ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
この日の給食は皿うどんだった。
桃子の中では、長崎と言えば皿うどんとちゃんぽんのイメージが強い。そしてスイーツにはカステラだ。
長崎ちゃんぽんを売りにした大手チェーン店のイメージも混ざっているのかもしれないが、給食に皿うどんが出てくるあたり、地元の郷土料理としてもメジャーなものなのだろう。
「ねえ、茉莉子ちゃん、桃子ちゃん。原因がリス太郎って判明したから言えるけど、七不思議の中ではくいしんぼ妖精に一番会いたかったって思わない? なんか、可愛いよね」
「うん、可愛い」
給食の皿うどんを食べながら、女子三人の会話が弾む。
本当は桃子の首から下げられている巾着にはもう一人の少女――風の妖精ヘノが入っているのだけれど、流石に会話に参加は出来ないので、巾着内から子供たちの様子を黙って観察している。
そこにヘノが居ることに勘付いているわけではないだろうが、日葵は唐突に七不思議のひとつ、くいしんぼ妖精について話し始めた。
「確かに、学校の怪談っていうよりは、普通に可愛い響きだもんね。ちなみに、日葵ちゃんはくいしんぼ妖精ってどういう子を想像してるの?」
「そうだなあ、給食室で、子供たちの食べる給食を午前中の内に全部味見してるグルメな妖精っていうのはどうかなっ。常に調味料を持ち歩いてて、味付けがたりなかったらこっそり足してくれるのっ!」
「うん。可愛いと思う」
やはり、小学生たちの認識でも、妖精というものは可愛い存在であるらしい。桃子はなんとなく嬉しい気持ちになって、さり気なく胸元の巾着を指先で撫でる。
桃子の指先を撫で返すように巾着の中身が少しだけ動いているが、流石にここで確認するわけにもいかない。
「じゃあ、その子が出てくる場所は給食室なのかな?」
「私はやっぱりそういうイメージだなあ。だって、学校でくいしんぼって言ったら、給食の時間のことだもんね!」
「うん」
「うんうん、給食っていいものだもんね。毎日栄養バランス考えたものを作ってくれるんだもん。二人も、給食を食べられる子供のうちはちゃんと感謝して食べなきゃ駄目だよ?」
皿うどんによく使われている揚げ細麺は、硬いままでもふやけていても美味しく、食べている間に美味しさが変化していく。これは、カレーライスにはない楽しみ方だなと桃子は新しい気づきを得た。やはり給食には様々な発見があるものだ。
桃子がそんなことを考えているなどとは知らない日葵は、妙にまじめに皿うどんを眺めている桃子を見て、やや呆れたような、不思議そうな、心に浮かんだままの感想を漏らす。
「……なんだかさ、桃子ちゃんて、たまに変なところで小学生っぽくないところあるよね。普段は子供なのに、いきなりちょっと大人っぽくなるの」
「うん。桃子ちゃんは、たまにお姉ちゃんみたいなところ……あると思う」
「えへへ、それって、たまに私が大人に見えてるっていうことだよね? 照れちゃうな」
19歳の成人女性としては、年下の少女たちから大人っぽい、お姉さんぽいと称されるのは、悪い気はしない。普段は子供扱いされがちな桃子にとっては尚のことだ。
「あれ? でも『たまに』ってどういうこと? 普段は大人っぽくないってこと?」
「そりゃそうだよ、桃子ちゃん。大人っぽいとは言ったけど、桃子ちゃんが大人なわけないでしょ? いくら女スパイでも、無理して大人っぽく振る舞う必要なんてないと思うな。ねえ、茉莉子ちゃん」
「うん。桃子ちゃんは、無理に背伸びしなくていいと思う」
「はえー、そうきたかー」
子供に成りすますミッションを受けているのだから、周囲からも小学生だと認識されるのは何も間違ったことではない。
だが、しかし。桃子としては殊更意識して小学生になっているわけでもないのだ。つまり、半分くらいは素のままに生活している上で、小学生に馴染んでいる。
これはもしかして、由々しき問題なのでは? 桃子の脳内の賢さ担当ミニ桃子がそのような議題を挙げるが、残念ながら解決方法はすぐには思いつかなかった。
後ほど、今の会話を聞いていたヘノは、このことについてこう語る。
「ヘノの目でみても。桃子と。あの二人で。年齢の差があるようには。見えないぞ」
「そこはほら、なんか……魔力が大人だったりしない?」
「別に。ないな」
「そっかー」
そして放課後。
この日は放課後に七不思議を調べたりすることもなく、桃子と茉莉子はクラスメイトの元気な少年である元木のサッカーチームに所属している日葵の応援をしていた。
本校舎のグラウンドでは、四年生、五年生、六年生の混合チームが紅白に分かれてサッカーの激戦を繰り広げている。
残念ながら令和の今となっては子供も少なくなっている。どちらのチームも気軽に11人は揃わないため、6対6の少人数同士の試合だ。
「日葵ちゃーん、がんばれー! 四年生も、五年生も、みんながんばれー」
「がんばれっ、がんばれっ」
グラウンド脇にある、小さな土手の上に腰を下ろして、桃子は日葵にも聞こえるように声援を送る。
そして桃子の隣では、同じく茉莉子が彼女なりに精いっぱいの応援を続けている。
二人の応援が届いているのかどうなのか、日葵は男子たちに負けないプレイでボールを相手ゴールへと蹴り込んでいた。
「日葵ちゃんて、サッカー上手だね。男子に負けてないじゃん。女子サッカーにも進めそうだよね」
「うん。でも、中学校では、女子のサッカーないから」
「あ、そっか。中学校に部活がなきゃ続けられないかあ。そうだよね、中学だと男子と一緒ってわけにはいかないもんね」
「うん。だから日葵ちゃん、サッカーは小学校までにするんだって」
近年では、オリンピックなどの影響で女子サッカーというものも認知が広がっているけれど、しかしそれでも女子サッカーというのはまだまだマイナーな競技なのだろう。
この地域の中学校には女子サッカー部というのがそもそも無いらしい。となると、やはり日葵は小学校限りでサッカーを辞めてしまうのかもしれない。
日葵なら他のスポーツでも活躍できそうではあるが、やはりこうしてサッカーを楽しんでいる姿を見てしまうと、中学でサッカーを続けられないのは可哀想に思う。
しかし、茉莉子は言葉を続ける。
「日葵ちゃんは、探索者になりたいんだって」
「探索者? そうか、日葵ちゃんのお兄さんは長崎ダンジョンの探索者なんだっけ。踊る火の玉も日葵ちゃんの魔法だったわけだし、将来有望な新人じゃん」
「うん」
しかし、どうやら日葵はサッカー以外にもやりたいことがあるようだ。
それはズバリ、探索者。日本の法律上、14歳になれば見習いの新人としてダンジョンへ入ることが可能となる。
もちろん初めのうちはベテランに付き従って、とにかく安全に、基礎から学ぶ日々が続くはずなので、自由に探索となると更に先の話にはなるだろう。
尤も、桃子の場合は初日からベテラン探索者に存在を忘れられてしまい、それからずっと良くも悪くも自由な探索しかしてこなかったのだけれど。桃子はあくまで例外中の例外なので、何の参考にもならないに違いない。
そんな例外中の例外である桃子はともかくとしても、日葵の場合は現段階ですでに火の魔法の素質が認められている。
14歳でいきなり魔法のスクロールを購入できる資金があるわけでもなし、また、素質があるからと言えど実際にそのスキルを使いこなすまでにはかなりの根気が必要になるだろう。
が、しかし。それでも日葵が将来有望なことは間違いない。
「じゃあさ。茉莉子ちゃんは、中学生になったらどんな部活に入りたいとかは、あるの?」
「うん……私、ピアノが出来たらって思うけど、まだ何も考えてないよ」
「茉莉子ちゃん、ピアノは上手だもんね。吉木くんも褒めてたじゃん、ピアノの幽霊の演奏はすごくうまかったから、まさか同じ小学生の演奏だなんて思わなかったんだ、って」
「う……ん……」
茉莉子の返答が一瞬途切れるが、これは単に彼女が照れているからである。一週間の付き合いでしかないものの、それくらいならば桃子でも読み取れるようになってきた。
グラウンドでは前半戦が終わったようで、日葵たちがグラウンドの外周で腰を下ろしている。桃子が軽く手を振ると、地面に腰を下ろして休憩している日葵も手を振り返してくれた。後半戦も頑張って欲しいところだ。
「あ、でもさ。茉莉子ちゃんも、14歳になればダンジョンに入れるようになるよ? 日葵ちゃんと一緒に、探索者にチャレンジしてみたら?」
「それは……やっぱり、怖いなって。ダンジョン、奥の方はすごく危険だって聞くから」
「あー、うん。危険がいっぱいなのは間違いないね」
「うん」
「ただ、探索者って言っても色々だよ。ダンジョンの第一層に入ってすぐの安全な範囲だけを探索する人もいるし、それこそ房総ダンジョンとか香川ダンジョンの第一層だけだったら、観光気分の人もいるんじゃないかなあ」
「そう、なの?」
桃子は探索者としては異端すぎるタイプなので、自分の経験談が何の参考にもならないことは流石に把握している。
だが、一般的な探索者についても、知識としては知っている。
ギルドを訪れる探索者のうち、下層まで潜る探索者というのは半数もいない。数字にすれば、およそ7、8割ほどが第一層だけを探索する探索者だという。
それが房総ダンジョンのように難易度の低い場所ならば第二層程度まで潜ることもあるだろうが、それでも基本的には危険を伴う下層まで潜る探索者というのは少数派だ。安全な場所だけ探索するのが大多数なのは間違いのない事実である。
「もちろん、入り口付近だったら絶対安全っていうわけじゃないけどね。でも、もし興味があるなら、ベテランの人について入り口辺りだけでも見てみるのもいいと思うよ?」
「うん……」
「あ……でも。茉莉子ちゃんが怖いなら、無理していかなくていいの。なんか勧誘みたいにしちゃって、ごめんね」
もちろん、ダンジョンというのは命に関わる危険な場所なので、そもそも小学生の女児を安易に誘うべき場所ではない
なので、つい勧誘するような口ぶりになってしまったことを桃子は反省し、自戒する。
それでもやはり、探索者であり、ダンジョンのアイテム職人見習いである桃子としては。
茉莉子といつの日かダンジョンで再会できたら、それはとても素敵な事だなと、思ってしまうのだ。
「ところで、四年生の応援に紅子ちゃんいるかと思ったけど、紅子ちゃんいないねえ」
「うん」
桃子たちから離れた場所には下級生たちのグループがあり、四年生たちの一団も目に入る。
けれど、残念ながら。図書室で出会った人懐こい少女の姿は、結局最後まで見つけることはできなかった。
サッカーの試合を終えて、時刻は夕方の4時40分を過ぎた頃合い。
日葵と茉莉子は、荷物をとりに旧校舎の六年一組の教室に戻っていた。
「桃子ちゃんは夕食の買い出しで先に帰ったんだっけ? お家では桃子ちゃんがいつもご飯作ってるんだってー。偉いよね」
「うん、すごい」
「あーあ、桃子ちゃんと一緒にいられるのもあと数日かあ。せっかく、女の子の友達が増えたのに、寂しいねー」
「うん……」
サッカーの後、教室に置きっぱなしだったランドセルを取りに旧校舎へとやってきた日葵と茉莉子の二人は、雑談を交わしながら教室をあとにする。
廊下には今週いっぱいでお別れになるリス太郎もいるが、どうやら今は睡眠タイムのようで、彼は可愛らしい寝息を立てていた。周囲には砕けたクズ魔石の破片もあり、魔力の補給も問題ないようである。
眠るリス太郎を少しだけ眺めてから、二人で昇降口へと向かう。午後4時43分。
「茉莉子ちゃんなんか、桃子ちゃんのことお姉ちゃんって懐いちゃってたもんね。最後にさ、一回くらいお泊まり会とかしてみない? 週末にでもさ」
「うん、きっとお婆ちゃんも喜ぶと思う」
「あっ、そういえばさ。昨日二人が話してた久世さんて四年生なんだけどさ。やっぱりうちの学校にはそんな子――」
旧校舎の小さな昇降口で靴をはきかえながら、日葵は後ろにいるはずの茉莉子を振り替える。
しかし、そこには。
「――茉莉子ちゃん? ……茉莉子ちゃん?」
午後4時44分。
名波茉莉子は、昇降口で姿を消した。
【くいしんぼ妖精】
「……桃子。今から。学校に行くぞ」
「ふぇ? もう夕方だよ? いきなりどうしたのヘノちゃん」
「なんだか。美味しいものに。呼ばれてる気がするぞ。桃子が通ってる。旧校舎っていう建物だ」
「へっ、美味しいもの!?」