ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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帰還

「桃子。魔力を使いすぎた。ヘノはちょっと。寝るぞ。帰り道はわかるか?」

 

「え? ああ、うん。そこで寝るの?」

 

 鵺を討伐し、第四層マヨイガへ降りてきて帰路につこうというタイミング。

 大妖怪を前にして沸き立っていたアドレナリンがその役目を終え、ようやく心が冷静になってきた頃。桃子の肩に乗っていたヘノが、桃子の首筋に寄り掛かるように寝息を立て始めた。

 

「くすぐったいよ、ヘノちゃん。せめてこっちにしようね」

 

「んぐー……まかせるぞ」

 

 肩から優しくヘノをつまみ上げて、その緑の長い髪を指先で軽く整えてから、スカジャンの下に着ているトレーナーの胸ポケットに入れる。

 実はこんなこともあろうかと、胸に大きなポケットのついた服をいくつか買い揃えておいたのだ。

 胸ポケットの中でヘノが胎児のように丸まって寝息を立て始めるのを確認してから、広大な和風建築の廊下をひとり歩きだす。

 

「ええと……そうだ、壁の傷が消えかかってるし、もう一度跡を残しておかないとだね」

 

 ヘノが居ない今は、炊事場に居ついている探索者たちが最初に壁に刻んでいった矢印だけが桃子の道案内だ。

 ヘノの言うところの滅茶苦茶な道のりだが、桃子としては梁の上やら何やらを通らない分だけ気楽な道である。

 桃子は、探索者用の小型ナイフで消えかかった壁の跡を上からなぞるように削りなおして、一つ一つ確認しながら、マヨイガを進んでいった。

 

 すでに顔なじみとなった一反木綿や唐傘お化けとすれ違い。甲羅を乾かす河童を横目にスルーして。包丁を研いでいる山姥みたいな鬼は危険そうなので後ろからハンマーで叩き潰しておく。

 最初は恐る恐るだったマヨイガも、なんだかんだで慣れてきてしまった。

 

 そしてようやくたどり着いた大きな庭園。

 

 道すがら、湧水をそのまま飲み、木の実をつまみ食い。

 おにぎりの墓石の前に到着すると、何故だかマツタケがひとつ供えられていたので、これはきっと自分宛なのだと好意的に解釈してありがたく貰っておいた。

 

 炊事場にたどり着くと、半数は布団で休眠をとっていたようだが、見張りとして起きている探索者メンバーたちが松茸を七輪で焼いていた。

 精神がすり減っているんじゃないかと心配もしたものだが、さすが探索者だ。性根がタフである。意外と満喫していた。

 桃子はこっそりと七輪に近づいて。焼けた松茸を、端っこの一切れだけ勝手に頂く。まるでぬらりひょんだが、あくまで座敷童子。

 座敷童子の萌々子ちゃんの仕業なのだ。

 

「はむはむ。次に来るときはお塩かしょうゆを持ってこないといけないね、これは」

 

 松茸などという高級食材を食べる機会があまりないので、その良さはさほど分かっていないのだが、とりあえず塩気が欲しかった。

 

 

 

「到着っと。ヘノちゃん? ヘノちゃーん?」

 

 その調子でマヨイガ内を進み、妖精の国へと続く光の膜が出現する廊下へと到着する。

 途中で迷いかけはしたが、さすがに何度か往復した道のりなので手慣れたものだ。

 眠っているヘノを起こすのは気が引けたが、さすがにここは桃子だけでは通れないため、指先でつんつんつついてみるものの。

 

「ん……むにゃ……」

 

「うーん、気持ちよさそうに寝てるなあ。どうしたものかな」

 

 ここはひとまず炊事場に戻って、またちゃっかりご相伴に授かろうかとも考えるが、そんな桃子の目の前で、何もない空間が白く光りだす。

 そして、見慣れた光の膜が現れた。

 

「うぅ……桃子さん、ですよね? 今のうちに、どうぞ」

 

「あっ、妖精さん。えっと、迎えに来てくれたの?」

 

 膜から出てきたのは何度か見たことのある、気弱そうな妖精だった。

 ヘノが薄い緑ならば、こちらの妖精は薄い蒼の光を放っていて、肩程までの長さの髪も鮮やかな蒼色。

 桃子が目を合わせると、ビックリしたように光の膜に引っ込んでしまった。

 

「わ、ごめんねっ。驚かせるつもりじゃなかったんだよ。じゃあ、通らせてもらうね」

 

 このまま光の膜が消えてしまっても困るので、桃子も膜に触れて光に包まれる。

 そして、スゥ……と光が収まれば、そこはまた見慣れた風景。地平線まで続く広大な花畑、妖精の国へと戻ってきた。

 

「あの……女王さまが、ヘノが眠っているだろうからって……あ、私……ニム、です」

 

「うん、ニムちゃんね。ありがとう。今ヘノちゃんが眠っちゃってて、私も困ってたところだったんだ」

 

 助かったよ、と蒼い妖精の少女、ニムに笑いかける。

 こういう時は人間同士なら握手なりで手を差し出すタイミングかもしれないが、妖精相手だとどうすればいいのか分からなかったが、とりあえず笑いかけたのは正解だったようだ。

 ニムも多少緊張がほぐれたようで、桃子の顔の高さまでふわりと舞い上がる。

 

「あの……じょ、女王様のところに、案内しますね」

 

「うん、ありがとう。お願いするね」

 

 いつもはヘノの先導で歩いていた道のりを、今回はニムの後ろをついて進む。

 気まぐれに風のようにフワフワと左右に揺れるヘノと違い、ニムは静かにスゥっと泳ぐように飛ぶ。

 こういう所にも、妖精ごとの個性があるんだなあと、桃子は新たな発見に感動した。

 

 

「お帰りなさい、桃子さん。今日はお疲れさまでした」

 

「ティタニア様、その……すみません。せっかくご忠告頂いたのに、無謀な真似をしてしまって、ヘノちゃんが……」

 

 女王の間。花びらの玉座の前まで来ると、桃子は胸ポケットで眠るヘノを丁寧に指でつまみ上げて、手のひらに寝かせる。

 移動させる際に少しだけむにゃむにゃ言うが、それでもヘノはまだ眠り続けているようだ。

 

「いえ、いいのです。こうして二人とも帰ってきてくれました。それに、鵺は人間にとっても、妖精にとっても討伐すべき忌むべき魔物でした」

 

 女王ティタニアは続ける。

 

「遠野の地で行方不明になったという探索者には、人知れず鵺の餌食になったものも少なくなかったのですよ。彼らの魂も、救われたことでしょう」

 

「そう……だったんですね」

 

 女王がすくっと立ち上がり、桃子に頭を下げる。

 ヘノやニムにはついていない、女王の背で煌めく虹色にきらめく大きな蝶の羽根が女王の動きに合わせて静かな光を放つ。

 

「妖精の女王として、桃子さんには感謝いたします。そして、重大な役目を負わせてしまい、申し訳ありません」

 

「いやっあの、頭を上げてください。私こそ、ヘノちゃんを危険な目に遭わせて、無理までさせちゃって……その、ごめんなさいっ」

 

 桃子も慌ててぺこりと頭を下げる。何より大事なはずのヘノを危険な目に遭わせたのだ。責められることはあれど、女王が頭を下げることなどなにもない。

 

「うぅ……私も、ごめんなさい……めそめそ」

 

 最後に、何故かニムもめそめそ泣きながら頭を下げた。

 女王も桃子も頭の横にハテナを浮かべ、変な空気になった。

 

 

「こほん。では桃子さん、ひとまずヘノをこちらに。魔力を大量に使った反動ですから、いまは花びらで眠らせてあげましょう」

 

 桃子は、ヘノが起きないようにそっと、女王の横の花びらに乗せる。

 女王は玉座から降りるとヘノの横に腰を下ろし、その身体をそっと抱き寄せて、静かにその髪を撫ではじめた。

 まるで、愛し子をあやす母親のよう。いや、女王にとっては事実としてここの妖精たちは自分の子供なのかもしれない。

 そんな女王に見惚れていた桃子だが、ふと思い出したことがある。

 

「そうだティタニア様。ヘノちゃんの戦利品というか、鵺を倒したら出てきたんですけど、これってわかりますか?」

 

 リュックを下ろして、そこから紅い珠を出して女王の前に差し出す。

 魔石というには色が赤く、表面はまるで真珠のような光沢をもった、大きさにして卵の黄身くらいのサイズの石だ。

 鵺を倒した際に鵺の体内から出てきたものだが、桃子にはこれが何なのかわからない。

 

「これは……そうですね。至極簡単に言うならば、凝縮された魔力の塊。いわゆる魔石の一種ですが、魔石としても格別に上等なものですね」

 

「ええ、これが魔石なんだ」

 

 桃子は手の中の紅い珠、とても他の魔石と同じとは思えないその石をしげしげと眺める。果たしてこの石を武器と融合させたらどうなってしまうのか。想像もつかない。

 

「もし、桃子さんの武器に融合させるならば、山を砕くほど……と言うと大げさかもしれませんが、大岩くらいならば容易く砕ける武器となりましょう」

 

「ええ?! いや、さすがにそんな武器は私の手には余りますし、あくまでヘノちゃんの珠ですからっ。あの、ヘノちゃんが寝てるので、これは女王様にお渡しします」

 

 強い武器はありがたいが、振り回すだけで地盤が崩壊しそうなものはさすがに手に余る。

 武器に融合しないとしても、石の価値を考えたらギルドに持っていくのもまずいだろう。金額にしても、数百万や数千万では収まらない気がする。

 そんなものをほいほいと持ち歩いて良いものではないし、無用なトラブルを呼ぶだけだ。

 

「ヘノにはこれの使い道はあまりないとは思いますが。そうですね、この魔力を糧に、ヘノの望むものを妖精の国に増やしてあげるのも良いかもしれませんね」

 

「魔力があれば、何かものを増やせるんですか?」

 

 女王に石を差し出し……とは言っても、サイズ的には女王にもやや大きい石なので、玉座の横に石を置かせてもらった。

 ヘノの頭を撫でながら、ティタニアは少し考え込み、続けた。

 

「桃子さんが使用している部屋や、調理部屋も、もともとは昔の妖精の国の魔力を使って製作した場所なのですよ。あの珠でしたら、ある程度の空間ならすぐにでも制御できるでしょう」

 

 そういえば、寝室や調理部屋は、人間の少女とともに造ったという話を思い出した。

 ヘノの望む施設とは、どのようなものがあるだろうか。

 

「ヘノちゃんなら、美味しいものとかが好きそうですね。調理部屋はもうあるから、冷蔵庫とかかな……?」

 

「あのぉ……ヘノは前に、畑や釣り堀で、カレーの具を増やしたいと……そのぉ、言ってました……」

 

 おずおずと、横で話を聞いていたニムが口を開く。どうやらヘノとは仲が良いのだろう、畑や釣り堀、という情報を知ることができた。

 それにしても、カレーの具ときた。

 

「ヘノちゃん、カレーにはまっちゃったねぇ」

 

「畑や釣り堀くらいなら可能ですね。後ほど、ヘノが起きたら希望を聞いてみましょうか」

 

 話題の中心であるヘノは、女王の膝で実に幸せそうに眠っている。

 今頃はもしかして、カレーの夢でも見ているのかもしれない。

 

 女王と桃子、そしてニムも一緒になって、ヘノの寝顔をずっと、眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【討伐隊 配信コメント抜粋】

 

 

 

:すごいぞ、今回は一戦で倒しきれるんじゃないか

 

:神弓士、魔弾の射手、忍者マスター、こんなメンバーが揃うことってある?

 

:遠隔アベンジャーズじゃんか なんであんな暴風の中で弓使えるんだ

 

:配信画面はほぼ役にたたないけどな

 

:鵺見えないし、嵐なことしかわからん

 

:こっちの配信もすごい 裏方だが、二層大竹林で加工スキルチームが無限に矢を量産し続けてる(URL)

 

:下じゃ矢をマシンガンみたいに射撃してっからな

 

:さっきから鎧の人が雷に打たれてるんだが大丈夫か

 

:あいつ避雷針だから大丈夫

 

:魔法チームも派手だよ 炎とか氷が飛び交ってる(URL)

 

:あの女の子すごいな ずっと鵺の居場所指示してる子 ずっと崖ぎりぎりで覗き込んでて見ててハラハラする

 

:今回の作戦のキモだな。【看破】もちのソロ探索者で新宿ダンジョンの隠しルートの殆どを発見したバケモノ

 

:いつもは姿を消されたら手も足も出なかったが、今回は姿を隠しても逃がさないわけか

 

:護衛に回ってる連中も見てやれ。天狗やら鬼やらとひたすら戦ってるぞ。

 

:頑張れ! みんな頑張れ!

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:回復間に合ってない

 

:回復魔法の使い手が魔力つきたって

 

:薬草で強引につづけてる

 

:結界魔法の人がいなかったら何人か死んでるぞ

 

:でも耐えさえすれば今回は煙で逃げるの許さないから、絶対に勝てるはずなんだよ

 

:いまちらっと映った、かなり弱ってる!

 

:いける!

 

:おたけびすごい

 

:落ちた!!

 

:勝った!!

 

:涙でてきた

 

:まて

 

:崖崩れ

 

:どうなった

 

:何人か崖崩れに巻き込まれてない?

 

:鵺どこだよ

 

:落石で完全に見えない

 

:倒せたのか?

 

:これで逃げられたらどうすんだ

 

:嫌なこと言うな

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:雲が晴れてきた

 

:勝利じゃん

 

:勇者たちに拍手!!

 

:最後に瀕死だったからな

 

:映画化決定だろ

 

:なんかノイズがひどいけど、鵺が煤化してくのが確認できた

 

:別カメラもノイズがひどくなったな

 

:ノイズで画面全然見えないし、よくわからんな

 

:魔法チームのカメラ、なんか綺麗な光がたくさん飛んでる(URL)

 

:なんか寂しい光だな

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:【朗報】通信が回復したらしい

 

:よかった

 

:【悲報】マヨイガの連中は松茸を炙って食べていた

 

:上は激闘、下は松茸、これなーんだ

 

:遠野ダンジョン

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