ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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看破と妖精

「うんぇええぇええええーーっ!!!」

 

 房総ダンジョン第一層。

 広大な森林ダンジョンの片隅で、謎の奇声が響き渡る。

 もちろん、豚の魔物が鳴いているわけでも、大きな蛙の魔物が踏みつぶされたわけでもない。

 これは、自称・美少女ソロ探索者ことタチバナ――橘柚花の、驚きと、感動と、喜びと、エモと、とにかく色々な感情が入り混じった雄たけびである。

 

 

 

 

 というのも、桃子について森林外れの丘へとやってきた柚花は、気が気でなかったのだ。

 桃子の頭上をずっと漂う二人の妖精と、それに気づかない桃子。

 この先輩はどうやら危機感が薄いというか、ダンジョン内だというのに注意力が散漫なため、もしかしたら本気で妖精に気付いていないのかもしれない。

 あるいはそもそも、もしかしたら妖精が見えているのは自分だけなのかもしれない。

 自分が妖精について桃子に喋ったが最後、人間に気付かれていることに勘付かれて、妖精が逃げてしまうかもしれない。

 

 都市伝説解明系などと名乗っている以上、柚花自身も情報収集は欠かしていない。そして過去の様々な目撃談から読み取れるのは、妖精は警戒心が強く、人間が近づいたら殆どが逃げてしまうということだ。

 有名な話では、原生生物用の仕掛けに妖精が捕まってしまったという動物学者の話がある。その妖精は檻の中でとにかく泣いて命乞いをしてきたため、可哀そうに思い罠を外したら一目散に逃げてしまった、という話だ。

 とにかく、妖精というのは警戒心が強いので、下手に刺激をするわけにはいかない。

 

 そんな考えが頭をよぎり、悶々としている柚花に向かって、桃子が放った言葉。

 

「あーいたいた! ほら、柚花。この妖精の子がね、私のお友達のヘノちゃんと、そのお友達のニムちゃん」

 

「妖精の。ヘノだ。風の魔力から。生まれた妖精だぞ。お前は桃子の後輩だから。ヘノの後輩でもあるな」

 

「うぅ……なんで私が連れてこられたのか、わ、わかりませんけど……ニムです、水の妖精です……」

 

 にこにこ笑顔で、ヘノを肩に乗せる桃子と、肩の上でふんぞり返る緑の妖精。

 そして所在なさげに視線があちらこちらへ泳ぎまくっている蒼い妖精。

 その三人を前にして、柚花は。

 

「う」

 

「う?」

 

「うんぇええぇええええーーっ!!!」

 

 美少女配信者としては出してはいけない、雄たけびを上げるのだった。

 

 

 

「もう、柚花。ミュゲット生たるもの、いきなりそんな変な声あげちゃ駄目でしょう? みんなびっくりしちゃうし、モンスターが寄ってきたら危険なんだよ?」

 

 小岩に腰を下ろす桃子の前の芝生に自ら進んで正座をして、お叱りを受ける柚花。

 モンスターへの危機感について目の前の先輩に言われるのは甚だ不本意な部分もあるが、危険なことは事実なので仕方ない。反省している。

 

「あの、桃子先輩。私も反省しているので、こちらからも質問して構いませんか?」

 

「うん、許した。じゃあほら、おいで? 正座なんてしないで、横に座ろ?」

 

 そう言って、自分の横の小岩をぺちぺちと叩く。

 そこに座ったらかなり密着することになるのだが、そういう所は女子同士だからかあまり気にしないらしい。

 飴と鞭が巧妙すぎると柚花は心の中で涙した。桃子は無論そこまで考えていない、自然なままの言動だ。

 

「では、ありがたくお隣に失礼します。えと、先輩はどこでこの……ええと、ヘノさんとニムさん? と、お知り合いになったんですか?」

 

 桃子に密着する形で岩に腰を下ろす。ヘノが座っている肩とは逆側ではあるものの、桃子の顔越しに小さな妖精が座っており、距離にして50センチもない。

 普段から人には見えないものを見かけることこそ多いものの、こんな間近で見つめられる機会などそうそうないため、実は心臓がバクバクである。

 

「ヘノのことも。先輩と呼んで構わないぞ。ヘノは。カレーの匂いに誘われて。桃子のカレーを。食べたくて。声をかけたんだぞ。ニムは。釣りに便利そうだから。ヘノが連れてきただけだぞ」

 

 悲報。サカモトを救うために声をかけたという話は、ヘノの記憶では抹消されていた。

 なんか色々ごめんねサカモトさん、と桃子はヘノの言葉に少なからず遠い目をする。

 なお、妖精のニムも「釣りに便利そう」という雑な扱いに涙目をしていた。

 

「そっかー。じゃあ桃子先輩は、ずっとヘノ先輩たちと一緒だったんですねえ。ハンバーグも焼いてたんですか? 最近のドワーフの噂といえば、ハンバーグがつきものなんですけど。巨大ハンバーグとか、携帯ハンバーグとか」

 

「ううん、私がヘノちゃんと知り合ったのはちょっと前のことだよ。あとハンバーグは嘘情報だよ、嘘」

 

 いつの間にかドワーフの噂に尾ひれがついていた。

 窓口さんは仕事を頑張っているようだ。

 

「桃子はカレーしか作らないからな。よし。詳しい話は。目的地まで移動しながら話そう」

 

「わっ、ヘノちゃんちょっと待って待って、早いよーっ」

 

 ヘノが桃子の肩からふわりと舞い上がり、人間たちが立ち上がるのも待たずにさっさと森へと入っていこうとする。

 慌てて桃子と柚花も立ち上がってヘノを追いかけ、ニムも一つ遅れて二人の人間の背を追いかけた。

 先ほどは先導する桃子の背中を柚花が追いかける形だったが、今回はヘノの背中を追いかけ少女二人は並んで歩いている。

 

「あの、ところでヘノ先輩はどこへ向かってるんですか? 今日って、釣りをするっていうお話でしたよね?」

 

 先ほどまでは緊張気味だった柚花だが、さすがにそろそろ慣れてきたようだ。普通にヘノ先輩呼びが定着してしまっている。

 ヘノが向かっている方角的には、恐らく二層へ続くルートだろうとは思うのだが、どうやらヘノには目的地があるらしかった。

 が、その疑問に答えたのはヘノではなく、桃子である。

 

「ああ、そうか。まだ柚花には伝えてなかったっけ。今日は第三層、鍾乳洞窟の地底湖で、お魚を捕まえようって思うんだ」

 

「へえ、あそこって魚いるんですか? なんか、薄暗くてジメジメしてるから、魚釣りとかいうイメージありませんでした」

 

「んー、多分ね。美味しければいいねえ」

 

 そっかー、と説明を聞いて素直に感心する柚花。

 一方の桃子は自分で説明しておいてなんだが、本当に第三層の地底湖に魚がいるのかどうかは半信半疑であった。

 まあ、いなければいないで、楽しめればいいのだ。

 

 

 

 

 道のりは快適だった。

 

 慣れ親しんだ房総ダンジョンだ。

 第一層の森林は、方角さえ間違えなければどのルートだろうが下層への入り口にはたどり着く。

 第二層坑道ダンジョンもまた、下層への入り口自体は変わらないため、位置さえ把握していれば多少迷宮の変動があったとしても第三層にたどり着かないことはない。

 

 途中で魔物が出てきても、桃子がハンマーを振り上げようとしたときには、すでに柚花が雷を纏った双剣で一閃してしまう。

 なんなら、明らかに刃の届かない距離の相手にも雷が繋がり、複数の敵が一瞬で沈黙してしまった。

 新進気鋭の若手探索者は、双剣に雷の魔法を併せ持つ、ゲームでいう所の魔法剣士だった。凄い。

 

 ヘノはヘノで二人の脚につむじ風を発生させ、移動を快適にしてくれる。

 傍から見れば柚花が一人で高速移動をしているように見えてしまうので、ある程度は他の探索者の目を気にする必要はあったものの、やはり脚が疲れず、そしてスピードが出るというのは非常にありがたい。凄い。

 

 ニムはたまに、応援してくれた。凄い。

 

 そして第二層、坑道ダンジョンの中間地点。大きく吹き抜けのようになっている、縦に非常に広い空間に出たところで、一同はひとまずの休憩とする。

 

「あっあの……よ、よろしければお水です……ど、どうぞ」

 

 ニムがおどおどしつつも、人間二人の前に水の魔力で作り出した綺麗な水を出してくれる。

 両手で器を作って直接受け取ったため少々濡れてしまったものの、安心して飲める水というのは探索者にとっては非常にありがたいものだ。

 桃子と柚花がそれぞれ感謝を伝えると、ニムはなんだか余計に顔を伏せて挙動不審になってしまったが、多分怒っているわけではないのだろう。

 

「ところでさ、柚花」

 

「はいっ! 何でしょう、何でも答えますよ!」

 

「なんでもはいらないけど。柚花の【看破】って、私の姿が認識できる以外にはどんな風な効果があるの?」

 

 水を飲んで一息ついてから、そういえば、と桃子は気になっていたことを聞いてみた。

 柚花の固有スキルである【看破】は、名前からしても、人にはわからないものを看破するというスキルなのだろう。

 実際に、他の人には認識されていないはずの桃子に対して、ダンジョン外と差異なく、全く普通に接してくる。

 

「そういえば。そうだな。ヘノも。興味があるような。特にないような」

 

「そこははっきり興味持ってくださいよー。ええとですね、まあ色々見えるんですけど、これって私が話しちゃっていいことなんですかね?」

 

「え、何か聞いちゃまずいことでもあったの……?」

 

 そこで柚花は、ちらりとヘノを見た。

 しかしヘノは無表情でぼんやりしているだけだったので、ニムにアイコンタクトを送ってみた。

 

「うぅ……後輩さん、もしかしなくてもですけど。あの……あれ、とか、み、見えてますよねぇ」

 

 柚花からアイコンタクトを送られたニムは、どうやら何か察したらしく、今桃子たちが座っている場所から離れた何もない場所を指さした。

 そのやり取りを横から見ていた桃子の頭にはハテナが浮かぶが、とりあえず大人しく会話を聞いておく。

 

「えーと、そうですね。あそこに浮いてる、小さい黄色の光がいくつか。って言っても、多分桃子先輩には見えないと思うんですけど」

 

「あれは。土の魔力が集まって。光っているんだな。まだちっちゃいが。妖精の赤ちゃんみたいなものだぞ。ダンジョン内では。結構そこら辺にいるぞ」

 

「ええぇ……私には全然見えないけど、あそこに妖精の赤ちゃんいるんだ? 柚花には見えるんだねえ」

 

 桃子はヘノと柚花が見ている空間を二度見した。なんなら三度見もした。が、やはりそこには何もない。

 しかしその光の存在をヘノも認めているということは、本当に柚花にはそこに小さい光というものが見えているんだろう。

 

「そっかあ、私、妖精ってヘノちゃんと会うまで見たことなかったけど、そこら中にいたんだね」

 

「あはは。私も今まで、ケセランパセランか何かだと思ってましたけどね。妖精の赤ちゃんっていうのは今はじめて知りました」

 

「うぅ……後輩さん、み、見えてるのに、妖精を探す配信……してたんですか?」

 

 そこまで聞いていたニムが、言われてみればその通りな質問をする。

 柚花には――今はじめて知ったとはいえ――妖精の赤ちゃんが見えていた。

 しかし、桃子が知る限りは配信ではそのようなそぶりは見せていないはずだ。なんなら、妖精に会いたい、などと熱弁していた気がする。

 

「……それはそれ、これはこれですよ。妖精にもドワーフにも、座敷童子にも会いたかったのは本心です。それに、自分しか見えないものを見たって言っても、誰も信じてくれないじゃないですか」

 

「えー、そんなことないと思うけどなあ」

 

「いや、まあ桃子先輩は信じてくれるかもしれませんけどね。なんせ先輩、ドワーフ本人ですからね!」

 

「うーん、その噂に関しては私としては不本意というか、なんというか」

 

 座敷童子と違って、ドワーフはイメージ的に可愛くない。

 なんなら、桃子の所属する工房の親方のほうが、ずんぐりむっくりした体形にこれでもかという筋肉が付属されている、いかにもなドワーフだろう。

 いくらなんでもそれと勘違いされるのは乙女としては不本意であった。

 

 桃子がそんなことを考えつつ、うーうー呻いていると、桃子の肩でリラックスしていたヘノが口を開いた。

 

「後輩。お前。他にも色々。見えてるんじゃないか? 桃子の魔力とかも。見てたの。知ってるぞ」

 

「……ヘノ先輩、ずばり聞いてきますね」

 

「柚花、私の魔力見えるの? そういえば前にもヘノちゃんが似たようなこと言ってたっけ。魔力って、目に見えるんだねえ」

 

 以前ヘノが、桃子の魔力について話していたことがある。

 桃子は不思議な魔力のような膜を纏っており、それが【隠遁】なのだろうと。ヘノが近くにいるとその膜に乱れが出来て、効果に穴が出来るとかいう話だったか。

 

「あ、あの……ヘノ。ま、魔力が見えるということは、そういうことですから。こ、後輩さん、困ってますよぉ」

 

「ん。そうか。でも。そんなに困ることか? 便利だぞ」

 

「わ、なんか皆で私にはわからないやりとり続けるじゃん……」

 

 なんだかニムとヘノがさらに不審なやり取りを続けるが、桃子にはさっぱりわからない。

 わからない、が。

 

「でも、柚花が困る話題なら聞かない! 私は耳をふさぐよ!」

 

 自分が聞いてしまうことで誰かが困るなら、自分は聞かないほうが良い。

 好奇心は猫をも殺すという言葉がある。桃子は己の好奇心で、後輩を殺したくはない。

 ぎゅっと自分の両手を耳にあて、更には口で「あーあー」と言いながら周囲の音を聞こえなくする念の入れようだ。

 

「えっ、いや、私は先輩には聞いてもらって構わないんですけどーっ?」

 

「あー、あー、聞かないからね! 柚花を殺したくない!」

 

「なんで私が死ぬことになってるんですか?! 意味わかんないですよーっ! 私のスキルはですねえ!」

 

「あーあーあー、聞こえないからねーっ」

 

 耳をふさいで、ついでに目までぎゅっと閉じて見ザル聞カザルに徹する桃子と、その手をつかんで話を聞かせようとする柚花。

 よくわからないが、巻き込まれてはたまらんとヘノは空中に逃げて、ニムと共に二人を眺めていた。

 

「ニム。桃子も後輩も。なんだかよく。わからないな」

 

「……たっ多分、これが……乙女心という、ものなんじゃないでしょうか」

 

「なるほどな」

 

 ちょっと違うが、大体そんな感じで妖精たちは納得した。

 そのうちに眼下では桃子と柚花が息を切らして、地面に直接腰を下ろして脱力していた。休憩時間なのに、余計疲れている。

 ようやく桃子が静かになったので、ヘノもふわりと降りてきて特等席であるスカジャンの肩に着地した。

 

「はぁ……あの、柚花がね、話したいって思ったときに、聞くから大丈夫だよ。その場の勢いで……ふぅ……聞きたくないの」

 

「先輩、本当に怪力なんですね……ふぅ。でも、わかりました、先輩」

 

「ん?」

 

 地面に尻をついたままの桃子に向き直る柚花。気のせいか、その瞳がまたキラリと光った気がした。 

 

「私、決めました! 先輩は鬼のようにいい人なんだなって、確信しました! 私、もう桃子先輩と結婚します!」

 

「え、なんでけっこ……ってふええええっ?!」 

 

 そして、桃子の両脇に手をまわしたかと思ったら、突如スクッと立ち上がり、その場で大回転。

 桃子は宙に持ち上げられた状態で、遠心力で振り回された。ついでに、桃子の肩にしがみついているヘノも遠心力を堪能している。

 

「ひゃあああぁぁぁーッ?!」

 

「おお。これは。楽しいな。桃子」

 

「たのひやぁぁああ?!」

 

 桃子の言葉にならない声が響く。

 そしてしばらくの間、思う存分桃子の抱っこを堪能した柚花は、目をまわした桃子が転ばないようにゆっくりと着地させる。しっかり大回転した末に目をまわした桃子は、その場でコテンと転んだ。

 

「ふう、堪能しました♪ 今のは、私のことを思いやってくれた先輩へのお礼のハグです! ヘノ先輩も、お気に召してくれましたか?」

 

「悪くない。でも。桃子が目をまわしてしまうので。次からは。もう少し少なめでいいぞ」

 

「うぅ……な、なんだか、楽しそう……私も、やってもらえば良かったです……」

 

「いやいや、三人ともなに言ってるの?! 次はないよっ。もう抱っこ禁止ね! 先輩命令だよっ」

 

 コテンと倒れ込む桃子がクレームをつけるが、本気で怒っているのかいないのか、すっきりとした笑顔の柚花につられて、一緒に笑顔を浮かべているのだった。

 

 それはそれとして、振り回されすぎて本気で気持ち悪くなってきたので、やっぱりそのあと滅茶苦茶説教した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【房総ダンジョンで凄いの見た!】

 

 

:森で山ガールが超スピードで空中にいた!

 

:(。´・ω・)?

 

:日本語でおk

 

:どんなキノコ食ったん?

 

:いや本当に山ガールだと思った。それとも森ガールっていうのかな?

 

:違うわからんのはそこじゃない

 

:いいから休んだほうがいい

 

 

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