ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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懐かしのカレーうどん

「桃子師匠がいらっしゃったっすよー!」

 

「桃子。待ってたぞ。うどん。出来てるぞ」

 

「も、桃子さん……ほ、本当にこのお店に、入ってきたんですねぇ……」

 

 ポンコに続いてテントへと入っていくと、そこには前に桃子が手を加えた椅子とテーブルが並んでおり、その上には緑と蒼の光、二色の魔力光が漂っていた。

 その光は、桃子が良く知っている妖精たち。風の妖精ヘノと、水の妖精ニムの二人が、テント内で桃子を待っていた。

 

「ヘノちゃん、ニムちゃん! え、もしかして二人ともここで私のこと待っててくれたの?!」

 

 桃子が二人の姿を見て駆け寄ると、ヘノも桃子の身体へと飛びついてくる。桃子の鳩尾に体当たりするように飛び付いてきて、桃子もそのヘノを両手で優しく包み込む。

 つい先週も妖精の国には遊びに行っていたので、別にそこまで会えない期間があったわけではないけれど、やはり思いがけない場所での再会というのは嬉しいものだ。

 抱擁を済ませると、ヘノは自分の定位置である桃子の肩に乗り、桃子の耳たぶを弄り回す。ニムはそれを眺めて、感動の再会に涙している。

 妖精の国では比較的よく見る光景である。

 

 

 桃子が妖精たちと戯れている間にポンコは不審人物フードのついた外套を脱いで、ちゃんと調理用の割烹着姿に着替えていた。

 そして更には、奥の調理スペースから聞き覚えのある声がかかる。

 

「じゃーん♪ ほーら先輩、可愛い可愛い後輩もここにいますよ♪ 今日のサプライズはポンコさんと私で考えたんですよ」

 

 桃子が声に振り返ると、奥の調理スペースから出てきたのはエプロン姿の柚花だった。

 

「わ、やっぱり柚花も来てたんだね。もう、フード被ったポンコちゃんに声をかけられたときはびっくりしちゃったよー。初めて会った時の再現なんだもん!」

 

「やったっす、サプライズ成功っすね。あのね、今日はね、師匠。柚花さんとポンの二人でカレーうどんを作ったんすよ」

 

「ヘノも。味見を手伝ったり。したぞ」

 

「わ、私も、声援をかけましたよぉ?」

 

 ニムがいるのならばどこかに柚花もいるのではないかと思っていたが、どうやらこのテント内で、ポンコと柚花、そして妖精たちで協力してカレーうどんを作っていたらしい。

 思えば、今までは共に探索をしている際にはだいたい桃子がカレーを作っていたので、自分以外の皆が作ったカレーを食べる機会というのは珍しい機会と言えるだろう。

 エプロンをつける柚花の姿は意外とサマになっている。柚花の料理というのも初めてかもしれない。楽しみだ。

 

「桃子。桃子。今日のうどんは。何うどんかわかるか」

 

「この香りはもちろんカレーうどんだよね。でもただのカレーうどんじゃない。カレーの風味の中に、微かに残るワイルドな魚の泥臭さ。これはさては、最初のあのお魚のカレーうどんでは、ないかな?」

 

 桃子は、額に指をあてる賢そうなポーズで推理を披露する。気分は砂園教授、もしくは鍵の妖精リドルだ。

 と言っても、実を言えばこれは推理というほどのものではない。

 まず、カレーうどんであることはもとから分かっていたことだ。その上でどのようなカレーか、という部分が重要なわけだが、漂ってくる香りに集中すればその中に魚の泥臭さが微妙に混ざっているのが分かる。

 

 今更ポンコが魚の処理を失敗するとは思えない。ならば、この香りは狙ってのことだろう。

 ポンコがあえて魚の臭みを残したのだとしたら、作っているのは初めて出会った日のワイルドな魚カレーうどんなのだろうと、簡単に予想はつく。

 

「その通り、さすがは師匠っすね! 今日はあえて処理を少しだけ甘くして、泥臭さの残ったワイルド風味にしたっすよ。あの日の再現をしてみたっす! 覚えててくれたんすね……」

 

「そりゃ、忘れないよ。ポンコちゃんと初めて一緒につくったカレーうどんだからね」

 

「桃子。とりあえず。座ろう。ヘノも。お腹がペコペコだぞ」

 

「じ、実は、私も……う、うどんが食べたいですねぇ……」

 

 桃子とポンコが話し込んでいると、桃子の肩からテーブルへと着地したヘノと、同じくテーブルに着地したニムがそわそわした様子で桃子を見上げる。

 どうやら、桃子が来るのを待ってはいてくれたものの、二人ともうどんを食べたくて仕方がないという様子である。

 妖精はあまり食べ物を食べなくても生きていけるというような話だった気がするが、もしかしてあれは嘘だったのかもしれないと桃子は疑っている。

 

 ヘノたちはともかく、実を言えば桃子も今日はまだお昼を食べておらず、そろそろお腹がなりそうだ。先ほどまで色々なうどん店を覗いていたのもあり、胃袋が今か今かとうどんを待ち構えている状態だった。

 なので確かに、ここでポンコと話し込んでいる場合ではないなと思い、桃子もきちんと座席へ座る。

 

「じゃあ、店員さん。私たちに、カレーうどんをお願いします」

 

「ポン! 了解っす!」

 

「先輩、食後の桃缶もありますからねー」

 

 桃子の注文をうけて、割烹着姿のポンコが胸をポンと叩く。奥からは柚花がお皿を準備する音が聞こえる。

 ポンコのうどんは食べる機会は少なくないので久しぶりという程ではないかもしれないけれど、それでも桃子の胃袋は、まだかまだかとカレーうどんの到着を待ち望むのだった。

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、うどんはとても美味しかった。

 

 ポンコの技量は以前よりも遥かに上がっている。その上で、初めてあった時のうどんを再現するかのように、うどんの麺を均一ではなく、いくつかの太さの不均等な麺に仕上げていた。

 そしてスープはあえて泥臭さを残したカレースープだ。まさに、初めて会った日に作ったカレーうどんの再現だ。いや、再現というよりは、上位互換と呼べる味わいだったかもしれない。

 いつぞやの食レポが激しい客たちの言ではないけれど、太さの違ういびつな麺にカレーがよく絡み、魚の野性的なクセの強さがカレーと仲良く手を繋いでる景色が見えるようだった。

 見れば、桃子の横ではヘノとニムはもちろん、ポンコと柚花までもがカレーうどんを味わっている。

 

 みんなで横に並んで食べるうどんというのは、なかなかどうして、楽しいものだった。

 

 

 

「――っていう感じでね、結局は原生生物のリス太郎が魔石を削ってたのが原因だったんだよ」

 

「なるほどっすね。流石師匠っすね、あっというまに事件解決じゃないっすか」

 

 そして食後はその場でお腹を休ませながら、長崎での出来事を皆に語っていく。

 小学生のクラスの友達が出来たこと。子供たちと裏山を登ったこと。モチャゴンが何故だか七不思議だったこと。スカジャンに描かれたモチャゴンを下級生が気に入ってくれたこと。リスが原生生物だったこと。

 話してみれば他愛のない出来事のほうが多かったし、七不思議に頭を悩ませはしたものの、結局起きていたのは魔石によるスキルの暴走であり、七不思議は無関係。

 誰も被害にもあわずに済んで、今となっては楽しい一週間だったと思う。

 

「先輩、ちゃんと小学校での写真とか、残しておいてくださいね? 来週でお別れなわけですし。ランドセル姿とか、私も愛でたいんですから」

 

「えー……なんか、恥ずかしいじゃん」

 

 柚花が自分のランドセル姿を見たがっているのは知っている。

 それが怖いもの見たさなのか、ただの興味本位なのか、どのような気持ちに由来するものなのかは定かではないが、しかしそれを見せる側の桃子としてはやっぱり恥ずかしい。

 初日は、ランドセルを背負って歩くのに抵抗があったのは確かである。だが、一週間毎日背負っていれば慣れたもので、むしろあのサイズと丈夫さでありながら軽量化も研究されているランドセルというのは、物凄い技術の集大成なのだなと、見直しているくらいだ。

 ダンジョンでランドセルを背負いたいわけではない。

 けれど、パッと見でランドセルに見えないデザインの鞄であの機能性があるならば、意外に悪くないのではないかと思い始めている。

 

 しかし結局、なんだか話が変な方向になってきたのもあり、桃子は話題を変えることにした。

 

 

「そういえばさ、このお店って今日はわざわざ私のために出してくれたの?」

 

「そうっすよ! って言いたいところっすけど、実は師匠の前にも、父ちゃんにおうどんを食べて貰えたっす!」

 

「父ちゃん……って、クヌギさん?」

 

「ヘノもびっくりしたぞ。なんであいつ。わざわざ地上から。飛行機なんか使ってまで。うどん食べに来たんだろうな」

 

「クヌギさんが、飛行機で来たの? なんで?」

 

 ポンコの父であるクヌギは。わけあって今は深援隊という探索者パーティに籍をおき、山形県の山あいの村に出現したダンジョン、通称『桃の窪地』の管理者をしている。

 だがしかし、最近は魔物にやられた怪我の具合も大分よくなってきているようで、北海道のダンジョンまで遠征に出向いたりしていたのを桃子は知っている。

 なので、フットワークの軽くなった彼が、生まれ故郷のこのダンジョンまで戻ってきてポンコのおうどんを食べていたとしても、それ自体は決して不思議なことではない。

 

 だがしかし、クヌギならば飛行機など使わずとも、妖精の国を経由してすぐにこの香川ダンジョンへと足を運べるはずなのだ。

 わざわざ飛行機などという手段を使って香川までやってくるとは思えなかった。

 

 桃子が首を傾げていると、話を横から聞いていたニムが桃子にヒントをくれる。

 

「ク、クヌギさんは、深援隊の方と一緒にいらしたんですよぉ。あ、あの、イビキの人……ええと、なんでしたっけ……うぅ……お名前のほうは、ちょっと思いだせないですねぇ」

 

「イビキの人って、もしかして……」

 

 イビキの人。

 桃子の知る限り、妖精にイビキの人呼ばわりされる人間など、一人だけだ。

 昨年、半年もの間、ティタニアの間で眠り続け、その間ずっと、大いびきで妖精たちの安眠を妨害してきた探索者だ。

 

「先輩。イビキの人、つまりはサカモトさんが、クヌギさんと一緒にいらしてたんですよ。でも多分、うどんを食べに寄ったのは偶々です。実際には、きちんとギルドを通した深援隊の何かしらの業務で、正式に香川ダンジョンまでやって来たんだと思いますよ」

 

「あのイビキ男。今日は。鎧を着てなかったから。最初は誰だかわからなかったぞ」

 

「んんー? サカモトさんとクヌギさんが、深援隊の業務で? 鎧も着ずに?」

 

 この店は、いまはポンコの術で一般の人からは見つかりづらくなっているらしい。ならば、クヌギがこの店を見つけて、サカモトを連れ込んだ、ということなのだろう。

 そこは理解できた。

 

 しかし、サカモトが鎧も着ずに香川ダンジョンへと訪れる意味が分からない。深援隊の業務と言っても、いまの所この香川ダンジョンで何かしらの事件が起きているという話は聞いていない。

 まさか、山形のダンジョンから、うどんを食べる業務をうけて遠くこの地までやってきた訳でもないだろう。

 

「なんか、このダンジョンの闘技場に用事があるらしくて、食べたらすぐに下層まで行っちゃいました。もし興味があるなら、先輩もあとで様子見に行きますか?」

 

「闘技場? なんだろうね、確かに気になると言えば気になるね。闘技場なら下層の階段を下りたらすぐだし、この後に散歩がてら見に行ってみる?」

 

 柚花の言う『闘技場』とはこのダンジョンの第二層のことだ。

 第一層からの階段を降りると、ローマのコロッセオのごとき闘技場が探索者を待ち構えているのである。香川ダンジョンは実に不思議なダンジョンだ。

 

「なんだ。闘技場まで降りるのか。分かったぞ。じゃあ行こう。すぐ行こう」

 

「うぅ……闘技場って、誰かと戦う場所なんですよねぇ……な、何だか、怖いけど、気になりますし……い、行ってみましょうかぁ」

 

 どうやら妖精たちも、なんだかんだでクヌギとサカモトの行き先には興味があるようだ。

 サカモトは、トレードマークである鎧を脱ぎ、遠く香川ダンジョンまでやって来た。その行き先は、闘技場。あそこは魔物と戦うための場所だ。

 しかし、サカモトが魔物と戦うためにわざわざこの香川まで訪れるというのは、それはそれで意味不明である。しかも鎧を脱ぎ捨てて、だ。

 さすがに単身で闘技場の主である巨大ゴーレムと戦うわけではないだろうが、ならば何と戦うのか。

 

 何はともあれ、この眼で確認するのが一番手っ取り早いことなのだろう。

 

「桃子師匠。ポンはこのあとマグマ師匠たちにもおうどん振る舞う予定があるので、ここに残るっすよ。何か面白いものがあったら、お土産話を待ってるっすよー」

 

 というわけで。

 

 ヘノたちは闘技場まで行く気満々のようだし、桃子としても興味がないわけでもない。

 なので。うどんでお腹を満たした桃子たち一行は、ポンコに見送られながらも、第二層『闘技場』へと足を進めるのだった。

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