ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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さかなつり

 房総ダンジョン第三層。鍾乳洞窟。

 

 自然の多いキャンプ場もどきである第一層、まだ地面が歩きやすかった第二層と違い、第三層からは非常に人間の立ち入りを拒む迷宮となってくる。

 天井からは冷たい色の鍾乳石が垂れ下がり、ところどころに流れる地下水の水面は鏡のようにダンジョン内を上下逆さに映し出している。

 この場所もまた他のダンジョン同様、各所に不思議な魔法光が灯っており、暗闇ということはないのだが、それでも影が多く薄暗い印象は拭えない。

 

「いつ来ても、ここは雰囲気ありますねえ。桃子先輩、大丈夫ですか?」

 

「うん、結構慣れてるからね。柚花も足元気を付けてね?」

 

 ふわふわと空中を漂うヘノを追いかける二人。両者ともヘノの魔法によって左右の脚をつむじ風が包み込んでおり、移動自体は快適である。桃子は今回もぴょんぴょん跳ねて、頭が鍾乳石に突き刺さるのではないかと今度は柚花とニムがハラハラしていた。

 とはいえ、そもそも歩きにくい地形な上、そこら中に水が流れているので、上層と比べればやはり移動に時間はかかるのは仕方がない。

 

「ニム。魚が居そうな地底湖は。どこら辺にあるか。わかるか?」

 

「えぇ……わからないまま進んでいたんですかぁ……?」

 

 途中で足をとめ――宙を舞っているので足は使っていないが――ヘノがニムに問いかける。

 そもそもヘノは風属性の妖精なので、水についてはニムのほうが専門家なのだ。最初から聞いておけばいいのだろうが、気の向くままに進むのもまたヘノの生まれ持っての特性なので、仕方がない。

 

「で、では、そうですね……うぅ……み、皆さんの視線が集まって緊張しますけど、私についてきてください……」

 

「よろしくね、ニムちゃん」

 

「ニム先輩、頼りにしてますね♪」

 

「ひぅっ……見つめられると……こ、怖いので……見ないでぇ」

 

 桃子たちがにこやかに笑顔を向けると、相変わらず怖がって顔を隠してしまうが、いつぞやのように逃げることはない。

 どうにも、ヘノと性格が違いすぎて、今までヘノのように雑な感性の妖精を見てきた桃子としては、どうにも面食らってしまう。

 一方柚花はヘノとニムが初めて会話する妖精なので、すぐに挙動不審になってしまうニムのこともニコニコと眺めている。

 

「で、では。こちらです……」

 

 

 

 ニムに連れられて行った先にあったのは、湖というよりは緩やかに流れる大きな川だった。

 途中に蛙や蝙蝠のようなモンスターがいくらか現れたが、ヘノが事前に敵の存在を特定し、出会い頭に先手必勝で柚花が撃退するというコンビネーションで順調に進んでいく。桃子の出番もなかった。

 第三層には小さな川のような水の流れはそこら中にあるのだが、それと比べると明らかに大きく、深そうだ。

 

「へえー、ニムちゃんすごいね。私、こんな場所があるなんて知らなかったよ」

 

「うぅ……うぇへ……へへ……」

 

「ニム。お前。褒められると。そんな笑い方になるのか」

 

 ヘノとニムが頭上でわちゃわちゃ始めるが、桃子と柚花はさほど気にせず準備に取り掛かる。

 柚花が水辺ぎりぎりまで身体を寄せて、恐る恐る中を覗き込むが、軽く覗き込むだけでは生き物がいるかどうかはわからない。ただ、土などが流れ込まないからか、透明度が高く、澄んだ水だ。 

 

「うわあ、きれいな水だねえ。地下から汲みあげた天然水って、こういう感じなのかな」

 

「まあ、実際にここって地下ですしね。桃子先輩、道具って何を持ってきたんですか?」

 

「ふふふ、来る前に100円ショップで買ってきちゃった。ええとね……」

 

 聞かれるのを待っていました、とでも言うように、桃子がリュックからいくつかの道具を取り出す。

 釣り竿が2本。取っ手のついた網。食パン。折り畳みの椅子が2つ。小さなバケツ。割りばし。糸。さきイカ。

 最近の100円ショップは何でもあった。

 

「あのね、よく分からないから店員のお兄さんに聞いたんだけど、なんか割りばしに糸をつけて、さきイカを垂らすと簡単に釣れるらしいよ?」

 

「先輩、それは魚じゃなくてザリガニ釣りですよ、多分」

 

 そうなの? などと雑談に花を咲かせながらも、折りたたまれた道具類を引っ張りだしていく。

 折り畳み椅子を二つ並べて腰を下ろし、伸縮棒のような作りの釣り竿を最大まで引っ張りだしてみる。思いの外長くなり、糸もかなりの長さで収納されていた。桃子は興味深げに釣り竿のつくりを観察している。

 

「じゃあ先輩、餌って……この食パンでいいんですかね? 私も魚釣りってよくわからないんですけど、食パンで魚って釣れるんですか?」

 

「前に何かテレビで見たことがある気がするんだけど……あはは、実は私もさっぱり。今日はさ、ダメでもともと、釣れなかったら次にまた準備して来ればいいんじゃないかなー、って」 

 

「……ですね! じゃあ、また次も桃子先輩と魚釣りデートの予約、いれちゃいますよ」

 

 話しながらも、ちぎった食パンを丸めて練り込み、釣り針のような形のパーツにつけていく。

 そして竿の袋に書いてある説明通りに糸を伸ばして、川の中ほどへと投擲。

 あとは、魚が食いつけばわかるようになっているのだろう。多分。

 

「お。さっそく。釣りを始めたんだな。大物が釣れると。いいな」

 

「わ、私が覗いてみたところ……一応、お魚のようなものは……い、いましたから、きっと大丈夫だと、思いますよぉ……?」

 

 ヘノは桃子の肩へ着地。ニムは所在なさげにうろうろ漂ってから、ヘノとは逆側、柚花の斜め後ろで眺めることにしたようだ。

 あとは、魚が食いつくのを待つだけ、である。

 

 

 

 それからしばらくの時が過ぎて。

 

 

 

 収穫。ゼロ。

 

 

「桃子。全然釣れそうにないな。これは。ダメだったかもな」

 

「ヘノ先輩、やっぱり私思うんですけど、もっと釣りに詳しい人に来てもらわないと、これはどうしようもないんじゃないですかね?」

 

 柚花が新しい食パンを練り練りしながら、ヘノに訴える。

 敬愛する桃子が選んだものにケチをつけるつもりはないのだが、やはり100均の釣り竿に練り丸めた食パンでは、釣れるものも釣れない気がする。というか、魚釣りの餌はおそらく食パンじゃない。

 そもそも全員気づいていないが、桃子に至っては釣り針が魚に認識されているのかどうかも怪しいスキル所持者である。

 もちろん、釣りに詳しい人間ならばこの道具類でもどうにかなるのかもしれないが、詳しくもない柚花ではさっぱりだった。

 

 

「うーん、それじゃあさ、これこれ。割りばしとさきイカも試してみない?」

 

 お次に桃子が取り出したのは、ザリガニ釣りセット。

 魚釣りと違って、ザリガニは目の前に餌を垂らせば簡単に食いついてくる生物だ。成功率は高いに違いない。

 この場にザリガニがいるのかどうか。そしてそれがカレーの具でいいのかどうかは、別問題であるが。

 

「じゃあ。桃子。ここじゃなくて。もう少し。浅そうな部分で。試してみよう」

 

 ヘノが桃子から割りばしを受け取る。割りばしとセットで持つと、ツヨマージが割りばしに付属された爪楊枝にしか見えない。

 そのまま割りばしを持ってヘノが移動してしまうので、桃子も慌てて追いかけた。

 

「ヘノちゃんちょっと待ってよぉ。柚花とニムちゃんはどうする? 一緒にザリガニ釣る?」

 

「んー、私はもう少しここで続けてみますね。端末で検索して、何か別なやり方を調べてみます」

 

「うぅ……そ、それだと……後輩さん一人で危険なので、わ、私もここで見てますねぇ」

 

 釣りの手をとめて、柚花は探索で調べて見ることにしたらしい。

 また、妖精のニムは端末そのものに興味があるのか、ニムも柚花の後ろに漂って興味深そうに画面をのぞき込んでいる。

 まあ、二人いれば大丈夫かな? と桃子は安心して、ヘノの後ろ姿を追いかけるのだった。

 

 

 

「ヘノちゃん、ザリガニいそう?」

 

「いるぞ。ここに。何かいるぞ。小さくて。ハサミがあるぞ」

 

 ヘノがやや興奮気味に桃子を呼び寄せる。

 先ほどの川の支流を少し辿った浅瀬になっている場所で、ところどころに小さな岩が転がっている。

 桃子がじゃぶじゃぶ水をならしながら近づいていくと、その小岩の隙間を、ヘノは身を乗り出して覗き込んでいた。

 

「よし、じゃあさっそく、さきイカを結び付けた糸を割りばしにセットして……っと」

 

「桃子。やりたい。まずはヘノがやってみるぞ」

 

「じゃあ、はいっ」

 

 ヘノが割りばしを両腕でがっしり掴み、糸を垂らす。

 

「お。桃子。中のやつ。反応してるみたいだぞ。これは。成功なんじゃないか」

 

「ヘノちゃん、挟まれたら危険だからあんまり覗き込まないほうがいいよー。じゃあ、引っ張りだしてみようか?」

 

 ヘノがゆっくりと糸を引き抜くと――。

 

「やった! ザリガニ……じゃないよこれ! カニだよ!?」

 

 地上で言えば、サワガニが一番近いかもしれない。こじんまりとしたカニが、糸の先についたさきイカをハサミで掴んだまま、釣りあげられていた。

 とりあえず、何はともあれ獲物を捕まえたことには変わりないので、桃子は小さなバケツにカニを放り込む。

 

「桃子。桃子。こっちの岩の下にも。そのザリガニいるぞ」

 

「ヘノちゃん、これザリガニじゃなくて、カニっていう別な奴だよ。サワガニみたいだけど、ダンジョン内の生き物だから別種なのかな? ボウソウダンジョンサワガニとかそんな感じかなあ」

 

 よく知られている沢蟹とは別種なのかどうかもよくわからないが、とりあえずヘノの言う通りに別な岩の下を覗いてみる。なるほど、確かにカニがいるようだ。

 桃子はヘノから割りばしを受け取ると、そこにもさきイカを潜り込ませようと思ったが、どうにも岩の下までうまくさきイカが入らない。

 

「ん-、いいや! 直接ひっくり返しちゃえ!」

 

 桃子は割りばしを使うのをあきらめて、岩を両手で持ち上げてひっくり返す。するとそこには、3匹ほどのカニの集団が鎮座していた。

 急に岩を除けられて多少困惑しているようだが、カニたちは逃げようともしない。

 

「桃子。そいつら。【隠遁】の効果で。桃子の気配に。気づいてないようだぞ」

 

「ええ……岩ひっくり返したんだから気配とかいう問題じゃなくない?」

 

 疑問もあるが、まあ気づかれてないなら直接捕まえちゃうか、と開き直り。カニを上からひょいひょい捕まえてバケツに入れていく。

 その調子で別の岩、別の岩と繰り返していって、気づけばバケツの中には大量のボウソウダンジョンサワガニ(仮名)がひしめいていた。

 

「な、なんかちょっと……獲りすぎたかな。ヘノちゃん、これで大丈夫なの?」

 

「大丈夫だろ。女王の作った池は。なかなかでかいし。そこに。放流しよう」

 

 ヘノがそういうなら大丈夫なのだろう。

 浅瀬からあがったら靴下までぐっちょり濡れてしまっていたが、そこはヘノが風の魔力を使って簡単に乾かしてくれた。風の魔力様様である。

 

 

 

 

「ただいまー。柚花たちはどう? 何か釣れた?」

 

「ニム。ヘノたちはすごいぞ。大量の。カニを捕まえたぞ。女王にも褒めてもらえるな」

 

 大量のカニを捕まえて、ほくほく笑顔で釣り場へと戻る桃子とヘノ。

 

 小さな生き物にも【隠遁】が機能するというのは思いがけない僥倖であった。これをうまく活用すれば、他の魚なども容易く捕まえることが可能だろう。

 この成果を見たら、柚花たちもびっくりするに違いない。

 そんなことを話し合いながら戻ってきたのだが、そこで桃子とヘノは絶句することになる。

 

「あ、先輩。なんかこれ……ハゼ? みたいな魚ばっかり獲れちゃったんですけど、クーラーボックスに入れておけばいいんですよね?」

 

「うぅ……で、電気漁……というやり方で、気絶させたら……た、沢山、浮いてきてしまって……」

 

 そこに待っていたのは、クーラーボックスにみっちり詰まった、ボウソウダンジョンハゼ(仮名)の姿だった。

 カニも大量にとれたが、カニと魚ではやはりボリューム感が違う。

 横に並べると、桃子とヘノを謎の敗北感が襲ったものの、それはそれとして魚が沢山とれたことは喜ばしいことだ。

 

「桃子。すごいぞ。この魚。生きてるぞ」

 

「ゆ、柚花さん……こっちのカニも……沢山いますねぇ」

 

 ヘノはさっそくクーラーボックスにへばりついて魚をツヨマージで突いている。魚が可哀そうなのでやめてあげてほしい。

 そしてニムはバケツにへばりついて、中のカニをおっかなびっくり観察している。

 

「ニムさんと、お二人のこと話してたんですよ。やっぱり桃子先輩は、すごいですねって♪」

 

「ふえ?」

 

 いきなり褒められたこと。

 そして、自分たちがいない間にいつの間にかニムと柚花が仲良くなっていること。

 

 それらにちょっとしたハテナを浮かべて、桃子はポカンと小首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ3】

 

 

:墓石を掃除する萌々子ちゃん(イラスト)

 

:それはだめ

 

:本当につらい

 

:烏天狗をハンマーで叩き潰す鎧萌々子ちゃん(イラスト)

 

:座敷童子のフリしたドワーフが紛れ込んでるぞ!

 

:捕えろ!

 

:捕えてハンバーグを食わせろ!

 

:遠野萌々子とは別キャラとして定着しつつある鎧萌々子

 

:オークションにかけられる萌々子ちゃん(イラスト)

 

:人身売買なんだよなあ

 

:萌々子ちゃんに会いたいけど第四層は怖いんご

 

:怖いのは二層と三層だけ。竹林で鬼や鬼婆ども殴り倒して、烏天狗の相手しながら崖を下れるようになれば行けるぞ。

 

:普通は死ぬわよ

 

:これから先は萌々子ちゃんに会いたくて探索者目指す新人が増えるな

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