ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「不思議な現象、なにも起こらないねえ」
「うん」
この日の昼休み、桃子と茉莉子は旧校舎の二階、図書室へと足を運んでいた。
女子のムードメーカーである日葵はこの昼休みも男子たちと混ざってサッカーの先約があるらしく、桃子たちに手を合わせて謝りながらも本校舎へと向かっていった。なので今日は桃子と茉莉子の二人だけである。
しばらくは二人で教室に残っていたのだが、どちらからともなく折角だから旧校舎の部屋を見て回らないかという話になったのだ。
桃子がなにかと七不思議について聞いて回っていることは茉莉子も知っていたので、今回はその調査に付き添う形である。
使われていない図工室や給食室、音楽室を扉ごしに恐る恐る覗いて何もないのを確認したあと最後に訪れたこの図書室は、先日、紅子という四年生と邂逅した場所だ。多少埃っぽくカビ臭いことを覗けば、静かで閲覧用の席もあり、居心地は悪くない。
少々おどろおどろしい雰囲気があるのが玉に瑕だけれど、少なくとも小学生の元気な男子たちが大声ではしゃいでいる教室よりは過ごしやすいというのが、正直なところだ。
「茉莉子ちゃんは、最近は何か不思議なこととかあった? 七不思議でも、そうじゃなくてもさ」
「あの、ね。桃子ちゃんの、お姉さんて……」
「えっ? 私のお姉さん? あ、うん。お姉ちゃんが、どうかしたのかな?」
「あの……その……」
桃子ちゃんのお姉さん。急に言われて一瞬何のことだか分からなかったが、茉莉子の言う桃子の姉とは、この長崎における設定上の老芝桃子の姉、老芝奈々のことだろう。
七不思議の話題から急に脱線したので桃子は面食らうが、茉莉子が自分から話題を出すのはとても珍しいことだ。
だから、何か大切なことなのだろうと当たりをつけて、聞き返す。
換気のために開けた窓から、鳥のさえずりが聞こえてくる。このまま穏やかに時間が過ぎてしまうかと思ったが、ようやく茉莉子が口をひらいた。
「桃子ちゃんのお姉さん、七不思議を調べに来た、ダンジョンギルドの人なんだよね……?」
「え? ……んー、うん、まあ……そうかな? 私は家の事情で、お姉ちゃんと一緒に短期間、こっちに来てるんだけど」
「あの、私……私……」
どうやら、口数が少ないだけで、茉莉子はなかなかに鋭い少女だったようだ。
桃子はあくまで、家庭の事情で姉と共に二週間だけ長崎にやって来た、という曖昧な説明しかしていない。クラスメイトたちに奈々の話などした覚えがない。
しかしそこから、桃子の姉が七不思議を調べに来た人たちの一人だという所まで、茉莉子は状況から予測を立てていた。そしてそれは正解だ。
もちろん、二週間だけの転校生という状況からして、そもそも不自然極まりない。そしてその不自然な転校生が初日から七不思議を調べまわっているという大ヒントもあるので、そこから推測を立てるだけならさほど難しくはなかったのかもしれないが。
さすがに、魔法協会という立場までは分からなかったようだが、小学生から見ればダンジョン庁も魔法協会も似たようなものだろう。
何にせよ、今から茉莉子が話そうとしていることは、恐らく茉莉子にとっては非常に重要な事柄なのだろう。
桃子はその茉莉子のただならぬ雰囲気を感じ取り、真面目に彼女の言葉に耳を傾ける。
「その……」
「もしかして、人には話しづらいことなのかな?」
「……うん」
「そっか。だったらさ、そんな風に、無理に話さなくてもいいんだよ?」
椅子に座ったまま、茉莉子は俯いてしまう。何かを喋ろうとして、すぐに口を閉ざす。
静かな図書室には、鳥のさえずりと、風で木々が揺れる音だけが響く。
桃子はその様子を見て、無理に話さなくてもいいと声をかけるけれど、だがしかし、茉莉子は首を横に振る。
どうやら、彼女にとっては伝えなくてはならない、とても大切なことのようだった。
ならばと、桃子は茉莉子を落ち着かせるように。硬くなった茉莉子の手にそっと己の手を重ねて、互いの体温を繋げて。
「じゃあ、ゆっくりでいいからね。聞かせてくれる? 私、皆には内緒にするからね」
桃子は、小学生に成りすましているけれど、その中身は大人だ。
だから、今は大人として茉莉子に接することにした。決して、急かすことなく。責めることなく。そして、彼女が口を開けるようになるのを、ジッと待つ。
ふわりと、大きなそよ風が室内に入り込む。
そして、手をギュッと握りしめていた茉莉子が、言葉を紡ぎだす。
「ピアノ……ひいてたの」
「ピアノ?」
「吉木くんが、ピアノの音……聞いたとき」
「ん、そっか。そのときか」
茉莉子が、小さく、呟くように懺悔を口にしている。
桃子は茉莉子の言葉を聞きながら、状況を脳内で整理していく。
吉木くんというのは誰だったか。桃子の記憶が確かならば、例の『ピアノの幽霊』の奏でる演奏を聴いたと証言していたクラスメイトだったはずだ。
「そのとき、本校舎の音楽室で、私……ピアノひいてたの……」
「なるほど。じゃあ、もしかしたら、吉木くんの聞いた音はその演奏かもしれないんだね」
茉莉子は雑木林を抜けた本校舎の音楽室で、ピアノを弾いていた。
そして旧校舎にいた吉木くんに、ピアノの音色が届いていた。
出来事としては、たったそれだけのことだ。だけれど、茉莉子にとってそれは大きな告白だ。
「次の日……騒ぎ……なっちゃって、言い出せな……くて……」
「うん、うん。そうだね、言い出せないよね。みんな、大騒ぎになっちゃったんだもんね」
桃子はその当時のことは知らない。けれど、恐らく茉莉子が次の日に登校してきた時にはもう、それは騒ぎになっていたのだろう。
資料によれば、その時は既に日葵が火の玉を見た後であり、クラスでは七不思議の話題がすでに膨れ上がっていたときだ。そのタイミングでピアノの演奏とくれば、七不思議の『ピアノの幽霊』と結び付けてしまうのは仕方がない。
そのクラスの騒ぎの中で、茉莉子は自分がピアノを弾いていたことを言い出せなかった。ずっとそれを、秘密にしていた。
しかし、その秘密の話は、見る間に規模が大きくなっていってしまった。
時間と共に、茉莉子の抱えている秘密は加速度的にその重さを増していく。
吉木くんがピアノの音を聴いたその週のうちに、魔法協会とギルドによる調査グループがこの校舎へ派遣されたのだ。桃子が聞いた話では、授業の無い土日の二日間、調査隊がこの周囲をくまなく調べて回ったらしい。
ダンジョン庁の調査隊がこの旧校舎に派遣されたなど、事情を知った周辺住民にとっては一つの事件だっただろう。何せ、もしここにダンジョンが見つかれば、生活もなにもかもが一変してしまうのだから。
結果的には何も見つからず、目撃された『踊る火の玉』も『ピアノの幽霊』も、共に原因不明のままではあるものの、少なくともダンジョン化の危険性はないと判断された。
その結果を受け、周辺住民は少なからず、安心したことだろう。
けれど、茉莉子にとってはそうではない。自分の秘密によってダンジョン庁までが出張ってしまったのだ。事実を言い出せなかった茉莉子の心は、常に針の筵だったのかもしれない。
もしかしたら、その関係者と思わしき桃子の存在は、茉莉子にとっては辛いものだったのかもしれない。
「桃子ちゃんの……お姉さんも……私の……せいで……」
「ん、いいのいいの。うちのお姉ちゃんはなんとも思ってないよ。呑気に家でカステラと皿うどん食べて、長崎を満喫してるからね。いつもどこかしらに赴任してる人だから、今回はいつもより楽で嬉しいなーって言ってるもん」
桃子は、奈々の普段の仕事など知らないが、彼女がそこまで呑気に出来る環境でないことは知っている。なので、これらは全て噓である。
茉莉子の気持ちを楽にするために、出まかせを並べているだけだ。
しかし、桃子の嘘も、茉莉子の気持ちを楽にするには足りないようで、彼女は声を震わせ、瞳から雫が零れる。
「私……お婆ちゃ……にも……心配させちゃって……」
「ん……そっか」
茉莉子は、今は家の事情で祖母と二人暮らしだという。桃子は詳しくは聞いてはいないが、茉莉子はその内気な性格が災いし、東京の小学校での生活がうまくいかなかったのだ。
だから、両親の元を離れて、この長崎に居を構える祖母の元へとやって来た。のどかなこの山間部の小学校なら、もしかしたら友達も作れて、平穏に暮らせるのではないか、と。
その判断は功を奏し、今は夏野日葵というかけがえのない友人が出来た。
そして、内気で口数も少なく、まだクラスに馴染んだとは言い切れない部分も多少はあるけれど、それでもこの小学校のクラスメイトたちは茉莉子を受け入れてくれた。ここでは誰も、心無い言葉を投げ付けたりしないのだ。茉莉子を仲間として見てくれているのだ。
祖母は、孫に笑顔が戻ったことを知り、涙を見せるほどに喜んでいたという。
だからきっと、新たな悩みを抱えて元気をなくしている孫の姿を見て、祖母は心配したのだろう。
けれど、祖母には言えなかった。言えるはずがない。自分が秘密にしたことで、国の偉い人たちが。ダンジョン庁が、訪れてしまったのだから。
「皆に心配させちゃったから、余計に言い出せなかったんだね。茉莉子ちゃんは、優しい子だね。大丈夫だよ、大丈夫」
「私……私が……言わな……かったから……」
俯いて、涙をこぼす茉莉子を、桃子は何も言わずに抱きしめる。
茉莉子は何も悪くない。ただただ、タイミングが悪かっただけなのだ。
それに、桃子は知っている。仮に茉莉子が正直にピアノの話をしたとしても、ダンジョン庁は訪れていただろう。その前の火の玉の事件の段階で、すでにダンジョン庁は動いていたのだから。
ピアノの音と違い、火というのは存在するだけで大事故に繋がるのだ。害を及ぼす怪異という可能性がある以上、万が一でも無視するわけにはいかない。
けれども、茉莉子にそのような理屈を説明するのは後でも良いだろう。
今は、茉莉子の涙を掬い取るため、桃子は茉莉子を抱きしめ、撫で続けた。
「茉莉子ちゃんは悪くないよ。私が言うんだもん、間違いないよ。これからは私が一緒にその秘密を抱えてあげるからさ、いいんだよ。よしよし。よしよし」
「うん……でも……私……」
しかし、桃子としてはこのまま茉莉子が落ち着くまで抱きしめてあげたいところではあるのだが、現実問題としてもうすぐ休み時間は終わってしまう。
間もなく、遠くから昼休み終了のチャイムが聞こえてくる頃合いだろう。泣き顔のままで教室に戻ってしまえば、茉莉子は余計に追い詰められてしまう。
ここはひとつ、自分が茉莉子の気持ちを変えてあげなければいけないと、桃子は考える。
「じゃあ……秘密を打ち明けてくれた茉莉子ちゃんにだけ。私も秘密を教えちゃうよ!」
「え……?」
「じゃん。実は私、学校に持ち込んでました! 最新のスマホ! 最新アプリも入ってるよ!」
「え……持ち込みしちゃ、駄目なんじゃ……?」
桃子がスカジャンの内ポケットから取り出したのは、スマートフォンである。しかも、昨年購入したばかりの、ほぼ最新に近いタイプだ。
今の時代、小学六年生ともなれば半数以上がスマートフォンを持っている時代だし、茉莉子とて東京の両親とテレビ電話で通話するために、自宅に自分用のスマートフォンは所有している。
けれど、七守小学校の児童のルールとして、スマートフォンは持ち込み禁止なのだ。
目の前で堂々と学校のルール破りをしている転校生の姿に、真面目な茉莉子は目を丸くしておろおろとしてしまう。
「しー。私ね、事情があって、いつでもお姉ちゃんに連絡できるようにしなきゃならないからさ。七不思議関係のことで何かあったら、すぐに連絡しろって言われてるから。でも、これは皆には内緒ね? 私が怒られちゃうから」
「う、うん……」
「見てこれ、電子書籍のアプリもあるの。カレーのレシピ本も沢山あるんだよ? まあ、見なくても私はカレー作れるけど」
「う、うん……」
「えへへ。でも、茉莉子ちゃんにはバレちゃったからなー。はい茉莉子ちゃん。こっち見て? 共犯者の証拠を残さなきゃ」
「う、うん……?」
桃子は、目を丸くして困惑したままの茉莉子に、にんまりと笑いかける。桃子的にはとても悪い笑顔のつもりだったが、果たしてどのくらい悪い笑顔に見えたのか。それは茉莉子にしか分からない。
そして、驚いたままの茉莉子に身を寄せて。スマホを持った手を、真っ直ぐ正面に伸ばす。
画面にはカメラアプリが起動されている。桃子は自撮りモードで自分たちの姿をファインダーに収め――。
「はい、笑顔っ♪ ピースピース♪」
涙の滲んだままの目を真ん丸にした茉莉子と、笑顔でピースする桃子のスナップ写真。
秘密を共有した二人の、共犯者の証拠写真。
この驚きは、茉莉子の感情を哀しみから引き上げるには十分なものだった。呆気にとられた後の茉莉子の顔には、笑顔が戻っている。
静かな図書室で、共犯者の少女たちが、笑顔で笑い合うのだった。
【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ】
:気づけばこのスレも番号つけなくなっちゃったね
:気づけばこのスレ萌々子ちゃん以外も張り付けるスレになっちゃったな
:気づけば鎧を脱いで松茸食べてる鎧萌々子ちゃん(イラスト)
:これは萌々子ちゃんなのでは?
:房総半島のスパイならハンバーグであぶり出せるぞ
:萌々子ちゃんと鎧萌々子ちゃんは双子だった?
:萌々子のフリした鎧萌々子に成りすましている萌々子かな?
:脳みそが混乱するからやめて
:萌々子ちゃんと空の妖精さん(イラスト)
:空の妖精さんさ、明らかに他の妖精より大きい人間サイズだったよな
:信仰が捗る
:萌々子ちゃんとモチャゴン(イラスト)
:知らない、なんだそれ・・・こわ
:懐かしい。子供の頃好きだった。
:モチャゴンは昔の児童書のキャラ。最近、アイドルの子を助けた空の妖精がその本に出て来た大空の世界に住んでる妖精にそっくりで、モチャゴンのパクリじゃないかって言われてる。
:本物の妖精が児童書のパクリ扱いされてるの?
:それは草
:作者が空の妖精を元から知っていたってことじゃないの
:本の出版のほうがダンジョン発見より先だから予言の本扱いされてる。
:俺がダンジョンで無くしちゃったチュパカブラ同人誌を拾って読んでる萌々子ちゃん(イラスト)
:なんでそんなの持ち込んだの?