ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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九章 ニライカナイの精霊
はっぴぃばーすでぇ


「はっぴーばーすでー、とぅーゆー♪」

 

 妖精の国の、女王ティタニアの間。人間用のテーブルの上座に座った柚花の右側で、桃子が歌う。

 

「はっぴばーすでー。とぅー。ゆー」

 

 桃子の反対側。柚花の左から、ヘノが歌う。

 ヘノは相変わらずの無表情で、歌声そのものも半ば棒読みなために今一つ感情が伝わってはこないのだが、それでも一応はきちんと歌ってくれている。なお、メロディーは出鱈目だ。

 

「は、はっぴぃばーすでぇ……でぃあ、ゆ、ゆかさーん」

 

 続いて、柚花の正面では所々噛みながらも、ニムが歌う。ヘノと違い、きちんと桃子が教えた正しいメロディーで歌っている。

 所々噛んではいるけれど、しかしニム本人としては相当頑張っているようだ。この短いフレーズだけでも顔が真っ赤になっており、いつにも増して泣きそうな顔になっている。

 

『はっぴーばーすでー、とぅーゆー♪』

 

 そして、最後は全員で合唱。桃子たちだけでなく、その場にいる他の妖精たちや、女王ティタニアまでもが柚花のために歌っていた。

 喜び4、困惑6のようななんとも言えない様子でその歌を聞く柚花に向かって、桃子が拍手を向ける。手を叩きつつ、口でも擬音を発する。

 

「わー、ぱちぱちぱち」

 

「ぱ、ぱちぱちぱち……」

 

「ぱちぱち。ぱちぱち。良かったな。後輩」

 

「あ、ありがとうございます。正直、かなりの急展開に戸惑ってますけど、間違いなく嬉しいですよ! 皆さん!」

 

 この状況に困惑の気持ちは大きいものの、どうにか喜びの感情を前面に押し出して、柚花が皆に礼を言う。

 そう、歌の歌詞の通り、この日は柚花の誕生日である。

 

 

 

 

 

 

 五月に入り、世間はゴールデンウィーク真っただ中。

 この期間は学生である柚花も連休なので、最近少なくなっていた探索配信をしたり、桃子たちとダンジョン内で宝探しをしたり、或いはニムと一緒にジメジメした場所で過ごしたりと連休を満喫していた。

 その連休の中の一つ、五月五日。世間ではこの日は子供の日として有名だけれど、柚花にとってはこの日は自分の誕生日だった。ケーキと一緒に柏餅を食べるのが、まだ小さかった柚花にとっての誕生日の恒例行事であった。

 幼い頃の柚花はその柏餅の存在に疑問を抱いていなかったのだが、成長するに従いバースデー柏餅の存在に不満を覚えていき、中学生の頃には柚花のバースデーから柏餅は姿を消した。

 

 そんな、子供のころの柚花と柏餅の悲しいお話はさておき。

 

 五月五日。誕生日でもあるこの日はニムと遊ぶ約束をしていたので、いつも通りにダンジョンに遊びに来たところ、合流して早々ニムに急かされるかたちで妖精の国へと連れてこられてしまった。

 ニムに連れられ妖精の花畑についたと思えば、次は説明もなにもないままティタニアの間へと続く光のカーテンを潜らされた。

 ニムが何か隠し事をしていることは分かっていたのだが、いったい何事かと困惑しつつも女王の間に視線を向けると、その先には桃子や妖精たちが待っていた。

 

 困惑する柚花は誘導されるがままに椅子に座らされ、そして、今に至るのである。

 

「柚花がいない間にね、こっそり歌の練習してたんだよ。特にニムちゃんが、自分でちゃんと歌って、柚花をお祝いしたいって」

 

「ニムさんたら……可愛いなあ、もう! ちょっと来てくださいっ! ハグしますっ! バースデイハグです! ニムさんは私のものだってマーキングします!」

 

 柚花は、自分の目の前で真っ赤になってもじもじしているニムをそっと手で引き寄せて、胸元に抱き寄せる。みれば、柚花の頬も紅潮気味だ。桃子からすればヘノと同じくらい感情が分かりづらい後輩だけれど、こういう些細なところで感情が見えかくれするのが可愛らしいところだと思う。

 抱き寄せられたニムは、遠慮がちに、おずおずと柚花の胸に身体を預ける。桃子の胸元にも入ったことのあるニムだが、柚花のほうが胸元は柔らかいことを知っている。

 桃子の胸元はさほどふんわりしていないというのは、ヘノとニムの共通認識だった。

 

「ね、今度、ニムさんの誕生日が来たら私が歌ってお祝いしますね?」

 

「あ、いいねそれ。じゃあ私もヘノちゃんの誕生日にはバースデーソングを歌いたいなあ」

 

「桃子。ヘノは。自分の誕生日なんて知らないぞ。ニム。お前。誕生日なんて。知ってるか?」

 

「うぅ……わ、私って、いつが誕生日なんですかねぇ……? わ、分からないですねぇ……」

 

「あー、それもそうですね。じゃあ、ニムさんと私が出会ったあたりが仮の誕生日っていうことで。また秋ごろにお祝いしましょうね!」

 

 妖精たちはどうやら、自分の生まれた日というものは気にしていないらしい。柚花の胸元に抱きしめられていたニムが、きょとんとした顔で首を傾げつつ、柚花を見上げている。

 ニムだけでなく、自身の誕生日など周囲にいる妖精たちも今まで気にしたことが無かったようで、みんなして首を傾げていた。見れば、女王であるティタニアですら首を傾げている姿が見える。

 ここは人間社会と違い、季節の移り変わりもなく、そもそもカレンダーすら存在しないダンジョンの世界だ。ここで生活している妖精たちは、場合によっては日付の概念すら知らない可能性すらあるだろう。

 桃子と柚花は、みんなして首を傾げる妖精たちの姿を見て、苦笑気味に顔を見合わせた。

 

 

 

「あー、ところで先輩。そちらのコーナーは」

 

 次に柚花が気になっていたのは、テーブルの端にある、謎の山。

 上には真っ白な木綿の布地が被せてあり、山の中身が見えなくなっている。しかし、いかにも『何か隠してます』感が半端ないため、さすがの柚花もスルーしきれなかったのだ。

 

「あはは、やっぱり気になっちゃう? ええと……これは、じゃあ、妖精の子に説明してもらっちゃおうかな! はい、代表でルイちゃん、クルラちゃん」

 

「ククク……私が代表かい……? まあ、柚花くんにも世話にはなっているからねぇ……妖精たちからも、誕生日プレゼントがあるのさぁ」

 

「そうよ♪ 全部ここにまとめてあるから、見ていってちょうだいね♪」

 

 女王の娘たちのなかでは年長組のルイとクルラが、ふわりと浮き上がって説明しながらその大きな布を外していく。

 するとそこには、中央には市販品と思わしき箱ごとのホールケーキが一つ。これは流石に桃子が持ち込んだものだとはすぐに分かるが、分からないのはその周囲に置かれた雑多な品物の数々だ。

 何かの瓶に、小さな石鍵。どこかで見たような布切れ、などなど。流石にこれは【看破】をもってしても意図を見破れない。本人たちから説明を聞かねばよく分かりそうにない。

 

「ええと、誕生日プレゼント……は、嬉しいんですけど。これ、それぞれ説明を貰ってもよろしいですか?」

 

「ククク……さすがの柚花くんでも、これだけでは流石に分かりようがないねぇ。なら……皆、順番にプレゼントを渡していきたまえ」

 

「じゃあ! アタシから渡すけどいいかな! これ、ダンジョンで拾った、なんか不思議な形の――」

 

 

 この後、柚花は妖精それぞれからプレゼントを渡されていく。

 基本的には笑顔でお礼を言う柚花だけれど、渡された品物が『ダンジョンで拾った錆びかけの草刈り鎌』『とりあえず乾燥させてみたイカ』『カリンが落としたまま渡し忘れていたリボン』『スフィンクスの鍵』と続くにつれ、だんだんとその笑みが引きつっていく。

 最後の鍵に至っては鳥取の砂丘ダンジョンの下層へ潜るための最重要アイテムだ。これはいくらなんでも受け取れないと、丁寧に返品させて貰った。

 

 横に座っている桃子は「すごーい」だの「激レアだね」だのと喜んでいるが、柚花がティタニアに視線を向けるとあからさまに視線をそらされた。

 ティタニアは内心では、これらの品がプレゼントとしておかしいことは分かっているようである。さすがは女王だ。

 

「私のプレゼントは、これだよぉ。珍しい石があったから、持ってきたよぉ」

 

「え、なんですかこれ、どこのダンジョンで採れるんですか? これ普通に未発見のやつじゃ?」

 

 さすがに、女王の娘の中でも随一の常識力を持っている大地の妖精ノンは、プレゼントというものが分かっていた。

 それは、柚花の手のひらでも包み込めそうなサイズの、小さな石である。

 しかし、それは緑からオレンジ、オレンジから紫と、視る角度によって反射する色を変える不思議な光沢を持つ、柚花も、桃子すらも見たことのない石だった。

 更には、柚花の眼で視ると、何やら不思議な魔力の流れを感じる。これが何なのかは分からないが、何だか物凄く価値のありそうな石である。

 

 柚花は、これは丁寧に包んで、後日ギルドでも調べてもらうことにする。

 

 

「ククク……私とクルラからは、これさぁ。特製の薬草を漬け込んだお酒だねぇ」

 

「んふふ♪ お酒に薬草の成分が溶け込んで、熟成させるほど滋養強壮の効果も増していくのよ♪」

 

「あの、私まだ未成年なんで、そんな堂々とお酒は飲めないんですけど……?」

 

 そして次に手渡されたのは、年長組二人の合同のプレゼントだ。透明な瓶の中にはクルラ特製のお酒が入っているらしく、そこにいくつかの薬草らしきものが沈められていた。薬草の緑色ではなく、不思議と鮮やかな青い色が滲みでており、まさにゲームや映画のドリンクタイプの回復アイテムの様相だ。

 だが、残念ながら柚花は未成年。中身がお酒と知った桃子に没収され、柚花が二十歳になったときに解禁されることになった。

 これについては年長妖精二人組も半ば予想していたことらしく、桃子が没収する姿を「ククク」「んふふ♪」と微笑まし気に眺めているのであった。

 

 

「そして、こちらの林檎が……ニムさん、ですよね?」

 

「あ、この綺麗な林檎なら私も大好き。美味しいんだよね、これ」

 

 卓上に最後に残っているのは、綺麗な色合いの林檎がひとつ。

 この林檎には、妖精たちよりも先に桃子が反応を見せた。

 

 桃子は、最初にこの妖精の国でカレーを作ったときに、妖精たちが持ち寄った具の中にこの林檎が入っていたのを覚えている。

 また、琵琶湖の事件の際には、青い花畑でお腹を空かせていたところに、桃子が飢え死にしないようにとヘノたちが妖精の国から持ってきてくれたのもこの林檎である。空腹だった桃子は、美味しい美味しいとその林檎を食べたものだ。

 桃子の記憶ではこれは、妖精の国の奥にある樹になっている実だったはずだ。

 

「……せ、精霊樹の林檎なんですけど……こ、これを食べて、柚花さんにも、ずっと元気にいて欲しくて……」

 

「せ、精霊樹の林檎なんですか? それって、物凄く稀少なんじゃ?」

 

「え? そうなの?」

 

 桃子は、林檎が美味しかったことは覚えているが、精霊樹の林檎がどれだけ稀少なのかということは考えたことがなかった。言われてみれば、精霊樹というのはツヨマージの元になっている樹でもある。つまりは、とても凄い木だ。

 そして桃子は不思議そうに見ているが、【看破】を持つ柚花の眼には、それがただの美味しいだけの林檎ではないことが分かる。

 それは、魔力の凝縮体。いや、魔力というよりは、なんだかもっと別種の力がその実の中で波打っているようにすら見える。

 

 最終的に、そんな柚花の疑問に答えたのは、その成り行きを見守っていた女王ティタニア、その人である。

 

「ふふふ。どうやら柚花さんには伝えておりませんでしたか。精霊樹の林檎は、食せばその身から生死の境界を遠ざけ、不老の力を得られるのですよ」

 

「は? 生死の境界? 不老……?」

 

「はい。とは言っても、私の力不足で申し訳ありませんが、クリスティーナのような不老になるにはいくつか足りないものがあるため、その林檎だけでしたら若さを保つ効果程度になってしまいますが……」

 

 たった今、この女王ティタニアのパートナーでもあった世界魔法協会会長クリスティーナの『不老の魔女』との二つ名の由来が判明した。

 文字通り、彼女は不老と化しているのだろう。女王の言葉通りならば、クリスティーナの時代には不老になるための条件が全て揃っていたのだろうか。

 

 しかし、ティタニアはさらりと言ってのけたが。

 そして、完全な不老でないことを申し訳なく思っているようだが。

 若さを保つ効果というのは、実はとんでもないものなのではないか、と。

 

 桃子と柚花は顔を見合わせる。

 

 

 

 と、同時に。桃子はあることに気付いて、ヘノを振り返る。

 

「……って、待って待って。私それ、もう何度か食べてるよね?」

 

「そうだな。おいしいおいしいって。沢山食べてたな」

 

「え、えぇー?」

 

 この日、ようやく。

 桃子の肌年齢が10歳になってしまっている原因が、解明されるのだった。

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