ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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『空の妖精たち』エピローグ

『じゃあ、もじゃもじゃさん。こっちにね、探索者の人たちがいるから、ついて来てね?』

 

 岩手県、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』。

 空間がねじれており、どの扉がどこへ続くかわからない。一度迷えば出られぬと言われている、巨大な和風建築の迷宮。それが、このマヨイガだ。

 その巨大屋敷の軋む廊下を、着物を着た童女がひとりの探索者の手を引いて、とてとてと歩いていく。

 

「ぼ、僕、もじゃもじゃじゃなくてオオアシって言うんだけど……あ、えと、きみは?」

 

『私ね、萌々子って言うの。座敷童子なんだよ』

 

「ざ、座敷童子なんだ……はは、ここ、どこなんだろう……」

 

 赤い着物の童女は、このダンジョンに住まう魔法生物、座敷童子の萌々子である。

 彼女は母である桃子のスキル【創造】にてこの世界に生まれた存在なれど、今ではこのマヨイガに住まう小さな守り神として探索者たちから謎の信仰を集めていた。

 そして、その座敷童子に手をひかれて歩いているもじゃもじゃした男性は、オオアシ。三年前に上高地ダンジョンの第二層へと落ち、そこで孤独な生活を余儀なくされていた、遭難者である。

 

 そのオオアシが、どうして今、マヨイガを歩いているのか。

 

 それは、少し時間を遡る。

 

 この日の朝、上高地ダンジョンの一連の旅の末、桃子はカリンを仲間の元に送り届けることが出来た。

 そしてカリンを見送ったはいいものの、このダンジョンにはもう一人の遭難者が助けを待っていた。豆のなる浮き島で孤独に暮らしていた探索者、もじゃもじゃことオオアシである。

 

 無論、桃子はカリンを送り届けた後は、オオアシを救出するために空を舞った。

 突然目の前に沢山の妖精たちが舞い降りて来て目を白黒させているオオアシの前で、桃子は説明もそこそこに鵺の紅珠に込められた【転移】の魔法を発動させる。そして光の膜が出現すると、桃子たちは有無を言わさずオオアシをその中へ力まかせに押し込んだ。

 転移先は、鵺が倒された地、遠野ダンジョン第三層『深淵渓谷』の谷の底だ。

 

 あとはオオアシの身柄をこの地の探索者たちに引き渡せば、残りは現地の探索者たちの間でどうにかしてくれるだろう。

 実はここ遠野ダンジョンでは、オオアシのような行方不明者がひょっこり発見されるという出来事は初めてではないのだ。なので、いきなりオオアシが現れたとしても、恐らく事情が伝わるのも早いだろう。

 このダンジョンについてならば座敷童子の萌々子が説明してくれるだろうし、そうでなくともこの地の探索者たちならばきっとどうにかしてくれるという、謎の信頼感がある。

 

 というわけで、困惑したままのオオアシを、この地の新たなる守り神である座敷童子の萌々子に預けたのである。

 萌々子に丸投げした、とも言う。

 ただ、母からお願いをされた座敷童子も非常に嬉しそうだったので、これはこれで両得というものだろう。

 

「これで。あとは。座敷童子に任せれば。大丈夫だろ」

 

「ありがとう萌々子ちゃん、今度お礼に、美味しいお菓子持ってくるからね」

 

 マヨイガの木造の廊下を、萌々子とオオアシの二人はゆっくりと歩いていく。あとはこの地の探索者たちに保護して貰えば大丈夫だ。

 桃子は歩いていく二人の背に向けて大きく手を振り、オオアシの帰還への第一歩を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、無事にカリンさんと、もじゃもじゃさんの救助を完了してきたんだよ!」

 

「ふぇー、師匠、今回も大冒険すね。じゃあ、柚花さんはまだその空のダンジョンにいるっすか?」

 

「えーとね。柚花はギルドの依頼として長野まで行ってるから、まだしばらくは現地かな? 今頃は、上高地ダンジョンギルドのお金で美味しいものでも食べてるんじゃないかなあ」

 

「カミコウチって、どんなおうどんがあるんすかねえ。ポン、気になるっす」

 

 そして、その日の午後。無事に帰還した桃子は、花畑に腰を下ろして、化け狸のポンコへと今回の旅の顛末を話していた。

 ポンコはどこから伝わったのか、無事にカリンが救出されたというニュースをすでに聞いており、花畑にて桃子たちの帰還を出迎えてくれたのだ。師匠思いの良いたぬき娘である。

 

 妖精の国から直接帰還した桃子と違い、柚花はギルドの依頼として長野まで出向いているので、帰って来るにしても明日以降になるだろう。

 カリン本人は地上に戻ってからも病院の検査入院が待ち構えているだろうが、他の面子は少なくとも今日一日くらいは現地でゆっくり休養するのではないかと思う。

 柚花に長野県のお土産でもお願いしておけばよかったな、と。万事解決した今では、そんな呑気なことも考えられるようになっていた。

 なお、後から聞いた話だと柚花は今回かなり頑張ってくれていたということなので、帰ってきたら沢山褒めてあげようと、桃子は心に決めていた。

 

「そうだ、今回は化け狸さんたちにもお世話になっちゃったからさ、これ、お土産。さっき話したでか豆。鞘ごとだけど、はい」

 

「ひゃあっ、なんすかこれ! ちょっとした武器みたいな大きさじゃないっすか!」

 

「あ。でも人が食べて大丈夫なものかどうかは検証してないから、人に提供するならまずマグマさんにでも頼んで調べてもらってね?」

 

 そして、ポンコには巨大な豆を差し出す。鞘ごと持ってきたので、ちょっとした鈍器のようなサイズだ。

 これはオオアシを迎えに行ったとき、ついでに幾つか収穫しておいたものである。他のダンジョンでも見たことのない稀少なダンジョン食材なので、料理人見習いであるポンコへのお土産としてはちょうど良いだろう。

 このでか豆を人間が食べて大丈夫かどうかはまだ不明だが、これに関してはポンコの師匠たちのほうがプロのダンジョン料理人なので、検査はそちらに任せてしまったほうが早そうだ。

 

「本当にでっかいお豆があるんすねえ。おうどんの器に入れたらこれだけでいっぱいになりそうっす」

 

「あはは、流石におうどんの具にするのは難しいかもしれないけどね。普通に茹でても、枝豆みたいな感じで美味しいんじゃないかな?」

 

「そうしてみるっす。きっと里の長も、こんなでっかいお豆は見たことないから、喜んでくれるっすよ」

 

「あはは、長に喜んで貰えるなら、持ってきた甲斐があったかな」

 

 さすがに、一粒が下手なお椀より大きい豆なので、そのままうどんの具にはできそうにない。やるとしても、細かく切るなりすり潰すなりの工夫が必要になりそうだ。

 しかし、うどんに入らないとは言え、これが枝豆の一種だと考えれば普通に茹でるだけでも十分美味しくなるだろうと思う。化け狸の食生活というのはわからないけれど、元々タヌキは雑食だ。雑食なら、豆くらいは普通に食べられるに違いない。

 

「でもでも師匠、この豆って妖精の畑には植えられないんすか?」

 

「うーん、そうなんだよ。リフィちゃんにきいたら、あれは浮き島の環境じゃないと育たないお豆なんだって」

 

 そう。残念なニュースとしては、緑葉の妖精リフィに見て貰ったのだが、でか豆はあの浮き島独自の植物で、恐らくこの妖精の国の畑では育成が難しいだろうとのことだった。

 てっきり妖精の畑ならば魔法的な力でどんな植物でも育つものだと思っていた桃子だけれど、それが無理と言われてしまっては諦めざるを得なかった。

 とは言え、あの豆自体は実っている場所が分かっており、ヘノたち空を飛べる妖精ならば、収穫してくるくらいはわけない。

 なので、適度にヘノに収穫をお願いして、食べない分は氷部屋で冷凍保存しておくことにしよう、という話でまとまっている。

 

 ちなみに、同様に上高地ダンジョンで見つけたメイプルだけれど、これまた妖精の畑に植え直す手間が大きい上、甘味としてそこまでヘノたちの興味を引けなかったようで、今のところは保留となってしまった。

 桃子が地上で買ってくるハチミツのほうが美味しい、とはヘノの談である。

 

「ねえ師匠。このお豆、空に行かないと取れない珍しいお豆なんすよね。ダンジョンって、ポンが知らない面白い食べ物、たくさんあるっすね!」

 

「うん。まだ見ぬ食材で、カレーもおうどんも、無限に進化していくんだよ!」

 

「すごいっす! カレーとおうどんは、可能性が無限大っす!」

 

 カレーも、うどんも、食材の数だけ可能性がある。

 つまり、まだまだ未知のカレーが、そして未知のうどんが、ダンジョンには無限に眠っているのである。

 カレーとうどんでそれぞれの道は少し違うけれど、それぞれの料理に人生の何割かをつぎ込んでいる二人の少女は、あっという間にテンションが高まっていく。

 

「よし、じゃあ久しぶりにカレーうどん作ろう!」

 

「ポンもお手伝いするっすよ! 桃子師匠のカレー、ポンも大好きっすから」

 

 テンションが高まったら、料理するしかない。

 というわけで、上高地ダンジョンでの報告話もそこそこに、桃子とポンコは連れだって妖精の国の調理部屋へと入っていくのだった。

 その日作った豆カレーうどんは、不思議とうどんに小さくすりつぶされた豆が絡み合い、なかなか新食感で悪くない逸品であった。

 

 

 

 

 

 夕方。

 

「桃子。スフィンクスのブラジャー。パラシュートに改造しちゃったな」

 

 桃子とヘノは、空の旅で使用した道具類の整理をしていた。

 桃の窪地から持ってきたという寝袋は、どうやら返さなくても良いらしく、是非ともこのまま活用して欲しいとのことだった。

 妖精の国の寝室には既に人を駄目にするベッドがある為に、この場所で寝袋を使う機会はないかもしれない。

 しかし、今回のようにイレギュラーな出来事が今後ないとも限らない。それを考えれば、妖精の国に置いておいても悪いものではないだろう。

 

 そして、最後の最後で大空を舞う翼として活躍した、スフィンクスのブラジャー。

 いざという時のパラシュートとして準備したものだが、まさかヘノが風で自由に操るヘノグライダーになるとは想像もしていなかった。今回の冒険のMVPアイテムであることは間違いない。

 

「うーん。ブラジャーがパラグライダーになるとは、流石の私の目をもってしても見抜けなかったよ」

 

「どうするんだ。これ。またブラジャーに。作りなおすのか?」

 

「ううん、これはさ、とっておきたいな」

 

 リドルから頼まれていたスフィンクスの下着だけれど、それはまた後日に回してもらおうと、桃子は考えている。

 そもそもスフィンクス本人は別に必要とは考えていない代物なので、急いで製作すべき理由もないのだ。

 今は一反木綿が絶滅の危機に瀕しているなどと言う噂もあることだし、念のため一反木綿の数が増えるのを待ってからまた作り始めよう。

 

 問題があるとすれば、もし砂丘ダンジョンの探索者がスフィンクスの鍵を見つけたとき、あの巨大な胸で集中力を乱される可能性がある、くらいだろうか。

 もしかしたら、インディとジョーンズはそれが原因で試練を突破できなかったのではという考えが桃子の頭をよぎったが、真相は闇の中である。

 

「ブラジャーはブラジャーで作り直そっか。改造しちゃったこれはさ、ブラジャーじゃなくて、パラグライダー……ううん、ヘノグライダーとして使っていきたいな」

 

「ん。わかった。ヘノも。それがいいと思うぞ。これがあれば。またいつでも。桃子と空を。飛べるしな」

 

 これがあれば、ヘノと再びあの空を飛べるのだ。

 なので、大切にとっておこう。いつでも、空を飛べるように。

 

「今度またさ、でか豆を沢山収穫してこようね。まだ見てない島も、幾つかあるしね」

 

「そうだな。救助とかじゃなくて。ゆっくりと。景色を見ながら飛ぶのも。いいかもな」

 

 なんだかんだで、ヘノたちと、妖精たちと夜を過ごすのは楽しかった。

 寝袋はちょっと身体が痛くなるけど、終わってみればとても良い思い出だ。

 

 だからまた、まだ見ていない島を探索して、たまには妖精たちと一緒に星空に包まれて眠るというのも、悪くないなと。

 

 桃子は妖精たちと過ごした星空の夜に、想いを馳せるのだった。

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