ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】
みんな、おはよう♪ カリンだよ♪ ええと、今って何曜日だっけ? 木曜日でいいのかな?
今日も数分だけ、カリンの配信するねー。
ええと、昨日の配信のとき、カリンちょっと咳き込んでたでしょ? やっぱりちょっと、風邪ひいちゃってたみたい。
妖精さんが言うには、慣れない生活で、身体が疲れてメンエキ? がどーのこーので、なんかカリンより難しい言葉沢山使ってたよ。妖精さんって、頭いいんだね。
でもね、昨日は妖精さんたちが看病してくれて、元気バッチリだよー♪
昨日は風邪で寝てたのもあって、なんだか色々真面目に考えちゃったんだ。
カリンはね、今まで正直言うと……ずっと、たくさん目立ちたい、ちやほやされたいって思ってた。ごめんね、不純な動機でアイドルしてたんだ。
でも、妖精さんたちのお話を聞いてて、色々真面目に考えることがあったから、それについて色々真面目に考えてみたんだよ。
色々真面目に考えてたら、なんだか分からなくなってきちゃって結局寝てたんだけど。
色々真面目に考えるのって、大切なんだなって思ったよ。
あは、今日のカリン、賢そうでしょ?
そのうちカリンが地上に帰ったらさ、クルミちゃん、リンゴちゃん。カリンと一緒に色々真面目に考えてくれるかな。
色々真面目に考えるっていうのはね、色んなことを真面目に考えるっていう意味があるんだよ。
なんだか自分で言ってて、何言ってるのか分かんなくなってきちゃった。脳みそどうかしちゃったのかなあ。賢すぎるのもよくないね。
あと、なんか今日は空に魔物? なんか黒い鳥が多いから、あまり出歩かないほうが良いって言われちゃった。
それと、どこかからか持ってきたでっかい豆を食べるように言われたんだけど、なんか本当にお豆がでっかいの。
食べちゃったから見せられないんだけど、ダンジョンってすごいね。でっかい豆があるよ。
なんかアンパンみたいに大きい豆で――あ、バッテリー切れそう!
なんか纏まらない配信でごめんね、今日はこれまで! また明日ね!
「インディさん、そろそろカリンの島が真下に来ますよ」
「よし、荷物にしっかりとパラシュートは装着したな? 物資投下作戦の開始だ」
上高地ダンジョン、第二層入り口にあたる小さな浮き島。
ここには今、複数の探索者たち――インディにジョーンズ、タチバナ、そしてクルミとリンゴ。計五人の探索者たちが降り立っていた。
そして、その足元にはいくつかの箱が置かれている。箱と言ってもその周囲には柔らかい布地がグルグルとまかれており、ぱっと見では丸めた布団か何かにも見えるだろう。
その丸めた荷物には、それぞれに特殊繊維によって作られたパラシュートが繋がれていた。
パラシュートによる物資の空中投下。
地上の人間社会でも、人道支援などの際に行われるその物資の支援方法を、この場で行おうという話である。
昨日までにカリンのいる浮き島の経路を観察し、見てわかる限りの風向きや、この空に住まうスカイフィッシュの突進を受けても大丈夫な強度を調べた上の、本日の作戦だ。
「ヒュー、本当に真下に来てるな。日曜日の配信も、これくらいの時間だったっけか」
「カリン、こんな高さを落ちたんですね……」
「クルミ、あんまり端っこに行くと危険よ。気持ちは分かるけど、あまり覗き込まないでね」
ノリが軽いほうの遺跡探索おじさん……と言っても彼もまだ二十代だが、ジョーンズが島の端から下を覗き見ると、そこにはいま自分たちが居る島とは比較にならない大きな浮き島が漂っていた。
ここから浮き島までは距離にして、数百メートルだろうか。普通に考えれば落ちたら命はない高さだが、数日前に一人の少女がこの距離を落下し、無事だったのである。
それだけ、カリンが自己に使用した【身体強化】が強力な効果を持っていたということなのだろう。
「では、クルミさんにリンゴさん、これをポイポイ落としちゃってください。カリンに届くように」
「うん、ありがとう、タチバナさん」
「本当に、いつもあの子が噛みついてばかりで迷惑かけてるのに、ごめんなさい。感謝するわ」
「いえ、私こそカリンには塩対応しちゃってて、なんかごめんなさい」
そして、パラシュート付きの荷物を投下するのは、中性的なボーイッシュ少女クルミと、お姉さん的な雰囲気のリンゴの二人。カリンのパーティメンバーたちだ。
クルミたちは、配信ではカリンに辛辣な言葉を投げかけるような間柄であっても、言うまでもなく、あんな言動をとれるのは気心知れた仲間だからこそ。心の中では、確固たる絆で繋がっている。
だからこそ。今の二人は目元にくまを作り、血色も悪く、とてもではないが大丈夫そうには見えない。当然だ、自分たちが油断して目を離した隙に、大切な仲間が一人、帰って来られるかもわからぬ地に落ちてしまったのだから。
二人はカリンの身を案じ、そして自分を責めている。現地の探索者が言うには、カリンの安否が不明だった初日の夜には本当に見ているのが辛いほどだったと言う。
その後、カリン本人の配信と、オウカの【天啓】による予言。そして本物の妖精によるカリンは元気だという証言によってどうにか立ち直り、今はオウカの治療も受けて徐々に気力も回復してきているようなのだが、しかしそれでも夜は眠りにつくことが出来ないようである。
柚花は【看破】により、彼女たちの不安や自責の念が見て取れる。正直いって、この二人の心の傷は重症だ。
オウカの治癒は、心の傷は治せない。精神に作用する魔法の使い手ならば力になれるかもしれないが、それこそ天然記念物のように稀少な属性だろう。
この二人のためにも、カリンには早く帰ってきて貰わないといけない。
柚花は、カリンと。そして今もこの空のどこかに居るであろう、桃子の無事を祈る。
「おい美少女連中! 話し込んでたら島が移動しちまうぞ! 急げー」
「あ、はい! 美少女一号タチバナ、箱を投下します!」
しかし、リンゴたちと話し込み、ぼんやり考えていると大人二人に急かされた。
この作戦は、島が真下を通過する短い時間内に終わらせなければならないのだ。柚花は慌てて、自分の足もとにあった荷物を崖下へと放り出す。
空中に飛び出した荷物がパラシュートを広げ、速度を抑えてゆっくりと下降していくのが見える。白いスカイフィッシュたちに突撃されてパラシュートが形を歪ませるが、特殊繊維だけあってどうにか耐えているようだ。
そして柚花に続き、クルミとリンゴの二人も次々と荷物を投下していく。
「俺たちがここに居ると、この階層の魔物が上へと集まってくる。箱を落としたら、定点カメラをセットしなおして、ひとまず第一層まで速やかに戻るようにな」
「魔物……やっぱり増えて来てますね」
「カリン……」
空にいるのはスカイフィッシュだけではない。実は先ほどから、この浮き島にも何羽かの鳥型の魔物がやってきていた。
やはりインディの推測通り、ここに人間が集まることで魔物たちが空の頂上へとおびき寄せられているのは、間違いないようである。
探索者たちにとって幸運なのは、本物の猛禽類ほど遠くから高速で襲い掛かってくることはなく、ある程度近い距離でホバリングしてから襲ってくる性質を持っているということだ。それだけ隙を見せてくれる魔物ならば、柚花の【チェイン・ライトニング】にて対処は容易ではある。
だがしかし、柚花にとっては容易な相手だったとしても。柚花のように遠距離魔法を持たないカリンにとっては、脅威であることには間違いない。
それもまた、クルミとリンゴの心を曇らせる要因であった。
「大丈夫ですよ、カリンなら妖精さんたちが守ってくれてますから。妖精って人間よりも断然強いんですよ?」
「おーい、美少女連中。投下したら上がってくれー?」
柚花は出来るだけ、魔物については何でもないことのようにさらりと言ってのける。この状態で自分までもが不安を見せてはいけないと、柚花は自覚している。
そして、インディとジョーンズに指示されるままに、女子高生たちも、後ろ髪をひかれつつも第一層へと続く階段を戻って行くのだった。
小さな浮き島には、インディたちが設置した定点カメラだけが、ポツリと居残っていた。
「人間。空から何か、変な布が降ってきてるヨ」
「え、ダンジョンって空から布が降ってくるものなの?」
病み上がりな上に、外には魔物が居るから、という理由もあって洞窟内で過ごしていたカリンに、外から戻ってきた葉っぱ妖精ことリフィが声をかける。
緑葉の妖精リフィは、この数日で一番長くカリンとともにいる妖精だ。カリンも、これだけずっと一緒にいればリフィ相手には固さが抜けたようで、気軽な口調でやりとりを交わしている。
そんなリフィの声に誘われ、もぞもぞと寝袋を抜け出たカリンが洞窟の入り口までやってくる。洞窟内で薬草を調合していた薬草の妖精ルイも、カリンに続いて出て来ると、億劫そうに外の様子を覗き見る。
そこでは、ひとりで島を探索していたらしいリフィと、果物から果実酒を制作中だったクルラの二人が手を止めて、空を見上げていた。
「ククク……人間たちはどうやら、上から落とすことで、カリンくんに必要なものを届けることにしたようだねぇ……」
「物資って、何かしら♪ お酒かしら♪」
「ど、どうしよう。とりに行った方がいいのかな……」
二人と同じく空を見上げると、確かに真上に位置する第一層への階段のある浮き島から、パラシュートのついた包みがこの島目掛けて落下してきているのが見て取れた。
風に吹かれ、スカイフィッシュからボコボコに突っつき回され、着地地点が少なからず島の中央からだいぶ外れていっている。尤も、この島はそれなりの広さがあるので島の外に落ちるということはないだろう。
鳥型魔物は相変わらず空を飛んでいるものの、スカイフィッシュと違って生き物でないパラシュートには興味が無いらしく、包みはそのまま島へと落下する。
「荷物が多いと妖精だけじゃ持てないヨ。仕方ないのヨ。魔物がきたら守ってやるから、人間も一緒に取りに行くヨ」
「守ってやるって……でも、葉っぱ妖精さん、そんな小さい身体なのに魔物と戦えるの?」
「カリンくん……私たち妖精は、人間よりは断然強いのさぁ……ククク」
「うふふ♪ わたしたち、植物の妖精だもの♪ 森の中なら、負けないわ♪ ほら、行きましょ♪」
確かに、水を出してくれたり、火を出してくれたりと、様々な力でカリンをずっと助けてくれているし、人間よりもずっと色々なことが出来るのは想像がつく。
しかし、だ。妖精たちは、とても小さいのだ。それに対して相手は人間くらい大きな鳥の魔物である。襲われでもしたら、こんな小さな身体ではひとたまりも無いのではないかと、カリンは不安に思う。
しかしカリンの心配をよそに、三人の妖精は何ら気せずに普段通りの様子を崩さない。カリンも不安に思いつつも、彼女らに先導されるがままに森に踏み込んでいく。
なお、カリンから見てこの三人は葉っぱ妖精、薬草妖精、お酒妖精の三人組である。
葉っぱと薬草はともかく、お酒って植物なの? とカリンは脳内で不思議に思うが、しかしそれは今は関係ない疑問なのでカリンは考えるのをやめた。
「あっじゃあ、カリンも補助魔法は使えるから、お手伝いするね♪」
「ククク……いらないねぇ。人間の補助魔法は、妖精には効き目が悪いのさぁ」
「えっ、そうなんですか?! 自分の魔法だけど、なんかショック」
武器の杖を構えて、妖精たちを補助する気満々のカリンだったが、しかしさらりと拒否られてしまう。
自己へかける【身体強化】の魔法は反動が大きすぎて使いづらい。【鈍化】の魔法は相手が鳥の様に速くてはそもそも魔法が当たる気がしない。
カリンは、やっぱり使いづらい自分の魔法系統に、ぐぬぬと悔し気な声を上げるのだった。
【一方その頃】
「おい! 桃子は! いつまで寝てるんだ! もう、お昼だろ!」
「うぅ……昨日、夜中に起きてお話してましたからねぇ……」
「どうせ。次の島に近づくのは。明日の朝くらいだしな。今日はずっと。寝かせておいた方が。都合がいいんじゃないか?」
「なるほどな! じゃあ! 夜まで桃子は寝かせておくか!」
「そ、そんなに長く、眠り続けますかねぇ……?」
「じゃあ、子守歌を歌おう! らーらー! 寝ろーっ! 桃子ー、起きるなー!」
「桃子。寝ろ。寝ろ。もっと寝ろ。眠り続けるんだぞ」
「うーわー! 格好いい武器を抱いて眠れー!」
「夢だぞ。夢だぞ。眠り続けて。いい夢みるんだぞ」
「うぅ……も、桃子さんの寝顔が、なんか、苦しそうな顔になってきましたねぇ。あ、悪夢でも、見ているんでしょうかぁ……?」