ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「よし。桃子にそいつが相応しいかどうか。ヘノが見てやるぞ」
ヘノにタチバナのことを報告したところ、第一声がそれである。
後輩にあたる女子高生タチバナとのやり取りを経て、次の日。
土曜日になったらタチバナがやってきてしまうため、平日のうちにヘノに相談をしておかねばと、仕事が終わってから電車で夕方の房総ダンジョンへとやってきた。
そして、ヘノの返答が、それだった。
「え、私はてっきり『探索するのか。ヘノ以外のやつと』とか言われるかと思ってたんだけど」
「なんだそれ。ヘノは別に。構わないぞ。離れてみていてもいいし。桃子の服に隠れていてもいいからな」
「そうなんだ……まあ、ヘノちゃんがいいならいいのかな?」
例えば、ヘノと二人きりの時間が減ることに対して文句を言われたりとか。
例えば、ヘノ以外の誰かと一緒にいることに文句を言われたりとか。
例えば、ヘノがタチバナに敵対心をむき出しにするとか。
簡潔に言うなら、もしかしたらヘノがやきもちを焼いてくれるんじゃないか、とか想像していたのだが、全くそんなことはなかった。実にドライな妖精だ。
「でも、ヘノちゃんが見つかっちゃったりしたら、どうしたらいいと思う? あとは、妖精について聞かれちゃったりとか」
「なるように。なるだろ。ヘノも。桃子の後輩が無害そうなら。会ってみたいぞ。それで問題があったら。ヘノが。ガツンと言って。話をつけてやる」
ガツン。
どちらかというとガツンというより、爪楊枝――ではなくツヨマージでおでこをプスっと刺しそうな勢いだが、どちらにせよヘノはさほど気にしていない様子だった。
「うーん、もしかして色々悩んでたのって、私の独り相撲だった?」
最近は相撲にいい思い出がない。このままでは相撲という競技が嫌いになりそうだ。
小さくため息をつき、近場にあった小岩に腰を下ろして、夕暮れに染まる第一層の森林地帯を高みから眺める。
ヘノも定位置である桃子の肩の上にふわりと舞い降りた。
ここは房総ダンジョン第一層の、ルートから外れた方向にある小高い丘の上だ。
ここらはちょうど木々が少ないポイントになっていて、少し離れた場所にはいくつかの探索者のテントが張られているのが見える。出口が近いので外に出れば宿くらいあるのだが、房総ダンジョンにおいては野営キャンプを選ぶ探索者が少なくない。
むしろ、キャンプ目的で訪れる探索者たちも多いようだ。
もちろんゴブリンや小型魔獣が出没する可能性はあるものの、複数のパーティが寄り添って、交代で見張りを立てておけば安全にキャンプを体験できるというのが、房総ダンジョン第一層の楽しみ方の一つだった。緩さで有名なだけのことはある。
他のダンジョンでこんな過ごし方をしていたら大惨事につながるので、おすすめはできないが。
「桃子。ヘノは桃子の相棒だけれど。桃子にも。ああいった。人間の仲間がいても。いいと思うぞ」
「ヘノちゃん……」
「まあ。桃子に相応しくない奴なら。女王に頼んで。ちょちょいと記憶を消してもらうけどな」
「ヘノちゃん……」
ちょっと怖い。
女王はあんな優しい顔をしておきながら、ちょちょいで簡単に人の記憶を消してしまうのかと、桃子は戦慄した。
妖精の国の記憶と言えば、女王の間で眠りこけていた鎧騎士ことサカモトもあの場所のことを知っているけれど、彼は【魔法耐性】があったから記憶が守られていただけなのかもしれない。
「それはともかく桃子。ヘノも桃子に聞きたいことがあるのだ」
「うん、何でも聞いて? ヘノちゃんなら、何でも答えてあげちゃうよ」
「何でもは聞かないぞ。桃子は。野菜と。魚。どっちがいい?」
「うん?」
ご飯の話だろうか。
野菜といえば野菜カレー。魚といえばサバカレーあたりが思い当たる。
どちらも美味しいものだけれど、パッと思いつくのはやはり、ごろごろ野菜が入った野菜カレーだ。
「というわけで、野菜かなあ?」
「何がというわけなのか。わからないが。じゃあ次に来たときは、野菜を探しに行こう」
「あっ、前にニムちゃんが言ってたやつ! 畑とか釣り堀とか、作るんだよね?」
前に女王の間で話したことを思い出し、桃子は手を叩いてつい大きな声を上げてしまった。
鵺から出てきた紅い珠――つまり、凄く上質の魔石で、ヘノの望むものを女王が創りだしてくれるという話だ。
もちろんヘノの望みなので、桃子が口をはさむことではないのだが、やはりあの妖精の国で野菜や魚介類が取れるようになることを想像すると、正直心が躍る。
「女王が新しく作った空間に。畑と。釣りが出来る大きな池を。作り終えたんだ。ただ。今のところは何も植えていないし。何も泳いでいないので。最初はヘノたちが。捕まえてこないといけない」
「あっ、そうなんだ。野菜なら種とかを買っていくことは出来るけど、魚となると……どうすればいいのかな」
野菜の種なら、今時なら駅前のスーパーでもある程度は購入することが可能だ。
とはいえ、桃子もトマトやゴーヤのようなプランターで育てられる程度の野菜なら育てたことはあるものの、畑で本格的に育てるとなるとさすがにそこまでの知識はない。
園芸の本でも買っておいたほうがよいかな? などと考えていると、肩からふわりと浮き上がったヘノが桃子の正面へ移動して、ドヤ、といった感じに胸を張ってみせる。
「桃子。野菜と言っても。ヘノが考えているのは。ダンジョン内の。もの凄い野菜だぞ。ダンジョンで。様々な野菜を探して。集めてくるんだ」
「ダンジョンの野菜? ……って、そこら辺にある果物みたいな?」
周囲の森を見渡す。確かこの周囲でも、名前はわからないものの食べられる果実を収穫できたはずだ。
とはいっても、今日はそろそろ暗くなってきているため、森の中まではほぼ何も見えないが。
「そうだぞ。この前の干からびた大根じゃなくて。なんか。すごい野菜が。ダンジョン内には生えているんだぞ」
「ふぇー……すごい野菜」
もちろん、果実がなっているのだから、野菜が実っている場所があってもおかしくはないだろう。
世の中、ダンジョン内の食材を専門に扱う飲食店や、中にはダンジョン内で自給自足を目指している変わった人たちもいるらしいが、桃子はそこまでダンジョン食材についての知見がなかった。
ただただ、ヘノは博識なのだなあと、感心していた。
「だから。まずは野菜だな。ヘノが聞いた話では。房総ダンジョンの第四層にも。何か。芋みたいなのがあるらしい」
「ここの第四層? へぇ、知らなかったよ」
ヘノの語る房総ダンジョン第四層とは、第三層の鍾乳洞窟を越えてたどり着く下層である。
オーソドックスな岩の洞窟なのだけれど、途中から木の根のようなものが絡み合い、そこに根を張る不思議な植生で、岩と植物の迷宮となっているらしい。通称『大樹の根』と呼ばれている。略称は大根だ。
「大きな植物なんだが。地上に出ている花の部分が。大きな昆虫型の魔物を捕えて。そこから芋に養分を――」
「待ってヘノちゃん、やっぱり魚にしよう! お魚大好き!」
大樹の根。そのダンジョンの特色として、巨大な昆虫型のモンスターが多く生息しており、第四層まで辿り着いた探索者たちは「まるで巨大な虫の巣に入ったようだった」と口を揃えて言う場所だ。
桃子にとってはまだ未知の場所なので、興味がないわけではない。が、わざわざそこまで潜ったうえで食虫植物を食べたくはなかった。
そんな桃子の要望で、やっぱり最初は野菜から魚に変更となる。
「そんなに魚が食べたかったのか。じゃあ。第三層にある。地底湖で。魚釣りでもしてみるか」
「うん、それなら大丈夫だね。でも、あそこってお魚なんて釣れるんだ?」
「多分な。そうだ。いいことを考えたぞ。今週は。桃子の後輩も連れていって。一緒に釣りをさせよう」
「えっ、ヘノちゃんがそう言うなら、いいけど。まあ第三層なら、危険もないかな」
房総ダンジョンは他のダンジョンよりも緩く、第三層あたりまでなら桃子でもなんとか対処できる。
そのうえでヘノが見守ってくれているのなら、後輩の少女を連れていっても万が一ということもないだろう。そもそも彼女は桃子より強い高レベル探索者だ。
「じゃあ。女王にも。話をつけておくぞ。釣りに必要なものは。桃子に任せるぞ」
「ええっ?! 私に丸投げする?! 釣り竿とか、そういうのがあればいいのかな」
急に任せられてしまった。
桃子も釣りというのはやったことがない上に、ダンジョンの地底湖に向いた釣り道具なんて何が必要なのかさっぱりわからない。
「大丈夫だ。ヘノも。魚に詳しいやつに。聞いておくからな」
そんなこと言うヘノだが、ヘノの知り合いというと、他の妖精たちだろう。
釣りが趣味の妖精でもいるのだろうか? 先日おにぎりを手渡した妖精たちの姿を思い起こすも、個性は色々あれど各々の趣味までは分からない。
いや、毒物が趣味の子だけはとても分かりやすかったが。
「まあ、当日やってみて、ダメだったらまた準備しなおして再チャレンジすればいいもんね!」
「そうだぞ。あまり考えないのは。桃子の良いところだぞ」
「それって褒めてるの?」
桃子は訝しんだ。
「さて、と。もうこんな時間かあ」
ダンジョン内でも空があり、日が暮れて夜が訪れれば上空には星空が広がる。不思議なものだ。
特にこの房総ダンジョン第一層は、空気が綺麗だからか、はたまた人工の明かりがないからか、ダンジョンの外ではお目にかかれないような美しい星空も名物だ。
遠くではキャンプ中の複数の探索者たちが集まって、バーベキューを焼いている。
ダンジョンとしてはかなり異例な光景だが、あれだけ人数がいればゴブリンや小さな魔獣が来たところで大した被害にはならないだろう。
桃子は今日はヘノと話をしにきただけで、探索道具もリュックも持ってきていないため、さすがに家に帰ることにした。
「じゃあヘノちゃん、今日はそろそろ帰ろっ……か……」
元気に立ち上がり、後ろを向いて歩き出そうとするが、目の前に広がるのは森。
いくら難易度の低いダンジョンとはいえ、森は森である。魔物も出るし、木々が密集していれば星の光も届かない。
つまり、真っ暗な森である。まっくら森である。
「桃子。今日は明かりは持っていないんだな。大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃない、かも」
今日はもともとダンジョンに潜る気もなく、仕事のあとにヘノと相談するために立ち寄っただけだった。ランタンもなければ、ろうそく一本もない。
唯一の明かりとなりそうなのが、魔石が仕込まれた端末の発する光。あと、目の前にふよふよ浮かぶ、小さな妖精の緑色の光だけ。
「……うぅ……か、懐中電灯くらい……持ってくればよかったよぉ……」
「桃子。なんだか口調が。ニムみたいになってるぞ」
【隠遁】でも【カレー製作】でも、真っ暗闇には敵わない。
ついこの前、井戸の幽霊で恐ろしい思いをしたばかりなので、より一層恐怖心が騒ぎ立てる。
平日でもランタンくらいは常備しておこうと心に決めて、緑色の小さな光を頼りにして、半泣きになりながら真っ暗道を帰る桃子だった。
【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ2】
:鵺を倒す萌々子ちゃん(イラスト)
:なんか萌々子ちゃんの形跡があったみたいな噂を聞いたけど、どうなん?
:最初に降りた深援隊が何も発表してないからわからんわ
:何でもかんでも萌々子ちゃんの功績にする風潮は良くない。
:松茸を七輪で焼く萌々子ちゃん(イラスト)
:その話すこwww
:迷い組が焼いてた松茸が1つ減ってたエピソードは草
:やっぱ本当にいたんだね、萌々子ちゃん。
:前のときは鎧マンの妄想の産物の可能性があったからな
:味噌おにぎりを大量につくる萌々子ちゃん(イラスト)
:想像で味噌に山椒と香辛料いろいろ入れてみたんだけど、なんかカレーみたいになっちゃった
:そりゃ香辛料沢山いれたらカレーになるわい
:クミンをいれたらなんでもカレーっぽくなる説
:布団にじゃがいもを並べる萌々子ちゃん(イラスト)
:じゃがいもで魔法陣が出来てたんだっけ?
:肉じゃが召喚の儀だろう。
:萌々子ちゃん直筆の手紙をギルドが没収したって噂は本当?
:なんか奪い合いでギルドで乱闘になったとかいう話だぞ
:馬鹿すぎて草
:探索者は脳筋多すぎなんよ