ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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氷の島へ

「そろそろ、桃子くんが次の島へと空を飛ぶ頃合いでは、ないかな?」

 

「私たちも、応援しにきたよぉ。桃子さん、大丈夫そうかねぇ?」

 

「ありがと、リドルちゃん、ノンちゃん。流石に私も三回目だから、随分慣れて来たよ」

 

 森と小山の島。岩盤の島。そして、もじゃもじゃことオオアシがひとりで生活をしていた、豆の木のなる島。

 桃子は現在、三つの島を渡ってきたが、間もなく四つ目の島へと移る時間が近づいて来ている。

 豆の木のなる島の最端。島の断面に面した大きな崖の様になっている場所に立ち、だんだんと近づいてきている次なる浮き島を眺める。どうやらそれは今までの島とは打って変わって、かなり寒い気候の島のようだ。

 雪か、或いは氷か。地表の大半が白く凍っており、そこに生える木々も、寒冷地帯に生えるような樹木が主のようだ。

 

 桃子は先んじて熱や冷気への耐性を持つ砂漠ポンチョを羽織り、次なる島の寒さに備えている。

 

「空が。暗くなってきた。足元が暗いから。気をつけろよ」

 

「うん。踏み込む場所は覚えたし、距離的にも余裕はあるから、多分大丈夫だよ」

 

「うぅ……気のせいか、空に、魔物が飛んでますねぇ」

 

「フラムが。散らしてくれてるけど。魔物が。邪魔してこなければ。いいんだけどな」

 

 暗くなりつつある空には、ちらほらと魔物の姿が見える。

 猛禽類のような姿のその黒い鳥は、恐らく過去にオオアシを攫った魔物と同種のものなのだろう。

 成人男性であるオオアシですら捕まって運ばれるのだから、小柄な桃子では見つかれば簡単に捕えられてしまうだろう。

 

 今は火の妖精であるフラムが空を飛びまわり、近くに見える魔物を見つけ次第排除してくれているが、だからと言って油断していると足を掬われかねない。

 愛用のハンマーが使えない今、油断が大きな命取りになる。桃子は大きく深呼吸をして、心を引き締める。

 

「桃子。無事に渡れたら。また。スカイフィッシュと豆のカレーを。作ろうな」

 

「うん、そうだね。お豆なら沢山収穫できることがわかったしね。スカイフィッシュはちょっと、獲れるかわかんないけど」

 

「うぅ……も、桃子さん、ご無事で……めそめそ」

 

「待ってニムちゃん、移動する前から泣かないでね? なんか、縁起悪いし……」

 

 心を引き締める、のはいいのだけれど、左右からカレーの話と泣き声に挟まれて、引き締めた心が再び緩々になってしまう。

 いや、これはこれでリラックスできて良いのかもしれないなと、桃子はポジティブに考え直す。

 

「桃子くん。そろそろ次の島が、一番近づくタイミングでは、ないかな?」

 

「あ、うん! 行くね!」

 

 リドルの声に目線を前に向ければ、巨大な島が眼前を通過するところである。

 島と島が横に並んだとき。出来るだけ着地しやすそうな平地が目の前に来た時が一番望ましいが、そう簡単に理想通りに島が移動してくれるとも限らない。

 ある程度近くなった時点で、贅沢を言わずにとにかく駆け抜けるべきだろう。

 

「集中、集中。私は行ける、私は行ける!」

 

「そうだぞ。桃子。いけるぞ。ほら。今だ。行け。行け」

 

「やあぁぁぁぁっ!!」

 

 既に三度目。耳元で急かしてくるヘノの声にもさすがに慣れて、タイミングを惑わされることも無い。

 桃子は気合の雄たけびを上げながら、つむじ風を纏い、豆の島の大地を駆ける。

 

 そして、次なる島へと向けて翔ぶ。

 島と島の間は強く冷たい風が吹いているが、それはヘノが風向きを変えてくれている。桃子を邪魔する風はない。

 

 空に、大きな弧を描く。ヘノの巻き起こす追い風にも押されて、桃子は次なる島の端。平たく突き出た真っ白い陸地へと着地する。

 次なる島は、氷の島だった。凍り付いた地面で足元が滑らないよう、しっかりと着地する。前かがみになり、足を滑らせて落ちるようなミスをしないように――。

 

「えっ!?」

 

 桃子は、ミスしない様に気を付けた。氷で足を滑らせない様に万全の注意を払っていた。

 だがしかし。着地の衝撃によって足場となっている氷の地面が大きくひび割れを起こし、桃子が着地した地面ごと崩れ落ちることまでは想定していなかった。

 

 桃子の着地の衝撃で、目の前の地面に亀裂が入るのが見える。

 

 ピキピキ、と。亀裂が広がっていくのが見える。

 

 

 そして、ゆっくりと。

 桃子が着地した地面ごと、視界がゆっくりと後ろに落ちていくのが分かる。

 

 

「桃子! なにしてる!」

 

「も、も、もももも……うぅ……」

 

 

 落下する。

 地面ごと島の端から崩れおち、ゆっくりと身体が空へと落ちていく。

 先に島に移動していたヘノとニムがこちらを振り返り、何かを叫んでいるのが見える。

 

 桃子には、それがとてもゆっくりに見えた。

 

 

 

 そして桃子の脳内に『失敗』という言葉が徐々に浸透してきたその時。

 落下していく桃子を包み込むように広がる、黄色い光の輪が見えた。

 

 

「え?!」

 

 

 光の輪。

 いや、それは魔法陣だ。

 どこかで見たことのある魔法陣が桃子の真下に発生し、桃子はそれに触れた途端に――弾かれた。

 

 

 ぼよん。

 

 

「桃子。なにしてる。なんで空中でバウンドしてるんだ」

 

「うぅ……桃子さんが、ぼよんって飛びましたねぇ……」

 

 傍から見れば、桃子が空中で『ぼよん』と跳ねたように見えたに違いない。

 というか、弾かれた桃子自身、自分がぼよんとトランポリンで跳ねたような感覚があった。

 しかしとにかく、桃子は黄色い魔法陣に弾き飛ばされると、その反動で再び氷の島の縁へと着地する。

 事態が理解できないまま、しかし再び足を滑らせない様に、そしてまた地面ごと落下しない様に。桃子は大慌てで島の奥へと転がり込んだ。

 

「ひぇええっ! 着地! 着地したよっ私!」

 

 無事に次なる氷の島へと到着した桃子は、半ば地面にしがみつくように潰れているものの、まずは身の安全を。確かな地面を確保する。

 そして、無事に移動出来たことを実感すると、今更ながらに冷や汗が湧き出て来た。危なかった。本当に落ちるところだった。白い息を弾ませ、心臓がバクバクと鳴っている。

 氷の島独自の気候なのか、その場の気温が急激に下がっているのが分かるが、しかしそれでも桃子の肌から嫌な汗が噴き出てくるのだった。

 

「危ないところだったのでは、ないかな?」

 

「リドルの魔法があって、良かったよぉ」

 

 先ほどの魔法陣は、見覚えがあるはずだ。

 あれは鳥取の砂丘ダンジョンにてスフィンクスが行使していた転移の魔法陣と同じものだ。

 そして、バジリスク相手に、ノンが出した大岩を弾丸として弾き飛ばすのに利用していた魔法陣だ。言わば「弾き飛ばす魔法陣」とでも言うべきものだ。

 どうやら、崖から落ちた桃子をその魔法陣によって、陸地へ向けて弾き飛ばしてくれたのはリドルの魔法だったようである。

 

「い、今のはリドルちゃんがやってくれたの?! ありがとう、本当にありがとうリドルちゃんっ」

 

「リドル。お前。そんなこと。出来たのか」

 

「も、桃子さんが空中をバウンド……めそめそ……」

 

「ニムちゃん、それは泣くところ?」

 

 とにかく、命拾いをしたし、4つ目の島への移動は成した。

 なぜかニムが変な部分で泣いているが、ニムの情緒が怪しいのは元からなので、とりあえず軽く頭を撫でて慰めておいた。

 

 

 

 

 

「おい! さっき桃子が! バウンドしなかったか! ぼよーんって!」

 

「そうだぞ。桃子は。空中でぼよーんって。バウンドしたんだ」

 

「も、桃子さんが……バウンドするだなんて……」

 

「あはは、ええと、バウンドというか、一度落ちかけたというか……まあ、そんなことよりさ! フラムちゃん、魔物の相手してくれてありがとう!」

 

「どうってことないけどな! アタシ、魔物退治得意なんだ!」

 

 どうやら桃子の空中バウンドは、空の上で魔物退治をしていたフラムにも見えたようだ。

 このままでは妖精の仲間内で桃子が空中バウンドの噂話が広がりかねないので、桃子は強引に話題を変えることにした。

 単純なフラムは桃子の口車に乗せられて簡単に話題を変えてくれる。ありがたい。

 

「そういえば桃子。とりあえず。ここはちょっと。過ごし辛いだろ。もう少し。過ごしやすいところに。向かおう」

 

「あ、うん。とりあえずそうだね、火を起こして、寝る場所も考えておかないとね」

 

 新たな島は氷の島。

 地面は白く凍り付き、島の中央部には寒冷地域のような森が存在しているようだ。

 歩くと霜を踏み抜く音がザク、ザクと響く。

 気づけば空はもう夜の景色に代わり、宇宙空間のような星空が浮き島を包み込んでいる。

 桃子の呼吸が白い煙となって星空へと消えていく。

 

「うぅ……な……なんだか、ほ、北海道のダンジョンに、に、似てますねぇ」

 

「うん、私も実は同じこと考えてたよ。まあ、ここは摩周ダンジョンみたいに夜に吹雪いたりはしなさそうだけどね」

 

「砂漠ポンチョ。先に着ておいて。良かったな」

 

「自分で作っておいてなんだけど、このポンチョ作っておいてよかったね。これ、物凄い魔法装備だよね」

 

 砂漠ポンチョは、砂丘ダンジョンの熱砂砂漠を渡るために、一反木綿の布を縫い合わせたものに、スライム粉による断熱加工を施しているので、耐久力も高い上に耐熱・耐寒にも優れている。

 これを事前に着ておかなければ、今頃は桃子はこの寒さで動けなくなっていたかもしれない。このポンチョを作っておいて、本当に良かったなと思う。

 ありがとう、一反木綿。ありがとう、スライム。桃子はこの素材となった多くの魔物たちに、今更ながら感謝の念を送るのだった。

 

 

 

「さて、と。とりあえず、しばらくここで過ごしてから更に次の島に行けば、カリンちゃんがいるんだよね!」

 

 道を少し進んで、寒冷樹林の中にあるひらけた空き地のような場所に拠点を決めて。

 今は妖精たちが、桃子のための洞穴を作り、焚火を起こし、前の島に置きっぱなしだったカレー鍋などの道具を持って集まってきた。

 今晩はこの場所でカレーキャンプをして、そして次はいよいよカリンの待つ島だ。

 星空を見上げれば、そこに一つの大きな島が浮いているのが見える。あの島にいま、リフィとルイ、クルラ、そしてアイドル探索者のカリンが過ごしているはずだ。

 彼女たちはどのような夜を過ごしているのだろうかと、桃子は思いを馳せる。

 

「桃子。この島は随分ゆっくりだから。もしかしたら。次の島に近づくのは。一日以上かかるかもしれないぞ」

 

「え、そうなんだ? じゃあ明日は一日、この島で過ごすことになるのかな」

 

「も、桃子さんは、寒いダンジョンに、縁がありますねぇ……」

 

 目の前では、桃子はまだ何も言っていないにも関わらず、妖精たちが鍋に水を注いで火にかけている。カレールーを事前に細かく削り、そして具材は巨大な豆のみという強気なレシピだが、既に準備済だった。

 既にもう桃子は信じて混ぜるだけという状態だ。桃子が初めて妖精の国でカレーを作ってからはや数か月。すでに妖精たちも、カレーのつくり方をマスターしているようだ。

 

 寒い島に、カレーの鍋のコトコトいう音が響く。白い湯気が空まで立ち上る。

 

「やっぱり、寒い屋外で食べるカレーは最高だよね」

 

 とりあえず、明日のことは明日考えよう。

 

「信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」

 

 桃子はさっそく、妖精たちの期待の視線を受けながら、カレーの鍋を信じて混ぜるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ】

 

:カリンちゃんがんばれ(イラスト)

 

:さすがに実在人物のイラストはこのスレ的にはどうなんだ? 趣旨はこれでいいのか? 萌々子ちゃん関係ないし。でもがんばれ!

 

:そういえば知ってるか、今更だけどマヨイガに井戸があるらしいんだが、そこに貞子だかお菊さんだかがいるらしい。

 

:話題転換が急すぎて困る

 

:貞子が住んでる井戸から水汲んでるの? さすが、マヨイガ探索者たちはキモが座ってるな

 

:飲み水は中庭の川からとってるんじゃないの? さすがに貞子水は飲まないと思うぞ。ウイルス入ってそうじゃん

 

:石化状態でピラミッドから戻ってくる鎧萌々子ちゃん(イラスト)

 

:コメントに困るw

 

:流石に石化はかわいそうだから房総半島に送り返す前に解凍してやってくれ

 

:今年も1月からダンジョン関連のニュースは賑わってるよね 遠野ダンジョンは平穏だけど

 

:大空を泳ぐ人魚姫と萌々子ちゃん(イラスト)

 

:人魚姫はやっぱりギザ歯褐色の蛮族姫イメージになったのね

 

:萌々子ちゃん友達できてよかったね!

 

:鎧萌々子は友達ではなかったのか・・・?

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