ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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七不思議のふしぎ

 魔法協会職員、老芝奈々の部屋。

 

 長崎へと出張するにあたり、桃子と奈々はアパートの隣同士として部屋をとっているものの、二人で話し合った結果として夕食は一緒に食べることになっている。

 あくまで外向けといえど、二人は姉妹という設定だ。毎日その日の情報を交換する必要があるため、それならば一緒に夕食を共にしながら、ということになったのだ。

 これが男性職員ならばこうはいかなかっただろうが、年齢も比較的近い女性職員なので、桃子は警戒心の欠片も見せずに、初日からさっそく奈々の部屋の台所に立っていた。

 奈々としては自分より小さい子供のような桃子を台所に立たせるのに罪悪感があるのだが、しかし実は奈々は料理がてんで駄目なので、必然的に二週間の間は桃子が料理当番ということになっている。

 

「なるほど、なるほど。今の子供たちの知る七不思議と、こちらで調べた七不思議でそのような違いが……」

 

「あくまで、今の六年生たちに伝わっている話ではそうなっていた、っていう話ですけどね。なんでモチャゴンなのかはよくわかんないままでしたけど。あ、奈々さん苦手なお野菜とかありませんか?」

 

「不思議ですね。あっ、ピーマン、セロリ、パクチー、みたいなのはちょっと苦手です! 香りが苦手です! タイ料理とか食べられません!」

 

 そして、桃子は台所で野菜の皮をむきながら。奈々はPCで魔法協会のアカウントにアクセスしてまとめられている資料を眺めながら。

 転校初日の学校の様子と、そこで見聞きした情報を話しあっている。

 とりあえず追加の情報として、奈々は香りが強いタイプの野菜が苦手なようだ。物凄く力強く苦手アピールされたので、桃子はしっかりとその情報を記憶しておく。

 

「実はですね。最初に協会側で用意してお渡しした資料は、いま桃子さんが通っている旧校舎の図書室にあった昔の冊子を基に制作されてるんですよ」

 

「旧校舎の図書室、ですか? 本校舎じゃなくて?」

 

「ええ。本校舎の図書室ももちろんありますけど、実は旧校舎の図書室も数十年前の中身がそのまま残ってるんですよ。ちょっとした古書倉庫みたいになってますから、今となっては逆に掘り出し物が多いかもしれませんねっ!」

 

 桃子が最初に受け取った資料とは、どうやら事前に旧校舎に残っていた冊子を調べた上で記載されたものだったようだ。

 七守小学校七不思議について。その古い資料では、このように語られていた。

 

 

『トイレの花子さん』 女子トイレをノックすると花子さんが現れる

 

『4時44分の昇降口』 その時間に昇降口を通ると不思議な世界を覗き見ることが出来る

 

『ピアノの幽霊』 ピアノの幽霊が音楽を奏でている

 

『踊る火の玉』 火の玉が舞い踊る

 

『学校の妖精』 学校に潜む妖精が現れる

 

『動く石像』 石像が動き出す

 

『不思議な本棚』 学校のどこかに何でも載っている不思議な本が存在する

 

 

 情報としては実に簡素なものであるが、昭和の中期ごろ、高度経済成長期と呼ばれる時代に、当時の児童たちの口伝で語られてきた話を学校新聞のような形でまとめた冊子をもとにした記述だそうである。

 冊子にはもう少し怪談話風に書かれていたようだが、それでもあくまで子供向けの、面白おかしく、少しだけ怖い話として紹介されていたらしい。

 これはあくまで、この冊子の作られた時代における七不思議だ。別な時代の児童たちの知る七不思議と比較すれば何かしら差異もあるだろうが、しかし冊子としてまとめられている以上はある程度の信頼性はあるだろう。

 

 そして令和の今、小学生の中で知られていたのが次の七不思議だ。言わば、新説七不思議、と言ったところか。

 これまた簡単な説明ではあるけれど、放課後に改めて日葵やクラスの男子に聞いて、確認したものだ。

 

 

『トイレの花子さん』 女子トイレをノックすると花子さんを名乗る少女が現れる

 

『4時44分の昇降口』 その時間に昇降口を通ると異世界に迷い込み、その存在を忘れられてしまう

 

『ピアノの幽霊』 ピアノの幽霊が音楽を奏でている

 

『踊る火の玉』 火の玉が舞い踊る

 

『くいしんぼ妖精』 くいしんぼの妖精が現れる

 

『モチャゴン』 モチャゴンが現れる

 

『不思議な本棚』 学校のどこかに何でも映し出す不思議な本が存在する

 

 

 どうしても小学生のなかの噂話なので、聞く相手によって細部に違いがあったのだが、概ねこのようなものだった。

 花子さんなど、花子さん本人ではなく花子さんを名乗る不審者になってしまっているし、妖精がいつのまにか食いしん坊になっている。桃子の脳裏には、常に爪楊枝のようなものを所持している一人の妖精が浮かんでしまい、その話を聞いたときはつい笑ってしまったものだ。

 

 だが。やはり気になるのは、昇降口だろう。モチャゴンも気になりはするけれど、実際にあった場合の危険性としては、恐らく昇降口の方が脅威である。

 異世界に迷い込み、存在を忘れられてしまうという怪異。

 

 4時44分というのは、一日に二回ある。子供たちの活動時間である夕方に限定するとしても、毎日一度は訪れる時間だ。

 もしこの七不思議が実際に起こりうる現象だとしたら、あの旧校舎は毎日のように異世界と繋がってしまうことになるのだが、無論、過去の児童に異世界へと消失し捜索願が出されたような子は確認されていない。少なくともこの地域の警察には、小学生が失踪したという事件の記録はないはずだ。

 なので、事実ならかなり危険ではあるけれど、信ぴょう性という意味ではかなり怪しい話だ。

 

 恐らくは歴代の児童たちが話を盛り上げようと、内容をより過激にしていった結果なのだろう。なのでこれは、あくまで子供たちによる作り話である――と、簡単に済ませられたならば、どれだけ楽だったか。

 

 子供の語る噂話だと懐疑的に見たところで、実際に火の玉が現れ、ピアノの演奏が聞こえているのだ。同じように、他の七不思議も存在する可能性を否定しきれないのだ。

 この世界には、ダンジョンというものがあり、魔法や魔物という存在が存在しているのだ。人に解明できない不思議な出来事など、世界にはありふれているのだ。

 

 そして、桃子は知っている。他者から認識されなくなる呪いのような現象もまた、実在しているということを。

 桃子は、それを知っているからこそ、昇降口の七不思議を、ただの尾ひれのついた噂話として割りきることができない。

 

「旧校舎の図書室……私もせっかくなんで、放課後に調べてみますね。あとじゃがいも多めと少なめどっちがいいですか?」

 

「じゃがいもたっぷりがいいです! お芋は好きですよ! ……それと、その冊子が作られたのが昭和の中期から後期。そして、それより後の時代に、児童が一人七不思議に遭遇したという報告がありますが、それはもう見ておりますか?」

 

「あ、はい。それも資料に載ってましたね。でも、無事にその日のうちに見つかって、その子の証言は当時はそんなに大きく扱われなかったって……」

 

 桃子は袋から、追加のじゃがいもを取り出して皮をむく。

 ダンジョン内では最近は【カレー製作】で簡略化したカレーを作ることが多かったけれど、地上では当然ながら材料の下拵えから取り掛からねばならない。

 スキルでの簡略化に慣れすぎてこのような細かい作業を忘れたりしないよう、桃子は相変わらず自宅でも頻繁にカレーを作っているので、じゃがいもの皮むきなど手慣れたものだ。

 

 そして、料理をしながらも情報交換は続けていく。じゃがいもの皮むきは進めるけれど、殆ど無意識に進められるので意識は会話に傾けられる。

 

 今からおよそ50年前にも、同様に七不思議に出会った児童がいるらしく、それをきっかけに当時の学校で七不思議の噂が再燃したのだという。

 だがしかし、その児童は行方不明になったわけでも怪我をしたわけでもなく、状況としては一時的なパニックによる幻覚のようなものとして処理され、怪異として大々的に取り扱われることはなかったようだ。

 そもそも当時はダンジョンこそあれど魔法協会など無かったので、怪異談を真剣に受け取る機関などというのがなかったのだ。

 

「もしかしたら、その児童の証言によって、のちに伝えられている七不思議の内容が変わっている可能性はあります! まあ、こういう噂は、基本的には上級生から下級生への口伝で伝えられるものですからね」

 

「ああ、伝言ゲームみたいなものですかね。奈々さん。その当時の子たちっていうのは、お話は伺えるんですか? あ、辛口で大丈夫ですか?」

 

「辛口も甘口もオッケーです! 残念ながら当時は被害児童の夢か妄想のように扱われて、それがどの子だったかも分からないんですよ。数十年前からずっと住んでいる地元の方々にも伺いましたが、残念ながらちょうどその年代のことを覚えている人はいませんでしたね」

 

「うーん、残念」

 

 50年前の出来事で、その当時に記録などを残さなかったのではどうしようもない。生きていれば、56歳から62歳といったところか。

 探偵でも雇えば総当たりで当時の卒業生を調べられたかもしれないが、残念ながらこの件は奈々がひとりで調べているため、そこまで調査の手は回らない。怪異担当部署は人材不足が深刻なのだ。

 

 桃子も話に聞いただけでしかないが、昭和の後期には、地上の人間社会に現れる不思議な噂の数々が社会現象として広まったタイミングがあるのだ。街なかで出会う怪異しかり、各地の学校で語られる七不思議しかり。

 恐らく、この七不思議も世間に幾らでもあった噂の一つに埋もれてしまい、大々的に注目を浴びることなく時代が過ぎていったのだろう。

 

「ちなみに、桃子さんは本日は旧校舎でそういう不思議現象などは……」

 

「駄目でした。放課後も少しうろうろしてみましたけど、火の玉もピアノもありませんでした。女子トイレも普通に使いましたけど、花子さんはいませんでしたね」

 

「うーん、まあ初日ですしね。ただ、七不思議についてはこちらでも改めて調べられるだけ調べてみますけど……はてさて」

 

 桃子はカレーを作りながら奈々と会話を続ける。ある程度の下拵えが終わり、玉ねぎや肉を炒め終えた鍋に水を入れて加熱する。

 あとはゆっくり煮込み、最後にルーを溶かしたらカレーの完成だ。今日は奈々との夕食も初日なので、ひとまずオーソドックスなジャガイモとニンジンとお肉のカレーにしてみた。

 奈々の食の好みを把握すれば、明日からはもっと色々なパターンのカレーを作れるだろう。二週間もあれば単純計算で14回もカレーを作れるのだ。やり甲斐がある。

 

 そして、浮いて来たアクを取りながら桃子は七不思議について考える。

 やはり、色々と話し合ってみたけれど、一番気になるのはアレだ。

 

「なんで、モチャゴンなんですかね……」

 

「データベースで調べて見ましたが、モチャゴンは40年前の児童書ですから、50年前の事件よりも後に制作されたキャラクターです。作家名も本名ではありませんし、それを扱っていた出版社も既にありません。これは調べるのが難儀そうですね!」

 

「あはは。まあ、どうしてモチャゴンなのかは分かりませんけど、私もまた学校で見てみますね。図書室にモチャゴンの本もあるかもしれませんし」

 

「期待しておりますね!」

 

 実際には、桃子の仕事はあくまで怪現象の発生を確認し、可能な限りその発生条件を突き止めることだ。別に、七不思議そのものを調べに来たというわけではない。

 だがしかし、怪現象と七不思議に関連性があると思われる以上、まずは七不思議からあたっていくのも間違いではなさそうだ。桃子は明日からの予定を考える。

 

 女子トイレに昇降口、ピアノのない音楽室。いくつかの不思議は発生場所が分かっているのだから、それを調べてみれば何か分かることがあるかもしれない。

 こういうとき、桃子は自分にも【看破】があればいいのにな、と思う。

 もしかしたら、【看破】を使える柚花ならば、初日からこの謎を全て解明していたのかもしれないのだから。

 

「奈々さん、食卓のほうあけておいてくださいね。あと桃缶もあけておくんで、最後にお好みでいれてください」

 

「はい? カレーに桃缶入れるんですか? 合うんですか?」

 

「えへへ、簡易桃カレー。食べてからのお楽しみです」

 

 とりあえず、悩んだときにはカレーを食べよう。

 これから毎日奈々にカレーを振る舞えば、二人とも毎日頭がスッキリ過ごせるはずだ。

 

 

 桃子は知らない。もしこの日、桃子と共に柚花やヘノが居たならば、すでに原因は判明していたかもしれないということを。

 桃子は知らない。自分が訪れたことで、七不思議が息を吹き返すための『条件』が揃おうとしていることを。

 そして、その時を待ち望む『誰か』がいることを。

 

 ゆっくりと。旧校舎にまつわる不思議な物語が、幕をあけていく。

 

 いまは一匹のリスだけが、その物語を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある女学園の図書室にて】

 

「――というわけで、【天啓】に従って先輩は今頃モチャゴンのスカジャンを背負って小学校に通ってるんじゃないですかね」

 

「ああ、あの【天啓】ですか。目下、りりたんのライバルはやはりあのスキルですね」

 

「私からすればりりたんだって、何でも知ってる感じがするんですけどね」

 

「ふふふ。りりたんも流石に未来の予言は出来ません。りりたんが【天啓】を本にしてコピーする手もありますが、あれって自分で所有しても良いことなさそうなのですよね。それで、モチャゴンについてでしたか?」

 

「モチャゴンがそもそもなんで長崎の小学校に関係してくるのか。なんで先日の上高地ダンジョンでの先輩の旅をなぞったような本になっているのか。りりたんは答えを知ってますよね? 配信で朗読しちゃうくらいですし」

 

「ゆかたん、私の配信見てくれているんですか? 嬉しいですよ。次はもっと朗読頑張っちゃいますよ」

 

「まあ、朗読頑張るのはお好きにしてくださいって感じですけどね。で、どうなんですか?」

 

「うーん……」

 

「どうしました?」

 

「いえ。ここだけの話、りりたんも気になって朗読こそしましたが、作家さんのことは全く知らないのですよ。だって、出版社も潰れていますし、何十年も昔の作家さんの情報なんてわかるわけないじゃないですか」

 

「そうなんですか? てっきり、何でも出来るのかと思ってましたけど」

 

「ダンジョン内の出来事ならばごり押しでどうにかなりますが、人間社会のことはりりたんはさほど力になれませんよ。ただ、幾つかの可能性は考えられますね」

 

「……というと?」

 

「ふふふ。例えば、作家自身が【天啓】のような予言に近しい能力を持っていた、とか。もしくは、何かしらの方法で未来を知ることが出来た、とか。あくまで可能性の話ですけれどね」

 

「結局予言とか予知とか、まあそういう感じになりますか。それが長崎の小学校とどう関係するのかもわかりません?」

 

「さあ。作家さんがそこの関係者だったのでは? まあ、所詮は地上の怪異ごとき、さほど気にしなくても良いとは思いますよ。ももたんに悪さを出来るほどの力はないでしょう」

 

「はぁ……ほんと、簡単に言いますね。普通の人間にとっては、怪異ひとつでも大事件なんですよ」

 

「ふふふ。でも、ゆかたんがそこまで心配なら、少し手を打っておきましょうか。りりたん、先輩想いですからね」

 

「あーあ、また楽しいこと思い付いた悪い顔してますね、りりたん」

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