ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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離島の女子会

 結論から言えば。

 

「和歌さん、本当に覚えてないんですか?」

 

「桃ちゃんと色々見ていたはずなのに、思い出せないんですよね。これも【隠遁】の影響ですかねー?」

 

「うーん、そっかー」

 

 あの海岸から出てからしばらくすると、和歌はあの海岸のことも、エレクという雷の妖精のことも思い出せなくなっていた。

 覚えているのは、親方たちから離れて、桃子と共に龍宮洞を歩いていたこと。そして意識がぼんやりとしたかと思ったらすでにダンジョンの出口近くで、その間に何をしていたか、何を話していたかを、すっかり忘れてしまったという。

 桃子が、海岸がどう、妖精がどうと話をしても、不思議そうな顔で「そんな話をしていたんですねー」と呟くだけで終わってしまった。

 

 香川ダンジョンの狸たちがダンジョンの出入り口に仕掛けた「記憶が曖昧になる術」と同じようなものかと、桃子は納得する。恐らくはあの不思議な砂浜から出た段階で、その記憶が失われるような仕組みにでもなっていたのだろう。

 妖精の加護で守られている桃子と違い、普通の人間でしかない和歌はその術に抗うことはできなかったのだ。

 

「ぐすん、私、あれだけ桃ちゃんに『忘れませんからねー』なんて大言を吐いていたのに、結局まるっと忘れているだなんて。保護者失格ですねー」

 

「わわ、気にしないでください和歌さん。本当に、気にしてないですから。あとさらっと言ってますけど、保護者じゃないですからね?」

 

 ダンジョンに入った直後のことを思い出す。

 

 親方が【隠遁】状態の桃子のことを忘れないでいてくれたことで、桃子が感極まって号泣してしまったとき。和歌は確かに、桃子に「忘れませんからねー」という言葉をくれた。

 だが、結果だけみれば、和歌は桃子とともに居たはずの記憶をごっそり失っていたのである。

 それを知った和歌は、出来もしない台詞を吐いてしまったと己を恥じ、それはもう凹んでしまった。

 

 しかし、そもそも今回の記憶消去に関しては【隠遁】は関係なく、あの不思議な海岸――ニライカナイに由来するものだ。だから、和歌が反省するようなことなど何もないし、桃子は気にもしていない。

 というか。あの時は桃子も子供の様に和歌の胸で泣きじゃくってしまったので、今になって思い返すと非常に恥ずかしい記憶だ。むしろ、その出来事こそ忘れてしまって欲しいくらいである。

 

 結局二人して項垂れて、その場の空気が重たくなってしまう。

 しかし、その重たい空気を纏った和歌と桃子の前に。

 

 一人の天使が舞い降りた。

 

 否。その姿は、天使ではない。

 

「お待たせしました、ご注文のブレンドコーヒーと、メロンソーダでーす♪ にゃん♪」

 

 金髪碧眼の、やたらと容姿の整った猫耳メイドがにゃんこポーズ付きで桃子たちのもとへと舞い降りた。

 注文したコーヒーとメロンソーダを伴って。

 

 

 

 

 ここは、龍宮礁の中央に建つギルド施設に入ってすぐ、ロビー横にて営業中の喫茶店である。

 利用者は主にこの島で働いているギルド職員と、この島を訪れる探索者たちだ。休憩時間や船便の待ち時間などにここを利用する者が多い。

 食事自体は施設内にしっかりとした食堂があるので、この喫茶店は本当にカフェで一息つくための空間だった。

 

「やった、和歌さん、メロンソーダにさくらんぼが乗ってますよ!」

 

「あら、良かったですねー桃ちゃん」

 

「何を隠そう、さくらんぼはお子さまサービスなのよ♪ 普段はついてないんだから、他の皆には内緒よ? にゃん♪」

 

 そして、この店の名物――か、どうかは知らないが、猫耳メイド衣装の女性がウェイトレスとして桃子たちの前に飲み物を運んできてくれた。よく見たらスカートの上から手作りの尻尾が伸びている。芸が細かい。

 見た所はまだ若く、女子高生くらいと言われてもおかしくない風貌だが、流石にこの平日に女子高生がこんな離島の喫茶店でウェイトレスをしているわけもない。なので少なくとも、18歳よりは上の年齢なのだろう。

 

 外見からして海外から来ている子なのかと思ったけれど、日本語はペラペラだ。もしかしたら、育ちが日本なのかもしれない。

 ふんわりした艶やかなブロンドヘアーからは花の香りがする。パッチリとした青い瞳は人目をひき、服の上からもわかるたわわな体型もモデル顔負けと、桃子もつい見惚れてしまう美しい容姿の猫耳メイドだった。

 やたらと美しい容姿と猫耳メイド姿というブッ飛んだ服装との相乗効果で、彼女の周囲だけは何かのイベント会場のような華やかさである。

 

 彼女はどうやら例の如く、喫茶店へとやって来た小さな来客のことを子供だと思っているようで、アイスの上にさくらんぼをお子様サービスとしてオマケしてくれた。

 だが、ここはそもそもギルドが管理しているダンジョン島だ。この島にダンジョンに入れない年齢の子供が来る機会自体がまずないのだから、お子様向けサービスなど存在するわけがない。これはきっと彼女個人の独断なのだろう。

 彼女がこの店の責任者ということはないだろうが、しかし見る限り喫茶店スペースは彼女一人が担当しているようにも見える。少なくとも、周囲に猫耳メイドは彼女一人しかいない。

 

 桃子はお子様向けサービスを喜んでいいのやら拒否したほうがいいのやら、複雑な心境で横に立つ金髪猫耳メイドのウェイトレスを見上げる。

 金髪猫耳メイドと視線が合うと、にっこりとした笑顔を返された。

 

「気にしないでいいからね、美味しくたべてねー? にゃん♪」

 

「あらー、良かったですねー桃ちゃん」

 

「いや、あの……」

 

 そして、お子様サービスはともかくとして、もう一つ。桃子には非常に気になって仕方がないことがあった。

 

 にゃん♪ である。

 

 その、オマケのようについてくる『にゃん♪』が、桃子は内心とても気になっていた。しかも、その言葉を口にする時だけ、顔の横に招き猫のように手を持ってきて、猫ポーズをとって見せるのだ。

 彼女が猫耳メイド姿である以上、猫キャラなのだろうとは思う。オマケ程度に『にゃん♪』をつけるだけというのは、キャラ付けとして雑すぎる気もするが、それを言っても仕方がない。

 だがしかし、そもそも、だ。

 ギルドが運営する施設に、どうして猫耳メイドのウェイトレスがいるのか。なんでここだけ秋葉原みたいになっているのか。桃子にはそれがわからない。

 

 しかし、残念ながらそれが気になっているのは桃子だけのようで、和歌は美少女の姿を目の保養としてにこやかに眺めているし、周囲の座席に座っている他の客たちも、何も気にした様子はない。

 どうやら、この喫茶店においては『にゃん♪』は市民権を得た言葉のようであり、猫耳メイドもまた日常風景として普通に溶け込んでいるらしい。

 

「アイスも、サービスで少し多めにしちゃった♪ にゃん♪」

 

「あら、良かったですねー桃ちゃん」

 

「和歌さん、さっきからそればっかり言ってません?」

 

 

 

 

 

 

 コーヒーとメロンソーダが届けられて、しばらく後。

 半分ほどに中身の減ったメロンソーダのアイスが溶け始め、透明だったソーダが乳白色交じりのメロンオレと変化してきた頃。

 桃子たちは、ぼんやりとリラックスした時間を過ごしていた。

 

 既に日も沈み、この喫茶店は間もなく閉店を待つ時間で、今から新しく訪れる客も居ないようだ。先ほどの猫耳メイドウェイトレスも手が空いたのか、ちゃっかり桃子たちのテーブルについて雑談に混ざっていた。

 彼女が飲んでいるのはホットの抹茶オレだ。湯気と共に甘い香りがふわりと漂い、美味しそうである。

 

 しかし、客がいないとはいえ、ここは建物の入り口に入ってすぐのロビーに隣接している、まだ経営時間内の喫茶店だ。

 猫耳メイドの彼女は堂々と仕事中にサボっている姿を関係者諸々に晒しているのだが、誰も特に何も言わないし、通りすがりに雑談交じりの挨拶を交わしたりしている。アットホームな職場とはこういうことを言うのかもしれない。

 むしろ、普段はここに若い女性が複数たむろするということがそもそも珍しいのだろう。猫耳メイドが堂々と桃子たちと共に談笑している姿を見て、通りがかる職員たちもなんだか良いものを見たような顔をして過ぎ去っていく。

 

「ローラさんも19歳なんだね。えへへ、同い年」

 

「そ、そうなのね。私と桃子さんが同い年なのね……。にゃん」

 

「そうなんですよねー。桃ちゃんの成長は早いです。ついこの前まではランドセルを背負っていたのに……」

 

「和歌さんの冗談って、なんか本気っぽくてツッコミづらいんですよお」

 

 そして、この特殊な恰好のウェイトレスとも新たな交流が生まれた。

 

 彼女の名は阿瀬ローラ。母方が欧米の血だけれど、ローラ自身は生まれも育ちも生粋の日本人だった。ギルド施設で働いてはいるものの、彼女自身はギルド職員ではなく、あくまで住み込みでバイトをしているフリーターだそうだ。

 そして、年齢は19歳。

 つまり、そう。目の前にいる金髪碧眼に加えてモデル体型の美少女は、まさかの桃子と同い年だった。

 桃子と横に並ぶと全く同い年には見えないけれど、しかし生物学的には間違いなく同年代である。無論、ローラのほうは普通に年齢相応の外見なので、年齢が疑わしいのは桃子側なのだが。

 

 ローラは高校卒業後、しばらく地元の九州でフリーター生活を送っていたが、この離島の喫茶店で働く住み込みバイトの募集を見たときにビビッと来るものがあり、即座に応募したのだという。

 また、彼女はそれまでダンジョンというのに入ったことが無かったのだけれど、住み込みバイトついでにこの龍宮ダンジョンで見習い探索者としての経験も重ねていき、つい先日ようやく見習い脱却したばかりのピカピカの新米探索者でもあった。

 同い年の探索者ということもあり、桃子も打ち解けるのは早かった。最初はその目を引く衣装と謎ポーズでちょっとヤバい人なのかとも思ったが、衣装とポーズ以外は非常に美しいだけで普通の女性だった。

 

「桃子さんたら凄いわね。こんなに小さいのに、もう東京のアイテム工房で立派に働いてるだなんて。離島で趣味に明け暮れてる私からすると、耳が痛い話だわ」

 

「そうなんですよー。桃ちゃんたら、こんなに小さいのにもうプロの一流の職人見習いなんですよー」

 

「プロの一流の職人見習いだなんて、つまりはもうプロじゃないの。にゃん♪」

 

「えへへ、そこまでのことは……」

 

 やはり、同い年の女児という桃子のことが気になるのだろう。ローラは桃子のことを色々と聞いてくる。

 そしてなぜか和歌が桃子のことを自慢げに語るので、二人が桃子を挟んで桃子の話をするという、なんとも居心地が悪い羞恥を味わっていた。

 一流の見習いという謎ワードが飛び出し、それはどいういう見習いなの? という疑問が桃子の頭に浮かぶが、そんな些細な疑問は女子会の流れの中では泡の如く消えていく。

 

「でも、私よりさ。ローラさんはこんな離島で住み込みの仕事を続けてるなんて、それも凄いと思うけどなあ」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。この島はね、景色は綺麗だし、ダンジョンも綺麗じゃない? その上、趣味のコスプレ衣装で仕事しても怒られないじゃない? ご飯も食堂で毎日出してくれるじゃない? 洗濯もまとめてサービスで処理してくれるじゃない? 何もせずコスプレだけしていたかった私にとっては、ちょっとした夢みたいな場所なのよ。にゃん♪」

 

「桃ちゃん、この子もなかなか変わった子みたいですねー」

 

「あはは、そうみたいですね……」

 

 どうやらこの猫耳メイド衣装は、施設の方針ではなく趣味のコスプレ衣装だったらしい。にゃん♪ で締めるお馴染みの猫ポーズも、彼女が趣味で行っている独自のポーズということだ。

 ここで和歌はようやく、ローラが変わった女性だと気づいたようで、桃子にだけ聞こえる声で小さく呟く。

 ローラが変わった子なことはその服装や口癖からして桃子はとっくに確信していたので「気づくの遅くないですか?」と、危うく真顔で和歌に聞き返すところだった。

 

 そんな桃子と和歌の呟きに気づいていない猫耳メイドは、更に言葉を続ける。

 

「龍宮洞ってね、二人も既に見てると思うけど、凄く綺麗なのよ。それで、これは秘密の情報なんだけど……」

 

「秘密の情報?」

 

「色々と噂があるの! もちろん、言い伝えにあるニライカナイ伝説みたいなのもあるけど、例えばダンジョンで海の音を聞いたとか? 誰もいないのに子供たちの声が聞こえたとか? 電気がパチパチする音が響いていたとか? 私が聞いただけでもこれだけ不思議な話があるんだもの。とっても不思議なダンジョンに違いないのよ」

 

 不思議な話があるからとっても不思議なダンジョンに違いない。なんとも不思議な理屈だけれど、不思議とローラの言いたいことは理解できる。つまり、不思議なのだ。

 尤も、先ほど迷い込んだ不思議な海岸と、そこに住んでいた雷の妖精のことを覚えている桃子としては、その噂の出どころも何となく察することは出来る。しかし、ここでそれを言ったところで信じてもらえる保証もないし、野暮というものだろう。

 桃子は何も言わず、ローラの言葉に耳を傾ける。

 

「電気の音だなんて、ダンジョン内なのに不思議ですねー? 何かと聞き間違えるにしても、不自然ですねー」

 

「ええ、不思議なのよ。私もバイトの無い時間はダンジョンに潜りまくるつもりだから、そのうち原因も見つけられるかしら。もし龍宮洞の中で出会ったら、よろしくね♪ にゃん♪」

 

 にゃん♪

 

 メロンソーダは美味しかったし、なんだか愉快な同年代の少女にも出会えた。

 

 南の島に来て、美しいダンジョンに潜って、不思議な妖精のいる空間に迷い込んで。

 そんな色々ありすぎた一日だったのに、最終的に一番記憶に焼きつけられたのは珍妙な金髪ウェイトレスの「にゃん♪」だったことを、桃子は後に、柚花に大真面目に語ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美少女配信者について語り合うスレ】

 

:最近見つけた超絶美少女配信者がいるんだけど、あまりに癖が強すぎてここで紹介していいのか悩むレベル

 

:なんだよー教えろよー

 

:その子じゃないけど、今週はカリンちゃんの房総ゴブリン相手のオーバーキル配信が腹よじれるほど笑えたんで超おすすめ、アーカイブもあるぞ(URL)

 

:わけわからんくらい大暴れした上で、まさかの展開だったからなw

 

:詳しくプリーズ

 

:自己強化の魔法を何重にもかけて、ゴブリンの巣を全粉砕する勢いで大暴れ → 3分後に動けなくなり、それ以降の配信中ずっと仲間に介護されるお荷物へとジョブチェンジ

 

:草

 

:房総ダンジョンのゴブリン相手じゃオーバーキルにも程があるけど、房総ダンジョン以外じゃ3分で行動不能になる魔法なんて危険すぎて使えないジレンマ

 

:3分間だけ最強になるとかどっかの宇宙人かな?

 

:マジレスするとタチバナこそ最強。あの子スキルで魔物の出現地点把握して先制で電撃を打ち込むから、そこらの魔物相手じゃ勝負にならない。

 

:どこかに、さらっと朗読しながら召雷放つ美少女配信者がいましてね・・・

 

:面影の霞める月ぞ宿りける 春や昔の袖の涙に

 

:出たな古今和歌衆

 

:最強は和歌ちゃんだ、これは間違いない。

 

:流石に引退した人が最強と言われても困るわ

 

:違うんだ、日本の探索者でも最強格なのは事実なんだよ、引退前に残した和歌ちゃんの討伐記録がそれを物語っている。

 

:そうなんか

 

:そりゃ遠野ダンジョンの英雄だからな

 

:最強議論はやめるのだ みんな強くてみんないい

 

:いや別に弱くてもいいんだが

 

:でも、強い美少女っていいですよね カリンちゃんのオーバーキル配信を見たとき、下品なんですが……フフ……

 

:やめるのだ

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