ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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天を裂く雷鳴

 空は既に黎明を越え、果てなき空の向こうには朧気ながら朝の太陽がうっすらと姿を現し始めている。

 橙に染まる朝の空の中、第一層から新たな探索者たちが降り立った。

 

「クルミさんとリンゴさんのお二人、連れてきましたわよ」

 

 第一層から続く階段を抜け、第二層入り口である浮き島へオウカに連れられてやって来たのは、カリンのパーティメンバーである少女たち、クルミとリンゴの二人。

 クルミとリンゴは、冷たい風の吹きすさぶ浮き島に降り立つと、不安げな様子でその周囲の様子を窺っている。

 中性的で健康的なボーイッシュ少女であるクルミも、カリンたちのお姉さんポジションだったリンゴも、目にクマをつくり、血色も悪い。肉体的な怪我ならば治癒のエキスパートでもあるオウカがついていればどうとでもなるかも知れないが、精神的な症状まではオウカの魔法でも治癒することは出来ない。

 カリンの無事を確認出来てもなお、彼女たちは殆んど眠れずにカリンの無事を祈る日々が続いている。初日よりマシになったとはいえ、それでもやはり健康的とは言い難い様相だった。

 

「あの、私たちは……何を」

 

「カリンを助けるためなら、何でもしますけど……」

 

「引率として参りましたけれど、わたくしも説明を伺ってよろしいかしら?」

 

 すぐ階段を上がった第一層キャンプにも、この第二層の状況は逐一伝わっていた。

 未明から大量の空飛ぶ魔物が発生し、タチバナの広範囲魔法を軸にその殲滅作戦が進んでいるということは知っている。そして、どうやら魔物の動きに変化があり、雲行きが怪しくなったということも。

 しかし、その上で。足手纏いにしかならないクルミたちは、第二層へと降りることは許されなかった。

 クルミとリンゴの二人は、大空を飛翔する魔物を倒す手段を持たない。タチバナを守れるほど戦闘に長けているわけではない。そして何より、彼女たち自身がかなり衰弱しており、そもそも戦える状態ではない。

 そのような自分たちの状況に唇を噛みながらも、第一層のキャンプにてひたすらカリンの無事を祈っていたところで、突然の呼び出しがあったのだ。

 

「お、到着したか美少女ちゃんたち。いきなり変なことを聞くけどよ、キミら、かなり衰弱してるよな?」

 

「医療をかじった立場から言わせていただくと、とてもダンジョンで戦える状態ではありませんわね」

 

 いきなりのジョーンズの物言いに、ずいと横からオウカが一歩出てきて口を挟む。この少女たちに何をさせる気なのかと、剣呑な視線をジョーンズへと向ける。

 オウカも遠距離魔法は使えるものの、あくまで単体向けの魔法であり、タチバナほどの練度があるわけではない。むしろ彼女のメインは治癒魔法であるため、この数日は第一層のキャンプにてクルミたちの主治医の真似事をしつつ、緊急時の為に控えていた。

 なので今は、精神的に弱ってしまっているクルミとリンゴの保護者役のようなポジションに落ち着いている。

 

 オウカの鋭い視線を受け流すようにジョーンズは視線を逸らして、しかし相変わらず軽い口調で続ける。

 

「オーケーだ、それでいい。だからこそ、キミらはカリンちゃんを助けられる」

 

「私たちが、カリンさんを……?」

 

 ジョーンズの言葉に、クルミとリンゴは顔をあげ、そして続いて疑問を浮かべる。

 風の吹く浮き島では、先ほどから魔物が近づくたびにタチバナが電撃を放つ音が響いている。

 とてもではないが、自分たちにあのような真似は出来ない。ならば、一体どういうことなのか、と。

 

「言い方は悪いが、お嬢ちゃんたちは『囮』に最適なのさ。なあ、インディ」

 

「ああ、魔物たちは今、このダンジョンで一番弱い人間であるカリンちゃんを狙っている。俺らは残念ながら、魔物が狙うには活きが良すぎたようだ」

 

 そこまで聞いて、合点のいったオウカが説明を補足する。

 

「なるほど、そういうことですのね。つまり、カリンさん以上に衰弱してしまっているこの二人さえいれば……」

 

 タチバナやインディたちよりも、カリンは弱っていた。だからこそ、魔物はこの浮き島からカリンのいる浮き島をターゲットに変更した。

 インディはその習性を逆に利用したのだ。

 

「これでも駄目なら、俺が切腹でもして死にかけようかと思ったが、どうやらその心配はなさそうだな」

 

 この地に、とても戦える状態ではない衰弱した少女を二人、配置する。

 単純な話だ。衰弱した少女という『餌』に引き寄せられた魔物たちは――。

 

 

「魔物たちは餌に釣られてもう一度、こっちの島を狙ってくるってことですね! こんな風に!」

 

 タチバナの【チェイン・ライトニング】が、大量の魔物をまとめて連鎖していく。

 先ほどまで減ってきていた魔物の姿が、再びまた、この小さな浮き島を取り囲んで行く。

 

 空の果てには、既にしっかりとした丸い輪郭を持ち、朝の太陽がその姿を現している。

 太陽の光に照らされ、残った魔物たちの群れが、小さな浮き島へと侵攻を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その頃。

 

「カリンくん、助けに来たのでは、ないかな?」

 

「うぅ……リフィ、リフィ、無事ですかぁ……?」

 

 魔物に囲まれていたカリンとリフィの居る島に、妖精の援軍がやって来た。

 先ほどまでは上の浮き島で探索者たちとともにいた、鍵の妖精リドルと、水の妖精ニムの二人。

 彼女らも戦闘向きの能力でこそないものの、霧で魔物たちを惑わし、不思議な魔法陣で魔物たちを森の外へと弾き飛ばしながら、覚えのある魔力を辿ってリフィたちの元へと駆け付けた。

 

 そしてそれとほぼタイミングを同じにして。

 

「すまん! 桃子も大変だったんだ! 助けにきたぞ!」

 

「防御なら、任せてよぉ!」

 

 ニムたちと逆方向からは、魔物たちを炎に巻き込みつつ、火の妖精フラムと大地の妖精ノンが駆け付けた。

 彼女たちは桃子と共にいたけれど、魔物に捕らえられた桃子の身柄をクルラたちが奪還し、そして薬草の妖精ルイが桃子を治療する間、動きのとれない彼女たちの代わりにリフィとカリンの元へとやって来たのだ。

 森の中で炎をまき散らすのは普段ならば植物の妖精たちに渋い顔をされる行いだが、森の中にまで大量の魔物が入り込んでいる今となっては仕方ないだろう。

 

 

「全く。お前ら。来るのが遅すぎだヨ……」

 

「ふぅ……ふぅ……も、もう流石に、カリン、動けません……」

 

 四人の妖精が到着した段階で、既にリフィとカリンの二人は力尽きていた。

 力尽きたとは言っても、魔物にやられたわけではない。限界まで魔物と戦い、二人ともが魔力切れで地面に倒れ伏している状態だったのだ。

 周囲をみれば、まるで小型の竜巻がこの場所で発生したかのように木々はへし折れ、地面は荒れて。そして、よくみれば辺りには大量の魔石が散乱している。

 この場所で、リフィとカリンが死に物狂いで戦い、魔物たちを二人で撃退してきたことが窺える。

 

 しかし、二人して魔力が切れたこの状態では魔物に襲われれば抵抗も出来ず、ひとたまりもない。

 援軍の妖精たちが到着したのは、まさにそのような瀬戸際というタイミングであった。

 

「わ、わぁ……リフィとカリンさんが……こ、こんな姿に……めそめそ……」

 

「動けなくなってるだけだよぉ。ニムは、カリンさんの怪我を回復させてあげてよぉ」

 

 ニムが勝手に勘違いして泣き出すが、カリンたちは「死んでないヨ」というツッコミを入れる気力すら尽きている。

 力尽きている二人を守るようにノンが岩壁を作り、ノンに言われたニムが慌ててカリンに癒しの水を注いでいく。

 お陰でカリンの服がびしょびしょになるが、しかし極限まで戦い続けて体内に熱がこもってしまっていたカリンには、ニムの水が不思議と心地よかった。

 心と身体に、再び活力が湧いてくる。尤も、しばらくすればまさに地獄のような筋肉痛がカリンの全身を襲うのだが、今はそれは別な話だ。

 

「なあ! この鳥たち、かなり減ったけど! それでも多いぞ! どうすんだ!」

 

「大丈夫さ。上にいる探索者たちが、どうにかしてくれるのでは、ないかな?」

 

 森ごと焼き払う勢いでフラムが炎をまき散らし、リドルが的確にその炎を魔法陣で魔物に向けて拡散していく。

 しかし、圧倒的に数だけは多い魔物たちだ。負ける気はしないものの、このままだとこの森が焼け野原となってしまうのではないかと、フラムが心配したところで。

 

 まさに、リドルの言う通り。気づけば島にいた魔物たちが次第にこの場を離れていく。

 そして空を見上げれば、残った魔物たちが、まるで何者かに号令をかけられているかのように、第一層へと続く最上段の浮き島へと集結していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい! インディ、お前の作戦は的中したのはいいけどよ……」

 

「タチバナさん、すまない、まだいけるか!」

 

 インディの作戦は、想像以上の効果を発揮した。

 衰弱した少女二人を矢面に立たせることで、カリンの島を狙っていた魔物たちや、遠くの空に散っていた魔物たちが再び、この小さな浮き島へと集結しつつある。

 それは、まるで誰かしら魔物の統率者がいるのではないかというような。そう、まるで軍隊染みた動きだった。

 

 いくらタチバナが広範囲に効果のある魔法を使えるとて、彼女はずっとここで魔法を撃ち続けている。

 さすがに、彼女も魔力の限界というのはあるはずだ。今からこの数を相手にするのは難しいのではないかと、インディはタチバナに声をかけたのだが――。

 

 

「あっははは、もう! たった今、勝利確定しましたよ! 問題解決ですよ! っていうか、来るのが遅すぎます!」

 

「タチバナさん……?」

 

 タチバナからの返答は、笑い声。

 一瞬、魔力を使いすぎてどうかしてしまったのではないかとその場にいたメンバーたちがタチバナの方を見るが、しかしそれは杞憂だった。

 いや、タチバナの精神状態は分からないが、インディたちの気付かぬうちに、タチバナの元には彼女が余裕を見せるだけの、新たな援軍が訪れていた。

 

「新しい、妖精……?」

 

 蒼い気弱そうな妖精でも、黄色い光を放つスフィンクスの鍵の権化でもない。

 黒い蝶の羽根の、美しい、そして深海を思わせる不思議な光を放つ新手の妖精が、タチバナの肩へと舞い降りていた。

 

 

 

 

「さあ、ゆかたん。魔力をたっぷりあげますよ。バンバンやっちゃってくださいね」

 

「なんですかその小さい身体! 分身ってやつですか、来るのが遅いんですよ! もっと早く来れたでしょう、絶対!」

 

「ふふふ。だって、ももたんの活躍をギリギリまで見ていたいじゃないですか」

 

「前から何となく勘付いてたけど、あなたって性格悪すぎやしませんか!」

 

 肩に乗る妖精から、無尽蔵なのではないかと錯覚する程の魔力が柚花へと注がれる。

 それと同時に、柚花の魔力はみるみる増強されていき、ただの【チェイン・ライトニング】が、まるで大規模な天災と見紛う程の広大な範囲に広がる雷と変化していく。

 その蝶の羽根を持つ妖精は、先代の妖精女王ネーレイス。厳密には、その妖精女王の転生体である天海梨々という少女が、スキル【分身】によって製作した分身体。それが、この蝶の羽根をもつ妖精である。

 もっと簡単に言えば、妖精りりたんだ。

 

 彼女の参戦によって、既に勝敗は決まった。

 

 柚花は、あまりのりりたんの到着の遅さに怒りつつも、しかしその与えられた魔力の馬鹿みたいな強大さに勝利を確信し、もはや半ばやけになって笑うしかなかった。

 

「ほら、視えますか? ゆかたん。群れの遥か向こうに、リーダーがいますよ?」

 

「ずっと遠くで様子見してる、ひと際大きいやつですね。ずるいなあ、自分は遠くで様子見だけとか。どっかの魔女みたいですね」

 

「ふふふ。そんなずるい魔女がいるのですか? ところであの魔物、自分はずっと安全圏にいるつもりみたいですけれど、どうしますか?」

 

 柚花は、りりたんの指さす方を【看破】で覗き見る。

 これもりりたんの魔力の影響なのか、柚花の瞳に不思議な紋様が発現し、光を放つ。そして、肉眼でありながらも望遠レンズのように遠くまで、その瞳ではっきり見通すことが出来た。

 そこに見つけたのは、巨大な、この島に群がる黒い鳥たちよりひと回りもふた回りも大きな、漆黒の翼をもつ怪鳥であった。

 

「りりたん、あなた分かってるくせにそういう風に聞いてくるところも性格悪いですよね」

 

「ふふふ。そうですね、では一緒にやりましょう」

 

 柚花は、右手の剣をその魔獣へと向ける。そして、剣を握る右手の人差し指を伸ばし、剣先とともに、その魔獣を指し示す。

 妖精りりたんもその小さい指を、魔物を率いるボスの方角へと向けて、詠唱を口にする。

 

「我が指は雷の道しるべ――」

 

 そして、二人で声を揃え。

 

「【召雷】!!」

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