ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
たった今、この廊下に魔力が発生している。
桃子の身は【隠遁】の効果により、日葵や茉莉子から認識されていない。そして意識すれば、ダンジョン内ほどはっきりしたものではないにしろ、少なからず魔力やスキルによる身体強化が己に施されているのを感じる。
しかし、ここは本来魔力が存在しない筈の地上である。時間をおけば廊下に満ちたこの魔力も、地上の大気に溶けるように消滅してしまう筈だ。
つまり、魔力の発生源を探し当てるには今しかない。考える時間も惜しむように、桃子は即座に行動に出た。
「魔力が薄くなってきた、こっちじゃない!」
桃子は廊下を駆けた。
魔力で強化された脚力で、一足飛びで数十メートルの廊下を秒もかけずに駆け抜けた。
時間との勝負だ。いま、自分が纏う【隠遁】が消える前に。この空間に漂う魔力が霧散する前に。
この旧校舎に存在するであろう魔力の発生源を、見つけなければいけない。
しかし、昇降口側へ移動すると己の身体を強化している魔力が薄れていくのが分かる。発生源から離れている。
ならば逆と、急ブレーキをかけて校舎の奥へと駆け出していく。脚力で廊下の床板が軋みをあげるけれど、気にせず駆けて行く。
「え?! こっちでも薄くなってる?」
しかし、教室前を抜けて校舎の奥側へと移動すると、再び魔力が薄れていく。つまり、発生源はこちらでもない。
そして、脚を止めてまた再びUターンしようと振り返ったところで、まるで朝の霧のように。大気中の魔力が消失していくのが、肌で感じ取れた。
「魔力が消えた……」
結局、桃子はいまの短い時間では廊下を左右に猛ダッシュしただけで終わってしまった。
けれど、それで得た情報は、限りなく発生源を具体的に示してくれている。
昇降口側でもない。奥側でもない。この直線の廊下で魔力が一番濃く出ていたのは、今いるこの場所。自分たちが利用している六年一組の教室前だった。
そして、六年一組の教室前には、何があるのか。灯台下暗しという言葉もあるが、まさにその通りである。
六年一組の教室前には、桃子が初めて訪れたときから『それ』が存在しているのだ。
「まさか、あなたなの……?」
桃子は立ち止まり、教室前に存在する『それ』をジッと、見つめていた。
「桃子ちゃん、なんで廊下にいるの?! いま、吉木くんが先生呼びに行ってるから、教室に入ろう! 危ないよ!」
桃子がそれを見つめていると、教室の扉が開き、半泣き状態の日葵が桃子の姿を見つけて慌てて声をかけてくる。
恐る恐る廊下の左右を確認してから、桃子の腕をとって、教室へ戻るよう促すが、しかし桃子は動かずにそれを見つめ続けている。
万が一、子供たちに危害を与える可能性があるならば、自分がどうにかしないといけない。日葵には悪いけれど、今は子供のふりをしている場合ではない。
「おい、俺も女子トイレ見てくる。誰か一緒に来い」
「危ないって、花子さんが出たらどうするんだ!」
「見るだけだよ。女子トイレで夏野たちに何かあってからじゃ遅いだろ、いいからお前らも来い!」
桃子の背後では、教室から出て来た男子数人が女子トイレの前で騒いでいるけれど、桃子の耳には入ってこない。
いま、桃子の懐には、この依頼を受けたときに渡された一つの魔石がある。
一般的な魔石は、魔力で固まっているので地上に持ち帰ってもただの力では破壊できない。
それを地上で砕くためには、同じ魔力を纏う性質のもので傷をつけるか、或いは特殊な技術で事前に処理し、人の力で破壊できるように加工するかのどちらかのやり方がある。
そして、桃子が魔法協会から渡されている魔石は後者。人為的に処理し、いざという時に桃子の腕力でも砕けるようにしたものだ。
これを砕けば、そこに込められた大量の凝縮された魔力が一気に放出され、桃子は一時的にダンジョン内と同様の力で戦えるようになる。もしこの校舎に魔物がいたとしても、一戦交える程度ならば可能だろう。
桃子は緊張の中、懐の魔石の位置を確認する。そして、心配そうに見つめてくるいつも明るい少女へと声をかけた。
「日葵ちゃん。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「え? 私? う、うん……いいけど」
「リス太郎は、どこで見つけてきたの? 出来るだけ、詳しく教えて欲しい。場合によっては、リス太郎は危険な生き物かもしれないから」
それ――リス太郎は、相変わらず何の警戒心もないような顔で桃子を見上げている。だが、魔力の中心部にいたのは彼だったのだ。桃子は、リス太郎を疑わざるを得ない。
桃子の言葉を聞き、日葵の後ろに立つ茉莉子が息を飲む音がする。
茉莉子は桃子が七不思議を調べるために訪れた調査員であることを知っている。だから、桃子がリス太郎を警戒しているということがどういう意味なのか、すぐに理解したようだ。
それを知らぬはずの日葵もまた、桃子の意図までもは理解していないにしろ、鬼気迫る空気を感じ取っていた。
「リス太郎はね……ええと、春休みに、怪我してるリスを見つけたんだよ。お兄ちゃんの鞄を片付けてたら、いつ入り込んだのかは分からないんだけど、鞄の中から出て来たの」
日葵の兄は、平日は大学へと通いつつ、休みの日にのみダンジョンへと潜る、長崎ダンジョンの探索者だ。
春休みのある日、兄がダンジョンに持ち込んでいたというリュックを片付けていたとき、中から怪我をしたリスが顔を出した。それが出会いだという。
鞄の持ち主たる兄はその日すでに大学へ行ってしまったので、故にダンジョンのことなど知らぬ日葵とその母が怪我したリスを保護し、動物病院へと連れて行ったのが始まりだった。
じきに春休みは終わったものの、しかしまだ怪我が治りきっていないリスを山野へ放つ気分にもなれず、苦肉の策としてクラスの飼育動物として学校へ連れて来たのだという。
そしてリスは、動物好きな担任教師がもろ手を挙げて受け入れてくれた。
「そのなかで、リス太郎は何か変わったことはあった? 暴れたり、人を襲って怪我をさせたりとかは?」
もし、このリス太郎が無害な動物を装っただけの魔物ならば、何かしらの手段で地上に現れた瘴気の存在ならば、自分がここで対処しなくてはいけない。
それが仮に小学生たちの心に傷を与える行為だとしても、リス太郎を煤に戻さねばならない。いま一番大切なのは、子供たちの身の安全だ。
けれど。
桃子には、いつものように小さな瞳で桃子を見上げているこのリス太郎が、魔物だとは思えなかった。それは桃子の願望なのかもしれないが、明らかに、ダンジョンで今までに出会ってきた魔物たちとは違う、きれいな瞳をしているのだ。
なので、リス太郎から視線を外すことなく、彼のことをよく知っているであろう日葵の話に耳を傾ける。
「リス太郎、身体を洗うときには暴れたけど、それくらいだよ。あと変わったこととしては、怪我が治ってもしばらく元気がなくて、お兄ちゃんの鞄に入ってた木とか石をあげたら途端に元気になったんだけど……」
「石?」
それは、元々住んでいた場所に環境を近づけてあげようという日葵の優しさだったのだろう。
リス太郎がどのような経緯でその鞄に入っていたのかは分からなくとも、一緒に入っていた木片や石ならば、元いた環境のものに違いないと、日葵は考えたのだ。
そしてそれこそが事件の引き金でもあり、そしてリス太郎の冤罪を証明する証言でもあった。重要なのは『石』である。
桃子は話を聞いて気になったそれを確認するために、おもむろにリス太郎のケージの前へと屈みこむ。ゆっくりとケージの扉を開き、リス太郎がいつも隠れて何かを齧っている小屋へと手を伸ばす。
そこには日葵の証言通り『石』が存在していた。黒く、探索者でもある桃子にはとても見覚えのある石だ。
それはしかし、半分ほどまで削られていた。リス太郎によって。
「わー……立派な魔石だね、もう半分しかないけど。これが魔力の発生源ってことなら、リス太郎は悪気はなかったのかな? ごめんね、キミのこと疑っちゃったよ」
桃子はここでようやく緊張を解いて、笑顔を見せる。リス太郎の小屋の中から半分ほど崩れ落ちた黒い石を広い上げると、突然手を入れられ驚いていたリス太郎を軽く撫でてからケージの扉を閉じる。
リス太郎は相変わらず桃子へとアピールしているが、桃子は既に彼から視線を外し、手の中にある半分崩れた黒い石に目を向けている。
それはまごうことなき魔石である。しかもクズ魔石ではなく、きちんと形を保っていたならばかなり良質の魔石だっはずだ。
これを破壊することで、圧縮された魔力は大気へと拡散される。ここまで削られているのを見るに、今までもかなりの量の魔力がこの校舎内で拡散されたことだろう。
「あの、ねえ、桃子ちゃん……どうしたの? リス太郎が齧ってた石だよね? それ」
「えーと、うん。事件の原因がわかったの。少し連絡するから、説明はそのあとでいいかな」
桃子はようやく、周囲の視線に気が付いた。日葵や茉莉子はもとより、女子トイレ前で騒いでいた男子たちも桃子の奇行に目を向けていた。
しかし、優先順位を間違ってはいけない。今は、小学生たちから自分がどう思われるかよりも、まずは事態の解決だ。
桃子は懐から、しまってあったスマートフォンを取り出して、登録してある番号を選び、通話ボタンを押す。
「あ……」
桃子がスマートフォンを持ち歩いている理由を知っている茉莉子だけが、その通話先を察したようで、少しだけ声を上げた。
気づけば担任教師も到着したようで、桃子に奇異の視線を向けていたクラスメイトたちに対して、まず教室へ戻るよう促してくれている。
教師は桃子の役目を知っているはずだ。恐らく彼も、桃子が騒ぎの中心でスマートフォンを使用している状況を見て、それが何を意味しているのか察したのだろう。
「もしもし奈々さん、桃子です。事件の原因を見つけました。原生動物と思われるリスが、魔石を削りとっていたのが原因です。長崎ダンジョンギルドの方を学校まで呼んで貰えますか。あと……小さいクズ魔石もいくつかお願いします」
生徒たちが教室へと押し込まれ、無人になった廊下で、桃子の声が響く。通話先は、老芝奈々。魔法協会職員であり、彼女は今回の七守小学校の事件の担当だ。
桃子は奈々への連絡を終えて通話を切ると、ふう、と大きく一息つくと、リス太郎のケージ前に屈みこんだ。
「ね、リス太郎。キミはダンジョンのリスだったんだね。初日から私に反応してたのも、さては私の魔石が目当てだったのかな?」
魔石はただの力では破壊できないけれど、魔力を帯びたものならば傷をつけられる。もとより魔力を糧に生きる原生生物ならば、その身に魔力を帯びているのだろう。
彼はただ単に、生きるために、魔力を補給するために、頑張って魔石を削り取っていたのだ。
そして、桃子が魔石を持っていることにも勘付いて、その魔石をどうにか分けて貰おうと訴えていたのだろう。桃子へのアピールが多かったわけである。
桃子は、無実の彼を疑ってしまったことを反省し、出来るだけ優しくリス太郎に話しかける。
桃子の声が聞こえているのかいないのか。ケージの中ではカリカリ、カリカリ、と。リス太郎はひたすら木片を齧りはじめていた。
【りりたんの朗読チャンネル】
おはようございます、こんばんは、りりたんです。
今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。
モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。
今日は、前回の推理小説の続きを朗読していきますね。
前回朗読した『Pトピア・スーパー連続殺人事件』の、犯人を追い詰めるシーンからですよ。
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ふふふ。意外な犯人でしたね。
まさか、最初からずっと一緒にいた彼が犯人だったなんて、随分と思い切った叙述トリックでしたよ。
え、りりたんはいつから犯人が分かっていたか? もちろん、初登場時から全て分かっていましたよ。
りりたん、読書家ですから。登場シーンからすでに、全てのトリックの手口くらい、すぐに分かってしまいましたよ?
なんですか? 疑っているんですか? 失礼ですね。ぷんぷんですよ。
でも、このお話はまだ続いているみたいですね。
犯人を捕まえても、謎はいくつも残っていますし、事件そのものが解決したとは言い切れないのですよね。
ふふふ。Pトピア・スーパー連続殺人事件は、まだまだ中盤のようですよ。さすがはスーパー連続殺人事件というだけのことはありますね。
主人公のボスは、終わった気になって油断しているようですけれど、慢心から足を掬われなければ良いですね。
新たな被害者が出て、手遅れになってからでは遅いですからね。
ところで、話は変わりますけれど。
りりたんのお友達がいま、長崎へ旅行に行っているのですよ。
長崎にもダンジョンはありますが、あそこのダンジョンは訪れたことはありませんね。あそこを守護している方々は、りりたんとはウマが合わなさそうですからね。
でも、本場のカステラと皿うどん、ちゃんぽんは興味ありますよ。
機会さえあれば、いつか遊びに行ってみても良いかもしれませんね。