ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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二章 人魚姫と深潭の魔女
野良猫みたいな後輩


 女王にヘノを預けて、桃子が一人帰宅したその後。

 

「まあ、そりゃ鵺がニュースになるよねえ」

 

 週が明けて、スマホでいくつかのニュースサイトをチェックしてみたところ、ダンジョン関係の話題としては、やはり遠野ダンジョンにおける鵺討伐、および第四層に閉じ込められていた探索者たちの救出成功というニュースがトップニュースになっていた。

 どうやら桃子がマヨイガ側から覗いていた同じころ、討伐隊の持つ配信カメラで全国に戦いの様子が配信されていたらしい。

 戦いの様子もさることながら、鵺の最期……のあたりは画面がノイズで見られなかったようだが、鵺が消えたあとの第三層の変化もまた、話題になっていた。

 

 空に舞い上がる不思議な光と、渓谷に差し込む光。

 深淵とまで呼ばれていた薄暗い渓谷が、まるで呪いが解けたかのように光を浴びているのだ。

 様々な意見が飛び交うなか、鵺が完全に消滅したことを示しているのではないかという意見もある。今はまだ根拠のない意見の一つだろうが、それが正解だったということは数か月や数年後には判明することだろう。

 

「あとは、そりゃ話題にもなるか。萌々子ちゃん、色々やってたもんね」

 

 それと並行して、第四層で座敷童子に助けられたという証言も、人々の話題を集めていた。

 こちらは真面目なニュース番組よりも、どちらかというとSNSや掲示板などを中心に盛り上がっており、何故か山椒味噌おにぎりを握っている萌々子ちゃんや、布団で寝る萌々子ちゃん。そして松茸を盗み食いする萌々子ちゃんのイラストが増えているとか、なんとか。

 どうやら桃子がこっそり七輪の上から松茸をつまみ食いしたこともバレていたようだ。

 ちなみに、桃子が持ち帰った松茸は、職場の皆で頂いた。親方がバーナーで炙ってくれたので、所長と親方、和歌と桃子で分け合った。美味しかった。

 

 そして、萌々子ちゃんと言えばもう一つ。

 

 折れたサカモトの剣が見つかったらしい。

 鵺の消滅したあたりで発見されたようで、もしかしたらサカモトの剣で誰かが最後に一矢報いたのではないか、なんていう噂がある。

 でも、当時第四層に居たメンバーは全員それを否定しているし、鵺を相手にサカモトの剣で戦う無謀な探索者など、いるわけがなかった。それは、当時配信されていた映像を見ても、間違いないことである。

 じゃあ、どうして?

 誰が?

 

 噂は結局噂。それが特定の『誰か』の関わりを連想させるようなものだったとしても、当のサカモトをはじめ深援隊が噂を完全に否定しており、サカモトさんの剣はたまたま崩落の際に見つかっただけだ、という説明をしているので、それ以上は誰も追及することはなさそうだ。

 

「サカモトさんには本当、ごめんなさいだけど」

 

 あの剣を弁償しようとしたらいくらになるのか。

 新卒の桃子の年収では半額も払えないだろうと考えて、冷や汗が落ちる。

 

「……ま、まあでも、色々あったけど。みんな助かって、良かった良かった、だね」

 

 サカモトの剣のことは忘れた。あとは、萌々子ちゃんまとめなるページには苦笑しかないものの、今回はみんな助かった。

 桃子も戦った甲斐があったというものだ。

 

 今となっては、無謀な行いをしたものだと思うが、あのときは脳内エンドルフィンがものすごく分泌されていたのだろう。

 

「んでもって、こっちのほうはどうしようかなあ……」

 

 スマホに入れてあるメッセージアプリの表記を見ながら、天を仰ぐように考え込んでしまう。そこには、とある名前――タチバナ――からの着信が数件溜まっていると表示されていた。

 桃子は普通に友達もいるし、他人とメッセージのやり取りができないほどズボラなわけでもない。

 が、今回の相手はなんというか、妙にグイグイ来るのだ。

 以前房総ダンジョン前で出会ってから、メッセージアドレスを交換したのだが、そこから妙に懐かれてしまったらしく、頻繁にメッセージが飛んでくるようになった。

 が、もう一度言うが、妙にグイグイ来るのだ。

 

『桃子先輩、今度一緒に探索用品店に行きませんか?』

 

『桃子先輩、今日は何食べました?』

 

『桃子先輩、好きなタイプは?』

 

 アイドル相手のインタビュー記者みたいになってた。

 桃子も母校の、そして探索者の先輩として後輩を無下に扱う気もなく、それなりに相手に合わせて返信をしているものの、探索者としては色々と秘密が増えすぎてしまい、どうしてもぎこちない返答ばかりになってしまう。

 その上でグイグイ来るので、まあ、正直、困る。

 

「うん。やっぱりこういうときは、経験豊富な大人の人に相談してみよう!」

 

 

 

 

「あらー、相談だなんてー。もしかしてお相手は男の子ですかー? 桃ちゃんの好きなタイプなんですかー?」

 

「違います違います、女の子ですから。ちょっと土日にダンジョン潜っててスマホ見てなかったんですけど、その間にもメッセージがいくつか届いてて」

 

 工房にて。休憩時間にスマホを取り出し、糸目のほんわかお姉さんこと和歌に相談することにした。

 和歌は和歌で桃子に頼られるのがうれしいのか、ズズイと椅子ごと移動させて身を乗り出してくる。

 

「ええと、学校の後輩なんです。それで、私と同じでソロ探索者やってる子なんですけどね」

 

 そう説明してから、当たり障りのなさそうな部分を選択して、届いたメッセージをいくつか和歌に見せてみた。

 

 

『桃子先輩、今度一緒にダンジョン行きましょう!』

『ちょっと私、緊急で東北地方に行ってきます。お土産買ったら窓口さんに預けておきますね』

『今からかなり頑張るんで先輩、応援してくださいねっ』

『先輩? いまどこにいます?』

『先輩、今日どこに行ってたんですか?』

『私、桃子先輩のこともっと知りたいです!』

 

 

「こわっ?! かなりの強火ちゃんじゃないですかー」

 

「うーん、この前初めて会ったばかりなんですけど、妙に懐かれちゃったみたいで……」

 

「最後とか、なんかストーカー気味で怖いですよー。桃ちゃん、気を許しちゃ駄目ですよー?」

 

 桃子の後輩の押しの強さが想像以上だったのか、和歌が目を丸くしている。

 桃子はそんな和歌に見せるように、その後輩のプロフィールに貼ってあるURLをクリックして、後輩の配信アーカイブを開いて見せた。

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

「あらー? 美少女ですよー美少女っ。仲良くしましょう、それで私にも紹介してくださいー」

 

「ええっ?! 和歌さん、数秒で言ってること変わってませんか?」

 

 今度は和歌のテンションの上がりように、桃子が目を丸くした。

 もしかしたら、女の子の配信動画とかが好きなタイプなのかな、とも思ったが、和歌が急にテンションを高くすることは珍しくないので、気にしないでおく。

 

 工房の椅子は桃子には少し高く、椅子に座ると足が床につかない。

 なので、脚をぶらぶらと揺らしながら、和歌にも見えやすいようにスマホを傾けて、表示されているタチバナの配信動画のアーカイブを選んで適当に再生する。

 画面では艶やかな黒髪、小悪魔的な可愛らしい釣り目に長いまつ毛の少女が、視聴者に向かって楽し気に挨拶をしていた。

 探索者にしては可愛らしさにも気を使った黒のミニスカートコーデに、それに合わせた簡単な軽装アーマー。いつも変なスカジャンの桃子とは偉い違いだ。

 

 少しタップして早送りすると、鮮やかな動きでゴブリンの群れをソロで殲滅しながら、ゴブリンの生態を説明したり、あるいは視聴者からのコメント相手にムキになってみたりと、見ているだけでも楽しい配信だ。

 

「ギルドの窓口さんに聞いてみたら、この子も色々事情があってソロ探索をしてるらしくて、他の探索者に自分から声をかけるなんて珍しいって驚いてたんですよ」

 

「まあまあ、そんな野良猫みたいな後輩の美少女に、懐かれちゃったんですねー? 桃ちゃんたら、罪作りですねー」

 

 あははは、と苦笑が漏れる。

 実は内心、桃子も同じような印象を抱いていたのだ。ツンツンしているかと思えば、話してみたら意外と素直なところがあって、普通に顔立ちも可愛らしくて猫のような後輩だった。

 また、普段子供扱いされがちな桃子にとっては、探索者としてお姉さんぶる機会というのが滅多になく、自分を「先輩」と慕ってくれる相手に悪い気はしていないのだ。

 

 が、それとこれとはまた別である。猫は猫でも、タチバナはちょっと面倒くさい猫だと思う。

 

「そこで困ってるのが、どうもこの子、私と一緒にダンジョン探索に出たいって言ってるんですけど……」

 

「ああ、桃ちゃんは人と一緒に潜れないスキルですからねー。しかも相手は配信者で、しかもドワーフの真相を追求したがってるわけですねー?」

 

 配信タイトルを見れば、この少女、タチバナがドワーフを探しに房総ダンジョンを訪れていることは一目瞭然だ。

 実はそのドワーフの噂のもとは桃子である。別にそれ自体は隠さないといけない情報ではないのだが、こと妖精の話にも関わってくるのであまり広げたい話でもない。

 

「それに、私の【隠遁】って配信カメラにも影響しちゃうから、この子の配信に入り込もうものなら放送事故になっちゃうと思うんですよね」

 

「うーん、桃ちゃんとは致命的に相性が悪いですねー」

 

 ついでにもう一つ、桃子がダンジョンに入ればヘノがやってくる。配信画面にヘノが映り込むのは非常によろしくない。さすがにこれは、和歌にも言えないことではあるが。

 

「【隠遁】について話してみてはどうですかー? ゴシップ系の配信をしてはいますけど、多分、そんなに他人の秘密をばらすようなタイプではないと思いますよー?」

 

「そう、ですか? ちなみに、何でそう思ったのか聞いても……?」

 

「うーん、そうですねー」

 

 桃子に問われると、和歌は自分で言っておきながら首をかしげて。うーん、と少し悩んでから、言葉を選ぶようにしてゆっくり口を開く。

 

「この子、視聴者さんのことすごく見てるじゃないですかー? 自宅からの配信ならともかく、探索中って普通はそんなに色々なことに気を割いていられないものなのですよー」

 

「へえー……そうなんですね」

 

「まあ、桃ちゃんはスキルのせいで危機感が欠如しちゃってますけどー。ともかく、そんな中でもしっかり視聴者さんを楽しませようとしてるのって、ちゃんと人に気を使える子なんだろうなーって」

 

 自分の危機感について言われるとグウの音もでないのでさておき。

 なるほど、確かに動画を見てみると、探索で周囲に気を使いながらも、動画の視聴者たちと普通に会話をするかのように、常に視聴者のことも気にしていることに気付いた。

 桃子は配信探索ということはしたことがないが、過去に配信をしていたらしい和歌が言うのならば、これはなかなか出来ることではないのだろう。

 

「まあ、それが出来るくらい才能あふれる子だっていうのもありますけどねー。普通の探索者じゃ、視聴者さんを楽しませるどころか、おしゃべりなんかしてたらあっという間に魔物に囲まれちゃいますからー」

 

「あはは……そうですね」

 

 ヘノと好きにおしゃべりをしながら歩いている自分が例外なのだろう。【隠遁】のおかげでモンスターに対する認識などがどうやら普通の探索者とは随分かけ離れてしまっているのだなと、今更ながら自覚する。

 

 それはそれとして、タチバナについてはゴシップ系配信者として色眼鏡で見てしまっていたのかもしれない。軽い調子に見えても、この子はこの子でしっかりとやっているのだ。魔物に襲われるリスクがあるぶん、桃子よりもずっと。

 

 そんなちゃんとした子を、誤魔化してはぐらかしてばかりいるのは、なんか自分が嫌だなと、桃子は思った。

 

 今度、自分のスキルについてと、一緒にダンジョンには潜れないことを説明して分かってもらおう。

 その上で、ドワーフの正体が自分だとバレてもそれは仕方ない。妖精についてはただの噂話だと誤魔化す必要はあるが、それくらいどうとでもなる。

 

 桃子はそう考え、さっそく今日の夜にでもきちんとした返信を送ろうと、心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

YUKA:せんぱーい、抱っこしていいですか?

 

MOMOKO:だーめ。

 

MOMOKO:あのね、ちょうどよかったよ。タチバナさんに、私のスキルのこと話そうかと思うんだけど。

 

YUKA:前も言いましたけど柚花って呼んでくださいよー

 

MOMOKO:んー、じゃあ橘さんね?

 

YUKA:漢字になっただけじゃないですか! 下の名前が良いです。柚花って!

 

MOMOKO:じゃあ、柚花さん。

 

YUKA:はい♪

 

MOMOKO:えっと、そうじゃなくて、この前から一緒にダンジョンに行きたいって言ってくれてるでしょ?

 

YUKA:一緒に行ってくれますか? やった!

 

MOMOKO:違う違う。実は一緒に行けない理由があってね。その理由になってる、私の固有スキルの説明をしようと思うんだけど。

 

YUKA:先輩も固有スキル持ってたんですか? はい! 聞かせてください!

 

MOMOKO:私の固有スキル【隠遁】って言って、他の人から見えなくなっちゃうから、誰かと一緒にダンジョンに入ったとしても、私のこと見えなくなっちゃうから、人と一緒に潜れないんだよ。

 

YUKA:すごーい!!

 

MOMOKO:?

 

YUKA:私の固有スキル【看破】って言って、他の人が見えないものが見えるんです

 

MOMOKO:そんなスキルあるの?

 

YUKA:それ先輩が言います? 私なら、先輩が固有スキルで消えちゃったとしても見えますよ 絶対に 自信ありますよ!

 

MOMOKO:ええ どうしよう。

 

YUKA:お試しでいいですから、一回、一緒に行きましょう! 私、先輩と一緒がいいです

 

MOMOKO:いや、他にもちょっと、色々とあって一緒に行き辛いというか、なんというか。

 

YUKA:先輩がドワーフなんですよね?

 

MOMOKO:うわ。

 

MOMOKO:いきなり後輩に秘密を握られた。

 

YUKA:この前ハンマー持ってたじゃないですか 先輩って子供みたいに小さいですし

 

MOMOKO:傷つきました。

 

YUKA:ごめんなさい でもでも、じゃあ先輩が知られたくないなら絶対に誰にも言いません

 

YUKA:ほかにも聞きたいことももちろんありますけど、先輩が言いたくないなら聞きません!

 

MOMOKO:うん。

 

MOMOKO:わかった。柚花さんが秘密を人に話すようなことはしないって、信じてもいい?

 

YUKA:はい、マリア様に誓って

 

YUKA:では、土曜日の朝9時に房総ダンジョンのギルドでいいですか?

 

MOMOKO:え、本当に来るの?

 

YUKA:もちろんです♪ 無理でしたか?

 

MOMOKO:えーと、無理ってことはないけど。

 

YUKA:そうだ、一緒に潜ってくれたら、私も先輩に秘密を教えます

 

MOMOKO:え、それは別にいらないや。

 

YUKA:先輩にだけ教えちゃいますよ! 私のスキルの秘密!

 

MOMOKO:私はそろそろ遅い時間だし、お風呂に入って休憩するね。

 

MOMOKO:柚花さんは、ちゃんと宿題やってから寝るんだよ? ミュゲット生たるもの、勉学も、しっかりね?

 

YUKA:って、聞いてくださいよー せんぱーい

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