなって思ってます。

 

 ええと、だから、地上に帰ったら……けほっ、あーバッテリーがもうないや。またね!

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