ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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二人の小妖精

『モモコー!』

 

『モモコッ、モモコッ』

 

「うわあ?! え? 小妖精?! どうして……」

 

 桃子が龍宮洞内に開いた横穴を抜けて昨日訪れた広大な砂浜へと到着すると、桃子に向かって二つの小さな光が真っすぐに飛んできた。

 青い光と黄色い光は、近づいて見ればわかる。それは小さな妖精の子供たちだ。ヘノやニムよりも更に小さい小妖精たちが、いきなり桃子にしがみ付いてきた。

 

『ケラケラっ、ほらチビちゃんたち、離れなきゃ駄目だよっ、駄目だよっ。モモちゃん困ってるじゃん』

 

『はーい』

 

『はーい』

 

「あ、エレクちゃん。えと……来ちゃった」

 

 青い小妖精と黄色い小妖精の二人は、桃子にしがみ付くのをやめ、その代わりに桃子の名を呼びながらその周囲をぐるぐると楽しそうに飛び回りはじめる。

 この子供たちは、この土地の小妖精なのだろうか。桃子の名前を知っているからと言って、まさかティタニアの国にいる小妖精というわけではないと思うけれど、桃子が訪れただけで何故ここまで喜んでいるのか。

 飛び回る小妖精に困惑している桃子を、少し先のほうでケラケラと眺めているのは、昨日出会ったばかりの雷の妖精、エレクである。

 

『モモちゃんは普通に来ちゃうと思ってたよ。妖精の加護、持ってるもんね! モモちゃんを守る妖精の力、ビリビリ感じとれるよっ! 感じとれるよっ!』

 

「あ、加護って同じ妖精同士ならわかるものなんだ? っていうか、ええと……今日は私も、入ってもいいのかな?」

 

『ケラケラっ、加護があるんじゃしょうがないもんねっ! しょうがないもんねっ!』

 

 少し先に居たエレクの周囲に紫電のスパークが走ったかと思えば、すでにエレクはそこにおらず。彼女は一瞬にして、桃子の目の前に移動していた。

 どうやらこの雷の妖精は、雷となって、あるいは雷の速度で、瞬間的な移動が出来るらしい。人間の桃子からすれば、瞬きの瞬間にはもう移動しているので、慣れるまでは驚かされそうだ。

 ケラケラ楽しそうに笑うエレクが近くに来ると、青と黄色の小妖精たちも飛び回るのをやめて、その横に並ぶ。色は違えど、まるでエレクを長女として慕う妹たちのようだ。

 

「あの、エレクちゃん。ええと、この小妖精さんたちもここの子なのかな?」

 

『モモコ、ありがとー!』

 

『モモコ、ほんもの?』

 

「なんだか、初対面なのに物凄く好感度が高いし、感謝までされてるんだけど……」

 

 ティタニアの国にいる小妖精たちもそうなのだが、小妖精たちはうまく会話が出来ない。恐らく本人たちとしては伝えたい言葉があるのだろうが、今一つそれが分かりづらい。

 しかも、ヘノが言うには小妖精というのは自我がまだきちんと芽生えていないため、自分のことと仲間のこともあまり区別がついていないらしい。人間の赤ん坊のようなものかとも思ったが、しかしどうもそれとは違う気がする。

 つまりは、小妖精たちには申し訳ないけれど、何を考えているのかよく分からないのだ。

 今も、初対面だというのに何故だか桃子は感謝されており、二人とも桃子のそばから離れようとしない。そんな小妖精たちの考えていることが桃子には読み取れず、困惑しきりである。

 

『そういうこともあるよ! それよりさ、とりあえずあっち行こうよ! あっち行こうよ!』

 

「あ、うん。じゃあ……ええと、小妖精さんたちも、とりあえずあっち行こう?」

 

『行くー!』

 

『あっち? あっち?』

 

 けれども、考えていることはよく分からなくとも、自分に好意を向けてくれるのは間違いなさそうなので、そこはやはり何だか嬉しい。

 桃子は青と黄色の小妖精たちに両手の指先を引っ張られながら、エレクに引率されて歩いていく。目指す場所は、砂浜の中央、巨大なガジュマルの樹だ。

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらガジュマルの木の周囲の地面だけは砂ではなく、しっかりとした土の地面が存在しているようだ。ここならば、カレーも作りやすい。

 ならば、さっそくカレーの準備だ。

 

 探索者向けの、電池不要のカセットコンロを平たい地面の上にセットし、続いてリュックから小型鍋をはじめとした調理道具をひとつひとつ取り出していく。

 水はペットボトルの天然水を持ってきていたが、青い方の小妖精が鍋に入れる水くらいならば作り出せるとのことなので、水は彼女にお願いすることにした。

 

『モモコー!』

 

『モモコー?』

 

「うん、桃子だよー。ねえエレクちゃん、この子たち小妖精は二人だけなの? お名前ってないのかな? なんて呼べばいいんだろう」

 

『んー、今この場所に居ついてる妖精は、エレクちゃんとこの二人だけかなっ? 名前なんて考えたこともなかったよ、なかったよ』

 

 桃子は材料を取り出しながら、先ほどから気になっていた疑問をエレクに問いかける。

 水をお願いしたりする上で、彼女らを何と呼べば良いのか分からないのは不便だった。妖精の国に住んでいる大量の名もなき小妖精たちとは違い、今は目の前に青の子と黄色の子の二人しかいないのだ。会話をするならば、呼び名の一つくらいは欲しい。

 

『名前、知らない!』

 

『なあにー?』

 

『あ、ビリビリっと思い付いちゃった! いまモモちゃんが名前つけてあげてよ。その方が呼びやすいよね? よね?』

 

「え? 私がこの子たちに名前つけちゃっていいの?」

 

 会話を続けながら、桃子はてきぱきとカレーの準備を進めている。

 カレールーは自前のもの。具材は龍宮洞で捕まえたカニと、売店で購入した果物だ。

 南の島の果物は関東では見たことの無いものが多い。マンゴーくらいは桃子も分かるけれど、先のとがった柿のような果物は名前が分からない。また、アセロラだと思って買ったものも、よく見たらアセロラじゃない気がしてきた。南国の果物は奥が深い。

 本当は他にも肉や野菜なども欲しかったが、移動販売船では野菜も肉も販売していなかったので仕方がない。カニの味わいに期待だ。甲羅の硬さなどが気になるところだけれど、【カレー製作】ならばなんとかなるだろう。

 

 そんな作業をしながら、何故だか桃子が小妖精たちに名前を付けることになってしまった。

 そういえば、妖精の名前というのはそもそも誰が名づけるのだろうか。本人が自分でつけるのだろうか。などと考えながら、桃子は小妖精二人の顔をじっと見つめて、無言で考えること1分弱。

 桃子はそして、ようやく口を開く。

 

「じゃあ……アオちゃんとキィちゃんで、どうかな? 色々と考えたけど、色そのままが一番わかりやすいかなって」

 

 考えて、考えて、考えた末に出た結論。青いほうの小妖精がアオちゃん。黄色いほうの小妖精がキィちゃんだ。

 実にわかりやすく、そして可愛らしくもある絶妙な名前だなと、桃子は自分のネーミングセンスに満足している。

 

『アオちゃん! アオちゃん!』

 

『キィちゃん? キィちゃん?』

 

『ケラケラっ、喜んでるね! でも二人とも、モモちゃんがカレー作るから、少し離れなきゃダメだよっ! ダメだよっ!』

 

 小妖精たち――アオとキィも、自分に与えられた名前が嬉しいのだろう。二人とも、空中を飛び回りながら自分の名前を繰り返していた。

 そんな風景を眺めながら、桃子は下拵えした材料を投入し、鍋を火にかけていく。

 

 

 

 

 

「信じて混ぜる! 信じて混ぜる!」

 

『しんじてまぜるー!』

 

『しんじてまぜるー?』

 

 伝家の宝刀【カレー製作】は沖縄の地でも万全だった。

 桃子の力で光り輝く鍋には、小妖精のアオとキィはテンションマックスだ。横で見ていたエレクも興奮気味のようで、放電現象が激しくなってきている。真横でバチバチ放電されるのはちょっと怖い。

 材料は幾つかの果物と先ほど捕まえたカニのみ。作っている桃子本人もどういう味になるのか今一つ予想がつかないのだが、大体の場合は【カレー製作】が整えてくれるはずなので、きっとそれなりに美味しいカレーになるだろう。

 ご飯を炊く余裕はなかったが、お米に関しては食堂でお昼用に購入していた塩おにぎりをほぐして紙皿に乗せたので、問題なくカレーライスを食べることが可能だ。

 

 また、別な紙皿には、小さく切り分けた果物と、小さな駄菓子類を並べておいた。

 売店で購入した果物を全てカレーに入れても良かったのだが、折角の珍しい果物なので、そのまま食べる用にも残しておいたのだ。

 

「じゃじゃん、桃子特製、果物の甘さたっぷり南国フルーツカニカレーwithスイーツ盛り合わせだよー」

 

『うわーい! ビリビリくるじゃん! いただきまーす! いただきまーす!』

 

『まーす!』

 

『まーす?』

 

 小さい紙皿に妖精用の小さなカレーライスを整えて、小さめのプラスチックのスプーンと共に妖精たちに差し出す。

 すると、三人とも待ってましたとばかりに凄い勢いでカレーを食べ始める。頬っぺたにカレーがべっとりついているのはご愛敬だ。あとできちんとティッシュで拭いてあげれば大丈夫だろう。

 妖精たちの食事風景を眺めていた桃子も、本日の特製カレーを口に運んでいく。

 スキルで味を整えられたその不思議な組み合わせのカレーは、カニと果物がハーモニーを奏でる南国的な味わいのカレーだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、エレクちゃんたちはずっとここに住んでるわけじゃないんだねえ」

 

『ケラケラっ。そうだよ。去年からね、エレクちゃんたちはここにいるんだよね! だよね!』

 

「去年までは、どこにいたの?」

 

『んー、まあ、ちょっとここからは遠い場所かな? かな?』

 

 カレーを食べ、果物や駄菓子をつつきながら、桃子はエレクと雑談に興じていた。

 アオとキィの二人は、小皿の中のカレーを食べて満足したようで、甘い物をいくつか頬張ったあとは、二人とも桃子のリュックをベッドにしてウトウトお昼寝を初めてしまった。

 桃子はエレクと話しながらも懐からティッシュを取り出して、眠る二人の頬をそっと拭きとる。ヘノやニムよりもさらに小さい少女たちなので、起こさないようにふき取る力加減が非常に難しい。

 

「ところで今更だけど、ここってさ。ニライカナイ……で、いいんだよね? 精霊の国って聞いたんだけど、エレクちゃんがその精霊っていうわけじゃないんだよね?」

 

 そして、桃子は今更ながらエレクにこの不思議な砂浜の島について聞いてみることにした。

 伝承として伝わっていたニライカナイ。ここがその伝承通りのニライカナイなのかどうかはともかく、一般の探索者には見つけられない特殊な場所だということは間違いない。

 しかし、いるのは妖精が三人のみであり、精霊とやらの姿は見えない。

 

『ケラケラっ。ここには精霊って呼ばれてる子たちもいたんだけど、下層にちょっと恐い気配が増えてきてね。みんな、どこかに隠れちゃった! 隠れちゃった!』

 

「え、下層? ここって下層とかあるんだ……?」

 

『うーん、言っちゃおうかな。どうしようかな。ここねえ、ニライカナイの入り口なんだよねっ! 入り口なんだよねっ!』

 

「入り口? ここ、入り口なの?」

 

『モモちゃんたちの言い方するなら、ニライカナイ第一層。ここより下は魔物が多いから、一人で行っちゃ駄目だよ! 駄目だよ!』

 

「そうかー……」

 

 ここは、ニライカナイ第一層。なるほど、分かりやすい説明だった。

 伝承の通りならば、ここより下の階層が神の国であり、精霊の国なのだろうが、しかし実際には魔物が多い危険な場所らしい。伝承通りの理想郷とはいかないものだ。

 ただ、下層には魔物が多いからと言って、それは決して魔法生物がいないというわけではない。

 このニライカナイ第一層の精霊たちは隠れてしまったようだが、もしかしたら、まだここの下層には精霊たちが残っているのかもしれない。

 

『行ってみたい? エレクちゃんが手助けすれば、行けないことはないと思うよ? 思うよ?』

 

「あはは、正直興味はあるけど……ううん、危険なら、やめておこうかな」

 

 好奇心は猫をも殺す、という言葉がある。

 桃子はこのニライカナイの第二層以降に興味があるかどうかと問われれば、もちろん興味はあると応えるだろう。

 けれど、流石にここは理性が勝利した。ただでさえ無断で神域に侵入した形になるのに、わざわざ危険とわかっていてこれ以上の階層に踏み込むべきではないだろう。

 

 いや、むしろ。

 

 これより先に進んではいけないと、桃子の第六感がアラームを鳴らしている感覚があったのだ。

 もっとわかりやすく言うならば、危険な気がした。だから、桃子は好奇心を抑えることにする。この地はティタニアの領域ではない。何かあったとしても、ヘノはここまで助けに来られないのだ。

 

『ケラケラっ、そっか! ねえ、モモちゃんはエレクちゃんたち以外の妖精のことも知ってるんでしょ? 聞かせて、聞かせて!』

 

『むにゃ……お話……聞くー』

 

『むにゃ……お話ぃ?』

 

 どうやら、ウトウトしていたアオとキィの二人も、他の妖精の話、という気になるワードに引き寄せられたのか、お昼寝の世界から帰ってきたようだ。

 妖精に対して妖精の話を語るというのも奇妙な話だが、しかし三人からねだられては、桃子も断りづらい。というか、そもそも断る理由もない。

 ならば、と。

 

 桃子は、砂丘の島の中央に佇む、巨大なガジュマルの根に腰かけて。ティタニアの国で出会った妖精たちについて、話をしてみることにした。

 

「んーと、そうだなあ。じゃあね、私のお友達の妖精の子達を紹介しようかな。風の妖精の子がいてね、その子は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っと、いつのまにか長居しちゃったねえ。そろそろ帰らないとかな」

 

『えー!』

 

『帰っちゃうの?』

 

 気づけば、だいぶ話し込んでしまった気がする。

 この空間はどうやら地上の時間とはリンクしていないようで、時間がたっても明るさは変わらないままなのだ。だからこそ、時間の流れには気を付けなければいけない。

 まだ夜にはなっていないだろうが、しかしそろそろ日は傾いてくる頃だろう。これ以上遅くなると要らぬ心配をかけてしまいそうなので、桃子はそろそろ地上へ戻ることにした。

 残念そうにするアオとキィには申し訳ないけれど、いつまでもここで過ごすわけにはいかないのだ。

 

『アオちゃんキィちゃん、わがまま言っちゃダメだよっ。ダメだよっ。モモちゃんは地上に帰る人なんだから』

 

『ピカリとは違うのね!』

 

『ピカリは来ないの?』

 

「ピカリって?」

 

『ええと、エレクちゃんの腐れ縁の友達かな? 機会があったら紹介するねっ! 紹介するねっ!』

 

 どうやら、この場所には桃子以外の来客が訪れることもあるらしい。地上から来るわけではないだろうから、この砂浜よりも下の層から上がってくるのだろう。

 名前からして、光の妖精、あるいは精霊なのかな? と興味が湧いてくるが、しかしここで食いついて長居をしてしまっては本末転倒だ。桃子は我慢する。

 

 

 龍宮洞まで戻るトンネル前までは、三人の妖精も見送りについてきてくれたが、一緒にいけるのはここまでだ。

 

「明日もまた来るつもりだからさ、その時には他のお話も聞かせてもらおうかな。それじゃあエレクちゃん、アオちゃん、キィちゃん、私は帰るよー」

 

『バイバーイ!』

 

『またね?』

 

『モモちゃん! ……夜はさ、何があるかわからないから、気を付けてね! ケラケラっ、またね! またね!』

 

 最後にエレクが妙に含みを持った挨拶を投げ掛けてくるが、桃子が聞き返そうと振り返ると、エレクはすでに雷のスパークとともにその場から消えていた。青と黄の小妖精だけが、桃子にパタパタと手を振り続けている。

 少しだけ疑問に思いながらも、桃子はアオとキィの二人に手を振り返し、ニライカナイの砂浜をあとにした。

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