ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「あー! 申し訳ありません、私ったら先走りました! もう一度、もう一度初めから説明させてください!」
「あ……はい」
房総ダンジョンギルドの応接室にて。
魔法協会日本支部の職員だというこの老芝奈々という女性は、初手でポンコツっぷりを十二分に発揮していた。
そして、改めて。
魔法協会日本支部職員、老芝奈々は先ほどの小学校発言を無かったことにして、今度はしっかりと、最初から説明を始める。
「まずですね、世界魔法協会は魔法使いの相互協力機関であり、また魔法アイテムの管理も行っています。それらが主な表向きの活動です。そして表だって発表されていませんが、皆さまは御存じの通り魔法生物という存在の保護活動もしています!」
魔法協会の活動分野。
奈々の言う通り、その組織の基盤は魔法使いたちの相互協力機関である。魔法の素質を持つ探索者たちはほぼ全員がこの協会の会員であり、様々なサポートを受けられるようになっている。
また、ダンジョンでのスクロールや魔法が付与されたアイテムも、その大半が彼らの管理下だ。
それが表向きの活動内容である。
そして裏では、ダンジョン内の魔法生物の保護機関という性質を持つ。これは桃子や柚花の知っての通りだろう。
尚それ以外にも、ダンジョン関連の企業運営や人道支援活動等も行っているのだが、それは今回の仕事内容には関係ないようで説明は省かれている。
「それと、実はこれまたあまり知られていないのですが、地上での不可思議現象の数々も、魔法協会により調査や管理をされているんですよ」
「えと、地上での不可思議現象……ですか?」
「はい! えー、ざっくり言ってしまうと、オカルトとか、怪異とか、ものによっては心霊現象などと呼ばれるやつですね!」
「し、心霊現象……?」
桃子は質問したことを後悔した。桃子は幽霊やオカルト話は苦手なのだ。
ダンジョン内では鬼婆や河童など、世が世なら妖怪としてまとめられる存在も相手できるけれど、こと幽霊やホラーのジャンルは普通に苦手なのだ。今でこそダンジョン内の魔物として割り切れるけれど、マヨイガに住む井戸の魔物も桃子としては二度と顔を合わせたくない。
しかし、どうやらそのオカルトが、今回の依頼内容に大きくかかわっているらしい。
「ええと……資料によりますとですね。ハイ、桃子さんに分かりやすく説明するならば、山形の山村に出現する雪ん子の幽霊がまさに、オカルトの分野です!」
雪ん子の幽霊。
それは言うまでもなく、桃の窪地周辺で目撃されるようになった雪ん子の雪ちゃんのことだろう。
桃子も気づいてはいたのだが、そもそも彼女はあの地域に出現するようになってから、一歩たりともダンジョン内に、窪地に足を踏み入れていないのだ。つまり、雪ん子雪ちゃんは、ダンジョン内に住まう魔法生物とは一線を画す存在ということである。
認めざるを得ない。あの雪ん子は、過去にあの山で亡くなった少女の幽霊だ。
目撃されるようになったタイミング的に、桃子の存在が何かしらの影響を与えたのは間違いないだろうが、果たして桃子とあの幽霊の間にどれほどの関連性があったのだろうか。
桃子が雪ん子の雪ちゃんを名乗ったのが原因なのか、所有していた【創造】が原因なのか。桃子がその真相を知ることは無いのだろう。
「理論上は、地上では魔法的な現象、魔法的な生き物というのは存在しません。しかし、稀にそれに反して、魔力のないハズの地上で発生する不可思議な現象があります。それを魔法協会日本支部では便宜上『怪異』としてまとめております。幽霊もまた、そのうちの一つです!」
奈々が熱く語りだす。
地上の大気中では、魔力が拡散してしまう。だから地上では、魔法生物たちは長時間活動できない。
そして、人間は己の魔力を自由に扱う器官を持たないため、大気中の魔力というサポートのない地上ではスキルを使用できない。
桃子がどれだけ潜在魔力を持とうとも、本人が人間である限りは、地上で【創造】も【怪力】も発動できないし、魔石から魔力を引き出す術も持たない。
例外として、クズ魔石を砕けば一瞬だけスキルを使用できるが、それはその一瞬だけ周囲の大気中に魔力が放出されているからである。
理論的にはよりしっかりした魔石を砕けば更に多くの魔力を行使できるはずだが、通常の魔石は凝縮された魔力で守られているので、ただの物理的な力では破壊が難しい。
また、クリスティーナやりりたんのように、地上でも魔法を行使できる人間というものは存在する。ただ、彼女らはほぼ人間をやめている人たちなので、人間のカテゴリで考えるべきではないだろう。
りりたんに至っては彼女がそもそも転生というオカルトを経た存在だ。彼女こそ怪異そのものと言っても過言ではない。
「ただですね。ダンジョンの魔法絡みの案件と違い、地上の怪異絡みの案件というのは、扱いがとても難しいんですよ」
奈々は、ため息交じりに。ぼやくように言葉を続ける。
「幽霊が出たからといって私たちが除霊なんて出来るわけじゃありません。何かしらの条件で発生する現象や、特定の人間にしか見えない現象などをどうにかしろと言われても、その裏付けすら困難な状態で……正直、かなりブラックな部署なわけです……はぁ」
「はあ……その、大変なんですね」
熱く語り出したと思ったら、なんか今度は愚痴が始まってしまった。
正面に座る桃子は半ば唖然とした顔で相槌を打つしかない。杏は何かしら共感する部分があったのか、うんうんと頷いている。柚花はこっそりクズ魔石を割って、光るオッドアイで目の前の女性を覗き見ている。初対面の人間をまず【看破】で判断してしまうのは、柚花の悪い癖である。
そして、【看破】である程度、老芝奈々が嘘をついていないことを確認した柚花が、横から口を挟む。
「でも結局、そこからどうして桃子先輩が小学校に通う話になるんですか? 先輩にランドセル背負わせるんですか? 4年生くらいですか? そこら辺、私としては見過ごせない話ですからしっかり説明してください」
「あ、そうですよ。私はもう19歳ですから、大学ならまだしも小学校はもう卒業してますよ?」
ようやく、ここからが本題だ。
桃子の訝しむような視線と、柚花の期待するような視線を受けて、魔法協会職員である奈々は本題を語り始めた。
それは、長崎の山間部にある小学校で起こった話だった。
その小学校は、平成中期に建てられた鉄筋コンクリートの校舎を使用していたのだが、春先の台風の際に飛んできた倒木が窓を突き破り、六年生の教室が破損してしまったのだという。
その改修工事のために、この春からの六年生は一時的に、少し離れた旧校舎の教室を使用することになった。
それが、異変の始まりである。
新学期が始まってからというもの、旧校舎を使用している六年生たちが次々と不可思議な現象に遭遇しているのだ。
とある少女は廊下にて火の玉を目撃した。これはその場にいた複数の児童たちが目撃しているため、見間違いという線は薄い。
とある少年は、その旧校舎に響くピアノの音を耳にしたという。しかし、すでにその旧校舎の音楽室からはピアノなどは撤去されており、ピアノの旋律が響くはずがないのだ。
ほか、具体的な現象ではないものの、何人かの子供が、いきなり空気が変わった感覚を覚えているとの報告が出ている。
奇しくも、その旧校舎には昔から七不思議というものが言い伝えられており、昭和の時代には実際にそれで事件があった過去もある。
踊る火の玉。ピアノの幽霊。そのどちらもその七不思議に数えられていた怪現象であり、子供たちをはじめとした学校関係者の中で、七不思議の再来という噂が広まりつつあった。
そこで白羽の矢が立ったのが、この老芝奈々が所属している、魔法協会日本支部の怪異担当部署である。
「先ほども話しましたけど、怪異はそもそも原因の特定が非常に難しいんです。ギルドと魔法協会が共同で検査しましたが、ダンジョンがそこにあるわけでもなく、魔力が発生しているわけでもありませんでした」
長崎ダンジョンギルドからも調査隊が派遣されたが、しかし何も異変に繋がる結果は出なかったという。原因不明を語る奈々の言葉は歯切れが悪い。
「それに、目撃しているのは今の所子供だけ。カメラを設置してもなにも起きず、教師をはじめとした大人たちはその現象を目にしていないんです」
子供たちの前でしか発生しない、七不思議。
それが、その旧校舎に発生した『怪異』である。
「つまり、先輩がランドセルを背負い、小学生として潜入して、その七不思議を調査するっていう話なわけですね! 六年生っていうのは惜しいですが、これは来ましたね、ビッグウェーブが!」
「え、柚花、今の話にテンションあがる要素ってあった……?」
何故だか柚花が興奮気味の声色になっているが、つまりはそういうことなのだろう。
子供の前でしか発生しない怪異ならば、子供が調べればよい。なんのことはない、実に単純な理屈である。
桃子が19歳でなければ。
「ええとですね、話は理解できました。ただ、その、私が今から小学生に成りすますっていうのが、どう考えても無理だと思うんですけど……」
「いえ、それは大丈夫でしょう」
真顔で奈々が言う。
「桃子さんなら大丈夫かもしれませんね」
真顔で杏が言う。
「先輩、鏡見てください」
真顔で柚花が言う。
「え? 三人ともなに言ってるの?!」
桃子が年齢を理由にお断りしようとしたら、まさかの奈々、杏、柚花の三連否定が返ってきた。
まるで「何が無理なの?」とでも言いたげな三人の視線が、桃子に突き刺さる。三人とも、小学校に通う年齢が何歳なのか知らないのだろうか。桃子は困惑を隠しきれない。
「あー……ええとですね、魔法協会としての意見を補足いたします。まず最優先なのが、現地の小学生たちの安全です」
桃子の困惑をよそに、奈々が更に書類を取り出して説明を読み進めていく。
「現段階ではまだ噂程度に過ぎず、地域住民の希望もあり現状維持となっています。ですが、もし子供たちの安全を脅かすものと判断されれば県に強く訴え、旧校舎の使用を取りやめさせ、建物ごと取り壊す方向で交渉は進んでおります」
県としては歴史ある建物なので保存しておきたいようですが、とは奈々の談である。
確かに、旧校舎で七不思議が発生するならば旧校舎を取り壊してしまえば良い。あまりに乱暴なやり方だけれど、解決策としては間違いとは言い切れない。
だがしかし、雪ん子の雪ちゃんしかり、怪異とは必ずしも悪しきものというわけではない。それが人間の友になるものだとしたら、魔法協会の立場としては建物ごと保護する方向へと舵をとることになるだろう。
「笹川さんの指名は、魔法協会のトップダウンです。小学生に紛れ込むことが出来、ギルドや魔法協会の裏事情に通じており、いざとなれば自分で身を守る力があります」
奈々は桃子に顔を向けて、桃子を選んだ事情を説明していく。
「もちろん普通ならば地上でスキルは使用出来ませんが、実際に現地入りする際には地上で使用可能な魔石を提供させて頂く準備はあります」
魔法協会の上層部に、魔法使いですらない桃子のことを知っている人間など限られている。つまりはやはり、会長たるクリスティーナの意向が絡んでいるのだろう。
桃子としては、小学生云々のくだりにはまだ異議があるものの、魔法協会の裏事情に精通していて、自分の身を自分で守れる人間だというのは認めざるを得ない。例え地上でも、魔石によりスキルを発動できるのならば、よほどのことが無い限りは切り抜けられる自信もある。
「魔法協会としてはそれなりの報酬も用意いたします。また、桃子さんが不利にならぬよう、こちらから桃子さんの職場である武器工房にもしっかりと筋を通す所存です」
「あそこの工房はダンジョン庁の関連工房ですから、ギルドの方からもお口添えできると思いますよ」
「先輩、いっそ工房の親方さんにランドセル作って頂いたらどうですか? 色はやっぱり桃色ですかね。先輩って色に悩まなくていいですよね」
「ちょ、三人ともなんか、おかしくないですか? 特に柚花、どうしちゃったの?」
奈々は、初対面だと言うのに押しが強い。
杏は立場上、魔法協会側に協力的だ。
そして柚花は、なんだか一番ノリノリだ。
最後まで渋っていた桃子だけれど、三人の圧に屈し、今回の依頼に頷いてしまうのは、これから数分後のことだった。
【りりたんの朗読チャンネル】
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
ふふふ。皆さん、新生活はどうですか? そろそろ慣れてきましたか?
りりたんも新しい学校で心機一転していますが、配信内容は今まで通り、何も変わりませんからね。安心して良いですよ。
では今日は、最近一部で注目を集めている昭和に出版された児童書を朗読していきますね。
タイトルは『モチャゴンと大空の妖精』ですよ。
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ふふふ。どうでしたか? モチャゴン、元気で、頑張り屋さんで、可愛かったですね。りりたん、こういうシンプルな優しい児童書も好きですよ。
さて、この『モチャゴンと大空の妖精』は昭和後期に書かれた本ですが、最近はちょっとした予言の本なんじゃないか、なんて言われて注目を浴びているみたいですよ。
モチャゴンと友達になった大空を自由に舞う白い衣の妖精が、つい先日ニュースになった上高地ダンジョンに住む空の妖精のことなのではないか、と言われています。
この本が書かれたのは、上高地ダンジョンが発見されるより前の時代ですから、予言と言われるのも仕方ないですね。
シリーズとして『モチャゴンともじゃもじゃくん』『モチャゴンとメイプルの木』なんかもありますね。機会があれば、そちらも朗読してみましょうか。
ふふふ。40年以上前のキャラクターですけれど。もしかしたら令和の今になって、モチャゴンブーム、再来でしょうか。