ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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おさけとおうどん

「はっはっは! 久しぶりだな、ちゃんと飯は食ってるか? タチバナにももポン!」

 

「いえ、私ももポンじゃなくて、桃子ですけど……」

 

「まあ、いいじゃないですか先輩。あだ名みたいなものですよ」

 

 湖畔の散策を終えて、ペンション『パイカラ』へと戻ってきた桃子と柚花を出迎えたのは、上下真っ赤な調理服に赤みがかったツンツン髪のうどん職人だった。

 その名も炎城寺マグマ。香川ダンジョン――別名うどんダンジョンの誇るうどん四天王の一人、炎のうどん職人である。激辛の、身も心も熱くなるような情熱的なうどんを得意とする調理人だ。

 

 彼が呼ぶ「ももポン」とは、過去に香川ダンジョンにて、まだ人間形態に変化できなかった化け狸の少女ポンコが、一時的に桃子の姿に化けていたときの偽名である。桃子とポンコの合わさった姿でももポンだ。

 桃子の姿かたちに、狸の耳と狸の尻尾というももポンは、フードで狸耳を隠してカレーうどんの店を開いたことがある。

 ポンコはうどん大会フェス祭りにもその姿とその名前で出場していたため、ももポンの姿はそれなりに多くの人々に目撃されている。

 その時の姿を覚えていた炎城寺マグマは、桃子をももポンと呼ぶようになってしまったのである。

 彼は今やポンコの師匠の一人なので、ももポンがポンコの化けた姿であり、桃子とはまた別人だということは把握しているはずなのだが、そこら辺の区別は彼にとっては些細なことらしい。

 

「桃子さん、ごめんね、本当にマグマがデリカシーなくて」

 

「あはは。まあ、大丈夫ですよ。あだ名だったら、ももたんとか呼んでくる友達もいますから」

 

 そして、真っ赤な衣装で仁王立ちしているマグマの横から出て来たのは、同じく香川のうどん四天王の一人、風祭えあろだ。

 彼女も調理服だけれど、マグマのようにこれでもかという程の自己主張の強い服装ではなく、上下白のオーソドックスなものだ。

 強いて言えば帽子に鳥の羽根を模した飾りがついているが、それくらいだ。

 

「えあろさんもお久しぶりです、タチバナです。ところで、お二人が調理服を着て出てくるということは、やっぱりアレですか?」

 

「ええ。夜食が入らなくなったら困るから、あくまで少しだけ、ね」

 

 アレ、とは一体何のことなのか。

 奥のダイニングからは、何やら美味しそうな香りが漂ってくる。そして、うどん職人二人が調理服を着ている。

 ここから答えを見いだすのは簡単だ。

 

 うどんだ!

 

「わあ! ちょうど食べたかった奴だ!」

 

 桃子がダイニングを覗くと、既に湯気をたてる鍋が大テーブルの中央に置かれていた。

 それはまさに、冬のダンジョンで食べるとより一層美味しくなる、寒い日の強い味方。煮込みうどんであった。

 

「冷えた身体に煮込みうどんが染み渡る。さすがマグマだな」

 

「このピリ辛がたまりませんね。身体が温まって、また湖に潜りたくなってきます」

 

 見れば先ほどまでダイビングスーツで湖に潜っていた二人が、既にダイニングで美味しそうに煮込みうどんを味わっている。実に美味しそうで、うどんを食べる彼らを見ているだけでよだれが溢れ出てくる。

 これは我慢ならぬと、ずっと外にいて身体が冷えて来ていた桃子と柚花も、さっそくダイニングへと入っていき、えあろにうどんをよそって貰うのであった。

 

 

 

 

「美味しいですわ。日本酒、日本酒はありませんの?!」

 

「まあまあ、オウカさん。まだ日も出てますから」

 

「あら、タチバナさんと桃子さん。お二人とも、先日ぶりですわね」

 

 ダイニングにはイリアたちだけでなく、カウンター席で煮込みうどんをつまんでいる女性も居た。ゆったりした白い上品なローブを羽織った、魔法使い然とした出で立ち。

 それは、つい先日も上高地ダンジョンで見た姿。それは、深援隊の誇る治癒魔法のエキスパート。それは、【天啓】の語り手。そう、彼女こそはお酒のお姉さんことオウカである。

 桃子も柚花も、彼女のお嬢様然とした佇まいとは裏腹に、彼女がお酒に目がないことを知っている。見たところ、彼女は煮込みうどんをつまみながら、お酒を飲みたい欲求と戦っている最中だったようだ。

 

 そして彼女は、数少ない桃子の事情の理解者だ。【隠遁】のことも、妖精のことも知っている。その上で、なにも気にしていないように接してくれる女性である。

 

「あの、オウカさん。先日は無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした。上高地にオウカさんも呼ぼうって、私の発案なんです」

 

「謝らないでくださいまし。桃子さんがわたくしに招集をかけて下さったからこそ、結果としてカリンさんたちを救うことに繋がりました。深援隊メンバーとして、これ以上のことはありませんわ」

 

「オウカさん……」

 

 桃子は、オウカにぺこりと頭を下げる。

 

 深援隊は高レベル探索者パーティにも拘らず、未知の階層や強い魔物の討伐に執着していない、珍しいパーティだ。

 それは全て、深援隊リーダーたる風間の思いが強く前面に出ているのだろう。

 彼らはあくまで、自分たちの為ではなく、どこまでも誰かのためにダンジョンに潜るパーティなのである。

 

 桃子はオウカの語るその想いに、つい感銘の声を上げた。

 

「それに、長野の美味しい地酒をいくつか見つけられましたの。それも、桃子さんがわたくしに声をかけてくださったからですわ。マジのガチで掘り出し物がありましたのよ」

 

「オウカさん……」

 

 桃子はオウカの語るそのエピソードに、つい落胆の声を上げた。

 

 

 

 

「ねえオウカ♪ 夜に桃子の部屋に来てくれないかしら♪ 先日、珍しい果物からお酒を作ってみたのよ♪」

 

「わ、クルラちゃん?! ちょ……」

 

 オウカの横の椅子に並ぶように腰を下ろし、提供された煮込みうどんをつついていた桃子と柚花だが、食べていると唐突に桃子のお腹から声が聞こえた。

 いや、厳密には桃子のお腹ではなく、ポケットの一つから、妖精の声がした。

 

 お酒の妖精クルラ。ではなく、桃の木の妖精クルラ。桃の窪地繋がりで、オウカとクルラは面識があるはずだ。

 というか、クルラの発言からして、面識どころか普通に仲良くしているように聞こえる。桃子の知らないうちに、二者の間には交流が生まれていたようだ。

 やはりお酒が趣味の者同士、通じるものがあったのだろう。

 そのお酒の話をする場所が桃子の宿泊部屋、というのが困ったところだが。

 

「まあ! まあまあ! 素晴らしいですわね! タチバナさん、桃子さん。夜に貴女がたのお部屋に伺ってもよろしくて?」

 

「ええ?! お酒飲みにくるんですか?!」

 

「あーもう、絶対これ夜中に悪酔いする奴じゃないですか。駄目とは言いませんけど、オウカさんもクルラさんも、程ほどにしてくださいね?」

 

「ふふ、大丈夫ですわよ。わたくしこれでも、時と場合は弁えておりますから。子供の前で酔っぱらうほど飲むつもりはありませんわよ?」

 

「わたしも気を付けるわ♪ 子供の前で酔っぱらうのは駄目よね♪」

 

「あはは、そうだね。柚花はまだ未成年だもんね」

 

「先輩……いえ、なんでもないですけど」

 

 柚花がもの言いたげに桃子を見ているが、しかしその間にとんとん拍子で話が進んでいく。どうやら今夜は桃子たちの部屋に、オウカとクルラがお酒を飲みに集まることは確定のようだ。

 実のところ、桃子としてもオウカは数少ない自分の事情をオープンに出来る相手なので、部屋に来てくれるのは嫌な気はしない。桃子と柚花の部屋は二人部屋で他の個室よりは広く作られているので、スペース的な問題も無いだろう。

 年齢はそれぞれ離れているものの、これはこれで一種のパジャマパーティかなと心の中でワクワクしていると、更にそんな桃子たちに声がかけられる。

 

「あ、あの! 桃子さん、タチバナさん。実は私も相談したいことがあるんだけど、あとで部屋に伺ってもいいかしら……」

 

「えあろさん? ええと、えあろさんが私たちに相談……ですか?」

 

 意外にも、それは調理服に身を包んだ、風のうどん職人こと風祭えあろだった。

 どうやらオウカが桃子の部屋に行くという会話を聞きつけて、これ幸いにと彼女もそれに乗っかることにしたようだ。

 

「ええ、その……『風走り』というか、あのつむじ風の魔法について。私なりに再現してある程度使えるようにはなったのだけれど、今一つコツがつかめないところがあるのよ」

 

「ああ、ヘノ先輩のですね」

 

「もちろん風の妖精さん本人に聞ければ一番いいのでしょうけど、そんな機会もないし。貴女たちならなにか分からないかと思って……」

 

 えあろもまたこのダンジョンの事件の際には桃子が正体を現して姿を見せた人物だ。彼女がヘノの力のこもった魔石を操り、つむじ風の魔法を再現してくれなければ、あの戦いの結果は変わってしまっていただろう。

 桃子の【隠遁】の影響でその前後の記憶が朧気になっているようだけれど、彼女はそれとは別にポンコの師匠であるため、魔法生物絡みの守秘義務を理解はしているはずだ。

 他の人物ならば困るけれど、一度は正体をみせ、さらにはポンコの師匠の一人であるえあろならば、妖精が集まっている部屋に招いても大丈夫かな……? と、桃子が考えていると、再び桃子のポケットから声がする。

 

「ヘノは。構わないぞ。つむじ風の魔法くらい。簡単だぞ」

 

「ちょ、ヘノちゃんまでっ?!」

 

「え、今の声って風の妖精さん? 本人がいるの?」

 

 クルラと同様、ヘノが普通に声を出すものだから、桃子が周囲をきょろきょろして挙動不審になってしまう。

 どうやら近くにいるのはオウカとえあろだけで、他の人たちにまで声は届いていなさそうであるが、妖精たちが普通にお喋りを始めてしまうのは心臓に悪い。

 桃子がドキドキしている間にも、ヘノはひょこっとポケットから顔を出して、えあろに顔を見せる。

 

「ヘノがいないとき。桃子たちを。助けてくれたんだろ。あと。お前のお陰で。ドライフルーツも作れるようになったしな。キノコ乾燥女には。感謝してるぞ」

 

「……」

 

「……」

 

「……え、え? キノコ乾燥女って私のことなの? なんで?」

 

 一瞬、それが自分のことだと理解できなかったらしく、えあろの返答に間が空いたが、とりあえずヘノの返答としてはえあろに教えるのは問題ないとのことである。

 実はヘノの中では、桃子の恩人であり、ヘノでは思いつかなかった風の魔法の運用法を示してくれたえあろの評価はなかなか高い。なので、教えを乞われたならば風の魔力の運用法をレクチャーするくらいは構わないようだ。

 桃子としてはそれより、他の人の居る場所で顔を出すのはやめてほしかったが。

 

「っていうかヘノちゃん。キノコ乾燥させてたキノコ乾燥女はどっちかというとヘノちゃんでしょ? エアロさんは、うどんを乾燥させる人だよ?」

 

「そうだったか? じゃあ。うどん乾燥女でいいか」

 

「うどん乾燥女……いいわね」

 

「ヘノ先輩も名付け方が酷いですけど、それで喜ぶえあろさんもどうかと思いますよ」

 

 オウカは我関せずでマイペースに煮込みうどんをちびちびつまんでいる。桃子はツッコミどころかボケにボケを重ねている。常識人であるえあろはうどんが絡むとおかしくなる。妖精たちは言うまでもない。

 なので、盛り上がる女性陣を横目に。柚花がぽそりと、仕方なくツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野ダンジョン専用 雑談スレ】

 

:一反木綿が減ってきたのは乱獲が原因みたいな話聞いたけど、あれを乱獲する猛者がいるのか

 

:素材の布地はかなりいいものなんだけど、布地に傷つけないで倒すとかどうすりゃいいの

 

:鈍器で殴る

 

:暖簾に腕押しって言葉を知ってるか?

 

:ところで萌々子ちゃんが、またもや人間を拾ってきたって聞いたけど知ってる?

 

:ママ「すぐ人間を拾ってきちゃ駄目って言ってるでしょ」

 

:萌々子「ちゃんとお世話するから! 餌の松茸もあげるから!」

 

:たぶんダンボールに入れられて捨てられてたんだろうなあ

 

:お前らw

 

:で、マヨイガで保護された男性っていうのは本当なの? なんかニュースとかにならないから、本当か嘘かよくわからないんだが

 

:先週のスレッドのログ漁ればその話題一色だぞ。まあ続報がないのはギルドが情報をせき止めてるのか、個人情報に配慮しているのかは分からないが、保護された人がいるのは本当。

 

:ガチで萌々子ちゃんが連れてきたらしいぞ。髭も髪も伸び放題で、最初は魔物と間違えて討伐されかけたらしい。

 

:ひどいw

 

:あくまで噂だけど、別なダンジョンで過去に行方不明になった探索者みたいね。流石に個人情報のあれこれで垢BANされちゃうからそれ以上は深掘りしないけど。

 

:萌々子ちゃんはいったいどこからそんな人間をぽこすか拾ってくるんだ

 

:っていうか、そいつは萌々子ちゃんに連れられてってことは、萌々子ちゃんと会って話をしたってこと?

 

:そう。マヨイガの中継基地に来たときは、赤い着物の女の子が案内してくれたって証言してる。

 

:裏山 現地の探索者ですら萌々子ちゃんの姿見れた奴なんて滅多にいないというのにな

 

:捨て人間拾ってくるのはいいけど、なにも第四層の前線基地じゃなくて、上層まで連れて行ってあげれば良かったのでは?

 

:それはそうw

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