ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「モチャーっ! ……あ、女の子がいるモチャねえ。キミたちがボクを生み出してくれたモチャ? ここはどこモチャ? キミたちは誰モチャ? ボクは誰モチャ?」
「動く石像……?」
「モチャゴン……?」
この日のこと、今でも思い出せるモチャよ。
不思議な教室で、気づいたらボクの目の前には二人の可愛い女の子がいたモチャ。
紅子ちゃんと、茉莉子ちゃん。
紅子ちゃんが、ボクの身体を作ってくれたモチャ。茉莉子ちゃんが、ボクに命を吹き込んでくれたモチャ。
ボクはね、とっても嬉しかったモチャよ。生まれてきたこと。必要としてくれたこと。笑顔で笑いかけてくれたこと。
ずっと、ずっと、ボクの思い出の中でも、一番の宝物なんだモチャ。
「一緒にいるモチャよ。紅子ちゃんが、小学校を卒業する日も、中学生になる日も、高校生になる日も」
「キミが大人になる日も。きれいな花嫁さんになる日も。ママになる日も。お婆ちゃんになる日も。モチャゴンは、ずーっと一緒モチャよ。だから、哀しまないで、大好きな紅子ちゃん」
「……だって……そんなの……先のこと、なんて……」
「ボクはね、紅子ちゃんがお婆ちゃんになるまで、ずっと、ずーっと、一緒に居るモチャよ。絶対に、約束するモチャ」
「う……うぅ……わたしの……もちゃごん……」
あの夜は、夢のような時間だったモチャね。
時間にすれば、紅子ちゃんの長い長い人生の中では、たったの一瞬の出来事だったかもしれないけど、ボクにとっては、掛け替えのない宝物のような思い出モチャ。
紅子ちゃんを背中にのせて、茉莉子ちゃんと花子ちゃんが一緒に歩いて、ペコちゃんも、火の玉さんたちも、楽器さんたちも、みんな一緒だったモチャね。
夢の時間はあっという間に終わってしまったけど、それでもね。紅子ちゃん。
モチャゴンは、あの時の約束を、今でもずっと覚えているモチャよ。ずっと、一緒だったモチャよ。
紅子ちゃんのこと、見守らせてくれて、ありがとうモチャ。
「モチャゴン、学校には茉莉子ちゃんも桃子ちゃんもいなかったよ……誰もね、知らないって、覚えてないっていうの」
『紅子ちゃん、元気を出して。モチャゴンは、皆のことを覚えてるモチャよ。あの夜が本当だったことを、忘れないモチャよ』
「先生も、お母さんも、紅子がその話をすると、悲しそうな顔するの。その話は、やめて欲しいみたい……」
『紅子ちゃん……』
「私、茉莉子ちゃんと桃子ちゃんのこと、忘れたくないよぉ……モチャゴン、返事してよぉ……」
『紅子ちゃん、声は届かなくても、モチャゴンはここにいるモチャよ。泣かないで、泣かないで、紅子ちゃん』
あの頃は毎日、学校であったことをボクに話しかけてくれたモチャね。残念ながら、ボクの声は届いてなかったモチャけどね。
しばらくの間は、まだ四年生だった紅子ちゃんはとっても、とっても辛そうだったモチャ。
茉莉子ちゃんと花子ちゃんのことを聞いて回って、調べてもらって、でも見つけられなくて。
モチャゴンは、何の力にもなれないことが、自分の声が届かないことが。涙も流せないことが。とっても悔しかったモチャ。
でも、モチャゴンは、それでも。信じていたモチャよ。
ボクが大好きになった紅子ちゃんは、笑顔が誰より可愛らしい紅子ちゃんは、きっと元気になってくれるって。
信じることしかできないモチャゴンだけど、少しは、紅子ちゃんの支えになれたモチャか? なれてたなら、モチャゴンは幸せモチャよ。
「モチャゴン、決めたよ! 私、自分から探すの諦めた。だから、茉莉子ちゃんたちから見つけて貰うことにしたよ!」
『え? どういうことモチャ? モチャゴン、難しいことはよく分からないモチャよ?』
「これ、見て! 高校の文芸部で書いた小説を出版社に送ったら、賞を貰えたの! これをね、もう少し書き直したものを本にしませんかって、出版社から電話がかかってきたの!」
『うふふー、すごいモチャねー! 紅子ちゃん、プロの作家さんモチャ! 今日はお祝いモチャねえ!』
「タイトルは『モチャゴンと大空の妖精』でね、桃子ちゃんが聞かせてくれたお話を改造したものなんだよ。これを見たら、桃子ちゃんと茉莉子ちゃんも気づいてくれると思うんだ!」
『え? モチャゴンのお話モチャ?! 勝手にお話を参考にしちゃって、大丈夫モチャか?』
紅子ちゃんは、中学生になって。高校生になって。あっという間に、大きく育ったモチャね。
色々な日があったモチャね。とっても嬉しくて、パパさんやママさんと笑い合ってた日も。哀しいことがあって、ずっと、声を殺して泣いていた日もあったモチャね。
そして紅子ちゃんは、自分の道を見つけたモチャ。
それは、作家さん。
パパさんママさんも最初は驚いてたけど、紅子ちゃんの新しい道を応援してくれたモチャね。本当に、良かったモチャねえ。
モチャゴンも、これがきっかけで有名になっちゃうなんて、この時は思いもしなかったモチャねえ。
「どうしよう、モチャゴン……名波さんに、プロポーズされちゃった……」
『え、えええ?! べ、紅子ちゃん、ど、どうするモチャか? 名波さんて、本の会社の、何度もここに来てくれてた優しい人モチャよね?』
「名波さんと結婚して、東京で一緒に過ごそうって……ど、どうしよう……わああ、わああ……!!」
『紅子ちゃん、顔が真っ赤モチャね。とっても、幸せそうモチャね。モチャゴンも、今とっても幸せモチャよ……』
ランドセルを背負ってモチャゴンの背中に乗っていた小さな紅子ちゃんは、気づけばとっても素敵な大人の女性になったモチャね。
知ってる? 紅子ちゃん。
名波さんはね、紅子ちゃんがいないときにね、石の身体でしかないモチャゴンにも、頭を下げてくれてるモチャよ。子供だった紅子ちゃんを助けてくれて、自分と引き合わせてくれて、ありがとうございますって。
紅子ちゃんが幼い頃に出会ったモチャゴンのお話を、名波さんは信じてくれているんだモチャよ。
名波さんは、とっても素敵で、紅子ちゃんを幸せにしてくれる。きっと、運命の人だったモチャね。
「母ちゃん、モチャゴンとヒーロー戦わせていいー?」
『緑くん、モチャゴンはそういうアレじゃないモチャよー? まあでも、モチャゴンは下手な怪獣より格好いいから仕方ないモチャねえ』
「ずががーん! スペースビーム! モチャゴンは死んだ!」
『モチャっ?!』
モチャゴンも一緒に東京に連れていってくれてありがとうモチャ、紅子ちゃん。
東京で生まれた緑くんは、小さい頃から元気いっぱいだったモチャねえ。初めて出会ったときの紅子ちゃんより元気モチャ。
紅子ちゃんが、小さい緑くんに何回も読み聞かせていたモチャゴンのお話、ボクも大好きモチャよ。
主人公が自分なのは、何度聞いてもちょっと照れちゃうモチャけどね。
緑くんが、元気で、でも優しい子に育ったのは。きっとボクのお話を沢山聞いて育ったからモチャね。緑くんはきっと、ボクに似てるんだモチャね。うふふー。
元気すぎて、モチャゴンの身体を人形遊びの勢いでそのまま壊されるんじゃないかって、ちょっとだけ怖かったのは秘密モチャ。
「はぁ……モチャゴンのシリーズを扱ってたところが、なくなっちゃうのよ。私のモチャゴン印税もここまでかー」
『紅子ちゃん、元気を出すモチャ……って、なんかため息つくところがちょっと奇妙モチャね』
「出版部門自体は大手に吸収されるらしいけど、児童書部門はなくなっちゃうんだって。これも、あのダンジョンが悪いのよダンジョン、いきなり出版社の足元に現れるとか、酷くない?」
『大変モチャねえ。でもきっと、ダンジョンでは魔法生物のお友達が沢山増えるモチャよ。ペコちゃんみたいな妖精さんも……きっと、沢山いるモチャよ』
モチャゴンは紅子ちゃんが本を書いている間、つけっぱなしの居間のテレビを眺めることが増えたモチャ。
この時期には、日本のダンジョンに大きな波が来ていたみたいモチャね。特に北海道のニュースは痛ましかったモチャねえ。
モチャゴンはダンジョンに入ったことがないので分からないモチャけど、きっと何か大きな力が、日本にやって来たモチャね……。
でも、モチャゴンのご本を出してくれてた会社が無くなっちゃったのは、ちょびっと、寂しいモチャねえ。
「あははっ、モチャゴン、聞いてよ。長崎の茶子ちゃんから聞いたんだけど、七守小学校で『モチャゴン』が七不思議として定着してるらしいわよ」
『モチャ?! モチャゴン、今まで七不思議じゃなかったモチャか?!』
「私が親戚の子たちにあの夜のお話を聞かせたことあったでしょう? その子たちが、七不思議を広めていったみたいよ。『動く石像』っていう話が『モチャゴン』っていうタイトルに変わってるんだって」
『モチャゴン、動く石像っていう七不思議だったモチャかー。本人も知らなかった事実モチャよ』
もう、この頃は。緑くんも大人になって。紅子ちゃんは、あまりあの夜の話を持ち出さなくなったモチャ。
でも、知ってるモチャよ。作家さんになってからは、長崎の親戚の子たちに、定期的にお話として聞かせてあげていたモチャよね。
七不思議、懐かしいモチャね。
花子ちゃん。ペコちゃん。火の玉さん。ピアノさんたち。花子ちゃんの持ってた不思議な本と、昇降口さんはお話できなかったモチャけど、みんないい仲間だったモチャよ。
またいつか、会いたいモチャねえ……。
あれから、長い時間が過ぎていったモチャね。
嬉しいことも、悲しいことも、沢山あったモチャね。
緑くんは、とっても素敵なお嫁さんを見つけたモチャ。けど、お仕事で別なところに引っ越してしまって、寂しくなったモチャね。
そして名波さんは、紅子ちゃんよりも、モチャゴンよりも先に、お空に旅立ってしまったモチャね……。
一人になって、紅子ちゃんは沢山泣いてたモチャね。
でも、そんな日々の中でも。とっても嬉しい出来事が、あったモチャね。
「モチャゴン、緑の子供が無事に生まれたって! 女の子で……聞いてモチャゴン。私の孫の名前、『茉莉子』だって」
『茉莉子ちゃん、モチャ?』
「ねえ、モチャゴン。もしかしたら、もしかしたら……よ? あの茉莉子ちゃんは、私の孫だったのかしら……」
『そうだとしたら……とっても、嬉しいモチャねえ』
「そうだ、私、長崎に帰らないと。茉莉子ちゃん、長崎の学校に通ってたはずなのよ。きっと、成長したら七守小学校の辺りに引っ越すんじゃないかしら」
茉莉子ちゃん。茉莉子ちゃん。ボクに、命をくれた、もう一人の恩人の女の子。
茉莉子ちゃんは、ずっと先の未来から、ボクたちのところに来てくれていたんだモチャね……。
ボクは、残念だけど、茉莉子ちゃんが大人になるまでは、この世界にはいられないモチャ。
でも、いなくなってしまう前にもう一度茉莉子ちゃんに会えるって分かって。本当に、本当に嬉しかったモチャよ。
「モチャゴン、茉莉子ちゃんがこっちに住むことになったのよ。ただ……うん、東京ではちょっと、学校で友達とうまく行かなかったみたい」
『……そう……モチャか……でも、あの茉莉子ちゃんは……とても元気だったから……大丈夫、モチャ……』
「桃子ちゃんもいるのかしら。でも、桃子ちゃんも確か転校生……ああ、どうしよう。私、もうそんなに昔のこと覚えてないのよ……」
『うふふー……大丈夫、大丈夫モチャよ……紅子ちゃん。きっと、大丈夫』
茉莉子ちゃん、東京の学校は合わなかったみたいモチャね……。
でも、大丈夫モチャよ、紅子ちゃん。ボクたちは、知ってるはずモチャよ?
茉莉子ちゃんは、少しばかり、物静かだけど……ちゃんと前を向いていて、お友達もいたはずモチャよ。
だから、不安にならないで。大丈夫。大丈夫……。
「モチャゴンなの?! ねえ、どこ? どこにいるの?」
『良かった……声が届いたモチャね。ああ、良かった……モチャゴンはキミたちに、ずっと、会いたかったんだモチャ』
「こいつだ。この石の像が。本体だ」
いま。長い、長い想い出が、頭を過っていたモチャよ。きっと、ボクはもう、消えてしまうモチャね。
でも、どうにか。間に合ってくれたみたいモチャ。
ああ、本当に、長かったモチャねえ。ボクが消えてしまうその日に、キミたちが間に合ってくれたのは、神様のお導きモチャよ。
花子ちゃんとペコちゃん。
ボクと出会う前の二人は、とっても驚いてるモチャね。
ごめんね、実は本当は違う名前だって、知ってるモチャ。でも、ボクの心は、ずっとあの日の皆と共にあるんだモチャよ。
『最期にどうか……お願いを聞いて欲しいモチャ。キミたちにしか……頼めないこと……モチャ』
「う、うん……何か、せめて私に出来ることがあるなら、聞かせて……!」
『このお家の女の子。茉莉子ちゃんのことを、どうか……お願いするモチャ。茉莉子ちゃんが……ちゃあんと、笑顔で、無事にお家に帰れる……ように……どうか……お願……モチャ……』
「わかった、分かったよ! 茉莉子ちゃんのことは――」
ボクの心残り。
あの日、茉莉子ちゃんが無事にお家に帰った姿だけは、見ていないんだモチャよ。
だから、それは花子ちゃんに任せるモチャ。
花子ちゃんたちがいてくれるなら、ボクは安心して、お空にいけるモチャ。
実はね、さすがにちょっと、ちょっとだけね。モチャゴン、疲れちゃったモチャよ……。
でも、良かった。消える前に、あの夜のことを鮮明に思い出せたモチャ。
ボクの大切な思い出。宝物の記憶。今日まで忘れずに、いられたモチャ。
カレー、沢山食べたね。探検、楽しかったね。本当に、楽しかったモチャねえ。
ペコちゃん。花子ちゃん。
ありがとうモチャ。
……モチャ?
……あれれー? ここはどこモチャ? キミたちは誰モチャ? ころぽ……?
うわあ、花子ちゃん、なんだか大変なことになってるモチャねえ。
これは、もう少しだけ、モチャゴンも見守ってあげていた方がいいかもしれないモチャねえ。
頑張るモチャよ、花子ちゃん。
八章 学校の七不思議 了
八章これにて完結です。
活動報告にあとがきをのせておりますので気が向いたらどうぞ。