ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「茉莉子ちゃん、ど、どうしたの?! もしかして、桃子ちゃんとお昼休みになにかあったの? え、これって何? そういうあれなの?」
「うん……」
「いや違うよ?!」
昼休みが終わり、教室にて。
日葵は、そしてクラスの男児たちは、大人しくて内気なクラスメイトである茉莉子と、二週間だけの不思議な転校生である桃子の変化に、目を丸くしていた。
いや。変化していたのは茉莉子だけであって、桃子は何も変わりはないのかもしれないが。
というのも、昼休みが終わって皆が教室に帰ってきたときのこと。教室へと戻ってきた茉莉子は何故だか頬を赤らめて、自分より小柄な桃子の腕にぎゅっとしがみつき、変に密着していたのだ。
茉莉子は気が小さく、内気な少女である。なので、今までも何かあると行動的で元気な日葵に頼ってしまう姿はクラスでも珍しくはない光景だった。
だから、茉莉子が日葵の腕をとっていたとしても、クラスの皆は特に気にすることはなかっただろう。
しかし、ここで桃子というダークホースが現れた。
茉莉子が小柄な転校生である桃子の腕を抱きしめつつ、明らかに頬を赤らめている様子を見て、何人かの男児の何かがこの時、ねじ曲がった。
「ふ、二人はお昼休みの間にそういうあれになっちゃったんだっ……! あとで、聞きたいっ、男子のいないとこで話を聞かせてほしいっ! いいかな、茉莉子ちゃん!」
「うん……」
「待って日葵ちゃん! 変な勘違いしてない?! 私たち、図書室で色々お話してただけ、だよ? ちょっとだけ、悩み相談とかしてただけだからね?」
明らかに、日葵が何か勘違いしている様子だったので、桃子が慌てて訂正する。
自分と茉莉子は図書室で悩み相談をしていただけで、日葵が言うような「そういうあれ」ではないのだ、とアピールする。
茉莉子のプライバシーもあるのでここで具体的な説明はできないが、茉莉子が頬を赤らめていたのは直前まで泣いていた赤みが残っているだけだ。そして桃子の腕をつかんでいるのは、クラスメイトたちの視線から来る不安に寄るものなので、決して「そういうあれ」ではないのだ。
尤も、日葵が想像する「そういうあれ」がどういうあれなのかは桃子も分からない。ただ、顔を赤らめる日葵の様子から察するに、桃子の想像しているものと大きく外れてはいないだろう。
男児に混ざってサッカーをしているような、まだ男女の境目に無頓着そうな日葵が、よもやそういう方向性の話に興味津々だとは桃子も想定外であった。
「相談してただけなの? ……でも、いいなあ、私もサッカーじゃなくて図書室いけばよかったなあ。茉莉子ちゃんの一番が、私じゃなくて桃子ちゃんになっちゃったかあ。ちょっとだけ妬いちゃうなっ!」
「う、ううん。日葵ちゃんは、ずっと一番大切な……友達だよ?」
「じゃあ、桃子ちゃんは?」
「ん……一番の……お姉ちゃん」
「待って待って」
誤解が解けたかと思い、女児二人の仲睦まじい姿を眺めていた桃子だったが、全然誤解は解けていなかった。
むしろ、特大の流れ弾が飛んできた。いや、誤解とか気のせいと言うレベルではないので、流れ弾どころか狙いすました弾丸だったのかもしれない。
桃子は知らないうちに、茉莉子のお姉ちゃんになっていた。これには周囲で眺めていた男子たちもざわつきを隠せない、まさに斜め上の展開だ。
確かに桃子も、図書室では年上のお姉さんとして茉莉子に接した自覚はある。だがしかし待って欲しい。それは決して、桃子が茉莉子のお姉ちゃんになったという話ではない。
桃子に対して最近はただならぬ重い感情を向けてくる柚花ですら、桃子を姉認定はしないだろう。
「うわー、私たちがサッカーしてる間に何があったのーっ?! 確かに桃子ちゃんて、ちっちゃい割に大人びてる所あるけど……昼休みの間に桃子ちゃんが茉莉子ちゃんのお姉ちゃんになっちゃったの?」
「うん……」
「うん、じゃないからね?」
困惑気味に問い質す日葵に対して、茉莉子はこくりと頷き肯定を示す。これには桃子こそが困惑だ。
どうやら本当に、茉莉子の中で桃子はお姉ちゃんになってしまったようだ。流石にわけがわからず、桃子は茉莉子にストップをかける。
恐らく茉莉子はいま、緊張のあまりどうかしてしまっているのだ。これ以上茉莉子に喋らせてはならないと、桃子の脳内の小さい桃子たちが会議するまでもなく全員一致で可決する。
とりあえず、茉莉子を席につかせて、日葵には自分で説明しようと振り返ったところで、今度は男子たちのなかで茶番が始まった。
「聞いたことがあるぞ」
「なんだ、知ってるのか元木!」
「東京の女子校だと、仲の良い女子同士がお姉さまと妹になる文化があるんだ! 兄貴の部屋の本に書いてあった!」
「マジかよ!」
桃子のなかで、元木少年の兄貴とやらへの好感度が0になった。
「いいじゃん……東京」
「名波が妹で、老芝さんがお姉さまなのか。小さいほうが姉っていうのも、なんか、いいな」
「なんか、こう、変な気分になってきた」
東京に対するとんでもない風評被害が進んでいた。そして、気のせいかクラスの男子たちの将来が捻じ曲がる音も聞こえた気もする。
確かに、女子同士が姉妹を名乗るような世界設定のアニメがあったのは桃子も知っているし、桃子の母校などはそのイメージで見られることもあるのだが、あくまでそれはアニメの中の話である。桃子の母校にはそのような文化は存在しない……と、思う。多分。
なんにせよ、周囲が勝手に盛り上がっているので、もう誤解をとくのも面倒だしこのままでいいかなあ、と脳内会議の桃子たちも投げやりになってきた。
「日葵ちゃんも、桃子ちゃんに……撫でてもらお?」
もしかして、この子酔っぱらってんのかな? と、桃子は訝しむ。
顔も赤いし、昼休み前に食べた給食にアルコールが入っていたのかもしれない。そうだとしたら由々しき問題だ。
「じゃあ、私も桃子ちゃんに撫でてもらったら、桃子ちゃんの妹になるのかな? その場合、茉莉子ちゃんは私の義理の妹になるの?」
「待って待って、日葵ちゃんも本気にしないでね? ほら、正気に戻って、茉莉子ちゃん。お水飲む? それとも、おでこ冷やす? 保健室がいい?」
献身的に茉莉子を正気に戻させようとする桃子だけれど、それが周囲の誤解を加速させることに、桃子はまだ気づいていなかった。
なお、念のため熱を測ってみたところ、茉莉子は悩みすぎて本当に発熱しており、この時は半ば朦朧としていたらしい。
次の日にはもうこの時の言動を覚えておらず、結果としてクラスの男子たちの将来に妙な影響を与えただけで終わるのだった。
翌日の昼休み。
MOMOKO:っていうことが昨日あったんだけど、柚花はどう思う?
YUKA:滅茶苦茶すぎますよ、なんで小学生のお姉様になっちゃってるんですか
MOMOKO:違う違う、そこじゃなくてね。ピアノの音の話が聞きたいことなんだけど。
YUKA:私としては小学生に先輩を盗られそうなのは重大ニュースなんですけど
YUKA:っていうか先輩、いまの時間は小学校じゃないんですか?
MOMOKO:うん。いまはお昼休み。見られたら困るから、トイレでスマホさわってるの。
YUKA:せめて放課後にしましょうよ。私もいま休み時間だからいいですけど、授業中だったら返信できませんからね?
MOMOKO:それもそうか、ごめんごめん。
YUKA:まあいいですけど。ピアノの音ですけど、それって音が聞こえたっていう子供のほうに原因があるんじゃないですかね?
MOMOKO:やっぱりそう思う? 雑木林の向こうのピアノの音なんて普通の人はそこまではっきり聞こえないよね?
YUKA:聴覚が強化されるスキルとかもありますし、そういうのを先天的に所有してる子ならあり得ない話じゃないと思います
YUKA:同じ理由で、火の玉もスキルで説明付きますよね
NONAME:待って待って。でもその場合、旧校舎に魔力が発生縺励※縺溘▲縺ヲ縺薙→縺?繧医??溘??縺昴s縺ェ縺薙→縺ゅk縺九↑縺
YUKA:先輩?
NONAME:縺ゅl?溘??縺ゥ縺?@縺溘s縺?繧阪?∝屓邱壹′謔ェ縺??縺九↑
「……あれ? 回線が切れちゃった。電波悪いのかな?」
茉莉子との一件があった次の日。
桃子は昼休みに、トイレに隠れて柚花へとメッセージを送っていた。
というのも、この日は金曜日。土日は小学校が休みなので、実質桃子の潜入調査はこの日で前半戦が終わるのだけれど、今の所は何も掴めていないのだ。
そんなわけで、桃子は昼休みに女子トイレに籠り、愛すべき後輩へと相談メッセージを送っていた。
毎日、帰宅後には魔法協会職員である奈々とも情報交換はしているけれど、彼女は本職的には事務職である。スキルや魔力について、特別詳しく知っているというわけではない。
なので、桃子から連絡をとれる相手のなかでは一番スキルや魔力の仕組みに詳しい柚花を頼ってみたのだ。
が、どうやら電波が悪かったのか、やりとりの途中で桃子のメッセージがおかしくなってしまい、回線も途切れてしまう。
そして、もう一度繋ぐかどうかを桃子が思案しているタイミングで、女子トイレに誰かが入ってくる足音が聞こえる。
その足音は桃子の入っている一番奥の個室の前で立ち止まると、扉をコンコンコンと、軽くノックを三回。
「もしもーし。ここに入ってるのって桃子ちゃん? もうすぐ次の時間だよー? 大丈夫? 保健室いく?」
声の主は日葵だった。
確かに、トイレに入ってからかなりの時間がたっている。次の授業も始まるし、そうでなくとも桃子の体調不良を心配してもおかしくないだろう。
桃子はすくっと立ち上がると、ガチャリと扉をあけて日葵の姿を見る。扉の前にたつ日葵の後ろには茉莉子の姿もあった。
「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してたんだ。ありがとうね、日葵ちゃん!」
そして、日葵と茉莉子の脇を通って、用を足したわけではないものの一応蛇口の水で手を洗い、ハンカチで水を拭き取る。
しかし、その間、なぜだか日葵と茉莉子は動かない。
「あれ? 日葵ちゃん? 茉莉子ちゃん?」
ハンカチを仕舞ってから、改めて桃子は二人を振り替えるが、なぜだか二人とも、先程まで桃子が入っていた個室に目を向けたまま固まっている。
「え……」
「うそ……」
日葵たちは扉を見たままなにか小さく呟いている。なにかと思い、桃子も二人の脇からそちらを覗いてみるが、当然ながら何もない。
不思議に思い、桃子は二人の肩を叩いて、声をかけてみる。
「日葵ちゃん? 茉莉子ちゃん?」
「あ、桃子ちゃん! ね、ねえ、いまのって……花子さん? 花子さんじゃない?! わ、わあ……」
「う、うん……」
「待って、待って。落ち着こうか。とりあえずトイレ出よう?」
後ろから桃子が声をかけると、はっとしたように二人とも振り向いて、それぞれ桃子の両腕にしがみつく。歩きづらい。
だがしかし、どうやら桃子には見えないなにかが、そこにあったのかもしれない。
ただならぬ異変の気配を感じとり、桃子は二人を引っ張るように廊下へと出ていく。
トイレは教室の斜め向かいだ。教室の扉の向こうからは男子たちの騒ぐ声が聞こえてくるし、廊下にはリス太郎のカリカリ音が響き渡っている。
しかし、二人が恐れるようなものは見当たらない。火の玉も踊っていなければ、ピアノの音も聞こえない。
「えと、二人ともどうかしたの?」
「い、いまね! てっきり桃子ちゃんがトイレに入ってると思って、一番奥の個室をノックしちゃったの! そ、そうしたら、茉莉子ちゃんもみたよね?」
「うん……」
「一番奥のトイレって……」
一番奥のトイレは、先程まで自分がスマホをいじっていた個室だ。
もしかしたら、自分が水を流さないで出たことに驚いているのだろうか。用も足していなかったから流すものもなかったのだが、勘違いして驚かせてしまったのだろうか。
桃子はその考えに行き着いて少し恥ずかしくなったが、しかしどうやら二人の顔色をみる限り、そんなことではなさそうだった。
「扉が開いて、女の子に話しかけられた……気がするけど、誰もいなかったの! 絶対、花子さんだよ、花子さんを呼び出しちゃったんだよ、私たち!」
「う、うん……」
「へ? 女の子に話しかけられたって……」
それはもちろん、桃子である。
普通に扉をあけて、日葵と茉莉子に声をかけて個室を出てきたのは桃子だ。
しかし二人とも、まるでトイレから透明人間が出てきたようなことを述べている。
「……もしかして」
桃子はひとつだけ、それに似た現象に心当たりがある。
それを確認するために、そっと。
両腕にしがみつく二人を優しく剥がして、教室へ行くように促す。そして、二人から距離をとる。
「茉莉子ちゃん、教室戻ろう……花子さんのこと、先生に伝えなきゃ」
「……うん」
日葵と茉莉子は、二人でそのまま教室へと向かっていってしまった。
まるで、桃子の存在を忘れてしまったかのように。桃子のことを、認識していない。
「これ【隠遁】だ……」
桃子はいま、怪異の尻尾をつかんだ。
しかし、どこだ。
意識してみれば、自分の身体に魔力による強化が施されているのを感じとれる。今ならばハンマーを巨大化させ、この壁を軽々と破壊することも可能だろう。
そう、この場にはいま、確実に魔力がある。なにかがこの校内で魔力を発している。
この空間に漂う魔力が消えてしまう前に、桃子がその発生源を見つけなければならない。
自分に【看破】があったならばと、桃子は誰もいない廊下を見回して、歯噛みする。
騒がしかった教室は、日葵たちの報告により静まり返っている。
桃子だけが取り残された廊下には、桃子の呼吸音と。小屋に顔を隠した、リス太郎のカリカリ音だけが響いていた。